最初は、30周年企画のひとつだと想って、気に留めてなかったのだが、オフィシャルWebでのCMやら、雑誌でのロングインタビューを読むうちに、近年にないほどプロモーションに力が入っていたので、久方ぶりに"No Damage" ~"Grass"からの惑星直列的な、佐野元春自身による、充実したコンピレーションが 仕上がってくる気がしていた。

 ようやく、音源を全部聴き、、予感は当たっていた。
昔、佐野元春のライヴを よく観に行っていたとき、愉しみだったのは、レコードで聴ける曲がアレンジをガラッと替えて披露されることだった。一旦レコードとして定着したものを、ライヴの現場でぶち壊して、改めてアレンジし直す、と言葉の上では簡単だが、いざとなると、歌詞も、メロディも、曲の構造も、全てが時の検証にかけられることになり、それに耐えられない事が多々ある。そうそう、ここまでのアレンジの変更をするぐらいなら、そのまま歌詞を新たに書き下ろして、ニューアルバムとして出してしまえばいいのに、とさえ想っていた。

 アルバムでは印象の薄いナンバーが、驚くほど、強烈なメッセージを内包してることに気付いたり、バラッドの歌詞の一節に含まれるダブルミーニングに気がついたりして、どれだけ以前に書かれた曲でも、ライヴの中でしっかりと機能して、なおかつ音楽的に古びない形に仕上げてくる佐野元春とバンドの力量は尋常ではない、と、ある意味、畏敬の念すら感じていた事を想い出した。声量と、演奏のスピードこそ年相応にシフトした感があるが、音楽的ポテンシャルは、全く揺らいでいない。これは凄い事だ。

 時々 英語だった歌詞が、日本語に差し替えられていたりとか、発売された当時には、コンテンポラリーなアレンジが施されていた楽曲を解放して、その曲本来の輝きを取り戻しているものもあるし、あらためて、オリジナルアルバムを引っぱりだして聴き比べさせるだけの、今、発表当時より強烈に響くメッセージ性が露にされた曲もあった。"日曜の朝の憂鬱"が 時代がちょっとずれて、"Cafe Bohemia"に収録されていたら、、とか、まさに、去年から今年にかけて、個人的に、改めて強烈に心に引っかかって来たモータウンサウンドを全面的にアレンジに取り入れたナンバーがあったりとか、内容について書き始めると、本当に枚挙に暇がない。

 自身のラジオ番組によれば、今年ツアーが終わってから、ニューアルバムの制作に入る、とのことで、また、一曲も聴いていないうちから、久々に、スタートして、やっと一ヶ月足らずのディケイドを直撃するような、"傑作"が産まれる予感が強力に 脳裏をよぎったことを報告して、本アルバムを聴きながら、愉しみに待っていたい。というか、アルバムのアウトテイク、全部発表してほしい!いつの日か。