本か、タバコか(Books v. Cigarettes, 1946)
ジョージ・オーウェル 著
H.Tsubota 訳
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数年前、新聞編集をおこなっている友人の一人が何人かの工場労働者と一緒に空襲で起きた火災を見ていた時のことだ。話題が彼の新聞についてになった。男たちのほとんどはその新聞の読者でそれが良い新聞だと認めていたが、彼が文芸欄についてどう思うか尋ねるとこう返ってきた……続きを読む

BooksVsCigarettes

ジョージ・オーウェルの「Books v. Cigarettes」の日本語訳。

オーウェルの友人と工場労働者たちの雑談からエッセーは始まる。この工場労働者たちは「本の値段は高すぎて自分たちには手が出ない」と言うのだ。オーウェルはそれが本当だろうかと考え、過去15年間に自分が本に費やした金額を詳細に調べることを試みる。

本を買うこと、あるいは読むことさえもが金のかかる趣味であり、平均的な人間には手の届かないものであるという考えは広く蔓延していてこれは詳細な検証に値するものだろう。(ジョージ・オーウェル, "本か、タバコか"

自宅にある書籍を数え上げた結果、過去15年でおよそ900冊、額にして165ポンド15シリングを使っていることがわかったとオーウェルは書く。そこに含まれない雑誌と新聞、読み捨てのペーパーバックも考慮すると1年あたり25ポンドだというのがオーウェルの結論だ。

消費者物価の推移から計算すると1949年当時の1ポンドは2008年での約7500円ほどになるらしい。従って1年で現在の19万円弱をオーウェルは本に費やしていたということになる。オーウェルの職業が作家であることを考えれば妥当な数字ではないかと思う。

さらにオーウェルはこの額がタバコや酒といった嗜好品に比べて高いかどうかを検討する。

一九四四年にはこれらの品に対する一人あたりの年間出費は二十三ポンド以上になっている。先のように女性と子供を考慮すれば一人の数字は四十ポンドとして差し支えないだろう。一年に四十ポンドといえばウッドバイン一箱を毎日、黒ビール半パイントを週六日といったところだ(ジョージ・オーウェル, "本か、タバコか"

1パイントは約0.5リットルなので、タバコを1日1箱と週にビールを3リットルといったところだ。少し多く見積もりすぎではないかという気もするが時代を考えれば不自然と言うほどでもない。さらにオーウェルは時間当たりの読書費用を計算する。

本一冊の値段を八シリング、それを読むのに四時間かかるとして……一時間当たり二シリングになるだろう。これは映画館の比較的高価な席のひとつに座るのとだいたい同じだ。(ジョージ・オーウェル, "本か、タバコか"

1ポンドが20シリングなので先のレートで計算すると1シリングは375円になる。従って1時間当たり750円だ。こうして順を追って本が「高価でない」ことをオーウェルは説明していく。

そのうえで最後に、本を読まない人々ではなく、価格に見合った効用を提供できていない作家を叱咤しているのがオーウェルらしいところか。