トロントも、汗だくになるような暑い日が長く続き、いつもよりたくさん冷たい飲み物を消費しています。ふだんは冷たいハーブティーや緑茶がさっぱりして好きですが、この夏は新発売のソフトドリンクや健康ドリンクもいろいろ試してみました。

健康食品店のドリンクコーナーや、時々カフェでも見かけるトロピカルな色とかわいいレーベルがついたカラフルでおいしそうなドリンクがあります。ある日、手にとってよく見ると、オーガニックの「Kombucha こんぶちゃ」と書いてあります。

kombu昆布茶のブルーベリー味、マンゴー味、ストロベリー?

そういえばここのところ、カナダ人やアメリカ人の知り合いが「最近コンブチャをよく飲んでいる」とか、「マドンナやリンジー・ローハンなどが愛用しているブランドはXXX」などという話題をちょくちょく耳にします。これがその噂の。

しかし、昆布茶なら、たとえば梅昆布茶をお湯で作ってスープみたいな感じで飲むとけっこうおいしいと思いますが、果物フレーバーの甘い昆布茶っていうのはちょっとキモチワルイではないですか。でも、欧米では緑茶も砂糖やハチミツ入りのほうが売れているし、カナダには炭酸入りマテ茶もあるから、そんなものかなとその日は棚にボトルを戻しておしまい。

それからしばらくしてオーガニックスーパーに行くと、あいかわらずさまざまなブランドのコンブチャが並んでいます。今度は原材料をよく読んでみました。ブラックティー(紅茶)、酢酸、ラクトバチルス、ビタミンB、C・・・。ルイボスティーや緑茶を使用しているものもあります。あれ?ぜんぜん“昆布茶”ではないですね。

Google検索したら、その正体は発酵茶飲料。日本でいう「紅茶キノコ」をソフトドリンク風にアレンジしたものだったんです。

紅茶キノコは私が小学生の頃、日本で大ブームでした。子供だったので自分で買ったり作ったりはしませんでしたが、テレビでもラジオでも雑誌でも、近所のおばちゃんの間でも芸能人の間でも話題になっていたのを覚えています。抗酸化作用があり、高血圧、がん、糖尿病などに、また、整腸効果で代謝がよくなり美容にもよいらしい。

乳酸菌は感染防御や免疫強化、消化吸収を促進させる菌、そして酢酸は体内でクエン酸に変わり血液さらさら効果、代謝の改善、疲労回復、アレルギー性皮膚炎の緩和などによいとされているから、きちんと作ってこういう善玉菌の数が一定量に増えていれば、紅茶キノコ/コンブチャは、健康維持、速い回復力、老化防止などによさそうです。

ホームメイドの紅茶キノコは、バクテリアと酵母でできたゲル状のセルロースの塊と砂糖を紅茶の中に入れて発酵させ作ります。密封して2週間ぐらいおくと、発酵が進み乳酸菌や消化酵素などの入った健康ドリンクができるというわけです。キノコのように見える白っぽいゲル状のものを株分けしあったり買ったりして、どんどん広まっていった。カスピ海ヨーグルトみたいな感じで、でも、もっと社会現象になっていたように思います。講談社の『日本全史ジャパンクロニクル』の1975年のできごとのページをみると「紅茶キノコ流行」と書かれていました。

今、北米ではコンブチャドリンク(=紅茶キノコドリンク)が売れているだけでなく、「コンブチャ講座」なるものが開講されたり、コンブチャキット販売、コンブチャについての本なども出て、かなりの盛り上がり。

アメリカのナチュラルヘルス専門誌に載っていたコンブチャ特集記事の“コンブチャの歴史”によると、「コンブチャ(紅茶キノコ)が使用されたという最も古い記述は紀元前221年、秦時代の中国。不老不死のお茶と呼ばれていました。しかし、コンブチャという名前じたいは、415年の日本からきています。ロシアでも伝統的に日本のキノコを使ったヒーリングのための発酵飲料を飲んでいました。ポーランドやドイツ、デンマークにも広まった後、第二次世界大戦中には一度すたれましたが、戦後のドイツで、ガン、代謝系の病気、糖尿病などに効果があると再び使用されはじめた」そうです。

415年の日本でコンブチャ。情報ソースは載っていませんでしたが。

秦国の皇室や高官のあいだで飲まれていたというのは、まあ驚きません。不老不死の薬や食品を探求するよう始皇帝が命令した時代ですものね。でも、古代日本ではまだお茶を飲む習慣はなかったはずだし、輸入も栽培もされていないはず。昆布のほうは古代から食べたりスープに使ったりしていたそうですが、お茶がまだ入ってきていないなら「昆布茶」という名詞はなかったのでは。ただ、「てん茶」と呼ばれるモンゴルやチベットで飲まれるバター茶が大陸から日本へ持ち帰られて天皇に献上されたという記録があるそうなので、その発酵茶のことを言っているのかもしれません。

バター茶は、固形にしてある半発酵茶をいれ、乳脂肪と塩を少々加え攪拌して作ります。これはトロントでもチベット料理のお店に行くと飲めます。寒いときに飲むとけっこうおいしい。

コンブチャという名称は、ロシア(ソ連)から持ち込まれた紅茶キノコが日本で流行し、70年代後半にロシアに逆輸入、ヨーロッパなどにも広まったというから、その時に紅茶(コウチャ)、と昆布茶(コブチャ)の発音の区別がつかず勘違いされたまま広まったのでしょうか。

紅茶きのこ→コウチャマッシュルーム→コブチャマッシュルーム→コンブチャになったのではないかな?試しに、うちのダンナに「コウチャ」、「コブチャ」という単語を両方教えて次の日に確認してみたら、やっぱり混乱していました(笑)。ちっとも科学的な証拠でありませんが、ちょっと満足。

さて、フルーティーなコンブチャドリンクのほうは、冷たくして飲むとまあまあの味です。80年代前半にヨーロッパに出回っていたものよりずいぶんおいしくなったと聞きました。リンゴ酢ドリンクが飲める人には、わりとおいしいかもしれません。酸味があって甘い。炭酸入りもあります。Elixer of Life やKombucha Wonder、Tonicaブランドなどは、カナダ産のコンブチャドリンクです。