ある朝、地下鉄の駅でのこと。
朝のラッシュ時のピークは過ぎたとはいえ、
地下鉄の車内はまだまだ混んでいました。
私はドア付近にいたので、下車するときも一番に下車できる位置にいました。
そのとき、少し離れたところに、下車しようとしている
手押し車を押しているおじいちゃんがチラリと目の端に。
「手伝わなくちゃ」
そう思ったけれど、後ろから降りようとする人波にもまれ、
私は地下鉄の外へと押し出されました。

誰か近くにいる人が手伝ってあげるよね?
そう心で思いながら、後ろを気にしつつも
人波に飲み込まれて前に進んでいたのですが、
なかなかおじいちゃんに手を差し伸べる人はなく、
最後の最後になって、地下鉄に乗り込もうとする人に
もみくちゃにされそうになりながら、やっとホームに降りていました。

人波の中でエスカレーターの列に並んでいた私は、
後方にいるおじいちゃんから目が離せませんでした。
私の後ろにいた人は、きっと「なんでこの人後ろばっかり見ているんだろう」と
思っていただろうと思います。
おじいちゃんは手押し車と共にそのエスカレーターの列へ並ぼうとしましたが、
人々はおじいちゃんを押しのけるようにして列にさっさと入り、
おじいちゃんはなかなかその列に入れません。
誰もがそのおじいちゃんの存在が目に入っていないかのように
列に並んでさっさと進んでいきます。

どうして誰もおじいちゃんを列に入れてあげないの?
どうしておじいちゃんを無視するの?

私は、エスカレーターの直前になって自分が並んでいたところを離れ、
少し後ろで、列に入れずに困っているおじいちゃんの近くに行きました。
「どうぞ」
そう言って、背中を丸めて歩く小さいおじいちゃんを列に促そうとすると、
周りの人はチラリとおじいちゃんと私を見ました。
なんとか列に並んで入り、エスカレーターに差しかかりました。
おじいちゃんの手押し車は思ったより重く、
私は必死になって手押し車をエスカレーターに乗せました。

おじいちゃんも手押し車も、落ちないように見てあげないといけない。
でも、前後の人はやっぱり、無関心。
右側を歩いて上っていく人たちは、おじいちゃんにガンッとぶつかっても
何の謝罪の言葉もなく上り続けていき・・・。
エスカレーターが上に向かっている最中、
私は無性に悲しくなり、涙が出そうになるのを我慢していました。
人は、どうしてそこまで、無関心でいられるのだろう。

エスカレーターが終わりにさしかかったとき。
右側を歩いて上ってきていた一人のサラリーマンの男性が、
おじいちゃんと私の横で足を止めました。

そして、男性は、おじいちゃんの背中に手を回しました。
まず私が手押し車を下ろし、続いて男性がおじいちゃんの手助け。
おじいちゃんは、目をつぶって頭を下げてお辞儀をしてくれました。

最後の最後に手を差し伸べてくれたサラリーマンの男性がいたことが
せめてもの救いでした。
「無関心」に、心で涙した朝でした。
でも・・・無関心な人ばかりでなくて、よかった。
サラリーマンのおじさん、どうもありがとう。


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