山歩きの準備は、その後も続けていました。







最大の悩みは靴。カットや防水性能、ソールの硬さ、そして価格。不整備の山野を長距離歩ききるためはどういうモノが良いのか、まったく知識も無く悩みます。





他にもあれこれ考えて過ごしていた中の休日の朝、海に行こうと思っていたのだけれど海況予報がいまいちで気乗りがしない。一旦玄関先まで出したロッドを部屋に戻しながら思い付いた。そうだ、山に行こう!





先日来準備しているあの尾根筋とは別に、去年から気になっていた尾根筋がありました。そこは少し奥までは何度も行っているけれど、その先のピークに15〜20年前に挑んだときにはかなり密なツツジの群落に阻まれ、それ以来無理だろうと半ば諦めていたのでした。が、去年辺りからその山周辺のことを調べていると、登山道があって、さらにその先のピークまで行っている方々がいることがわかりました。ツツジの壁のことは疑問のままでしたが、いつか行ってみねばと思っていたのでした。





そのコースは、宮古市(旧川井村)と大槌町の境の県道26号線土坂峠から南に入山して、標高1010mの長者森を経て1172mの白見山までを往復するコース。準備を進めていたコースより相対的に標高は高めではあるものの、距離は約半分で先人の記録から植生や歩きやすさもある程度読めています。残雪もいくらかはあると思っていましたが、手持ちのかなり草臥れたローカットのメレルでも大丈夫だろうと読みました。





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8:15、出発です。





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冷え込みが強い朝でしたが、降水も風もなく最高の日和です。(今月初旬のことです。)





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近いうちにこの尾根筋も歩きます。





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遠巻きに様子を観つつどきどきしながら近づきましたが、クマさんはここは好まないのかな。







やがて未踏区間に入っていきます。ピンクテープを辿っていくと、いつしかツツジの壁があるはずの辺りを過ぎていました。特に注意して観てはいなかったけれど、切り株は見えなかったし、当時はもっと左側に進んで跳ね返されたような気もします。




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この辺りは尾根が広くて見晴らしも利きません。ピンクテープは時折見えなくなるし、現れ始めた残雪が踏み跡を隠しています。地図を開きコンパスを合わせてだいたいの位置把握をして進みます。







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ここはそれまでの林間行程から一気に展望が開けて、多くの方が早池峰山と薬師岳を写真に収めるところ。





一面霜柱の赤土西向き斜面を突っ切って少し行くと、北斜面が斜度を増して一旦消えた残雪もその深さを増してきました。




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大したことない斜度の差で雪解けの進行がかなり違ってくるようです。幸いこの朝にかけて冷え込んだために雪が固く、上に乗ってぐんぐん歩けるから助かりました。帰りはもしかしたら大変かもしれないけれど、だとしても戻ることはできるので気にせず進みます。





やがて斜面が終わって辺りを見回すと、




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ここか〜。9:16でした。







進路の再確認をしようとポケットの地図を探ると……無い。どこにも無い! コピーなので金銭的には10円の損失だけど、せっかく準備した物を無くすのは悔しいし、地図とコンパスを使って進路を理解していく愉しさも失ってしまいました。かといって探し戻るのは面倒だしスマホで地図を見ることにして進みます。





南斜面を下っていけばすぐに着くと思っていた牧場に、なかなか着きません。少し心配になってきた頃、右側に古そうな有刺鉄線が張られているのが見えて、ほどなくして視界が開けました。




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牧野に進み出ると、これまた早池峰山が見事です。




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こういうときのためにと購入した双眼鏡を取り出し覗くと………お〜すげぇ〜!たかが8倍、されど8倍です。肉眼では全く見えなかった早池峰山頂避難小屋の赤い屋根も、下界の工事作業員のヘルメットの色も、牧野下縁の林から観られているとも知らずにぞろぞろ出てきて草を食んでいるシカ達も丸見えです。ちょっとした感動。





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長者森を振り返って見ると、結構彼方に見えます。それなりに歩いた気もするけれど、時間にすると20分。距離と時間がまだまだ体感的に不一致で違和感を感じます。





牧野を突っ切って、再び林間に入る場所は左上角でした。足元に崩れた有刺鉄線が這っているので要注意です。



ここから白見山までは、ほぼひたすら登りです。息はやや乱れるも止まらずに行ける傾斜・雪面です。



いよいよ厳しくなった傾斜を登りきると、




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目指すピークではない笹藪の尾根でした。南には谷と、その向こうに東西に長い尾根があります。さっきまで目指す方向の右手に見えていた1139mの無名峰のようです。



笹藪の尾根は、左手にやや標高を上げつつ続いています。踏み跡は見えていることも多いけれど、笹が密で歩き辛いので雪があるときは選んでその上を歩きます。




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じりじりと標高を上げつつ、いつしか徐々に右手にカーブしていく尾根を進んでいきます。小鎚山への分岐尾根が近いと思いますが、広尾根なうえにそちら方向の眺望も効かずはっきりとは見えません。



やがて先が見通せない急傾斜が現れて、もしかしたらこれを登れば? いや、行けばまた先があるんだべ?と両方思いつつ登りきると、そこには平坦な残雪が広がっていました。歩み出ると、




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三角点……だよな。それにしてもここまでやったのはクマかな?



辺縁の木々に目をやると、




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着いた〜〜!と一人叫びました。





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眺望はあまり利きません。よく晴れた空に辺縁のダケカンバの木々が伸びています。雪が無くなれば笹が立ってなおさらでしょう。実距離以上に遠くて近づけなかった山についに立ちました。







時刻を見ると10:51。車まで戻っておそらく13時頃。まだまだ時間があります。それならと、南斜面の樺坂峠方面からの登り口まで行ってみることにしました。往復2時間掛けたって余裕があります。とりあえず目の前の斜面を降りてみるも、笹がきつい。戻ろうとするともっときつい!これは登山道を見つけないと無理だ、と辺りを観ていくと、プレートの東方にピンクテープが見えました。行ってみると笹に元気があるものの道のようなので下ってみます。



結構な急斜面で、笹を掴みながら所によっては小走りに抜けていきます。時折ピンクテープは途切れ、笹が勢いを増しますが、道を見失うほどではありません。見透しが利くと、




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新山の風車群が見えます。場所によっては片羽山、六角牛山や五葉山が見えました。見え方が変わるほどに高度を下げてきていることを感じます。





やがて傾斜が緩くなり、ブナなどの大木が散見できます。が、どなたかが仰られていた巨木の森という感はありませんでした。ほぼ平坦に近くなった笹藪を抜けると、




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登山口到着です。11:26でした。登り返しがきつそうですが、今更の話です。





ここまで来たらさらに欲が出てきて、去年のGWに車で通った小鎚川沿いの林道まで行ってみることにします。気づかずに500mほど逆方向に進んでみたり、ヤマアカガエルを見つけてみたりしながらようやく見覚えのあるカーブの分岐に着きました。




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樺坂峠もしくは金糞平のヤマザクラに行こうかとも思いましたが、地図を見るとどちらも結構な距離があるので諦めて、再び白見山登山口に向かいます。





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再びあそこに、いや見えていないその先にまで登るのかと思うと正直気が萎えます。登らないと帰られないので、帰路開始です。





再びの白見山山頂へは35分で着きました。もしかしたら1時間位要するかもと思っていたし、きついときには高度を20m位上げる毎に立ち止まって呼吸を整えていたから意外でした。





ピークから少し下ってから左側に曲がっていく尾根筋で、往路では気付かなかったモノを見つけました。




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そういえば誰か……というか複数の方々がこれに言及していたことを思い出しました。明治期にこれを設置した背景やその様子に興味が湧き、妄想が広がります。







往路の急登は、




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メレルのビブラムでもなんとか滑れました。本当はスキーが欲しいところですが。この頃には雪が緩んできていて、歩くといくらか足が嵌まって面倒でした。







新田牧場の牧野に出ます。今度は長者森に登り返しです。振り返ると、




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相変わらずピークがよく分からない山です。





途中、往路で無くした地図を探すも、往路の足跡もかなり見つけ辛くなっていて、結局見つけられませんでした。



その後はスムーズに進んで、14:15車に到着しました。往復で約12km、それに南登山口付近での林道歩きを含めて約13kmを約6時間で歩きました。







山を登る人の気持ちは、これまでは理屈としてはわかっていたつもりでした。それは文字通り、理屈でありつもりでした。この日、私としての山を歩く楽しみを実感できました。そして、次の目標に何歩も近付いた感がありました。