2007年09月30日

悲劇の巨匠ヴェデルニコフ/20世紀ロシアのピアノ音楽5

ヴェデルニコフ・テイチク盤








昨日、オークションで落札したたった300円のCDを取りにある中古CDショップに行ったところ、大変なものを発見してしまいました!

昨年、夏からロシア・ピアニズムにハマッて以来、是非入手したいと思っていたCDでテイチクから1994年に発売された「悲劇の巨匠ヴェデルニコフ/20世紀ロシアのピアノ音楽」(TECC-28170)というCDです。

そのショップで見つけて通常の中古CDと比べると”かなり高い”と思ったのですが、ヤフオクと比べれば安い値段でした。いや”べら安”と言っても良い価格です。

ヤフオクでは年に2,3回このCDが出てきますが、毎回高値が付いてしまうロシア・ピアニズム通の間ではプレミアム・アイテムとして名高い、正に超幻の名盤です。

私も中古CDショップなどで探し続けていましたが、実物を一度も見た事がありませんでした。
昨日は天気も良くなくて外出するのは少し乗り気じゃなかったのですがオークションで落札した300円のCDを仕方なく(笑)取りに行って僥倖に恵まれました。

このCDは既に視聴はしていて、この演奏はすべて聴いていました。ロシア・ピアニズムに明るいネットで知り合った知人にCD−Rでコピーして貰ってましたから。。。

でも私のCDプレイヤーは我儘なのでどうも頂いたCD−Rと相性が悪いようで、ブツブツとノイズが入ったり、途中で止まったりしてたので絶対本物のCDが欲しいと思っていました。

なのでCDをGET出来て非常に嬉しい。DENONからはロシア・ピアニズムの再発盤がかなり出ていますが、テイチクから出ていたこの盤の再発の可能性を考えると絶望的な状況でしょうから。

あとロシア・ピアニズム関連で廃盤になってしまって入手困難な国内盤としてはDMLのTRITONから出ていたゲンリヒ・ネイガウス、スタニスラフ・ネイガウス、マリア・ユージナ、マリヤ・グリンベルグ、グレゴリー・ギンズブルグ、サミュエル・フェインベルグやBMGから出ていたヴェデルニコフのバッハやヒンデミットなど5タイトル、ビクターから出ていたスタニスラフ・ネイガウスのショパンなどがあり、マニア垂涎のプレミアム・アイテムとなっています。

なんとか再発できないものだろうか。。。

そんな訳で今回ようやく入手できたテイチク盤の「悲劇の巨匠ヴェデルニコフ/20世紀ロシアのピアノ音楽」はヴェデルニコフというロシアのピアニストが初めて日本で知られるきっかけになった大変希少な貴重盤です。

とある中古CDショップではCDの買取価格が1万円とホームページに載せていました!一体、いくらで売るつもりなのだろうか?

ここで曲目などのデータを記載します。

1.スクリャービン:ピアノ・ソナタ第10番(1913)
2.ショスタコーヴィチ:ピアノ・ソナタ第1番(1926)
3.ウストヴォルスカヤ:ピアノ・ソナタ第2番(1949)
4.リゲティ:エチュード第1集(1985)
5・シューマン:アラベスク ハ長調
6.シューベルト:即興曲 変ト長調 D.899−3
7・グラツィオーリ:アダージョ ト短調

1992年6月16日、ピンネベルク(ドイツ)、デジタル・ライヴ録音

CDのタイトルの通り近代・現代のロシアの音楽が中心になっています。このCDに収録されている楽曲では正直、シューマンとシューベルト以外ほとんど聴いたことがないです。(笑)

ウストヴォルスカヤだけは以前このブログでご紹介したヴェデルニフのClassoundのロシア盤に同じ演奏が入っていました。これも輸入専門CDショップの”アリア”で半年掛かってようやく入手できたCDでした。

ちなみに先月、ディスクユニオンで佐藤泰一氏編集のロシア・ピアニズムCDディスコグラフィーというものを購入特典としてもらいましたが、それを見るとこのClassound盤は載っておらず少〜し自慢の逸品です。(笑)

ヴェデルニコフのCDは日本のDENONから出ているロシア・ピアニズム名盤選のCDは入手可能な状況ですが、本国ロシアも含めて海外の輸入盤で現在、入手可能なものはほとんど無いです。

話を今回のCDに戻すとヴェデルニコフは1993年に来日する予定だったのですが、訪日まであとわずか2ヶ月余りという同年7月29日に亡くなってしまいました。ヴェデルニコフは1920年5月3日生まれなので享年73歳でした。1935年に一度日本に来ているそうで実に58年振りの訪日予定だったそうです。

ヴェデルニコフは同じネイガウス門下のリヒテルやギレリスと違って旧ソビエト政府からマークされていて、なかなか西欧諸国に出て演奏会をさせてもらえなかったそうです。

ちなみにゲンリヒ・ネイガウスも自分の弟子(生徒)のなかで才能を認めているのはリヒテル、ギレリス、ヤコブ・ザークとともにヴェデルニコフの名前を挙げています。

今回ご紹介するCDは1992年6月16日のドイツでの演奏会のライヴ録音になりますから、丁度亡くなる約1年前のヴェデルニコフが72歳の時の演奏になります。

ヴェデルニフのCDはDENON盤その他で沢山聴きましたが、今回のCDには驚きました。DENON盤などは古い録音の物が多いのですが、このテイチク盤はデジタル録音です。

ロシア・ピアニズム関連のヒストリックな録音に慣れているせいか、演奏されている曲目が現代音楽中心という事もあってデジタル録音のクリアな音質はこの演奏記録を伝える上で衝撃的でした!

今まで聴いていたヴェデルニコフは一体何だったんだろうという位、ピアノの音色の美しさに驚きました。

キラリと光るナイフのようなきらびやかで硬質なピアノの音色です。これは現代音楽を演奏する際の強力な武器です。

普段、現代音楽が苦手であまり積極的に聴いて来なかった私にも”これはただ事ではない!”と思わせる演奏でした。

CDの1曲目から4曲目までの現代音楽作品だけで約50分、ヴェデルニコフのピアノの音の存在感に圧倒され放しでした。まるでピアノの音の塊が押し寄せて来るようです。

昨日から割と大きなスピーカーでヴォリュームをかなり上げて聴いていました。隣の家のヒトは何事だと思っただろうか。(苦笑)
でもこのCDは特に大きな音で聴くことでピアノの音響を満喫できるような気がします。

しっかし凄まじいテンションで演奏者の集中力が凝縮された演奏です。ホントにこれが72歳という高齢のピアニスト演奏なんだろうか?

年齢に甘えずテクニック面での衰えは全く見られません。晩年にしてこのテンションを保ち続けていた事は本当に強固な意志がないと出来ないことだと思います。凄まじいまでの表現意欲が演奏からも伝わってきます。

現代音楽はニガテという私も昨日から既に4回も聴いてしまったほどハマリました。
1曲目のスクリャービンも素晴らしい演奏でしたが、特に2曲目のショスタコ、3曲目のウトヴォルスカヤ、4曲目のリゲティの演奏には圧倒されました。もの凄まじい演奏です!

ちなみにウトヴォルスカヤはサンクトペテルベルク音楽院でショスタコーヴィチに師事した女性の作曲家だそうです。しかしその才能をショスタコも高く評価していたそうでこんな発言が残っています。

”私によって影響されているのは貴女ではなく、むしろ私のほうが貴女に影響されているのです。”

”彼女の音楽は世界的名声を獲得し、音楽の真実を理解するすべての人々によってその卓越した重要性が認められるだろうと確信する。”

ショスタコーヴィチが密かに想いを寄せていたという話もあってなかなか興味深い。

ウトヴォルスカヤは1919年生まれ。このピアノ・ソナタ第2番は彼女が1949年、30歳の時に作曲され、1967年1月26日にモスクワ音楽院小ホールでヴェデルニコフによって初演、今回の1992年のライヴが世界初録音だったらしい。

ネットで調べていたらウトヴォルスカヤは昨年亡くなったようです。私が初めてその音楽を聴いたときには既に亡くなっていたんですね。なんか複雑な気持ちです。

”ペテルブルクで孤高の生活と作風を守り、外界との接触を避けソビエト政府当局から自らの音楽を守り抜いた”

とライナーに書いてありました。これも興味深い話です。

話をCDの演奏に戻しますが、

5曲目のシューマンのアラベスク、6曲目のシューベルトの即興曲も独墺系の音楽も得意なヴェデルニコフらしく素晴らしい演奏でした。
4曲目まで現代音楽づくしだったのでシューマンのアラベスクで正直ホッとさせるなかなか良い構成です。

ラストのグラツィオーリは知らない作曲家でした。”アダージョ”というタイトルの通り終始静かでロマンティックな音楽でこのCDは終わります。

ここでヴェデルニコフの興味深い発言がライナーノーツにあったのでご紹介します。

”私は昔のピアニストが大好きでした。もうレコードがありましたから。ラフマニノフが好きでした。(略)ショパンがプログラムにある演奏会には行きませんでしたが、マーラーや何か新しい曲が載っているときは必ず出かけたものです。

最近ではグレン・グールドが私の模範です。彼が大好きで彼の録音は全部集めています。”

”私の模範”とは、なんと謙虚な発言なんだろう。ヴェデルニコフのこの発言を聞いただけで変なプライドやつまらない見栄とは無縁の真摯な音楽家であることが分かります。

凄いものは”凄い”と素直に認めて”大好きだ!”と語れることって簡単そうでなかなか難しい。。。。。と思いません?

またヴェデルニコフはコンクールについてこう語っている。

”学生の側にとっても、個性の発見にとっても害の方が大きいと言わねばなりません。コンクールのために練習するものは個性を発揮すればモスクワ音楽院の『予選選考』にすら合格できないことを知っています。”

ヴェデルニコフはコンクール歴もなく自分の信念に従って生きた気骨のある芸術家であることがこの発言からも分かります。
やはり孤高のピアニストって感じで最近の英才教育を受けた指だけは達者なピアノを弾く機械のようなピアニストとは違います。

現代の日本も含めて世の中がそんな方向に行っているような気がします。これでは本物の才能と個性的な”天才”は育たないと思います。どんなに生まれながらの才能があっても土壌が悪ければ芽が枯れてしまいます。

最近ではみんないやに世渡り上手で無味乾燥な演奏しか聴かせてくれない演奏家ばかりのような気がします。悲しい現実です。

ヴェデルニコフの発言でもうひとつ同じニュアンスの感じられる話があるのでご紹介します。

近年のロシアの音楽状況は厳しく、

”これまで私は演奏会のために毎年、音楽院の大ホールを提供してもらっていましたが、今年はそれも得られませんでした。

賃借料が膨大な額だからだそうで、私自身がそれを払うか、スポンサーがいれば貸すというのです。私にスポンサーはいませんから小ホールをもらうことになりました。
今ではスポンサーと良いマネージャーなしでは何もすることができません。(略)

芸術の質だけが問われるのでなければ、スポンサーの言うなりになります。スポンサーがレパートリーを選び、適当なものを弾くように要求するのです。(略)こういう態勢は芸術に良いわけがありません。”

この発言を読んでロシアもそんな風になって来ているのかと驚きました。日本や西欧諸国も完全に音楽がビジネスになっていますが、ロシアまでこんなとは。。。

しかしヴェデルニコフの言っている事は真理を突いています。現代の演奏家によーくこの事を考えて自問自答してほしいものです。

こんな発言を聴くと先ほどのウトヴォルスカヤのようにある意味”孤高”の存在でないと真の芸術を守れないのですね。

ヴェデルニコフのこのCDで聴ける演奏会のレパートリーに現代音楽ものが多いのはヴェデルニコフが己の信念に従って演奏家として生きていた証なのかも知れません。

その辺りを心して聴き手として真剣勝負で聴かなきゃイカン1枚だと思ったりしました。

やはり世の中の流れでこのCDが全然売れずに廃盤になり、再発の可能性も極めて薄い事を考えると貴重な演奏の記録がどんどん消えていってしまう事は悲しい現実です。

ヴェデルニコフの”生き方”、芸術家としての”信念”とオーバーラップして複雑な想いです。

しかし、この演奏はヴェデルニコフの演奏記録の中でも1,2位を争うもので、このまま埋もれさせるにはあまりにも惜しい演奏です。

日本が世界初CD化した栄誉がありますが、なんとかいつでも入手できる状況になって欲しいものです。

でも、ほんの一握りのそれを求めている人が居ればきっと本物は生き続けると思います。このCDが再発されるのが20年後、30年後でないことを切に祈りたい。

ジャズ名盤、クラシック名盤、プログレッシヴ・ロック名盤 へ

bitoku0906 at 17:30 │Comments(2)TrackBack(1)クラシック  | ピアノ

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この記事へのコメント

1. Posted by 吉田    2007年10月01日 23:24
こんばんは。
ヴェデルニコフはあまり聴いたことがありません。他のピアニストに比べて当局からマークされていたとなるとなかなか商業録音もままならなかったのでしょう。
このCDのプログラムは面白いですね。全体にバランスがよいように思います。リゲティを除いてリヒテルがやってもおかしくないような。
彼の発言を読むと、音楽に誠実な奏者のようです。
録音も良さそうで、とても興味深いCDですねえ。

Re:吉田さん

吉田さん、こんばんは。

コメントをありがとうございます。

>ヴェデルニコフはあまり聴いたことがありません。他のピアニストに比べて当局からマークされていたとなるとなかなか商業録音もままならなかったのでしょう。

録音はOKだったみたいですけど、西欧諸国に演奏旅行に出してもらえなかったようです。
でも現在、手軽に聴くことのできるヴェデルニコフの演奏はDENONのロシア・ピアニズム名盤選のシリーズで出ている十数枚のCDのラジオの放送録音の音源くらいで大変残念です。

>このCDのプログラムは面白いですね。全体にバランスがよいように思います。リゲティを除いてリヒテルがやってもおかしくないような。

確かにおっしゃる通りですね。
無名に近いウストヴォルスカヤのソナタなど面白かったです。

同じネイガウス門下のリヒテルとヴェデルニコフは親友だそうですが、片や西欧諸国で成功したリヒテルとロシア国内に幽閉状態のヴェデルニコフの人生は大きく違っていて正に”悲劇の巨匠”なんでしょうね。

>彼の発言を読むと、音楽に誠実な奏者のようです。
>録音も良さそうで、とても興味深いCDですねえ。

奇を衒ったりしないですが、本物の手ごたえの感じられる演奏でした。
ロシア・ピアニズム関連では非常に良い状態の録音なので収録されている現代音楽のレパートリーを”これでもかっ”って程堪能できました。(笑)

現在このCDが誰でも気軽に聴ける状況にないのは残念なことです。
このCDがテイチクから発売されたのも”悲劇”かも知れないです。再発される可能性がグーンと低いような気がして。(苦笑)



2. Posted by 木曽のあばら屋    2007年10月06日 20:41
こんにちは。
このCD、持っていませんが興味深いですね。
1万円は払えないのでこまめに中古屋でも廻ってみます。

ウストヴォルスカヤは6曲のピアノ・ソナタを残していますが、
どれも聴き応えがあります。
ピアノ・ソナタ以外では、
ショスタコーヴィチが弦楽四重奏曲第5番で引用した「三重奏曲」
「八重奏曲」「ピアノ協奏曲」などが好きですね。

ショスタコーヴィチは最初の妻が死んだ1954年に彼女にプロポーズたものの、断られたそうです。

Re:木曽さん

木曽さん、こんばんは♪

コメントをどうもありがとうございます。

>このCD、持っていませんが興味深いですね。
>1万円は払えないのでこまめに中古屋でも廻ってみます。

私は何度かヤフオクで出品された時、入札したのですが高値が付いて負けてしまいました。とても手が出なかったです。しかし、こうして運良く入手できて嬉しい限りです。

現代音楽をほとんど聴かない私が先週購入してから毎日聴いているほど気に入ってしまいました。掛け値なしの名盤でした。

臨場感のある録音がライヴの雰囲気を良く伝えており、優秀な録音で残っていたことも幸いでした。
他の収録曲ではショスタコとリゲティの曲も大変気に入りました。もう少し現代音楽方面を聴くべきだと自己反省した次第です。

>ウストヴォルスカヤは6曲のピアノ・ソナタを残していますが、どれも聴き応えがあります。

このソナタ2番は素晴らしい音楽だったので他のソナタも是非聴いてみたいですね。

>ピアノ・ソナタ以外では、
>ショスタコーヴィチが弦楽四重奏曲第5番で引用した「三重奏曲」
>「八重奏曲」「ピアノ協奏曲」などが好きですね。

木曽さん、お詳しいですね。
私も少しこの辺を勉強せにゃイカンです。(笑)

>ショスタコーヴィチは最初の妻が死んだ1954年に彼女にプロポーズたものの、断られたそうです。

結婚してたら凄まじいカップルだったのに残念ですね。
でもウストヴォルスカヤは本当に素晴らしい作曲家だと思いました。




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