2007年07月29日

内田光子のベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番、第29番「ハンマークラヴィーア」4

内田光子:ベートーヴェン「ハンマークラヴィーア」ベートーヴェン:ピアノソナタ第28番&第29番

今回は7月25日に発売されたばかりの新譜である内田光子のベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番、第29番「ハンマークラヴィーア」のCDをご紹介致します。

前回7/1のブログで彼女のベートーヴェンのピアノ・ソナタ30、31、32番をご紹介しましたが私のクラシック関連のブログの投稿では2回連続の登場でブログの方でも”目出度く”内田のベートーヴェン後期ピアノ・ソナタの”チクルス完成”って感じになりました。(笑)

なのでハンマークラヴィーアの”29番”にちなんで今日7月29日に投稿した訳です。<--無理矢理こじつけてます。(笑)

行きががり上、”取り上げなければならない”という雰囲気だったので取り上げざる得ないタイミングでもあったのですが。。。(笑)

しかし。

もし演奏が取るに足らないようなものだったら今回の28番、29番のCDの紹介はしないつもりだったので、こうして紹介できる運びになった事は大変喜ばしいことであります。

このCDは市内の山野楽器に予約を入れていたので発売日の25日の前日の24日に入荷したので喜び勇んでCDを取りに行きました。

ジャケットの写真も前作と同じ時期に撮ったもののようで同じ服装です。なんか内田光子の”目”が虚ろに遠くを見つめているようでちょっと不気味だったりして常人ではない雰囲気が醸し出されています。ちょっとアブナイ感じ。(笑)

出来栄えは前作の30番、31番、32番のソナタ集同様、確かに完成度が高い演奏だと思いました。

割と遅めのテンポで始まる28番の第1楽章に最初は少し違和感があったのですが、何回も聴くうちに慣れてきました。

28番、29番とも全体としては細かいところでテンポをほんの一瞬落としたりするところがあったりして少し意外な表現がありました。それでもバランス感覚が良い現代的な演奏で”大冒険”というほどの表現はないです。まあひとことで言うと中庸の美ですか。これも前作同様で安心して聴ける。

あと強弱の付け方などかなり緻密な演奏で大雑把で力任せの演奏ではないです。「ハンマークラヴィーア」など長丁場の曲でも集中力の持続もあり弛緩するところは無かったです。

録音は2007年4月28日−5月2日となっていますが、ヨーロッパなどでは4月にこの28番と29番の「ハンマークラヴィーア」をリサイタルで弾いていたらしい。流石に弾き込んでからレコーディングに入ったので自分でベスト・コンディションを作っていたのでしょうね。

高水準の録音も手伝ってか左手のタッチが明瞭に聴き取れるのが嬉しい。これは前作の30〜32番のソナタ集もそうでしたが左指が流暢に良く動くもんだなぁ〜と感心しました。聴きなれたパートも新鮮な発見があり楽しめました。

「ハンマークラヴィーア」で特に私の好きな第4楽章の巨大なフーガも難なく弾きこなしていて、この巨大な建築物のような構築美を設計図でも見るように見通しの良い演奏でした。感情に流される演奏ではなくある意味冷静な演奏と思いました。

冷酷なほど完璧無比とクラシック評論家諸氏に言われたポリーニ盤と聴き比べるとポリーニの演奏は意外に”熱い”です。ポリーニのは凄まじく張り詰めた緊張感がある演奏でしたが、内田光子の演奏はそれほどの緊張感はなく落ち着いている感じがします。「ハンマークラヴィーア」は演奏していないですが、同じ女流のアルゲリッチの情熱的な演奏と比べるとかなり個性が違います。

しかし曲自体が高いテンションを持っており楽曲が素晴らしいのでキチンと弾いてくれていれば曲自体の圧倒的な力が自然と聴き手に訴えかけてきます。特に赤裸々に情熱的な演奏ではないのですが、これを聴いているとやはり熱くなります。

ちなみに、この第4楽章のフーガは弦楽四重奏曲第13番のオリジナルの最終楽章の「大フーガ」とともに晩年のベートーヴェンが創った巨大な構築物です。圧倒的な力感で聴くものを圧倒してくれる人類史上稀にみる傑作と思います。

現在の内田光子はテクニック的には完璧に近いと思われ、1948年12月20日生まれなので還暦間近ですがピアニストとしてはまだ年齢的な衰えがなく油がのっている時期だと思います。

故に今回のCDは”もっともっと弾けるはず”という感がしたのも正直なところです。それはテクニック的な面ではなく精神的な深みという点で訴えかけるものが、もう少し欲しかったという思いがあります。とてつもなく深い楽曲なので厳しい要求になってしまいますが。。。。

ただ誤解を与えるといけないので言っておきますが、このCDは最近出た同ソナタのCDでは出色の出来だとは思っています。名盤として世評の高いポリーニ盤etc.に劣るという感じは全くありません。ミス・タッチなど演奏上の疵もないです。最近これだけ弾ける人はめったに居ないでしょうね。ですから決して買って損をしたとは思っていません。

ユニバーサルのサイトでリアルプレイヤーで試聴出来るみたいなのでURLを記載しておきます。パソコンで音楽を聴ける方はどうぞ。個々人の好みも違うので是非聴いて見てほしいですね。

ユニバーサルの内田光子の新譜紹介のWEBページ


それと内田は今年の夏のザルツブルグ音楽祭で「ハンマークラヴィーア」を含めたベートーヴェン後期ソナタ5曲すべてを2日に渡って演奏するそうなので、それに先駆けての緊急発売とユニバーサルのWEBページに載っていました。

ザルツブルグでのライヴも聴きたいですね。実演でどんな演奏をするのか是非聴きたいです。なんとかNHK FMとかで放送してくれないだろうか。実演という事で今回のディスクに欠けていた何かがあるかも知れない。

いづれにしても一連のベートーヴェンの後期ソナタのCDで内田光子を見直しました。まだまだ良い演奏を聴かせてくれる事を期待しています。

ジャズ名盤、クラシック名盤、プログレッシヴ・ロック名盤 へ

bitoku0906 at 09:59 │Comments(4)TrackBack(0)クラシック  | ピアノ

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この記事へのコメント

1. Posted by 吉田    2007年07月29日 22:39
こんばんは。
とうとう出ましたね。
職場の近くのHMVで、視聴できるようになっていたのですが、一部だけを聴くのはなんだかもったいなくて、聴きませんでした。
と思っていたのですが、同じ時間帯に店内で鳴っていたBGMがこの曲でした。タイミングとしては内田の演奏っぽかったので、これもパスして店を出ました(笑)。
内田といえば、先日に聴いたシューベルトが良かったので、続くベートーヴェンのシリーズも気になっています。前回も思いましたが、bitokuさんの記事を拝見しますと、良さそうですね。
全集を後期から始めることからして、自信があるのでしょう。

Re:吉田さん

吉田さん、こんばんは。

いつもコメントをありがとうございます。

>とうとう出ましたね。

国内盤レギュラープライスの価格は痛いですが、喜び勇んで24日に入手しました。
消費者としては良い演奏家には少しでも還元しないと。。。

>一部だけを聴くのはなんだかもったいなくて、聴きませんでした。

確かに確かに。
私は24日に買ってきて以来、毎日聴いてはいたのですが邪魔が入ったりしてゆっくり聴けなかった。(笑)ですからようやく落ち着いて聴けたのは土曜日になってからでした。
でももう優に10回以上は聴いています。集中して聴けてないですが流し放しにして1日2回位聴いてましたから。(笑)

>前回も思いましたが、bitokuさんの記事を拝見しますと、良さそうですね。

「ハンマークラヴィーア」になると注文が多くなってしまうのですが、聴いて損はない演奏だと思います。最近の演奏でこれより良い演奏のCDを探すのは大変かも知れません。(笑)
この記事を書くにあたって久々にポリーニ盤も聴いたりしていましたが、テクニック的には負けていませんね。録音は内田の方が良いので嬉しいです。
記事にも書いたのですが左手のタッチが明快に聴こえていて他にはない発見がありました。
強弱の表情付けも非常に神経が行き届いています。ただそこに意図的なものを感じてしまうのも確かで頭で考え抜いた解釈という気がしてしまうきらいはあります。

聴衆を前にした実演ではどうなのか興味が尽きません。実演が見てみたいです。
あと全集を作って欲しいですね。きっと高水準な演奏に違いないでしょうから。
2. Posted by cloudy-coco    2007年08月04日 08:11
おはようございます。

無謀にもまたまたコメントさせていただきます。

早速ユニバーサルのHPで試聴させていただきましたが、気に入りました。(試聴ファイルの音質が良くて、ちょっと驚きました。)
酷暑のせいかこういうサウンドに飢えているところもありますが、ソロピアノの凛とした空気感がいいですね。

娘がピアノをやっているんですが、こういう世界観もあるというのを教えてあげたいと思います。ということで、bitokuさんのリンクから早速購入しました。

Re:cocoさん

おはようございます!
コメントをありがとうございます。感謝、感激、雨あられでございます。<--表現が古過ぎ!(笑)

>早速ユニバーサルのHPで試聴させていただきましたが、気に入りました。(試聴ファイルの音質が良くて、ちょっと驚きました。)

良かったです。既にCDを持っているのでユニバーサルのサイトのは聴いていないのです。録音も優秀でゴキゲンでした。

>ソロピアノの凛とした空気感がいいですね。

”空気感”とはうまい表現ですね!
正にその通りです。音の響きや奥行き、存在感を感じるだけでも楽しめます。

>娘がピアノをやっているんですが、こういう世界観もあるというのを教えてあげたいと思います。

おお!将来は内田を超える大ピアニストを目指してください!
29番の「ハンマークラヴィーア」は40分を優に超えるピアノ曲史上、空前絶後の難曲で精神的なものが非常に抽象的に昇華されています。

幾多の苦難の末、ベートーヴェンが辿り着いた圧倒的な芸術です。私はこの曲を初めて聴いてから20以上経ちますが、全く飽きる事がありません。

何度も何度も聴いてようやく”良さ”が分かってきますから歳を取るにつれて理解が深まってきている感があります。本当に凄まじい作品です。

あと娘さんにはバッハがピアノの練習のために作曲した「平均律クラヴィーア」も是非、聴かせてあげてください。
こちらは悟りきったような静謐で澄み切った曲が多くて、私も朝一と寝る前に聴いています。私はおよそ無宗教な人間ですが、神様がいると信じられるほど美しい楽曲です。

>ということで、bitokuさんのリンクから早速購入しました。

ありがとうございます。一応amazonのアフィリエイト・プログラムに参加していますが、”売れないCD”や”amazonにない廃盤CD”ばかり紹介しているのでCDが売れたためしが無いのです。(笑)

コメントを頂いたお陰で今日は朝から気分が良いです。お天気も晴天ですが、気持ちも晴れ晴れとして幸せな気持ちで1日を過ごせそうです。
幸せな気持ちにさせてくれたコメントをどうもありがとうございます。本当に嬉しかったです♪

P.S.
しかし最近コメントの返答がすご〜く長くなってしまいます。しかしブログの投稿は少ないのでもう少し頑張って書かないと。。。。(笑)







3. Posted by おかちゃん    2007年08月06日 08:24
おはようございます。初めて投稿いたします。僕も昨日購入し聴きました。内田は以前から好きなピアニストで今回のCDも注目、大いに期待しておりました。
しかい、期待が大きすぎたのか最初聴いたときは若干拍子抜け感が否めなかったのですが、一晩寝て聴いてみると何度も繰り返し聴きたくなるんですよね。特に3楽章〜フィナーレ。不思議な意味深いCDだと思います。

Re:おかちゃん

はじめましてbitokuと申します。コメントありがとうございます。

>内田は以前から好きなピアニストで今回のCDも注目、大いに期待しておりました。

私は先月、図書館で内田の後期ソナタ30、31,32番のCDを聴いて良い演奏だと感心しました。それまでは20年前にショパンのソナタ2、3番のCDを聴いたきりで内田はノーマークでした。

>期待が大きすぎたのか最初聴いたときは若干拍子抜け感が否めなかったのですが、一晩寝て聴いてみると何度も繰り返し聴きたくなるんですよね。

私も同じような感覚でした。30、31、32番の後期ソナタ集はすぐ素晴らしいと思ったのですが、この28、29番は他のピアニストの同曲のCDも聴いて比較したりして正直考え込んでしまいました。岡本さんのブログのお言葉を借りれば”是か非か”すぐジャッジできなかったです。

>特に3楽章〜フィナーレ。不思議な意味深いCDだと思います。

第1楽章は少し(?)なところがあります。他のピアニストにない休符というかフレーズの”溜め”があって流れが少し損なわれているような気がしました。あくまで好みなんでしょうけど。
でもおっしゃる通り第3楽章のアダージョ、第4楽章のフーガについては素晴らしい演奏だと思いました。

やはり実演が聴いてみたいですね。スタジオ録音にないものが期待できそうです。

岡本さんのブログも楽しく拝見させて頂きました。
最新ブログのイエスの”危機”は大好きなアルバムです。色々聴かれていてお詳しいですね。参考になります。

今後とも宜しくお願い致します♪







4. Posted by cloudy-coco    2007年08月08日 07:07
おはようございます。
朝のわずかな時間の中ではありますが、コメントさせていただきます。

昨日帰宅したところ、CDが届いておりましたので、早速、我が家の疑似cafeのCDラジカセで聴いてみました。

最初の一音で、我が家の居間が厳然たる意思を持った空間に一瞬のうちで変わったようです。(家族も同感だったようです。)
酷暑の中ということもあるでしょうが、ピアノの清涼感のある響きが体に沁みてきます。かといって、リラックスした演奏ということではなく、指先に小さな炎がともっているような、静かに熱い演奏・・・といったところでしょうか。(表現が稚拙ですみません。)
今、自分の部屋でCDをかけながら書いていますが、願わくはもう少しいいオーディオで堪能したいという欲求が沸々としてきます。う〜ん、罪なCDですね〜。

Re:cocoさん

cocoさん、こんばんは。

>朝のわずかな時間の中ではありますが、コメントさせていただきます。

おお!そんなお忙しい中、大変恐縮です。本当にありがとうございます。

でも忙しい朝にコメントをくださるとはすごく熱い思いが伝わってきました。
私は仕事から帰ってからコメントを読ませて頂きましたが、1日の仕事の疲れが吹き飛んで元気が出ました。
先日のコメントといい本当にありがとうございました。

>最初の一音で、我が家の居間が厳然たる意思を持った空間に一瞬のうちで変わったようです。(家族も同感だったようです。)

素晴らしい!

”厳然たる意思を持った空間”とは素晴らしい表現力ですね。参りました!
その場の雰囲気を変えてしまうとは、正に至高の音楽の力ですね。

>ピアノの清涼感のある響きが体に沁みてきます。かといって、リラックスした演奏ということではなく、指先に小さな炎がともっているような、静かに熱い演奏・・・といったところでしょうか。(表現が稚拙ですみません。)

稚拙だなんて、とんでもない!
”指先に小さな炎がともっているような、静かに熱い演奏”だなんて本当に素晴らしい表現です。

国内盤帯に書いてあるキャッチコピー(?)の”確固たる造形の上に築かれた、途方もない美の世界”より全然リアルに思いが伝わってきます。

この言葉を是非ブログでパクらせて欲しいくらいです。(笑)

でも確かに如何に良い録音でも美しいピアノの音色を出しているのはピアニスト自身なんですよね。例え古い録音でも感動させられるっていうのは演奏者の感情なり、思考なりが伝わってきて、そこに演奏者のパーソナルなり、感情なり思考なりの”意思”を感じるからでしょう。

娘さんにも良い音楽を沢山聴かせて育ててあげてくださいね。幼い頃に聴いた音楽の影響は無意識に感性を磨いてくれるので心が豊な人になるような気がしますので。

>願わくはもう少しいいオーディオで堪能したいという欲求が沸々としてきます。う〜ん、罪なCDですね〜。

クラシックのCDは優秀な録音が多いのでオーディオ・マニアの方も”音質”そのものを楽しまれる方がおられますね。私も新しいステレオが欲しいです。

あと畳の部屋じゃなく、もっと響きの良い部屋で良いオーディオで音楽を聴きたいですね。
私のオーディオはかれこれ20年以上前のポンコツ・ステレオですが頑張って働いてくれてますけど。(笑)
私の使用しているオーディオについてはその内ブログで記事にしたいなぁと思ってマス。きっと皆さん興味があるに違いない。<---ないない。(笑)

ヨタ話は置いておいて、cocoさんがこのCDを気に入ってくださったのなら本望です。

もしピアノ中毒になりそうだったら先日、取り上げた内田のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ30、31、32番も素晴らしいので是非是非♪






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