森の教会スカル


北欧旅行も残すところあと正味二日だ。
大好きだったホテルヘレステンを後にし、最後の宿泊ホテルへ。ここは特筆すべき点のない大衆的なホテルだったので割愛。
都心に近づいた分、あまり面白みのないショップやカフェの並ぶ大通り沿いのホテルで、ここを最後に持ってきたのはいささか失敗だったかな。

森の墓地イラスト風本日は待ちに待ったアスプルンドの森の墓地へ行く。
アスプルンドは1885年生まれ。北欧建築にモダニズムを持ち込んだ建築家として知られ、これから向かう、森の墓地は世界遺産に登録されている。
午前中、小さなマーケットを流し、H&Mなども見た後、地下鉄に乗り南下。ストックホルム中央駅から20分ほど、森の墓地の名前がついた駅名であるSkogskyrkagardenで下車。
スウェーデンもストックホルム中心から15分も電車で離れれば緑多き郊外だ。低い街並、並木道・・。
美しくのどかな並木道を200メートルほど歩くと、入り口が見えてきた。
森の墓地。正確にはその大きな敷地内に、火葬場と、墓地、そして教会、ビジターセンターがある。
森の火葬場とか森の教会とか、日本語ではそう呼ばれている。
はじからはじまで歩くと15分以上はかかるかしら。
私は先日、汐留の松下ミュージアムでアスプルンド展を見た。建築展は実物が見られる訳ではないけれど、大きなパネル写真を見ただけで、私の身体を強い光が通り抜けたような衝撃と感動が走った。
この目で見たいこの目で見たい。という気持ちがたちまち膨れ上がった瞬間を覚えている。ラッキーな事にこの展覧会を見たときには私達は北欧への旅行を決めていた。なんという幸運!
それほどまでに楽しみにしていたアスプルンド。
しかしながらこれまでの北欧の旅で、アアルトを始めとして素晴らしい建築群に触れ、存分な感動を味わってきた。北欧の厳しい気候だからこそなのか、太陽や緑に包まれたわずかな時間を崇拝し大切にする気持ち、そして建築家それぞれの生み出す美しい形が、まるで暖かなコーヒーにふうっと溶け込んでいくミルクのように、無理なく自然に融合している様は、彼らの建築の素晴らしさと共に、大地、地球の尊さを再認識させられるような力を持っていた。

これから訪れる場所は、墓地。そう墓地である。
人間が、かならず行き着く所。死。
死んだ人間が大地に戻り、永遠の眠りにつく場所。残されたものたちが、逝ってしまった人を思い出しにやってくるところ。
森の墓地ランドスケープ(老女)墓地なので、わたしたち観光客がのこのこ見に行っていいのかしら?という気持ちを抱えつつ、入り口に向かう。世界遺産であると言っても、観光客がぞろぞろと見にくる訳ではなかった。
多分数組ちらほらと来ていた程度だったと思う。
私達の前を、墓参りに来たと思われる老女が二人、長くゆるい上り坂の道を歩いて行く。

鮮やかなグリーンに染まる芝生が広がるその雄大なランドスケープ。石の十字架がだんだん大きくなっていく。アスプルンドは当初、この十字架は建てたくなかったという事だけれど、この十字架が美しいランドスケープをシンボリックに引き締めているのも事実で、あったほうが良いという気持ちも、あまりシンボリックにしたくない気持ちも両方分かって複雑ではある。

丘の道を登り切ったあたりに、火葬場と礼拝堂のある建物がある。今日は日本で言うところの法事が行われているようで、黒い服に身を包んだ人たちが車でやってくる。
その建物を通り越し、しばらく行くと右手にブロック分けされた墓地が広がる。
おおっぴらに墓が見えないように、背の高い松の木がそっと墓石の群れを隠すように並んでいる。その松の木を抜けると、木々の間に点々と墓石が並んで立っているのが見えた。
その光景を目の当たりにした私達は同時に、こいうところで永遠の眠りにつきたいと発作的に思ってしまった。
アスプルンドがつくった死者たちの永眠の地は、あまりにも美しく、厳かで、自然への回帰という生き物すべてが繰り返すとてもシンプルなサイクルの中の、個々の終点の場所として完璧であり、死への恐怖や別離の悲しみをやさしく和らげ浄化させてくれる最高なところだった。

森の墓地


左手にはこんもりとした林の中に小さな低い石の門が見えてくる。
その小さな門をくぐり、小道を進むとそこに小さな森の教会が見えてくる。
モダンとはまだ言えぬ、ほんとにほんとに小さな、黒い屋根に白い柱、屋根に付けられた天使のレリーフが印象的な(レリーフはレプリカが付いている。念のため)教会。
不思議な作りでもあるこの教会。中でも黒いアールヌーボースタイルの鉄扉が印象的である。
鍵穴はドクロの形をしている。(トップ写真)鍵はしまっているが、扉の小さな窓から、レース模様のような美しい黒い鉄扉が見え、その奥に小さな礼拝堂が見える。

ヴィジターセンター私達は中も見せてもらえるかもしれないと思い、さらにその奥にあるビジターセンターに向かう。
ビジターセンターが営業している日をわざわざ選んで今日訪れたのはそのため。
森の小人が住んでいそうな三角屋根のかわいらしい建物。これもアスプルンド設計のビジターセンター。
中は小さな博物館もあり、多分本物の天使のリリーフもそこで見る事ができる。
お世辞にもおいしそうとは思えないケーキとキッシュが2〜3種類と、缶ジュースの売っているカフェコーナーで、コーラを買い、そこにいたおばさんスタッフに、「火葬場や森の教会の中は見せてもらえないの?」と聞いてみた。
火葬場は、セレモニーがあるので見せられないけれど、森の教会は見せてあげるわよ。という返事。
やった!
じゃあ15分後に森の教会でね。と約束し、私達はそのさらに奥のもう一つの教会を見てから、森の教会へバック。
ほぼ時間通りに、さっきのおばさんがやってきて、鍵を開けてくれた。
親切にも、セレモニーや礼拝が行われる時のように、壁に取り付けられた燭台20本あまりにろうそくを立ててくれた。
もうあまり使われてないのかなと思わせる、古びた祭壇、小さなパイプオルガン。丸いドーム状の天井は、やはり光りが差し込むように窓になっている。
ギリシャ風の装飾のついた柱は、なんとトロンプルイユ!?騙し絵?
柱の装飾は絵の具で描かれたものだった!
その遊び心なのか手抜きなのかわからないゆるさが興味深かった。
たくさん写真を撮らせてもらったけれど、どうにもこうにも太陽の光が強すぎて反射するわ、はたまた暗くてピンボケするわで、なかなか良い写真が取れなくて残念。
すばらしい写真は、アスプルンドの日本語サイトでも見られますので参考までに。

森の教会外観

森の教会小窓から覗く

森の教会中から外

森の墓地うろこ


森の墓地 時計3〜4時間はいただろうか。ここに。
私達は写真も沢山撮ったが、写真に夢中になって実際の目で見るのがおろそかになるのも勿体ない。だからゆっくり時間をかけて一つ一つの場所を丁寧に見て行った。
パートナーが建物の裏側も見てくると言ってしばらく帰ってこない間、私はベンチに座り、この美しいランドスケープを脳裏にたっぷりと焼き付けた。

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