December 17, 2010
ウィンター・ソング Perhaps Love(2005)
著名な映画俳優・見東はスター女優の孫納とその恋人であり監督・聶文の
手掛ける上海ミュージカル作品に出演することになる。
10年前、見東と孫納は恋人同士だったが、スターの夢のため
孫納が見東を捨てたのだった。愛が甦るようなラブストーリーを演じ
抱きしめ合うふたりの姿は現実のものか、それとも演技でしかないのか?
そして自分の恋人がかつての相手とみつめあうのを見る聶文は…。
記憶をなくした女・小雨とその恋人張揚、小雨が身を寄せている
サーカス団の団長との絡み合う恋。「誰がこんなものを見たがる。陳腐だ」
そう言っていた監督・聶文が団長の役を自演すると決めた時、
映画は現実を模倣し始め、現実は過去を反復していく。
必ず同じ夢を見るのが嫌で不眠症になった男・見東は結局プールの中で
繰り返し孫納との日々を辿り、見東の声は張揚に被さる。
「君は誰なんだ 僕を愛したことも忘れて」
なんて綺麗な映像、素敵なバックステージ・ミュージカル。
天使と共にバスがやって来て、バスが去って終わるこの作品の中で、
現在の彼らの黒塗りのバックシートと北京時代のバスは、見東と孫納
ふたりの距離を示し対比するかのように交互に現れる。
唯一いつも彼らの傍に変わらずにあるのは、雪だけだ。
上:小雨を演じる孫納と張揚を演じる見東。
周迅も金城武も美しすぎる(好みなのは聶文役ジャッキー・チュンだけど!)。
張揚は小雨の瞳を覗きこんで絶望する、「こんなに近くにいるのに君は遠い」。
そして見東は孫納の手を引きながら黒塗りの車でセットの外へ飛び出して、
10年続いた自問自答の物語を終わらせに行く。
外の世界はいい所かしら
見東による逆回しの反復の後、ようやく夢の続きが生まれ、
雪の中ふたりはキスをする。そして同じ雪の中、小雨は団長の手を離す。
小雨も孫納も彼らとの関係をいい思い出にするために、それぞれが
それぞれの相手の手を離し、涙を流す。
もう孫納は過去なんて忘れるためにあるとは言わないだろう。
天使は彼女の元を満足げに去っていく。なんて素敵な終わり方なの!
香港・中国・マレーシアの合作映画であり、韓国からはチ・ジニが参加したりと
アジア発のミュージカル超大作としてかなり話題になった本作。
中国・台湾では2005年の中国映画興行収益で1位になりました(2005年の
アカデミー外国映画賞香港代表にも選出されたようです)。(注1)
2006年の香港フィルムアワードでは孫納・小雨役の周迅が最優秀
主演女優賞を受賞しました。(注2)
ボリウッドを意識したというミュージカルシーンの撮影はピーター・パウ。
振付師にインドのファラ・カーンを起用し、躍動感ある画面に作ったそう。
確かに欧米のミュージカルに比べて、雑多感やパワフルな迫力があって
ボリウッド的かも!特に張揚が小雨を市外へ連れ出すという、見東と孫納の
北京行きの先取りとも言えるシーンでは、富・権力と野心の塊のような男女に
囲まれて徐々にスレて、ワイルドになっていく小雨が、ベリーダンスのような
激しい腰つきのダンスでうまく表現されていて圧巻でした。
徐々に小雨がワイルドになっていくこの十字路の音楽シーン
(予告編だからか所々で劇中の違う場面もあり抑えめ&映像荒め!)
上:最優秀主演女優賞も納得の周迅、すごく綺麗。
ソフトフォーカスされた異世界のような空気がとても似合う女優さん。
クライマックスの空中ブランコのシーンはCGだと分かっていても、
劇中劇という名目の元トランポリンが見えないのでドキドキしてしまいます。
原題は「Perhaps Love 如果・愛」、見東は記憶の中で何度も10年前を
再生して、本当に自分が孫納を愛していたのか自問する。
日本向け解説文とは少しニュアンスの違う演出。ふたりの気持ちは
視線や劇中歌だったり…台詞として語らない部分で表わされる。
見東と孫納の視線、それを見る聶文…サスペンスフルなやり取りに
ひたすら息を詰めてみてしまう108分!
**
「君が憎い」から「僕と行こう」になり、見東と孫納は雪の積もる北京へ。
「北京を忘れないで。」しかし涙を流している孫納は、自伝を手にしながらも
次の夏の映画について想いを馳せるのだ。青海に、聶文について。
それを見守る天使がバスに乗りセットを後にした時、この物語も終わる。
まるで彼らの思い出を追体験している感覚に陥る素敵な作品。
今まで見たピーター・チャン監督作の中でも一番好きなの。
ぜひ見てみてね
本編短縮版ともいうべき綺麗なPV(下の予告編より本編に近い雰囲気)
日本版予告編(やや純愛路線)
(注1)この年のアカデミー受賞作はギャヴィン・フッド「ツォツィ」でした。
(注2)他にも撮影賞・美術・衣装&メイクアップ、オリジナルスコア、オリジナルソング「Perhaps Love」が最優秀賞を受賞しました。
(映画・監督・脚本・編集・音響はノミネートのみ)
また香港Film Critics Society Awardsでも周迅は最優秀主演女優賞に!
Director:Peter Chan
Cast:Takeshi Kaneshiro,
Zhou Xun, Jacky Cheung
Ji Jin-Hee, Eric Tsang
2005 108min
China Malaysia Hong Kong
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(この記事は2008年2月4日の追記改訂です)