若い方は『赤垣源蔵 徳利の別れ』なんて言っても「知らな〜い」でしょうねえ・・・(ため息)

赤垣源蔵って人は赤穂浪士の一人なんスけど、『忠臣蔵』がどんどん物語化されて演劇だ講談だと膨らんでいくと、本筋の討ち入り以外にそれぞれ各自の外伝的エピソードができていくわけッスな。
こりゃま「マリみて」でも短編集が出たりするのと同じわけでして。
あ、二次創作があるのかどうかは知らないッスよ(笑)

で、そんなエピソードの中の一つが『赤垣源蔵 徳利の別れ』ッス。

討ち入りを決めた同志は、首領大石内蔵助が幕府や吉良家の目をくらませるべく、祇園の盛り場でどんちゃん騒ぎに明け暮れたり、いろいろ偽装工作に腐心するわけですが、赤垣源蔵もお兄さんの家でゴロゴロと酒を飲んでいるばかり。
当然、やれだらしのないヘタレよと疎まれて、その家も飛び出て長屋で一人暮らしをはじめ、見事に周囲の人々に討ち入りの意図を隠しとおすんですな。

しかし討ち入り前夜、別れを告げに酒を携えてふらりとお兄さんの家を訪ねたところあいにくの留守。
放置プレイで相手をしてくれる家人もいないので、お兄さんの羽織を借りてお兄さんに見立て、酒を酌み交わして今生の別れを告げてくるという「無頼者のようで、実は心の底に熱い思いを秘めていた」泣けるお話になってるわけッス。

映画にもなっていたんですな
http://www.asahi-net.or.jp/~uy7k-ymst/chusingura/akagaki.htm

この解説を読むと、名前は「赤垣」でなく「赤埴」だったとか、兄貴はいなかったとか酒は飲まなかったとか、史実がいろいろ書かれていて、それはそれで興味深いんですが、言いたいことは歴史的事実がうんぬんより、おちゃけ片手に静かに別れを告げる心持ちってえのを象徴するのが『赤垣源蔵 徳利の別れ』だということだけです(笑)
ちなみにこのお話が由来で、よく狸の置物なんぞがぶら下げているタイプの徳利を『源蔵徳利』と呼ぶんだそうで。

名入れもできるようですから、「胡乱」などと入れてラスカルがぶらりとぶら下げて登場する小道具にはいいかもしれません(笑)
http://www.aisaikan.com/webshop/genzouto.html

 

さて、続きは『まさやん 徳利の別れ』の巻


 

静かに会社でブラブラして年の瀬を過ごすはずが、27日は偉い人の命令で霞ヶ関のお役所に行くハメになり、解放されたのはすっかり暗くなった18時前。

交差点毎に警戒のお巡りさんが立つ通りを歩いて、ライトに浮かぶ国会議事堂の横の茱萸(ぐみ)坂を上り、総理大臣官邸の横を職務質問されないようにコソコソ下って、改装中のキャピトル東急ホテルの裏側にあるのが蕎麦屋の『黒○』
http://www2.ttcn.ne.jp/~sobasake/soba/tokyo/054.html

その名のとおり、かの映画の○澤監督ゆかりの方がやっているお店だということで来てみたんですが、確かに入り口は蕎麦屋というより料亭風。
ま、蕎麦以外に鍋料理の席やらお座敷やらあって、場所柄半分料亭みたいなもんらしいんですが。

で、恐る恐る引き戸を空けると「いらっしゃいませ」とこざっぱりした店員さんが。
「一人なんですが・・・」これまた聞くのも恐る恐る。
すでに雰囲気に飲まれてます。ガンバレ自分。

そこで「なんだフリーの客か」という顔を一瞬して「ちょっとお待ちください」と言って話し出したのは口元のインカム!
すげえ!SPみたいに店員さんがインカム付けて空席を確認する蕎麦屋は初めてッス!

いや、おいら座敷で密談中の議員さんとかをねらいに来た怪しい人じゃないから!(汗
ひょっとしてどこぞに監視カメラが付いていたり、武器を持ってないかX線にかけられているんじゃなかろうか!?
ビビり度が増す。


ちょっと間があって、司令室(?)からお許しが出たらしく「どうぞ」と蕎麦席に通される。
と、いきなり「コートをお預かりします」と声がかかる。

え?その辺の席に引っかけたり、テーブルの下の荷物置き場に押し込んじゃいけないんスか?(滝汗
そんなお預けするようなコートじゃないんス!
刑事コロンボみたいなヨレヨレの安物だからして。ひぃぃぃ(恥

断る間もなく、奥のコート掛けに持って行かれました・・・_| ̄|○

店内は10人がけくらいの大テーブルですでにおっさん達の酒盛りが始まってて、あとは6人がけ一つに4人がけ2つ、2人がけも2つくらいに上のサイトにある写真の炉端席が8人分くらい。
「どうぞ」
え?『予約席』って札が立ってますが・・・と、店員さんがすっと札を外した。いいのかな?

ぐるっと見回すと全部の席に札が立っている。
怪しいお客の場合「満席です」と丁重に断るための仕組みなのか・・・?
次々と繰り出されるお店の攻撃に、すでに態度が落ち着かず胡乱なおいら。


しかしまあ、とりあえずビール頼んで、ビールに合うかき揚げと軍鶏の串焼きを頼むと「どっちも10分ほど時間がかかりますよ」と丁寧な案内。
で、早いところは板わさを頼んで一服はついたッス。

店内は落ち着いた照明に、壁には『七人の侍』のポスターなんぞが張ってあり、まことに渋い雰囲気。
なんだけど、客層がまた議員さんの秘書やら事務所の方達のようなオヂさん達で、ワイワイガヤガヤの感じが新宿や新橋の飲み屋とは明らかに違うのよ、これが。

しかも店員さんたちは「ご予約の××さま、2名様お見えです」「○○様は遅れるそうです」と、料亭の会話してるし。
店内にも目配りして皿が空くとすっと「お下げします」とやってくる。
普段から議員さんとかお役所の偉い人が来るんで、粗相のないようしつけられているらしい。

ふと箸袋の裏を見ると『HOW TO USE CHOPSTICKS』とイラスト付きでお箸の持ち方が説明されてるし!
おいらの後から来て、炉端席の斜め前に座った2人組はここに来るにしてはラフな格好してるなー、と思ったら中国語で会話を始めたし。
各国の外交官とかも来るんでしょうな・・・

と、ビール飲み終わったらサッとグラス下げに来て、すかさず「飲み物は何か別のものになさいますか?」と聞かれた。
ええ、お店の演出は渋いんですが、全く落ち着きません。店員さんに見張られてるみたいッス。
こっちは隅のテーブルに放置されて、好き勝手に飲み食いして、「すいませーん」って呼んだときだけすかさず来てほしいんですが!

ま、かき揚げも残ってたんで日本酒は四季桜をいただいて、〆のお蕎麦を頼んだら河岸を替えよう、と。
いやいや、一人でこれッスから、ソ連の集団で押しかけてマンガやDVDの貸し借りしたり、ヲタ話で盛り上がるには向かないことは言うまでもありません。

あ、料理のメニューは豊富で、お蕎麦もしっかり腰があって美味かったッスよ。
ただ、ロケーションと客層が人を選ぶわ、ここ。
どうりで『蕎麦屋で憩う』にも載ってないはずッス。

あくまでも「首都機能に付属したお仕事の方達向け お蕎麦屋さん」なのでした。


で、中途半端に1時間ほどで店を出ちゃったんですが、これでおいらの『徳利の別れ』が済むはずもなく(苦笑)
さあ、こうなりゃ新規開拓よりは勝手知ったるところのほうがいいわけッスな。
幸い首都機能の中心地だけあって、地下鉄の路線もあちこちに行けますわ、ここ。

迷ったあげくに溜池山王駅の一番ホームが近い南北線に乗り、向かった先は目黒。
西口から権之助坂を下って『○菅』へ。
http://www2.ttcn.ne.jp/~sobasake/soba/tokyo/237.html

「いらっしゃいませー」
「一人ですが」
「カウンター空いてるんでどうぞー」

ええ「お席にご案内します」も「コートをどうぞ」もないッス(安堵)
ほぼ満席でしたが、さすがに5席ほどあるカウンターは空いていて、一番奥の隅っこにちょこんと入り込みました。
コートは横の空いている席にドサッ。

それぞれの席からは楽しそうな談笑や「すいませーん」の声が聞こえて賑やかッスけど、気分は「落ち着くなあ〜」であります。

おちゃけは『黒牛』を頼むと、ここは受け皿もおかずにグラスがドン!と出て、女将さんが一升瓶から見事な注ぎ方で表面張力の張るところまで注いでくれます。
「おーっとっと」口を近づけて「ちゅ〜」
なんかもう、これだけで幸せッスな、飲んべにとっては(笑)

お腹はほどほど埋まってるので、つまみは生湯葉と焼き海苔。
と、突き出しが出てきたんスけど「白子の湯葉包み揚げ」でした。
湯葉が被っちゃったけど、ドンマイ!

で、こいつがですな、白子を湯葉で包んで揚げたものを、揚げ出し豆腐みたく暖かい出し汁に入れて大根おろしとアサツキが乗ってるわけッスよ。
くっ・・・もろくそ美味ぇ・・・(激嬉

カウンターの端はそのまま調理場丸見えで、ご主人がてきぱきといろんな鍋をさばいたり、蕎麦を茹でて盛って、と小気味よく動いてるッス。
奥さんと手伝いの女性も料理出したり下げたり、オーダーで呼ばれたりとてんてこ舞い。

「はい、生湯葉おまちどおさまです。あ、取り皿付けておきましょうね」
そんな中でもちょっとした気配りはちゃんとされているので、こちらは自分のペースで飲み食いを楽しめる、こうでなくっちゃいけませんな。

焼き海苔をカジカジしつつお代わりした『黒牛』を舐め、ふと横を見ると犬の絵を描いて『招福』と印の押してある日光東照宮のお札が。
「ああ、今年ももう終わりか・・・時期にイノシシのお札に差し替えだなあ・・・」

ええ、しんみりと『まさやん、過ぎゆく年に徳利の別れ』を告げることができたッス。
〆にせいろをいただいて、蕎麦湯をゆっくりと味わい、いいほろ酔い加減で「今年はお世話になりました。来年もまた来ますね」と奥さんに挨拶してお勘定。

外で飲むのはこれでおしまい。さ、帰りますかな。
来年はどんな年になるかはわからないけど、せめて美味しい蕎麦屋酒は楽しめますように。