リア、トルストイ、道化(Lear, Tolstoy and the Fool, 1947)
ジョージ・オーウェル 著
H.Tsubota 訳
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トルストイのパンフレットは彼の仕事の中でも最も知られていない部分で、シェイクスピアに対する彼の非難は少なくともその英語翻訳に関して言えば手に入れるのさえ難しい資料だ。従って議論を始める前にそのパンフレットの要約を記しておくのはおそらく有用なことだろう。トルストイがまず最初に語るのは、生涯を通し……続きを読む

LearTolstoyAndTheFool

ジョージ・オーウェルの「Lear, Tolstoy and the Fool」の日本語訳。

トルストイは「戦争と平和」や「アンナ・カレーニナ」などで知られるロシアの小説作家だが、オーウェルによるとトルストイはシェイクスピアの作品を嫌っていて、とりわけ「リア王」に関しては酷評する評論を書いていた。

トルストイはリア王の筋書きのいわば解説をおこなっていき、あらゆる場面においてそれが馬鹿げていて、冗長で、不自然で、不明朗で、仰々しく、卑猥で、退屈、そして信じがたい出来事に満ちていることを発見する。(ジョージ・オーウェル, "リア、トルストイ、道化"

オーウェルはトルストイの評論を分析し、なぜそこまでトルストイがリア王を嫌ったのかについてひとつの仮説を立てる。

トルストイが「リア王」を嫌ったのはリア王と自分自身が似ているため、そして「リア王」の物語が悲劇的に終わるためではないか、というのがオーウェルの説だ。

トルストイがその評論の中で「リア王」の登場人物である道化をとりわけ嫌っていることは、この仮説を補強する。将来の幸福を期待して現世利益を放棄するリア王(=トルストイ)に対してそれを嘲笑するのが道化の役回りだからだ。

オーウェルはトルストイのこうした態度に反対する。

普通の人間は天の王国など欲してはいない。欲しているのは地上での人生が続いていくことだ。(ジョージ・オーウェル, "リア、トルストイ、道化"

ガンジーに対するオーウェルの評論(「ガンジーを顧みて」)にも共通するが、禁欲主義への反対はオーウェルの基本的な姿勢のひとつだ。そこには、喜びだけでなく苦しみがあるこそ人生は尊いという人間主義・実存主義的なオーウェルの一面がかいま見られる。