
やっと春の兆しを感じはじめたイースター(復活祭)の週末。いっせいに木々の緑が芽吹く日はもう明日かあさってか・・・といったところ。イエスキリストの死と復活を祭るクリスチャンでなくたって、生命や自然の“再生”を感じわくわくする季節です。
トロントにいると、カルチャーや教派ごとに、けっこう違った形でイースターが祝われるのをじっさいに見たり聞いたりすることができますが、今年はやはり、地震の神様をまつるイースターに想いが行きます。
数年前のこと、ケンジントンマーケットの近くに住むペルー人のヘスス アンヘロさんという知り合いがいました。(このおじいさんの名、英語読みだとジーザスエンジェル。「ヘーイ、ジーザス」とか「ちょっとはやくしてよジーザス」とかいう会話になるとなんか罰当たりな感じがしましたが・・・しょうがないですね)
このおじいさん宅の台所に、十字架に磔にされた黒い肌のキリスト像が赤い花で飾られ、お神輿のように街中にかつぎだされている写真が貼ってありました。それはペルーのクスコでイースターの週に行われる大イベントということで、どう見てもイエスキリストなのですが、その像は「地震の神様(タイタチャ・テンブロレス Taytacha Temblores)」と呼ばれていました。
インカで古くから信仰のあった地震の神さまが、磔にされたイエス・キリストの姿でクスコの守護神となっているのだそうです。1650年の大地震のときにイエスが十字架にかけられた油絵を教会から運びだしたとたん、激しい揺れがおさまったと伝えられており、その時に、「イエスさまは地震の神様に違いない」ということに。仮の姿というよりは“習合”、イエスさまでもあり地震の神様でもある、というほうが正しいのでしょうか。
このタイタチャ・テンブロレス像はクスコ大聖堂にまつられていますが、毎年、復活の日曜日にさきがけた月曜日に教会から運び出され、街の広場へ向かって行進します。大聖堂は昔はインカの神様に捧げた神殿だったところに建てられており、赤い花で像を飾るのも、アンデス地方の古代の習慣で司祭や指導者のミイラを飾ったのと同じようにしているそうです。像はもともとは、白い肌のイエスキリストでしたが、お祈りにきた人が灯すろうそくで、何百年もの間に黒く煤けたのだとか。
日本とおなじように環太平洋火山帯のうえにのっかったペルー。地震の怖さを身をもって知り、平和が続いても地震のことはぜったいに忘れることはありません。破壊と再生を繰り返してきたアンデスやインカの伝統を受け継ぐひとびとの守り神、それがタイタチャ・テンブロレスです。
「緊急地震警戒速報の音がこわいけどママが作った防災頭巾をかぶっていればちょっと安心」という東京にいるまだ3歳の甥のことを想い、日本の被災地の復活とみんなの元気復活を祈りつつ、「地震の神様」のポストカードをとりだしてみるイースターの朝でした。


