エーゲカイ!

趣味で物書きをやってます。 見切り発車ですが、完結目指して頑張ります。 読んでいただければこれに優る喜びはありません。

どうも初めまして、著者の雪早拓真と申します。

これは大学生になったばかりの女の子と奇妙なサークルのメンバーが奮闘?する物語です。

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http://blog.livedoor.jp/bluecrowd63-novel/archives/cat_87067.html

 つつがなく入学式は終わった。
 始まった大学生としての生活はとても新鮮で、高校までとは全然違う環境に戸惑うことも多かった。
 科目登録はその内の一つ。単位制限内で、おまけに卒業するために必須の教科を含めて数ある講義の中から選ぶのにはとても悩まされた。
 そして二週間が経ち、こんどはサークルはどれに入ろうかと頭を悩ませていたある日。オリエンテーションも終わり、講義も始まってやっと大学にも慣れてきたかなって思っていた時だった。
 ――どうしてこうなった……。
 私は今、窓をカーテンで閉め切られ、光の全く入らない部屋に閉じ込められています。それも変な人達に囲まれて。
「メディア文化コミュニケーション研究会の部室へようこそ!」
 そう言って、両手を広げているのは3年の御手洗裕仁さん。このサークルの会長らしい。
「そんなに怯えなくていいから」 
 こっちを見ずに――その視線は手元の文庫本に落とされている――優しい声をかけてくれるのは2年の桂川美咲さん。服の上からでもはっきりとわかるくらい大きい。何が大きいかは想像におまかせします。
「とりあえず、茶でも飲みたまえ」
 御手洗さんはその豊かな見た目からは想像もつかない機敏な動きで、手際よくお茶を用意してくれる。 私はそれを訝りながらも、何か入れているようには見えなかったのでいただくことにした。一口飲むとカラカラになっていた喉が潤される。
 カップを傾けながら、窓際を盗み見る。そこには眼鏡をかけてヒョロっとした体型の人がパイプ椅子に腰掛け、分厚い漫画雑誌を読んでいる。さっきの会長の説明によると、彼は3年の我妻広信さん。漫画雑誌を読んでいるなんて不真面目だと思うかもしれないが、この部屋の有様を見たら百人中百人の人がそう思わなくなることであろう。何せこの部屋は――。
「何でフィギュアや漫画ばっかりなんですか!」
「あ、喋った」
 初めて桂川さんがこっちを見て、やっぱり改めて前から見ると凄い美人さんだと思ったがそれは今関係ない。
「学校公認のサークルですよね? これって許されるんですか!?」
「まぁまぁ、そう声を荒げるでないよ。それにフィギュアや漫画ばっかりではない。ゲームやアニメのブルーレイ、ラノベに抱き枕もある」
 御手洗さんが開いた押し入れの中には裸の女の人のイラストがプリントされた沢山の抱き枕が「きゃああああ! セクハラ!」
「あべしっ!」
  何だ何だ何なんだこの部屋は!? さっきまではいきなり閉じ込められた衝撃で余裕がなかったが、落ち着いて見回してみるとそのヤバさに圧倒される。壁は一面ポスターで覆われ、四方から視線を感じるし、本棚に詰められているのは漫画ばっかりだ。しかもその漫画も、健全かどうか怪しいタイトルのものが多く混ざっている。
「君、いきなり叩くなんて酷いじゃないか。私がMじゃなかったらどうしたんだね?」
 「どうもしませんし! あんな物見せるなんて……私、未成年ですよ!」
「あ、そこなんだ」 
「桂川さんは黙っていてください!」
「はぁい」
 桂川さんの視線は再び文庫本へ向けられる。私は逸れた話題を元に戻す。
「どうなっているんですか? 完全に趣味丸出しの部屋に成り下がっているじゃないですか! このサークル、一体全体何をやっているんですか!?」
「ご覧の通り、フィギュアを愛でたりゲームをしたりしている」
「遊んでばっかりじゃないですか!」
「失敬な。議論や討論だってしているぞ」
「え!? 一体何のですか?」
 驚いた。こんな御手洗さんの趣味(私の偏見)丸出しの部屋で、一体どのような討論が行われているというのか……。
「漫画やアニメの内容やキャラクター愛について」
「やっぱりかい!」
 少しでもまともなことを話し合っているんじゃないかって考えた私が馬鹿だった。そりゃそうだよね。部屋がこんなだもの。やっぱり、このサークルは見た目通りのことしかやっていないんだ。
「どうどう。少し落ち着きたまえよ」
「ふーっ! ふーっ!」
「ふぅー」
「ひゃぁ――!?」
「あら、可愛い声」
 いつの間にか耳元には桂川さんの顔があって、驚きのあまり椅子ごとひっくり返りそうになった。
「いいいいいいきなり何するんですか!?」
「少しは落ち着いた?」
 確かに興奮状態ではなくなったが、変な声を出してしまったせいで顔が熱い。
「すみません。少し我を忘れてしまいました」
 私は両手でぱたぱたと顔を扇いで、少しでも熱を冷まそうとする。
「いいのよ、可愛い声が聞けたから」
 微笑んだ桂川さんの表情にドキッとして、また顔が熱くなってしまった。本当に美人さんだなぁと思うと同時に、一つ疑問が浮かんだ。
「桂川さんはどうしてこのサークルに入っているんですか?」
 ミスコンとかあったら間違いなく優勝できるであろうルックスの彼女がどうしてこんなサークルに入っているのか?
「あぁ、それはね」
 ――コンコンコン。
 突如響くノックの音の後、扉を開けて入ってきたのは一組の男女だった。
「おーおー。宇佐見君と林原君ではないか」
 御手洗さんが入ってきた二人へ気さくに話しかける。ということは二人共このサークルの会員なのだろう。
 男の人は至って普通。だからだろうか、人当たりのいい人。女の人は小柄で、髪の毛を両サイドで縛っているのが凄く似合っていた。どちらが宇佐見さんで、どちらが林原さんなのだろうか。
「我妻さん、買ってきましたよ」
「サンキュー、宇佐見クン」
 私がここに来てからずっと黙って漫画雑誌を読んでいた我妻さんが初めて顔を上げ、男の人から袋を受けとる。中身は――やっぱり漫画雑誌だった。
 今の様子だと、どうやら男の人が宇佐見さんのようだ。ということは女の人が林原さんか。
「二人とも見ろ、新入部員だ」
「違います」
 堂々と胸を張って私のことを紹介する御手洗さんに誤解のないようしっかり否定する。
「あはは、災難だったね」 
 宇佐見さんはそんな御手洗さんに対する私の態度から状況を察してくれたようだった。やっとこの部屋にまともな人が入ってきてくれた。私は涙が出そうだった。
「会長も毎年の恒例みたいに拉致するの止めてくださいよ」
 宇佐見さんは呆れたという風に肩を竦める。って今、毎年って言った!?
「拉致ではないよ。助けて差し上げたのだ」
 そうだった。すっかり忘れていたが、一応私は御手洗さんに助けられたのだった――。  

 私は自他共に認める地味っ子だ。
 そんな地味な私でも、髪を染めたりオシャレをしてみたいと思ったことは幾度となくある。っていうか、ずっと思っている。
 地味で冴えなくてつまらない。
 そんな言葉を色んな人に投げかけられて今まで生きてきた。
 高校入学の時に思い切って髪の色を変えようと思った。けれど結局できずじまい。 
 ――急に変わるなんて、やっぱり変だし。周りに変にからかわれるの、嫌だな……
 そんなことを考えていたら高校デビューも逃しちゃっていた訳だ。
 周りの子は髪の色を変えたりとか薄く化粧したりとかして。当然、そんな子達の会話に加われない私はその光景を眺めているだけ。何も変われなかった私からすれば、ファッションの話で盛り上がる彼女達はオトナ! って感じだった。
 そのまま、高校を卒業しちゃったけれど、次こそは絶対に変わると決めていた。
 そこできました次のチャンス。しかも、それは今までにない程の大チャンス。
 進学先の大学が実家から離れた都会にあるのだ。しかもその大学に知った子は進学しない。つまり周りの子を気にせず変われるチャンスなのだ。
 友達と離れるのはちょっぴり辛かったけれど、希望の大学に入学することが出来た。そして今日はその入学式だ。
 ピシッとしたスーツに袖を通して、何だか身も引き締まる思い。
 鏡を見て、手櫛でサッと髪を整える。映るのは、今までの私と少し違う私。
 周りの目を気にせず変われるチャンスに、眼鏡をコンタクトに変えることしかできない臆病な私だけれど。 
「少しずつ、変わっていくんだ」
 決意を新たに拳を握る。
 まずはサークルに入ろう。楽しくて、ワイワイ騒いでいるうちに時が過ぎ去ってしまうような、そんなサークルに。
 ――あわよくば恋なんかしちゃって……
「――ッテ私ハ何考エテンダー!」
 そんなの、まずは友達を作ってからでしょうが! これでは捕らぬ狸の何とやらだ。
「あ、ヤバっ」
 時計を見ると、事前に家を出ようと決めていた時間を過ぎていた。
 慌ててこの日のために買ったピカピカのパンプスを履き、立ち上がる。
「おー」
 少し目線が高くなって、それだけで変われた気分になる。ちょっぴりオトナって感じ。
「いってきま……
 途中まで言って、返ってくる声がないことに気付く。
「ダメだダメだ! 郷愁に駆られちゃいかん!」
 一抹の寂しさを振り切るように首をぶんぶん。勢い良く扉を開けると、光の洪水が飛び込んできた。私はそのあまりの眩しさに手でひさしを作る。
 広がるのは実家の周りじゃ見ないような高いマンションやビル。太陽の光がガラスに反射してキラキラ輝いている。その光景がダイヤモンドよりも綺麗に見えたのは慣れないコンタクトレンズのせいなんかじゃないだろう。
「いってきます!」
 今日から大学生。そのキャンパスライフがこれくらい光に溢れているといいな。

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