本日 2005.07.13 秋田さきがけにて、「産後の体 癒して」- 医療の一環、母親に好評 - というタイトルが目につきました。日本アロマ環境協会の認定アドバイザー免許を持つ医師とリンパマッサージ講習を受けた助産師二人を中心に行っているとのこと。「医療の一環として無料で実施しており、県内の総合病院で導入しているのは珍しいという」というコメントもありました。

県内の総合病院での「
アロマテラピー」に対する認識の低さを改めて感じないわけにはいきません。いや認識の低さ以前に、どうも「アロマテラピー」という学問体系自体を「西洋医学」の観点から科学的に証明されていないという理由で、導入されていないというのが現状のようです。

私のスクールで、現在、県内の総合病院に勤務の妊産婦さんが、ケモタイプ アロマテラピー講座を受講しております。受講生に、看護師、薬剤師など医療従事者が増えてきています。現場では、アロマテラピーの必要性を認識していながら、それを実行するためには許可が必要で、なかなか思うとおりアロマテラピーを実践することが困難な状況下にあるようです。

ある県内の総合病院に勤務の看護師さんでアロマテラピーを勉強している方は、病院側からアロマテラピーを取り入れるにあたって、科学的根拠をまず示して欲しいとの要請があったそうです。

科学的根拠という観点から、いつも私がセミナーでお話することを例にとってお話してみたいと思います。

● 薬はもともと植物の抽出成分のうち、薬理作用の強い「アルカロイド(塩基性化合物)」を原料に作られているものが多い

植物から抽出された薬(合成)が現代医学の中心となっています。 そのきっかけは、1803 年にドイツのフリードリッヒ ゼルトゥルネンが、ケシの抽出物からモルヒネの結晶を精製したことから、トリカブトからアコニチン、トコンからエメチン、ベラドンナからアトロピン、キナからキニーネなど、植物由来の薬が製造されたことによるといわれています。

もともと、植物の抽出成分を原料として用いられてきましたが、現在はそれらの化学的組成成分が明らかとなり、化学合成された薬が使われているのが現状です。しかしながら、化学合成された薬には、非常に強い作用を持つものが多く、その結果副作用として弊害が起こる場合があります。植物には緩和な作用、非常に強力な作用、そしてその中間的な作用を示すものがあります。植物療法として利用されているのは、緩和な作用、中間的な作用を示す植物です。

以上は、

・「2005.07.11 植物と美容の関係

を参照下さい。

● 現代の西洋医学の体系は、化学合成の薬を用いて対処療法を治療の主体としている場合が多い

病気の状態は、生体が、外部からの病原菌や、内部の細胞の異常から、生体内の細胞が本来の正常な働きができない状態をいう、といわれています。化学的には、生体内の分子の配列の異常ととらえられ、薬もまた分子で造られており、生体内の受容体に特異的に結合することで薬理作用が発揮できるしくみになっているそうです。

よく植物療法で用いられるハーブに、西洋ナツユキ草がありますが、これは、1852年にヤナギの樹皮の有効成分である「サリシン」を基本に、アセチルサリチル酸(サリチル酸をアセチル基と反応)へと改良され「アスピリン」という薬と基本的に同じ構造の「サリチル酸」を含んでいます。

アスピリンはご存じのように、解熱・鎮痛作用のある薬で、薬事法によって、日本薬局方に記載されているか、あるいは、厚生労働省が認証した医薬品です。

アスピリンという薬の分子の構造は、ベンゼン環にカルボキシル基(-COOH)とアセチル基(CH3CO-)が結合した化合物です。この分子の構造を持つアスピリンは、体内でプロスタグランジン(炎症を促進させる炎症作用と、炎症を抑制する抗炎症作用を持つ局所ホルモン)やトロンボキサン(血小板凝集作用、血管平滑筋収縮作用、気道平滑筋収縮作用)の働きを阻害(生成の阻害)することで、前述の効果を発揮し、痛みを和らげる働きを持っています。

以上は、

・「2005.12.31 体調とプロスタグランジンの関係
・「2006.02.10 サリチル酸と植物療法
・「2006.02.11 ヤナギナツユキアスピリン
・「2006.02.13 サリチル酸二つの官能基

を参照下さい。

これは、アスピリンという薬を使い、痛みの原因よりも、痛みそのものを緩和させるという対症療法です。しかも、しばしば胃潰瘍の原因となりうる場合があります。胃の痛みによく西洋ナツユキ草を使いますが、植物まるごとの西洋ナツユキ草には、その他に粘液質やタンニンなどの多くの他の成分が含まれており、サリチル酸の副作用を未然に防ぐことになっていると推測されます。植物療法では、体質によって、西洋ナツユキ草よりもカミルレがよい場合もありますし、痛みの種類によっては、ラベンダーやカミルレを使い分ける場合もあります。

● 植物が丸ごと持っている有効成分と、植物の有効成分を抽出し、単離精製されることで合成された薬とでは、生体内での生理活性作用は当然違ってくる

よくハーブは、二面性を持っているといわれていますが、夏の酷暑にも、冬の極寒にも耐えないといけない植物は、移動することができませんので、同時に両極の環境に対応しないといけません。そのため、いろんな有効成分を含み、場合によっては、相反する作用を示す物質が含まれていても当然の事と思われます。

そのことで、アロマテラピーの世界でよくいわれることがあります。モノテルペンアルコール類という芳香成分類の主な作用の一つに、「神経強壮作用」がありますが、そのグループを構成している芳香分子に、「l(エル)-リナロール」があります。

「l-リナロール」は、「鎮静、血圧降下、抗不安」の各作用があり、効果の発現という意味で、どちらの作用が働くのでしょうか。

また、同じ芳香成分類として、モノテルペンアルコール類とエステル類がありますが、エステル類は、「鎮痙れん、神経バランス回復、鎮静、鎮痛、抗炎症、血圧降下」の各作用があります。

上記、芳香成分類や芳香分子を含む精油の代表的なものが、ラベンダー アングスティフォリア Lavandula angustifolia です。最新の精油データによると、モノテルペンアルコール類のリナロールを45%(平均的含有量の最高値)、エステル類の酢酸リナリルを50%(同左)を含んでいます。これらの主要な成分でほとんど80%以上になります。しかし、ラベンダー アングスティフォリア Lavandula angustifolia には、他のごく微量な有効成分が数多く存在し、全体では 200 ~ 300 もの組成成分が含まれていることがわかっています。

これでは、ラベンダー アングスティフォリア Lavandula angustifolia のどの成分が体に作用しているのか、化学的にも、科学的にも証明することが困難な状況です。

その答えが意外なところで見つかりました。

・「ハーバリズムのすすめ」衣川湍水著、フレグランスジャーナル社発行、p21 ~ 22参照

「植物二次代謝産物を利用する場合、その効果について一義的に決めることはできません。植物成分の相反する作用のどちらが効果として現れるかは、それを利用する側の各種の条件によって左右されます。その時点でその生体にとって必要とされる効果が選択されるともいえます。そして、このことこそがハーブの特質であり、私たちが植物に接する際に忘れてはならないことなのです。」

「・・・サイコサポニンの研究において、服用されたサイコサポニンは体内で30種類もの化合物となり、吸収排泄は固体の給餌、体調、環境に深く関わっている・・・私たちの生体の多様性に、精緻微妙に対応する多彩な植物成分の混合物としての生理活性こそ大切にしなければならないと思います。ともすれば、化学的な分析にはしりがちな傾向は戒められなければなりません。多様性の相関に対するための研究が、新しく創造されることを期待します。」

植物療法では、個体差による肌や体調の傾向や原因、そして、実際に起こっている肌のトラブルや体調に対して、どんな植物をどのようにして利用するかを考えるのが基本です。植物を利用することによる効果の発現を、化学的に証明するには、全世界の化学者が100年を費やしても研究できないとまでいわれた時代がありました。

前述の「
アロマテラピーを取り入れるにあたって、科学的根拠をまず示して欲しい」という要請の完全な解答にはならないかと思いますが、私たちは、進化の過程で、いろいろな植物を利用してきました。植物によって、自分たちの体に必要な栄養を取り入れたり、傷を癒したり、暖をとり立ち上る香りに安らぎを覚えたりと限りなく植物を利用してきました。

植物と人間は、はやり共存共栄の関係であり、そのことを謙虚に受け止めないといけないと思います。もっとも、県内の総合病院で導入しているという今回のニュースで、「
科学的証拠」を求めるより先に、我先にと導入するところが増えてくるかもしれませんね。