REAL

~Experimental Blues Incorporated~

April.7.'11 @Wilko Johnson Band@Quattro,Shibuya

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またもギリッギリのギリまで時間の都合がつくかわからず、二日前にようやくチケットを入手し、英国か?といわれんばっかりにパブロックだらけのiPodを聴きながら、久々にライヴで、渋谷へ!Quattroの時は、いつも開場待ちのお客さんの列がぎっしりと並んでるのを目にしてたが、今回は、開演前に、映画のダイジェストを一時間上映するためか、静かなものだった。すんなりと会場入りして、会場の中をブラブラしてる間に、満員!早々とドリンクカウンターに並ぶのを諦めた。ステージ右手に控えめなスクリーンがセッティングしてあって、開演してすぐ、場内が暗転し、"Oil City Confidencial"がスタートする。バンド結成当時から成功をつかむまでの凝縮版だったが、字幕があるってやはり素晴らしい。イギリスのモンティパイソン風な狂言回しで進んでいく映画の凝った作りがよくわかった。労作だなぁと改めて感心したところで、渋めで、なぜかジャジーでスインギーなナンバーのBGMが唐突にカットアウトされて、ウィルコ、ノーマン、ディラン(dr)が、バッとステージに現れて、プラグインして、ステージを爆発的に始めた!、、があまりに突然だったので、お客さんも、わりと最初は様子をうかがう感じで、ウィルコの動きでワーッとなるものの、静観しているように見えた。バンドもその雰囲気を察して、どことなくギクシャクしていたが、"Snakin Suspition"、"Roxette"等のフィールグッドクラシックスをポイントでグッと気を入れて演奏すると、少しずつ、ノリを取り戻していった。"Don't Let Your Daddy Know"とか、おなじみのナンバーもやるんだけど、やっぱりステージでの、ウィルコや、ノーマンの動きを気がつくと目で追ってしまっていた。今回はあまり前に行かず、PA席の脇の段差があるところで観ていたのでステージ全体がよく観られて正解だった。"Paradise"とか渋いナンバーもやったりしたんだけど、"Oil City~"を観た直後ということもあってか、やっぱり初期のフィールグッズのナンバーで 客席がどっと沸いた。しかし、ヨーロッパをライヴツアーで叩き上げているだけあって、グルーヴが絶対に途切れないんだ。ノーマンのベースも途中からギター弾いてるみたいになってたし(爆笑)ウィルコも、毎回観るたび想うけど、指弾きであれだけ粒がそろったフレーズを弾き続けられるのは、やっぱもの凄い!って感動すらした。セッティングも本当にシンプルだし、曲そのものだって、飛び道具がある訳でもないし、火を吹く訳でもないしさ(苦笑)、あんなに隙間があって なんであんなに恰好良く響いてくるんだろうって想った。メンバー紹介では、リズム隊の音楽性が広い事を伺わせるファンキーでジャジーなビートも聴かせてくれて、面白かったな!ノーマンの顔芸も 相変わらず壮絶だったし(爆笑)一時間強やったぐらいで短いけど、心に残る、日本へのひとことをウィルコが告げて、"Back In The Night~She Does It Right"で、爆発的に本編を締めくくった!これまた退場から一分もしないうちに、ステージに出て来て、"Bye Bye Johnny"を客席にシンガロングさせたりしながら、締めくくり終演!途中客席のライトが点いたら、皆、みごとにノッてた!さすがのひとときだったな!この日は会場入りする迄も、つまらないことで、気分が上がったり下がったりと、喜怒哀楽入り交じった一日だったんだけど、そんなものは、全部吹っ飛んだよ!観に行って良かった!!


1) All Right
2)Cairo Blues
3)Dr.Dupree
4)The More I Give
5)Sneaking Suspition
6)Everybody's Carrying A Gun
7)When I'm Gone
8)Roxette
9)Twenty Yards Behind
10)Paradise
11)Don't Let Your Daddy Know
12)Back In The Night
13)She Does It Right

ソースURL:
http://ro69.jp/blog/rockinon/49699

March.22.'11 Lew Lewis Band@The Garden,Shimokitazawa

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 ギリギリ迄仕事に忙殺されつつもなんとか脱出。会社から下北沢The Gardenまで、音速で向かう。下北は久々で雨が辛うじて止んでる頃で良かった。
時間的には1、2曲しくじるかもしれないけど、なんてったって、Lew Lewisなのだ!恐らく最初で最後になるかもしれないな、と感じながら直前まで、猛烈に行くか、行かないかで迷い、悩んだ。昨日の対バンのEddieさんのブログで、突然の出順変更が、日本の現在の交通事情と、あくまで観客が色んな場所から色んな想いで集まってくるのに、肝心の本人を観れないで帰るという事だけは回避したいという、意図なんだということを理解して、行く事を決断した。

 まぁ、マジでパブにフラリと立ち寄る感覚で地下のフロアに行ったら、スタッフが、蒼白な俺の表情を察して、2曲目!と教えてくれた。良かった。とにかく、日曜まで、全くと行っていい程、今回のバンドに関することとか、18日、19日のギグについて、情報がとれなかったんだが、ドアを開けた瞬間、あのハープの音が飛び込んで来た!フロントにルーが、強盗的なサングラスと黒のジャケットと帽子で、マイクとハープを鷲づかみにしていた。ステージ向かって右隣にはスパーコが、ロンドンマフィアを髣髴とさせる出で立ちで、でかいベースを抱えて立ってた!ギターとドラムはシャーラタンズだし、
それでも、数曲、演奏が終わる迄、気が気じゃなかった。

 たまに"Hi!"と"はぃ"の中間ぐらいのニュアンスで、曲間にルーが短く合いの手を入れる。喋りはギターの人が本当にステージの進行を補うような感じで、二言三言挟んだりとかするぐらいで、ひたすらレパートリーをどんどん演奏していく。既に来ていた友達に後から訊いたら1曲目は"Lucky Seven"だったそうで、日本の今回の地震の被災者に対して、開演前に黙祷までしたそうだ。2曲目の間に、モードがようやく切り替わって、想ってたより狭いけどいい感じのステージの周囲をウロチョロしながらベストポジションを模索して落ち着くべき場所をみつけた。とにかく何の変哲もないロッキンブルーズに他ならないんだけど、ギターのウォーレンのリフはシャープだし、音も無駄がない。初めて観る事ができたスパーコのベースも、全く問題なく、ドラムの人がほんっとうに愉しそうな表情で、演奏しながらニヤリとするのが印象的だった。

 ルーも、白髪になってるけど、チンピラ然とした佇まいは、凄まじく恰好よく、歌も適度に荒れてて、かえってらしく聴こえた。こういうバンドは一分の隙もない演奏をされると逆につまらないし、かといってあまりにボロボロでも嫌だなぁと想っていたのだが いい意味で杞憂に終わって嬉しかった!終演後にもらったセットリストは結構テキトー(苦笑)だったけど、"Watch Yourself"とか、1stに入ってる必殺曲はほとんどやったし、やるかもしれないな、と想ってたフィールグッドのナンバーも"Going Back Home"をやったし、"Down at the Doctor"を何故か"Down To The Doctor"と唄ってたし!お客さんもいわゆるモッシュを起こすような派手な動きは若干1名を除いてなかったけど、曲間に挟み込む声援も、スマートで気が利いてたし、本当にルーの音楽を聴きたくて、ルーを観たくて来てるんだなぁというのが伝わってきて、嬉しかった!

 とにかくハープで喋るような感覚でステージで叩き上げたんだなっていうのが伝わる強烈なブルースハープの演奏のなかに、幾人ものブルースマンの影が見え隠れしてた。一時間強、二時間弱の時間のなかで、できることを目一杯やってくれた。アンコールも二度あったし、"日本でやれて嬉しい"とか"Fantastic!"とかいって嬉しいのが如実に伝わる台詞を連発してた。この日は公私を問わず、色んな事がありすぎたんだけど、思い切って決断して観に来て良かった!終演後は短い時間だったけど友人と凝縮呑みして、帰路についた。さいこう!
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"月と専制君主"に寄せて

 最初は、30周年企画のひとつだと想って、気に留めてなかったのだが、オフィシャルWebでのCMやら、雑誌でのロングインタビューを読むうちに、近年にないほどプロモーションに力が入っていたので、久方ぶりに"No Damage" ~"Grass"からの惑星直列的な、佐野元春自身による、充実したコンピレーションが 仕上がってくる気がしていた。

 ようやく、音源を全部聴き、、予感は当たっていた。
昔、佐野元春のライヴを よく観に行っていたとき、愉しみだったのは、レコードで聴ける曲がアレンジをガラッと替えて披露されることだった。一旦レコードとして定着したものを、ライヴの現場でぶち壊して、改めてアレンジし直す、と言葉の上では簡単だが、いざとなると、歌詞も、メロディも、曲の構造も、全てが時の検証にかけられることになり、それに耐えられない事が多々ある。そうそう、ここまでのアレンジの変更をするぐらいなら、そのまま歌詞を新たに書き下ろして、ニューアルバムとして出してしまえばいいのに、とさえ想っていた。

 アルバムでは印象の薄いナンバーが、驚くほど、強烈なメッセージを内包してることに気付いたり、バラッドの歌詞の一節に含まれるダブルミーニングに気がついたりして、どれだけ以前に書かれた曲でも、ライヴの中でしっかりと機能して、なおかつ音楽的に古びない形に仕上げてくる佐野元春とバンドの力量は尋常ではない、と、ある意味、畏敬の念すら感じていた事を想い出した。声量と、演奏のスピードこそ年相応にシフトした感があるが、音楽的ポテンシャルは、全く揺らいでいない。これは凄い事だ。

 時々 英語だった歌詞が、日本語に差し替えられていたりとか、発売された当時には、コンテンポラリーなアレンジが施されていた楽曲を解放して、その曲本来の輝きを取り戻しているものもあるし、あらためて、オリジナルアルバムを引っぱりだして聴き比べさせるだけの、今、発表当時より強烈に響くメッセージ性が露にされた曲もあった。"日曜の朝の憂鬱"が 時代がちょっとずれて、"Cafe Bohemia"に収録されていたら、、とか、まさに、去年から今年にかけて、個人的に、改めて強烈に心に引っかかって来たモータウンサウンドを全面的にアレンジに取り入れたナンバーがあったりとか、内容について書き始めると、本当に枚挙に暇がない。

 自身のラジオ番組によれば、今年ツアーが終わってから、ニューアルバムの制作に入る、とのことで、また、一曲も聴いていないうちから、久々に、スタートして、やっと一ヶ月足らずのディケイドを直撃するような、"傑作"が産まれる予感が強力に 脳裏をよぎったことを報告して、本アルバムを聴きながら、愉しみに待っていたい。というか、アルバムのアウトテイク、全部発表してほしい!いつの日か。

"Ladies & Gentlemen,THE ROLLING STONES!"

The+Rolling+Stones

遅ればせながら"Ladies & Gentlemen"の完全版を観る事が出来た。
無論、何度となく、海賊版で目にして来た映像なわけだけど、
"Exile On Main Street"のリマスター再発と、"Stones In Exile"の公開、の大ラスを締めくくる、2010年に突如始まった、ストーンズ自身による72年回顧の決定版がこれだ!始まってから、エンドロールが流れる迄、見事な迄に、まとまっている。通常、どんな好きなバンドのライヴ映像でも、カメラのカット割りが工夫されてたりとか、楽屋風景や、インタビューが挟み込まれたりしないと、どうしたって長時間観るには、ダレてしまいがちだ。でも、これは約一時間半、びっしりと、72年のストーンズのありのままが、真空パックで記録されているし、観終わった後に、"あと数曲あれば"、という、飢餓感が残る、ところが見事だと想う。

見所は、、、って書き出したら、見所だらけ、、や、むしろ見所しかない!もう、"Dead Flowers"でミックとキースがワンマイクでサビをガナるところとか、ミックがキースのマイクを奪わんばかりに、"Happy"を半分唄うところとか、"Love In Vain"と"Sweet Virginia"で、丁寧かつ流麗なソロを弾きまくるミックテイラーとか!メンバー紹介から本編ラストの"Bye Bye Johnny"へ なだれこむ、目が覚めるような瞬間とか!そして"新曲"として披露される"Exile On Main Street"のナンバーに引きずられるように、何曲かの定番のナンバーまで、"Exile~"アルバムに収録されたとすればさもありなん、的な BPMが上がった、ロッキンブルーズに変貌してるし!それを唄うのが、もう現役感でギラギラしているミックジャガーで、って、無敵じゃん?って話だ。もう、キースの髪型も、すきっ歯も許すさ!同じ事を今、渋谷AXで披露してくれたら、何があろうと観に行きますよ。えぇ。

ミックも2010年のインタヴューで語ってたが、とにかく元の映像が照明が暗くて。カメラの台数も少なく、昨今の"SHINE A LIGHT"に比べたら、本当に限られた撮影環境なのにも関わらず、ディレクターの"観客目線"がブレてないので、さほど見所を落としている、とは感じられなかった。惜しむらくは ニッキーホプキンスや、ジムプライス、ボビーキースを擁する、ホーンセクションのバックアップが素晴らしいナンバーが、幾つもあるのに本当にチラリとしか映らないところか。

 そして、何故、ストーンズが'09年に"Get Ya-Ya-Ya's Out"のデラックスエディションを皮切りに、本作迄、突如、自分たちの過去を振り返ったのだろう?と想う訳で。それまで、いくらベスト盤が出たりしても、いわゆる、未発表音源を まとめて出すようなスタイルのリィシューは 頑に、というか、実に慎重に回避していたはずなのに。次のツアーでは、2部構成で、今迄のアルバムの人気曲を 一日毎に替えて演奏するとか、目眩がしそうな噂も飛び交う中、最近のインタビューで、"もう先の見通しが立たない年齢になった"という発言があったが、大規模に世界を廻る最後のツアーになるかもしれないからだ、と個人的には想っている。密かに、2011年からの活動に、ミックも、キースも、チャーリーも、ロンも、期するものがあるのではないか。でなければ、わざわざ、改めてオリンピックスタジオを訪問したりとか、改めて取材を受けたり、ドキュメンタリーを作成したりは、しないはずだ。当時、ジミーミラーの手を借りなければ出来なかったことを、今の力量で、2010年代に鳴らすにはどうするか、ということを見据えて、客観的に自分たちの最良の魅力というものを再検証して、次のオリジナルアルバムとツアーに、全て、ぶち込むつもりなのではないか、、、と考えてみる。奇しくも2012年はストーンズのデビュー50年目の区切りの年でもあるわけだし。月並みな表現だが、受ける側としても、次のストーンズの活動を、心して、受け止めたい!

"The Promise~Darkness On The Edge Of Town Story"を聴いて

up-8bruce
















ようやく、万難を排して、ブルース・スプリングスティーンの
"The Promise~Darkness On The Edge Of Town Story"の、音源を聴き、映像を全て観た。

 普段は、既存のアルバムの再発で、ボーナストラックに未発表曲や、デモを蔵出しするのは、個人的に好きじゃない。本当にアルバム本編を聴き込んだコアファンでないと、入り辛いと想うし、バンドがコンセプトを考え、曲順を絞り、足りない曲をまとめ、といった作業を経て、アルバムを完成させてリリースする意味がなくなってしまうのでは?と想うからだ。それだったら、ラジオやテレビで、オンエアされたライヴ音源の方が、まだましに想える。ライヴは少なくともその日の観客にむけて公開されているからだ。

 "闇に吠える街"は、一番最初に本編を通して聴いた時は、バラッドがどれも素晴らしくよく出来ているのだけど、いわゆるロックナンバーのサウンドがイカしてない。印象が強かったのを覚えている。既に出ていた"The Live75-85"に収録されていたライヴテイクをアルバム曲順に並べて、ライヴテイクが無い箇所は"Because The Night"と"Fire"を代わりに入れたカセットを作って聴いていたぐらいだ。

 アルバムのテーマそのものについても、まさに、ハンクウィリアムスを筆頭に、カントリーのシンガー達が かつて唄っていた、"大人の問題”をテーマにした、サウンドトラック、というか、聴きながら、詩の風景を聴き手に喚起させる音だ。それに反したテーマや、サウンドを持った楽曲は、どんなにヒット性があったとしても、全て振り落とされたわけで。”Born To Run"の時も、アルバム収録曲の歌詞と、音楽の繋がりが重視されていたが、それを本作では 徹底して 煮詰めた結果の10曲になったことがわかった。個人的にも、2010年の今、現在あらためて聴いてみると、より歌詞の行間というか、テーマの深遠さと その古びなさ加減に驚かされた。

 今回のリィシューは、FMでのライヴ中継音源や、会場スクリーン映写用に撮られた記録用ライヴビデオが膨大にブートとして出回ってることもあってどんなものになるのか、期待半分、不安半分だった。それだけにプレスリリースの本編のリマスター、未発表曲集2枚組、当時のライヴ丸ごと1本のDVDとPVや、スタジオでの膨大なリハの記録をまとめたDVD、09年のツアーで演った"アルバムのA-1からB-5まで完全に再現する"ライヴから無観客で撮影されたライヴDVDという概要を知った時は、ぶっとんでしまった。

まずは、一番見慣れているところから入ろう、と考えて、
"Rosalita(Come Out Tonight)"のPVが撮られた78年フェニックスの
ライヴ5曲から観始めた。いくつかの断片は、テレビで放送されたりして目撃していたのだが、酷くフィルムが痛んだ、コンディションの良くない状態の曲もあった。しかし、あらゆる技術を使って補正したのだろう、多少赤っぽい照明で、メンバーの表情が観辛い瞬間もあったが、充分に鑑賞に耐える映像に仕上げられていた。28才のスプリングスティーン!凄い!E-Street Bandの面々も、驚くほど若い。当時はまだ、ギターがマイアミスティーヴとブルースだけということもあり、"Prove It All Night"のイントロでも、下手に触れたら切れそうな勢いのギターを聴かせてくれる。動きも、その場の本能の赴くままに、感情を爆発させている印象。そして、"Rosalita"でも、"Video Anthology"のテイクともまた、違う、いままで観た事のなかったカットが挟み込まれていた。でも、まだこれは驚きの序の口でしかなかった。

続いて、"Darkness On The Edge Of Town"のアルバム本編を聴いた。
これは、インタビュー等で、ブルースも何度も"ライヴで録り直したい"と発言していた通り、待望のリマスターの登場だった。まぁ、それ以前の"The Live"や以後のライヴアルバムでも、ことあるごとに"Darkness~"の収録曲が取り上げられたので、その拘りは半端でないことが伺える。オリジナル盤では、どうしても歌が出過ぎていて、"痩せた”音に聴こえていたロックナンバーが、全体の音圧がグッと上がっていて、E- Street Bandの演奏の根幹が、聴き取りやすくなっている。具体的には、スティーヴとブルースのギターが大きくミックスされ、バンドのバランスも考慮された仕上がり。そして、バラッドは、オリジナル盤でも充分に素晴らしい出来だったのだが、
それを更に増幅するような、ロイビタンとダニーフィデリシのピアノとオルガン、ブルースの声に焦点を合わせたミックスになっている。これまでブルースは過去の作品のリマスターには、今時珍しいほど許可を出さなかった(Greatest Hitsや、Essencialで代表曲のみリマスターはされていた)。まぁ、オリジナル盤は、廃盤にならない限り、この世に存在し続ける訳だし、前述のようにライヴアルバムにも過去のアルバム曲は収録されているが、これだけの成果が出るのならば、1stも2ndも全て やってほしい、と強く感じた。素晴らしいリマスターの成果が表れていると想う。

 "The Making Of Darkness On The Edge Of Town"を観る。
基本、モノクロで、NYCのスタジオで本作をレコーディングするブルースとE Street Band、プロデューサーのジョンランドーや、ジミーアイオヴィン、といった面々の やりとりが観られる訳だ。そう、まだ、ニルスロフグレンも、パティスキャルファも居ない、77年〜78年頃のE-Street Bandのメンバー達。とにかく、アルバムで10曲、その後の"Tracks"や、"Essenncial"で、10数曲、アウトテイクを蔵出ししてきて、更に21曲!今回発表する、というのだから恐れ入ってしまう。ドキュメントでは膨大な時間を費やして、丸一年、レコーディングして、曲のアレンジを決め、歌詞のフレーズの細部を検討し、、ということを積み重ねて、アルバムに辿り着いた様子が 見事に語られている。というかよくぞ この映像を撮って、残していた、と激賞されるべきだろう。そして、これをまとめあげたThom Jimnyの手腕に、脱帽だ。印象的なのは、ドラムサウンドを試行錯誤するブルースに、実に従順に いわれたことをやるマックスの姿や、前作同様、クラレンスに 口伝えで"The Promised Land"のサックスのフレーズのアイデアを伝えるブルース、作業終了寸前に まだ、アイデアノートを開くブルースを、ジョンランドーがたしなめる場面だ。ちなみに、このアイデアノートを再現した装丁は、個人的に今迄自分が観たリィシューものの装丁で一番と断言できる。Rolling Stone誌のブルースの本作を語ったインタビューによれば、レコード会社が先走ってBoxに複製をいれちゃった、という、くだりには思わずウケてしまったが。

 そして、オフィシャルブートレグ、とでもいうべき、Thrill Hill Vaultの前半7曲。いわゆる、レコーディング時のリハでの映像が集められている。これは このドキュメントと合わせてみるべきだと想った。"Candy's Room"の原型になった"Candy's Boy"や、デモ、"Tracks"に収録され、タイトル曲ができるまでアルバムの最後に収録されるはずだった"Don't look Back"の、スタジオライヴ、とでもいうべき映像が見物。


 "The Promise"の二枚組を聴く。なんといっても最大の驚きは
CD-1の1曲目の"Racing In The Street"のフォークロックヴァージョン
とでもいうべき別テイクだろう。これはこれで、ありだな、
という出色の出来になっている。
そして、名前だけは訊いていたが、聴けずにいた、"Outside Looking in"やCD-2の隠れトラックとして収録されている"The Way"も 聴きものだ。このドキュメントで演奏されているのは、もう、観ながらこちらも思わずニヤリと笑みを浮かべてしまいそうになる、快活で、かつ明快な楽曲が多い。そう、"The River"を50~60年代のポップソングや、ゲイリー.US.ボンズ( ブルースがよくカバーする"Quarter To Three"を唄ったオリジナルシンガー)的なパーティーサウンド、や、ブラスが強力に響く硬派めなR&Bサウンドをモチーフにもう一組つくってみた、という印象。数曲は、わざわざ、ブルースが手を加えて、ヴォーカルトラックを差し替えたり、新たにE-Street Bandと再レコーディングまでした形跡が伺える。

いくつかの個人的なハイライト曲のなかで、一番だったのは、やはり"The Promise"だ。メロディが"Racing In TheStreet"に酷似しているパートがあったりとか、歌詞にズバリ"Thunder Road"とあったりして、前作の世界との繋がりを想起させるが、アルバムのテーマにそぐわなかったために外されたのかと想っていた。"18Tracks"でも再レコーディングして、今回もいくつかの追加レコーディングをしてまで世に出そうとしてるのだから、決して曲そのもののクオリティが低かったとは想えない。他にも、当時他人に提供した"Because The Night"や、"Fire"、"Randevoue"のスタジオテイク、"Talk To Me"のオリジナルヴァージョンがついに発表されている。特に"Because The Night"は、曲と、歌詞が途中まであったものに、パティスミスが後の夫のフレッドからの電話を待っている間に自分のヴァージョンを書き上げたというロマンティックな秘話をメイキングの映像の中で、パティ自身が披露している。後者は、サウスサイドジョニーのヴァージョンが、彼の3rdアルバムで、聴けたのだが、おそらく当時シングルで出ていたら、大ヒットしたであろうキャッチーなナンバー。他の収録曲群の中には、若干当時のブルースの声と、今のブルースの声が混在して、違和感を感じる曲も なきにしもあらずだが、当時の未発表を叩き台にして、2枚組の新作を創ったといってもいいぐらいの磨き上げられ方になっている。逆に言うと、ブルースが リリースから32年たっても古びず、ライヴで披露しても揺るがない普遍的なものを、アルバムのコンセプトとして当時から見据えていたのが より明確になると想う。

 そしてとうとう、真打ちとでもいうべき、78年ヒューストンでの
"闇に吠える街"ツアーのフルライヴの映像が登場!会場のスクリーン向けに撮られていた映像、との触れ込みだったが、想像以上に素晴らしい出来だ。その証拠に カメラのアングルや、場面の切り替えなど、後年の"Born In The USA"ツアーのプロショット映像に酷似したものが既に6年前に試みられ、見事に成功しているからだ。詳細はわからないが、ひょっとしたら、この映像を撮ったスタッフに依頼したのかもしれないが。オープニングの会場の雰囲気を全身で受け止めながら、一曲ごとに、自分の持ってるものを 歌とギターで、爆発的に表現するブルースと、それを受け止めてがっちりとバッキングする、E-Street Band。あえて、曲目リストやら、当時のライヴのレポなど、前情報を全てシャットアウトして観たのだが、本当に、自分が78年のヒューストンでライヴを体験しているような感覚に襲われた。"闇に吠える街"からの曲は勿論、後に"The River"に収録されることになるナンバーも、「新曲」として惜しげもなく披露するし、1stの、壮絶に恰好よくアレンジされた"都会で聖者になるのは大変だ"や、"The Fever"や"Fire"、"Because The Night"もやり、必殺の"Born To Run"からの曲もキメて、とどめに、ミッチライダーの"デトロイトメドレー"と、とどめのアンコールナンバーまで、余すところ無く、完璧に収録されている。暗転して、画像が途切れたところも、静止画像を使って巧妙に処理しているし、サウンドは、ボブクリアマウンテンがリミックスして、もう、文句のつけどころがない、出来になっている。初めて本格的にスプリングスティーンを観る、という人は、このライヴから入るのがいいとすら、想った。前作の"Born To Run"ツアーでの手探りな感じが、ライヴツアーを重ねる中で解消され、見事な迄にバンドの音として結実している。

 クライマックスともいえる、大ラスは、2009年のアズベリーパークでの"Darkness On The Edge Of Town"のアルバム全曲演奏ライヴだ。これは、あえて、無観客のライヴ演奏を撮ったと訊いていたが結論からいうと、これが大きな成果をあげていて、なおかつ、78年のライヴを凌駕する、何か、壮絶なものが ここにある10曲の中に内包されているのが感じ取れる出来になっている。まったく誰にも想像できないし、考えられない。32年前にレコーディングされたアルバムの全曲をライヴで、ほぼ同じメンバーで再現して、アルバム、もしくは当時を超える演奏を2009年に届ける事ができるなんて!そう、さながら、一本の長い映画や演劇を見るような感覚で、時間を忘れる程その作品世界に没頭してしまった。強烈な興奮に感性をこじ開けられて、入り込んで来た詩の世界に、いつのまにか、自分の問題を投影させてしまう。これなんだ!俺がブルースに惹かれる一番の理由は!今迄も、そして、これからも!














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