台湾の野党、民主進歩党の蔡英文主席(59)が初当選を果たした1月16日の総統選後、中国のネットユーザーが、蔡氏のフェイスブックのページなどを標的に「台湾独立を許さない」などと大量にコメントを送りつけ、炎上するケースが次いだ。台湾で「大陸(中国)によるフェイスブック出征事件」と呼ばれている今回の事態はなぜ起きたのか。
 総統選や立法委員(国会議員に相当)選の投開票から4日後の1月20日夜、蔡氏や「緑色(民進党寄り)メディア」とされる三立テレビ、自由時報、蘋果日報などのフェイスブックのページやホームページが、中国のネットユーザーによる大量の投稿で埋め尽くされた。

 「台湾独立分子」を非難する内容が主だが、中国の胡錦濤前国家主席が唱えた道徳規範「八栄八恥(八つの栄光と八つの恥辱)」の「祖国を心から愛することは名誉であり、国を害することは恥辱である」といったスローガンをひたすらコピペしたものもあった。

 あるユーザーは蔡氏のフェイスブックにこう書き込んだ。

 「台湾の同胞よ、冷静に考えろ。もし独立したら君たちは世界の多くの民族の中でどういう立ち位置を得るのだ? かつての輝かしいソ連は解体後、見る影もなくなった。もし分裂したら米国や日本が喜ぶだけだ。ずっと大陸人(中国人)は台湾によくしてきたのに。これは反撃だ。先に戦いを挑んだのはわれわれではない」

 台湾の民主主義に非難の矛先を向ける声もある。「君たちの選挙はゲームみたいなもので、最後に待っているのは経済の破綻さ。民主主義は社会のがんだ」

 「お前らが中国籍になることを望んでいるわけじゃない。われわれが必要なのは(台湾の)土地だ」というあからさまな書き込みもある。

 「台湾省長への当選おめでとう。せいぜい独立意識を強めて、大陸の経済・外交・軍事制裁に向けて条件を整えてね。中国統一、万歳」という書き込みには、台湾ユーザーから反論が寄せられた。「われわれ二つの国家のどこが似ているのだ?大陸ではリーダーすら自分たちで選べないじゃないか」

 うめくような恨み節もある。「なぜ台湾人の多くはわれわれ(中国人)が洗脳されていると思うのだ。小さいころから台湾人は同胞、台湾は『宝島』だと教わってきた。ところが台湾は教育もメディアも歴史を歪曲し、大陸(中国)の顔に泥を塗る。『周子瑜の事件』は台湾人の感情を傷付けたというが、緑色メディアは大陸人民の感情を傷付けていないのか? ずっと我慢してきたが、これ以上はムリだ」

 「周子瑜の事件」とは、韓国のアイドルグループ「TWICE」の台湾出身メンバー周子瑜さん(16)が、韓国のテレビ番組で台湾の旗を振ったために中国側から『台湾独立派』として批判を受け、ビデオで謝罪した問題だ。

 台湾メディアのみならず、総統選の各候補も「謝罪の強要」を非難するなど投開票直前に問題はヒートアップし、台湾人アイデンティティーを強調する蔡氏や民進党の地滑り的勝利の追い風になったとされる。このため中国ユーザーの間では逆に「台湾側が問題を政治利用した」などと不満が高まった。蔡氏は選挙期間中、中台関係の「現状維持」を主張し、「独立」などの言説は一切封印しているが、中国人ユーザーの不信は根深く、攻撃の主要ターゲットになったようだ。

 米政府系メディア、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)などによると、今回の中国人ユーザーによるネット攻撃は、中国のポータルサイト「百度」の掲示板を起点に「草一本残さず徹底的に破壊せよ」とのスローガンのもと行われたとされる。

 本来、中国ではソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェイスブックやツイッター、動画共有サイト「ユーチューブ」の閲覧は制限されているが、ファイアウオールに阻まれない仮想専用線(VPN)を使ってアクセスする抜け道を使ったとみられる。

 日本に亡命している中国人風刺漫画家の「変態辣椒(トウガラシ)」氏はVOAに対し、この攻撃には百度の掲示板ユーザーに加えて「小粉紅(ピンクちゃん)」と呼ばれるユーザー層が主体的に参加したと指摘している。

 「小粉紅」とは1990年以降に生まれた世代の少女たち。その特徴は、普段は欧米や日本、韓国など海外の文化をこよなく愛するが、同時に「愛国少女」でもある点だという。

 彼女たちはネット上でアメとムチの態度を使い分ける。最初は親しみやすい絵文字を多用して「上品な態度で洗脳を試みる」が、一旦相手を「かたくなな台湾独立派」とみるや敵対勢力として口汚く罵るという。

 日本の製品をこよなく愛する一方で「早く日本は沈没しろ」と罵倒する彼女たち。辣椒氏は、この世代は矛盾を超越・統合する「弁証法的思考」に習熟していると(おそらく皮肉を交えて)指摘している。

 こうした海外へのアンビバレントな感情は、中国で1990年代以降に導入された愛国主義教育を受けながらも、旅行やネットを通じて海外の情報に日常的に接してきた「小粉紅」世代の特徴といえるかもしれない。

 総統選の直前、台湾の観光名所を訪れる中国人観光客を取材したが、彼らは口をそろえて「中華文化が大陸よりも残されている」「大陸と比べて人々の素養が高い」と台湾への好印象を語った。民主主義への賛同や渇望を率直に表す若者も少なくない。

 ただ、台湾に長期滞在する中国人留学生の間では、生活スタイルや価値観、歴史観、政治イデオロギーの違いから台湾人学生との間で葛藤を生じさせ、排他的な「愛国心」を強めるケースも多いという。

 海外の文化や政治制度に共感する一方で、肥大化するナショナリズム。こうした「意識の分裂現象」は、個人だけでなくネットユーザー同士の間でも生じているようだ。

 「台独派」を糾弾する声で埋まった蔡氏のフェースブックに、ある中国人はこう書き込んだ。「口汚い言葉はわれわれの名声をさらに傷付けるだけ。華人(漢民族)史上初の女性総統として当選され、おめでとうございます。いつの日か台湾の軍が大陸に戻り、われわれに選挙権を与えてくれることを希望します」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160130-00000508-san-cn

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