2009年02月15日

メディア・リテラシー2:温暖化、原発

日経の2月2日に「地球の気候 当面『寒冷化』」という記事がのって驚かれた方も多いと思う。サブタイトルには「昨年の気温、21世紀で最低」とまで書かれてある。一方で、昨日は各地で2月の最高気温としては観測史上最高を記録したという。一体何を信じればよいのか。
気象庁 しかし日経の記事をよく見れば2001年から2008年の中で最低であっただけで、それをことさら大袈裟に「21世紀で最低」と書いているにすぎない。確かに自然変動の影響もあって温暖化の速度は遅くなってはいるのかもしれない(図の青線の最近数年のわずかな下降のこと)。というよりも、1990年代後半から2000年ごろにかけての温暖化傾向が、長期的傾向を示すトレンド線(図の赤い線)を上回る速度だったために一時的に減速しているにすぎないと見ることができる。気象庁の統計によれば、2008年の世界平均気温は1891年の統計開始以降歴代10位の高さであったし、また陸域のみの地上気温データでみた場合には同じく1880年の統計開始以降歴代8位という高さであったという。トレンドというのはいわば平均であって、今後気温上昇はトレンドを下回ることも当然あるが、問題はトレンド自身が上向いているということである。

温暖化懐疑派の共通の傾向としてトレンドを無視することがあるが、これもその一つなのかもしれない。IPCCがすべて正しいというつもりはないが、この記事はまさに針小棒大の典型だと思う。

関連する話題としては、スウェーデンが原発の段階的廃止政策を撤回した、というニュースがセンセーショナルに報じられた(毎日新聞2009年2月9日)。記事内容は誤っていないのだろうが、どうも現地に留学している日本人のブログなどと読み比べてみると、だいぶ温度差がある。

例えば毎日の記事では「与党・中央党のオーロフソン党首は『原子力エネルギーは予見できる将来の電力供給システムの一部になる。これはもはや事実だ』と強調した。」とあるが、その人のブログでは「中央党党首モウド・オーロフソンは、こう述べる。『わが党は原発に対するこれまでの見方を変えたわけではない。原発の増設に合意したわけでもない。しかし、原発が今後も長期にわたって、スウェーデンの電力供給に重要な役割を果していくという考え方は受け入れる。』となる。
毎日の記事では意図的にか「しかし」以前の部分はすっぱりと省略され、「考え方は受け入れる」という表現が「これはもはや事実である」となってしまっている。

原文を入手していないのでどちらが正しいかわからないが、ブログによれば、中央党は与党の他の3党の要求を呑む代わりに、逆に以下のような新たな要求を彼らに呑ませたという。

・再生可能なエネルギー源を利用した発電(風力・太陽光・波力・バイオマス)の拡張・普及を促進する。特に、スウェーデン政府としての風力発電の拡張目標を大きく引き上げる。
・エネルギー使用の効率化を推し進め、エネルギー需要を全体として削減していくために、政府が大きな投資を行う。(エネルギー総使用量を2020年までに20%減)
・2020年までに全使用エネルギーに占める、再生可能なエネルギーの割合を50%に引き上げる。(現在は確か43%くらい。EUがスウェーデンに課した達成目標は2020年までに49%だったから1%引き上げられたことになる。)
・運輸部門の使用エネルギーに占める再生可能エネルギーも、2020年までに10%にする。
・道路運輸・交通では2030年をめどに、´化石燃料の全廃を目指す。そのために、二酸化炭素税(環境税の一つ)をさらに引き上げる。

しかも、
・原発の新設には、たとえ更新であっても、政府は一切お金を出さない。費用は電力業界がすべて自分たちで賄うべき、とする。
・一方、再生可能エネルギーには、現在の課徴金制度を通じて、今後とも支援を行っていく。(ここでいう課徴金制度とは、一般の消費者が使用する電力にエネルギー税・環境税とは別に課徴金を課し、その課徴金を再生エネルギー源の拡張に充てる、という一種の使途目的税。ちなみに、これに対し、エネルギー税・環境税は使途を特定しない一般財源。)【ここまで引用】

毎日の記事から想像する内容とは大きく異なるのである(ブログ著者自身の検証)。
メディアは本当に恐ろしい。

biwako_strawbale at 22:41│Comments(0)TrackBack(0)clip!

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