本日(2009年7月29日)付の朝日新聞朝刊「私の視点」に東京大学の医学部長の清水孝雄先生(生化学講座教授)が投稿されてました。

記事中にもありますように、「明日の医療」をどう考えるのか?という中長期的視点がすっぽりと昨今の医療行政からは抜け落ちています。たとえばジェネリック医薬品(後発医薬品)推進ひとつ取っても、後発品メーカーは新薬開発を行っていないこと、先発品と後発品との価格差は大局的に見れば新薬開発への先行投資であること、という大事な視点が欠如しています。

下記に当該記事全文を引用して掲載しておきます。


 自治体病院の閉鎖、周産期医や救急医の不足など毎日のようにマスメディアは医療の危機的状態を伝えている。厚生労働省も重い腰を上げ、対策を始めた。しかし、この中で忘れられているもう一つ別の危機がある。

 それは研究医の不足である。東大医学部では80〜93年は卒業生の1〜2割、約15人が研究に進んだ。ところが、この数は年々減少し、98年以降は数人以下、時にゼロの年もある。他大学では状況はより深刻である。

 昨年、国立大学医学部長会議は全国調査をした。大学の定員削減の矛先は基礎医学に向けられ、基礎医学の教員総数がこの10年で10%減らされた。さらに、医師免許をもつ者の基礎系の大学院進学者は半数となり、教員の中の医師(MD=医学士)数は激減している(助教・助手の中でMDが占める割合は15%)。このままでは、10年後、20年後にMD教員や研究医はいなくなるだろう。それはより深刻な医療の崩壊を意味する。

 病気がおこる仕組みや治療法の開発、基礎医学と臨床医学の連携、臨床研究の推進にMD研究者は必須である。医学が分子から、細胞、個体までを総合的に解析する学問となりつつある現在、解剖学、生理学、神経科学などを系統的に身に付けたMD研究者の存在意義は高まっている。

 なぜ、研究をめざす医学生が減り、研究医不足が深刻化しているのか。その原因は単一ではない。臨床研修のプログラムがタイトに組まれ、専門医試験を受けるための要件が厳しいので、基礎研究にまで手が回らないこと。臨床現場の上司や先輩、同僚の医師らも忙しく、部下や後輩の医師に大学院での研究を奨励する余裕がなくなってきていること。さらに、研修医時代から給与が支払われる臨床医に比べ、研究医になるには大学院に入り授業料を納めなければならないこと、など色々な要素が複合して起きている。

 東大では、医学部の途中で大学院に入り、研究を積んだ後に医学部へ戻るシステム、医師免許を取り直ちに大学院へ入学する8年コースの設置など、研究医の確保策をとり始めているが、個々の大学での試みには限界がある。国は危機感を共有して積極的支援策を打ち出して欲しい。国立大学医学部長会議は、年間40億円の投資をすれば、毎年卒業する8500人の医学生のうち、200人程度を研究医として育成することが可能であると試算した。

 医師として育てた者をなぜ、医療現場ではなく、研究に向けるのか、これを無駄な投資と見るか、将来に実を結ぶ施策と考えるかが、最大の争点であろう。重要なのは時間をかけて研究者を育成し、明日の医療を切り開く人材を確保していくことだろう。




[PR]足立区の特定保健指導なら青井診療所

[PR]足立区の禁煙外来なら青井診療所