2006年10月13日

医者の愚痴

その日最後の患者を診察した精神科医は心の底から溜息をこぼすと、こんな愚痴をこぼした。

「ふー、毎日病人ばかり来る」


(今日はスーパーショートです。短くてすいません(汗))




2006年10月09日

神社



「じゃあ、遊びに行ってきます」
 
息子の二郎は学校から戻ると私の「おかえり」の返事すら待たず、玄関口にカバンを放り投げそう言った。

「何処に行くの?」私は台所から大きな声でそう訊いた。

「野球に行ってきます」二郎はいつもの間延びした声でそう答えた。

「あまり遅くなるんじゃないわよ」

「はい、行ってきます」二郎はそういうが早いか外に駆け出していった。

「二郎の奴、何処行ったんだ?」会社をリストラされ、不意の長期休暇を持て余し気味の夫が寝室から出てきてそう訊いた。

「野球へ行くって言ってたわよ」

「怪しいもんだな、あいつは」夫は鼻毛を抜きながら言った。「だって、あいつ、この間も野球行くとか言って相撲とってたぞ。どうも最近のあいつは言う事が信用できないよな。表で何やってるか分かったもんじゃないぜ」

「そんなことないわよ。抜けてるけどいい子じゃない」

「ちょっと尾けてみるか」

「二郎を?」

「そうだよ」

「何バカな事いってんのよ。あなたは暇だろうけど、私は夕食の支度やら何やらで忙しいのよ」

「バカヤロウ。二郎と夕食の支度とどっちが大事なんだよ、お前は」

「全くばかばかしい。言い出したらきかないんだから」

「いいから来いよ」

「ちょっと待ってよ」

「何してんだよ」

「化粧よ」

「バカヤロウ、その間にあいつ見失うじゃねえか。早く来い」

「ちょっと、待ってよ。バッグ持って出るから」

私達は表に出ると辺りを見まわし二郎を探した。しかし、二郎は既に家の辺りにはいないようだった。

「何処行ったのかしらね」

「全く逃げ足だけは速いなあいつは」

「別に逃げたわけじゃないでしょう。遊びに行ったのよ」

「とにかく探すぞ」

「面倒臭いわね」

とにかく私達は二郎を探す事にした。運の良い事に二郎は5分ほどで見つかった。女の子と二人で電柱の所で何か話しているようだった。私達は二郎に見つからないように20メートルほど離れた所にあった木の陰に隠れ二郎を観察した。

「やっぱりだ。あの野郎、野球するとか言って女の子としっぽりやってやがる」

「別にしっぽりなんてやってないじゃない」

「いやありゃ、しっぽりだ。そうだお前二郎に携帯で電話かけてみろ」

「ここから?」

「そうだよ。それで何やってんのか訊いてみろ」

「全く面倒臭いわね」私はバッグから携帯電話を取りだし二郎に電話をかけた。

「あっ二郎?」

二郎が電話に出た。

「うん、そうだよ」二郎は言った。

「何やってるの?」私は訊いた。

「今?鉄夫君と話してるとこ」

「へえ、そうなの。あまり遅くなるんじゃありませんよ」

「はい」

私は電話を切った。

夫が訊いた。「何やってるって?」

「鉄夫君と話してるって」

「鉄夫君と話してる?女の子と話してるじゃねえか」

「あの子が鉄夫君なんじゃないの?」

「だってスカートはいてるぜ。三つ編みだし」

「それとも鉄夫君って名前の女の子なんじゃないの?」

「全くあの野郎。なんでそんな嘘をつくようになっちまったんだ。素直に女の子と話してるっていやあいいじゃねえか。俺は泣けてくるよ。あっ見てみろ、二郎の奴女の子おぶって駆け出したぞ」

「本当ね。何やってるのかしら」

「意味が分からねえ事しやがって」

「あっこけたわ」

「あのバカ」

「女の子怒ってるみたいよ」

「そりゃそうだろ。信頼して負ぶさったのにこけやがったわけだからな。裏切り行為も甚だしい。戦時中だったら軍法会議ものだよ」

「女の子怒って帰っちゃたわよ」

「二郎の奴笑ってやがる。応えねえやつだな。石に謎かけるとはこの事だな」

「あっ二郎走り出したわよ」

「何処行くつもりだあいつは。追うぞ」

「全く面倒臭いわね」

「無責任だな、お前は」

「二郎神社に入っていくわよ」

「神社なんかで何するつもりだ、あいつ?」

二郎は賽銭箱の前に行くと手を合わせた。私達は二郎から5メートルくらい離れた所にあった狛犬の陰に隠れ、二郎の挙動を観察した。この距離からなら二郎の声も聞くことが出来る。

賽銭箱の前で二郎は大きな声で「うんこが出ますように」とお祈りした。

「何てこと祈ってんだ、あいつ。うんこ出てないのかあいつ?」

「さあ」私は言った。そんな事私が知るわけがない。

「お父さんとお母さんが長生きしますように」二郎は大きな声で言った。

「まともなこと祈ってるじゃねえか、あいつ」

「ほら、抜けた所はあるけど良い子じゃない」

「やっぱり、うんこが出ますように」二郎は大きな声で言った。

「なんだ「やっぱり」ってのは」

「さあ」

「世界人類が平和になりますように」二郎は大きな声で言った。

「すごい事お祈りしてんな、あいつ。随分と大上段なことを」

その後も二郎のお祈りは続き、二郎はその後連続して10個ほどのお祈りをした。

「随分あいつお祈りしてるけど、お賽銭は入れたのか?」

「入れてないみたいね」

「しようがねえなあ、あいつは」そういうと夫は狛犬の陰から出て、二郎の横まで歩いて行くと二郎に声を掛けた。

「よお、二郎じゃねえか」夫は言った。

「あっ、とうちゃん」

「何してんだお前?」

「お祈り。とうちゃんは何してんの?」

「俺か、俺はあれだよ、そう、散歩してんだよ」

「神社に散歩?」

「ああ、仕事が早く見つかるようにお祈りしに来たんだよ」

「そうか。とうちゃんもお祈りか」

「ああ。所でお前賽銭は入れたのか?」

「あ、入れてないや」

「仕様がねえなあ。ほら、ここに百円あるからこれを入れろ。そしてな、2回礼をして、2回手を打って、もう1回礼をする」

「ええと、2回礼をしてー」

「そうだ。それからな、お祈りは口に出しちゃだめだ」

「わかった」

「よし、それじゃ、一緒にお願いしようか」

「うん」

そして二郎と夫は賽銭箱の前でお祈りをした。随分と長いお祈りだった。3分くらいお祈りすると夫は二郎に言った。

「よし、じゃあ、帰るか」

「うん」

「なにお祈りしたんだお前」

「内緒。良い事だよ。だって内緒にしなきゃいけないんでしょ?」

「ふーん、まあいいや」

夫は二郎の手を握りもう1回いった。「よし、帰ろう」

「うん!」

二郎は大きな声でそう言った。

綺麗な夕焼け空にその声はかすかにこだました。


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2006年10月05日

職務放棄



 朝起きてからどうも具合が悪い。

 鼻が垂れるし、喉も痛いし、咳も出る。どうやら風邪を引いたようだ。インフルエンザかもしれない。

 近所のドラッグストアで風邪薬でも買ってこようか、とも思ったが、もしインフルエンザだったら風邪薬は効かない。

 仕方ない、病院へ行くか。

 ボクは会社に電話をかけ、「インフルエンザをこじらせた」と嘘をついて休みをもらうと近所の総合病院へ向かった。

 一階で受付を済まし、ボクは内科の待合い室へ向かった。

 かなり混んでいる。二十人ほどの人が順番を待っていた。

 かなり混んでるな。しかし、この近辺に住んでいる人は一万人はいるだろう。その内の二十人だ。残りの九千八十人は健康なのだから、そう考えると大した人数ではない。

 結局僕は待合い室で三時間待った。

 十二時を過ぎた頃、やっと僕の名前が呼ばれた。

 診察室には医者と看護師がいた。

 僕が椅子に腰をかけても、医者は何も言わなかった。

 暫く医者が何かを訊いてくるのを待ったが、一向に医者は何も訊いてこない。

 堪えきれなくなって、僕は言った。「あの、僕の病状はですねー」

 「ききたくない」医者は言った。「聞きたくない、そんな事」

 「聞きたくない、って、それじゃ診察出来ないでしょう」

 「診察なんてしたくない」医者は言った。

 「なんですか、それ。診察してくださいよ」

 「それで一体何になるんです?」医者は言った。

 「診察して僕の病気を治してくださいよ」

 「直せる訳がない。それにあなたなんか直る筈がない」

 「なんですか、それ」僕は言った。「診察してくださいよ」

 医者は何も言わずに僕を見つめた。

 暫く医者と僕はそんな感じにお見合いしたが、二分ほどもすると医者はさすがに観念したようで嫌そうな顔をして言った。「じゃあ、胸を見せてください」

 医者は僕の胸に聴診器を当て、それから扁桃腺の具合を調べるとカルテに何かを書きこんだ。

 「分かったんですね?」僕は訊いた。

 「何が?」

 「いや、僕の病気が」

 「はい、分かりました」

 「風邪ですか、インフルエンザですか?」

 「いいたくない」医者は言った。

 「なんですか、それ。教えてくださいよ」

 「とにかく、もう帰ってください。もう何もかもうんざりなんだ」

 顔を見ると医者は泣いていた。医者は傍らにいた看護師の胸に顔を埋めて声を殺して泣いた。看護師さんが医者の頭を撫でながら僕に言った。「すいませんが、もう帰っていただけますか?」

 僕は診察室を出た。

 何なんだ、あの医者は?

 まあ、医者も色々大変なのだろうが、それにしても変な医者だ。

 診察室の中からは医者のすすり泣く声が聞こえる。

 全く最近の医者は訳がわからん。


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2006年10月02日

幸福な匂い



 妻と結婚してもう二十年。よくここまで耐えたものだ。

 とにかく妻は我が強い。思い通りにならないとすぐ腹を立てるのだ。

 私に手を挙げることもしばしばだ。抵抗しようにも妻は体重80キロ、私は体重45キロの貧弱オヤジ、かなう筈がない。

 殺してしまおうか、なんて悪い考えを抱いてしまうこともある。

 しかし、私にはそこまでの勇気はない。

 しかし、何かしらの抵抗はしたいものだ。

 でも、どうすれば? 妻の食事に毒を盛ればどうか、いや、そこまでやる勇気は私にはない。

 しかし、私の中にピン、と閃くものがあった。

 おならはどうだろう? おならというのは毒ガスだ。ガスの探知機にもちゃんと反応する。

 そう、毎日屁を嗅がせつづければ、もしかしたら。

 私は早速その晩から作戦を実行した。

 寝静まった妻の鼻の所に尻を持って行って、すかしっぺをするのだ。

 半年ばかりもそんな事を続けたが、やはりというかなんというか効果は丸でなかった。

 そうだ、おならくらいで人が死ぬもんか。私だってそんなに真剣に期待していたわけではない。ほんのささやかな抵抗だ。

 ある日私と妻はTVを見ながらソファーで寛いでいた。その時、私はおならがしたくなって放屁した。

 すると私の屁の匂いを嗅いで妻が言った。「あら、あんたのおならって良い匂いね」

 いい匂い?

 もしかしたら毎晩私のおならを嗅がされて鼻が私の屁の匂いに慣れて良い匂いに感じ始めているのかもしれない。

 「ほんと、良い匂い。落ち着くわ」妻は言った。「そう、そういえば不思議なんだけど夜中寝ているときにこんな良い匂いがするのよ。観音様や仏様が現れる時って良い匂いがする、っていうじゃない。観音様でも来てくれてるのかしらね。ふふ、馬鹿げた考えね」

 そういうと妻は本当に少女のように屈託なく笑った。

 私と妻が出会った頃、妻はこんなふうに屈託なく笑ってたっけ。

 そう、あの頃は幸せだった。

 その妻に対して毎晩おならを嗅がせていたなんて。

 「なあ、コーヒー飲むか?」

 「あら、いれてくれるの?」

 「ああ」

 私は台所に行って、とびきり美味いコーヒーをいれた。

 さっきの妻の出会った頃の笑顔を思い出しながら。


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2006年09月29日

バカ


この所どうも具合が悪い。偏頭痛と下痢が止まらないのだ。

 それでも一週間ほど我慢していたが、さすがに我慢出来なくなり、病院へ行くことにした。

 最初ボクは内科へ行ったのだが、内科の先生はボクの症状を聞くとニヤリと笑い、「これは内科では診れませんね。精神科へ行ってください」と言った。

 何故だ? なにかしらの精神病の症状で頭が痛いのだろうか?

 分からない。

 ボクは首を捻り、とにかく言われたように精神科へ行き、順番を待った。

 精神科は存外空いていて、三十分ほどでボクの名前が呼ばれた。

 「南海斗さん、三番診察室にお入りください」

 ボクは三番診察室に入り、中で椅子に座っている医者に挨拶した。

 「どんな具合ですか?」医者が訊いた。

 「偏頭痛が止まらないんです」

 「他になにか症状はありますか?」

 「下痢も止まりません」

 それを聞くと医者はニヤリとした。「偏頭痛に下痢、ですか」

 「はい」

 医者はカルテにボクの症状を書き込むと「こりゃ、バカですな。突発性バカ症候群ですよ」と言った。

 「バカ?」

 「ええ、突発性バカ症候群です。神経細胞の伝達障害、とされてますが、今の所詳しい事は分かっていません」

 「って事はボクはどうなってしまったのでしょう?」

 「まあ、バカになってしまった、と言うことです」

 「バ、バカになった?」

 「はい」

 「し、しかし、確かにそんなにボクは頭の良い方ではないけど、それにしたってバカになっただなんて」

 「頭の善し悪しは関係ないんですよ。東大卒のバカ症候群の患者だって一杯いるんです」

 「東大卒のバカですか?」

 「実は私もバカ症候群です。私も一応東大卒なんですよ」

 「先生もバカですか?」

 「ええ」

 「直るんですか?」

 「一応薬を出しておきます」

 「何の薬ですか?」

 「抗うつ剤ですよ」

 「抗うつ剤?」

 「はい、元気にする薬です。元気になればどんな病気も直る。バカも然り」

 そういうと医者は、はははは、と陽気に笑った。

 実に陽気な人だ。

 一階で会計を済まし、院外薬局で薬を買うと、ボクは自転車に跨った。

 まさか、バカになってしまうとは。

 まあ、どうにかなるさ。

 僕は自転車に跨り、家に向かってゆっくりとペダルを踏んだ。



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2006年09月25日

死人



余り詳しい事は覚えていない。

若い男が家に侵入してきて、僕に気づくとナイフを取り出し僕を刺したのだ。

それからの記憶は丸でない。

床には夥しい血が溜まっている。

嫌な予感がした。まさか、と思って僕は自分の脈を取ってみた。

案の定脈はなかった。心臓の上に手を置いてみたが心臓は動いていなかった。

その時玄関のチャイムがなった。

おそらく山内だろう。映画に行く約束をしていたのだ。

僕は床から起き上がり玄関まで歩いて行くと「どちら様?」と訊いた。

「俺だよ、俺」やはり山内だった。

僕は扉を開けた。

山内が言った。「お前何してんだよ、待ち合わせ場所には来ないし、携帯に電話しても出ないし」

そういうと山内は僕の腹から流れる血に驚いて言った。「お前腹から血が流れてるんだけど」

「いや、参ったよ、殺されちゃってさ」僕は言った。

「殺された?」

「ああ、俺の脈を取ってみろよ」

山内は僕の脈を取った。「本当だ、脈がねえや」

「だろ?いきなり若い男が侵入してきてさ、グサッだよ」

「で、お前死んでるわけ?」

「ああ、完全に死んでる」

「死んでるったってお前これからどうすんの?」

「まず、俺を殺した奴を捕まえないとな。警察に行って来るよ」

「じゃあ、映画には行けないな。その後の合コンはどうする?」

「行くよ」

「そうか」

「ああ。俺とにかくこれから警察行って来るからさ。後で電話するよ。待ち合わせ場所はモヤイ像前でよかったんだよな?」

「ああ、8時、モヤイ像まえで」

「分かった」

そして僕は一旦山内と別れた。

僕は血のベッタリと付いたシャツとジーンズを着替えると警察に向った。

一番近くの警察署まで歩いて30分かかる。近くの交番で事情を話せば警察署までパトカーで連れて行ってくれるだろう。僕は交番に向った。

交番には警官が一人いた。

「すいませんが」僕は言った。

「どうしたの?」警官が言った。

「あの、殺されちゃって」

「殺された?」

はい、僕はそう言うとシャツをめくって傷口を警官に見せた。

「ひどいな、こりゃ」警官は言った。

「脈もないんです」僕はそう言うと警官に脈を取らせた。

脈を取ると警官は言った。「本当だ、こりゃ死んでるわ」

「どうしたらいいんですかね?」

「こりゃ、大変だ」警官は言った。「死ぬと大変だよ。君クレジットカードとか銀行のキャッシュカードとか持ってる?」

「はい持ってます」

「そういうカード全部使えなくなるよ」

「え?そうなんですか?」

「ああ、結局カードってのは信用貸しだからさ。死人ってのは社会的信用がないんだよ」

「死人が社会的信用がない?」

「だって死んでるわけだからさ。みんな死人の事は信用してないんだよ」

何か分かるような分からないような話しだった。

「これからは誰も君を信用しなくなるし、誰にも信用されずに生きていくってのは大変だよ。これから一応警察署に行って事情を聴取するけど、警官にしても君の言う事なんて信用しない。どうする?それでも警察署に行く?」

「はい、行きます」

「そうか。しかし、可哀相になあ死んじまうなんてなあ。これから大変だぜ」

それから僕は警察署に行き取り調べ室で事情を聴取された。しかし、警官が僕の話しに信を置いていないのは明らかで取り調べも実になおざりだった。

「僕の言った事信用してませんよね?」僕は言った。

「まあ、死人の言う事だからねえ」警官は頭を掻くと言った。「でも君なんかまだマシだよ。他殺体だからさ。他殺体の言う事は我々もある程度信用してる。問題は自殺体だよ。自殺体の言う事は我々は信用しない」

「何故ですか?」

「自分で死ぬような連中だからねえ」

「そうなんですか」

「自殺体ってのはわがままで礼儀もない奴が多いんだよ。スポイルされてんだよ、自殺体ってのはさ」警官は言った。「まあ、君もこれから大変だと思う。死人に対しては偏見も強いし先入観も強いからさ」

警察署から僕は家まで歩いて帰った。死人が信用がないなんてひどい、僕は思った。人に殺された上に信用までなくなるなんて。

家に帰ると僕は合コン用の一番お気に入りの服に着替え待ち合わせ場所に向った。

待ち合わせ場所にはすでに山内たちがいた。男3人女3人のメンバーだった。僕らは近くの居酒屋に入り、合コンが始った。

山内が女の子たちに言った。

「こいつ、死んでるんだぜ」

「死んでるって、自殺したの?」女の子の一人が僕に訊いた。

「いや、殺されたんだよ」僕は言った。

「私死人ってはじめて見た」

女の子達のその話題への食いつきはすこぶる良かった。警官は死人に対する社会的偏見が強いといっていたが若い世代にはそうした偏見はあまりないようだった。

12時頃に合コンは終了し家に着いたのは1時だった。

一応、と僕は思った。一応親にも殺された事を報告しておいた方がいいだろう。僕は親に電話をかけることにした。

6回ほどコール音がして母親が電話を取った。

「こんな時間にどうしたの?」母親が言った。

「いや、今日殺されちゃってさ」

「殺された?病院にはいったの?」

「行ってない。でも完全に死んでるんだよ。脈もないんだ」

「これだから東京の大学には行かせたくなかったのよ」母親は言った。「親より先に死ぬなんてとんだ親不幸だよあんた。分かってるの?」

「ああ、でも突然刺されちゃったんだ」

「全く親不孝ばかりして」
「ゴメン」

「で、正月にはこっちに帰ってくるんでしょうね?」

「ああ、父ちゃんは?」

「寝てるわ」

「そっか、じゃあ俺が殺された事父ちゃんに話しといてよ」

「しようがないわね」

「それじゃ、俺もう寝るわ」

「分かった。じゃあ又ね」

「ああ、おやすみ」

僕は電話を切った。

しかし参った。死んじまうなんて。

僕は一つため息をついた。はあ、これから大変だ。

しかし、まあ、どうにかなるだろう。僕は思った。

とりあえず、今日は寝よう。

僕は歯を磨くと寝巻きに着替え布団にもぐりこんだ。



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2006年09月21日

晴れ女 対 雨男



東京の臨海地域に新たに巨大遊園地がオープンすることになった。

世界1のスピードで走るローラーコースターを初めとし世界初お目見えの様々な乗り物、世界一の大観覧車、そして巨大なショッピングモールにブランドのアウトレットショップまでを完備した世界一の敷地面積を誇る巨大遊園地である。

満を持してのオープンであり、まさかオープン初日から雨に降られるわけにもいかない。そこで社長はオープン初日の遊園地に日本中から選りすぐった晴れ女を3人招待することにした。

「その晴れ女達は本当に大丈夫なんだろうな?」社長が秘書に訊いた。

「その点はご心配なく。彼女達は最強ですよ。これまでにも色々な式典に招待され様々な式典を成功させている名うての晴れ女達ですから」

そしてオープン初日を迎えた。その日は天気予報では大雨だったが秘書のいうとおり快晴の上天気となった。

遊園地内のホテルの一室に宿をとる競合グループの社長はその上天気を苦々しく思っていた。

「どういう事だ?」社長は言った。「こんなに上天気じゃないか。雨男の到着はまだか?」

その競合グループの社長は遊園地の初日を大雨にしてしまおうと世界一の雨男との評価の高い一人の男をイギリスから招いていたがその男はまだ到着していなかった。

「じき到着すると思います」秘書は言った。

「第一その男は本当に大丈夫なんだろうな?」

「その点は保障済みです。イギリス中の雨の降らない地域の水不足問題をことごとく解決してきた男です。彼が来れば雨どころではありません。大嵐になりますよ」

「しかし、来なけりゃ仕様がないじゃないか」

「もう少々お待ち下さい」

その時秘書の携帯電話がなった。

秘書が電話を取った。

「はい、私です。−なんですって?そんな事いわれても困るわよ。社長は彼の到着をお待ちなのよ。え?じゃあ、他に方法はないの?どんな方法を使ってでも間に合わせなさい。なんですって?無理?」

秘書は電話を切った。

「どうしたんだ?」社長が訊いた。

「それがー、雨男は昨日日本に向けてイギリスを発つ予定だったのですが、昨日から彼のいる地域が大嵐になり飛行機が飛べない状態らしくー」


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2006年09月18日

引ったくり



男の事を「ひったくり」ないしは「泥棒」と呼ぶのがやはり適切なのだろう。

しかし、男は世間いわれるような引ったくりとは違っていた。

やってる事は引ったくりと同じなのだが盗まれた方は別段怒りもせず、運が悪かった、とでも言うように皆みょうに納得してしまうのだ。

男はいつも堂々と、あたり前だと言わんばかりに目をつけた品物を引ったくる。

人目に隠れて盗む、とか、相手の隙を狙って盗む、とかいうのではない。相手の目の前で実に堂々と盗むのだ。

例えばバッグを持った婦人が自分のバッグを膝の上に置いて駅のベンチに座っているとする。

すると男は婦人の前まで歩いていって、婦人のバッグを堂々と取り上げ、逃げるでもなくスタスタと立ち去る。

その場合婦人は男を追いかけない。

婦人はこう思う。「あの男に会うなんてなんて運が悪かったのかしら。でも仕様がないわ。こういう事もあるのよ」

何故人々は男を追わないのか? 最初の頃はそうした事もあったようだが、時と共に男が市民権を得てしまったようなのだ。

泥棒が市民権を得た、というのもおかしな話しだが、今では男の存在を皆容認していて取った、取られたで争いが起こることはまずないし、男から盗まれたものを取り返すという事を人々はマナー違反だと考えているのだ。

僕も一回男に財布の入ったバッグを引ったくられた事がある。

男を追いかけるというのはエチケット違反なのだが、どうしても必要な金だったし、僕はその時男を追いかけた。

男は僕からバッグを引ったくるとゆっくりとした速度で僕の前から立ち去った。僕は男を追いかけて男を呼びとめた。

「すいませんが、そのバッグを取られると困るんですよ」僕は男に言った。

男は可哀相な人でも見るように僕を見て言った。

「これはあなたのものです。そうですよね?」

「はい、僕のものです」

「そうです。だから私は取ったのです。あなたは私にこれをくれますか?くれませんよね。だから、私はこれを取ったのです。取るより他はなかったのです。そこの所の事情を理解して頂けませんか?」

「いや、それはよく分かるのですが、そのバッグにはどうしても必要な金が入ってるんです。返して頂けませんか?」

男は同情的な目で僕を見つめた。そして言った。

「分かりました。残念です。実に残念です」

「残念ですが今回はどうか勘弁してください」

「分かりました。実に残念ですが、今回はお返しします」

「申し訳ない」

「いや、お気になさらないで」

男は僕にバッグを返すと軽く会釈して言った。「では」

「はい、さようなら」

男の背中を暫く見送り、僕は一抹の後悔と共に家路についた。


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2006年09月15日

大きなお世話



世の中には機械に嫌われる人間がいる。

例えば自販機でタバコを買おうとして1000円札を入れるが機械がそれを拒否し、何回いれてもお札が戻ってくる。又自動ドアがどうしても開かないとか電車の券売機のタッチパネルが反応しない、とか。

逆に機械に好かれる人もいる。

緒の又とおるは正にそういった人だった。
とおるがジュースか何かを自販機で買おうものなら金をいれる前にジュースが出てくる。つり銭だってがんがん出てくる。

とおるは機械や物の受けが非常にいいのだ。

その内、とおるには機械の思っている事が分かるようになった。

機械の思っていることが聞こえるのだ。最初は幻聴かとも思った。しかし、医者に行っても脳に異常はないという。まあ、幻聴が激しいようなら統合失調症の気があるのかもしれない、と医者には言われたけれど。

そんなある日とおるは商店街の福引をしに行くことにした。

福引の機械だって機械である。きっととおるの欲しいものを当ててくれるだろう。とおるはそう考えて福引券を10枚持って福引会会場に向った。

威勢のいい福引のおじさんにとおるは福引券を渡し、こう訊いた。

「おじさん、一等はなんですか?」

「一等はハワイ旅行、いいよ、今の時期のハワイは。お兄さんは彼女いるの?」

「はい、います」

「じゃあ、うってつけだよ。ペアチケットだから」

これはいい、とおるは思った。是非当てたい。

とおるは福引機を回した。

1等賞か?

おじさんが言った。

「残念。残念賞のティシュ」

おかしい?とおるは福引券を渡しもういちど機械を回した。

しかし、又残念賞のティシュだった。

おかしい。俺は機械には愛されているはずなのに。

とおるは10回機械を回したが結局全部ハズレだった。

福引機の前で落胆していると小さな声で福引機がとおるに言った。

「とおるさん、ハワイはやめておいたほうがいいですぜ。紫外線は体に毒だ」



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2006年09月12日

採点



滝沢まことは何でも自分でやらないと気が済まない性分だった。

何でも自分でやらないと心配なのだ。

例えば車の助手席になんて黙って座っていられない。自分で運転しないとどうにも心配で堪らない。バスなどに乗っていても落ち着かない。それでいつも運転席の横に陣取り運転手の運転を監視するのだった。

滝沢は高校3年生、受験勉強の真っ只中だった。試験は明日に迫っている。滝沢の志望校合格の確率は模擬試験の結果によると70パーセントといった所で、合格圏内ぎりぎりといったところである。不断の努力によって辛うじて首の皮一枚つながるかどうか。

滝沢は明日の試験に備えて自室で最後の追いこみに忙しかった。参考書を開くのだが、自分以外は信用しない滝沢には参考書がそもそも信じられない。

この参考書は間違っているかもしれない、そう思うと参考書を鵜呑みにも出来ず、先ほどから一向に勉強は進捗しない。

諦めて滝沢は参考書を閉じて自分に言い聞かせた。

「今更焦っても仕方ない。やることは十分やったんだ」

明日の試験はしかし、大丈夫だろうか?そもそも俺自体それほど信用できたものではないんじゃないか?俺自身が俺を作ったのなら安心だが俺を作ったのは俺の親だ。どうやって作ったのだろうか?暇つぶしのセックスで出来てしまった子なのではないか?ちゃんと作ったのだろうか?

そんな事を滝沢は真摯に1時間ほども考えた。

しかし、一向に答えは出ず、その報われない1時間の所為で滝沢の頭はくたくたに疲れてしまった。

「今日はもう寝よう」

滝沢は机の電気を消し、布団にもぐりこむと眠りに就いた。

翌朝滝沢は6時に起床し、朝ご飯を食べると早めに家を出た。見送る両親に手を振り駅に行き電車に乗りこむと一番前の車両に行って運転手の運転をいつも通り監視しながら頭の中で英語の分詞構文を復習した。

会場に着いた。

手がかじかんで鉛筆をもてなくなると困るので滝沢はサランラップを手に巻きその上から手袋をつけていた。しかし、今日はそれほど寒くない。そう判断して滝沢は手袋を外し、サランラップを外した。

滝沢はカバンの中からモンキーバナナを取り出しそれを食べると駅で買った温かいお茶を飲みながら試験開始時刻を待った。

やがて試験が始まった。

滝沢は問題を難しいとは感じなかった。試験が終わった。手応えは十分ある。

完璧だ、滝沢は思った。これなら絶対受かる。

しかし、一つだけ心配なことがあった。

いくらなんでもこんな心配馬鹿げている。そう思うもののその不安をどうしても取り除くことが出来なかった。

滝沢は20分ほどその不安と戦ったがその不安をどうしても払拭することが出来なかった。

滝沢は意を決して係員の所に歩いていった。

そして滝沢は係員に言った。

「あの、採点ミスが心配なんで学生の答案僕に採点させてもらえませんか?−」



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