窓から飛び出せ(1950新東宝)9月の映画まとめ

November 10, 2011

香川京子のふたつの映画「高原の駅よさようなら」&「君と行くアメリカ航路」

「窓から飛び出せ」に続いて、東京国立近代美術館フィルムセンターでの特集「映画女優香川京子」で上映された作品2本の感想ページです。
「君と行くアメリカ航路」は「東京のヒロイン」が好きなわたしの好みにぴったりの作品で、「高原の駅よさようなら」はどちらかというと苦手なジャンルなのに、とびきりの秀作で最後まで楽しめました。2作ともお勧め!


高原の駅よさようなら(1951新東宝)

信濃の山奥にある結核療養所に先輩を訪ねてきた植物学者野村は、植物採取を協力してくれている看護婦ユキと惹かれあっていくが、彼には恩師の娘との縁談が持ち込まれていた。ふたりの恋の行方は…。

中川信夫はよくある歌謡曲メロドラマをサスペンスフルな秀作にしてしまった!そんなに期待してなかっただけに、今作「高原の駅よさようなら」の面白さは衝撃だった。
とはいっても始めからぐいぐい引き込まれたというわけではない。開始15分ほどは登場人物がとにかく歌いっぱなしで、よくある歌謡曲メロドラマか…と少しげんなりしていたのだけど、そんなトロトロとした映画のテンポが、ユキと野村がはじめに接近する山嵐のシーンで急速に早まる。
無邪気に採取している野村の横で、不安げな顔で空を仰ぎ見るユキ。その後はぐれたふたりはお互いを呼び合うが、会う事が出来ない。雨雲が広がり、不穏な音楽が流れる中観客であるこちら側も不安を募らせていく。そして雷鳴がとどろいて、ユキのアップになり、いつの間にか合流しているふたりは、雷の音を合図に飛びつきあい、抱き合う。それを繰り返した後、再度ユキのアップになる。雷雨の中真顔で野村をひたっと見据えているこの時のユキ=香川京子の顔はあまりに真剣で、思わず見入ってしまうほど綺麗。息を飲む美しさ、というのはこの場面の京子のためにあるような言葉!野村同様、観客のわたしもこのシーンからあとは、終盤に至るまでユキの顔から目が離すことができず、キスシーンの後のユキ=京子の疾走(草が映りアップになったかと思うと駆け抜けるユキの足元が映り…画面がとってもサスペンスフルなの!)後の転落した野村を目にするまで、うまく呼吸ができないほどだった。恐怖映画の巨匠中川信夫はメロドラマの巨匠でもあったのか。
先輩が野村の恋路を邪魔するシーンや、ユキが恋敵にチョコレートを手渡されるシーンなどは、信夫式「恐怖映画」的な演出の影響か、とってもハラハラさせられるし、「悲恋」と呼ぶには弱いような、野村が優柔不断でユキがドラマクィーンなだけでは…という障害も、見ている間はさも大きな難関のように思えたのだった。信夫、すごすぎる!

思えばふたりの出会いのシーンからこっち、監督はユキ=京子のアップを撮り続けている。慌て者の野村を見て可笑しそうに微笑むユキ、野村と共に走りだすユキ(彼女はこの時独唱までする!)、崖から落ちそうになる直前のユキ。そして映画の終わりを飾るのもまたユキのアップだ。エンドロールの曲がかかっても、どこか遠くをみるような彼女が映っていて、なかなか席を立つ事が出来ない。まさに京子による京子のための映画。端的に風見章子演じる男前な女史
と道太郎の許嫁・南條秋子のサバサバしたやりとりがあったり、田崎潤の純愛があったりと見せ場も多いのだけれど、可愛さ絶頂でありまっすぐな瞳のユキ=京子が画面に映り込むと、その他のものがすべて吹っ飛んでしまう。

「旅愁」のラストよろしく汽車を追いかけて駆けていくユキ、手を振る野村。この後ふたりはまた再会するのか、「高原の駅よさようなら」と言うからには、清い初恋として終わってしまうのか。晴れやかな顔のユキを見ていたら、その後の事やプロットなんてどうでもいいと思えてくるのだった。71分という短さも苛つきがちなメロドラマにはちょうどいい感じ、いいもの見たわ!

(監)中川信夫(原)佐伯孝夫(脚)山下与志一(撮)鈴木博(美)加藤雅俊(音)鈴木靜一
(出)水島道太郎、香川京子、柳永二郎、田崎潤、南條秋子、風見章子、岡村文子


君と行くアメリカ航路(1950新東宝)

美人姉妹の風見章子と香川京子は同じオーナーが経営しているバーとデザイン事務所で働いている。姉は新聞記者の田崎潤と、妹は灰田勝彦そっくりのバーテンダーといい雰囲気。アメリカ帰りの画家斎藤達雄と親しくなり、デザインを共作した京子だったが、上司であるデザイナーのマダムにデザインを盗まれてしまう!果たして京子はデザインを取り返せるのか、アメリカへ行くのは誰?

米国からの帰国船から映画は始まる。それに乗っているのは灰田勝彦(本人役)とお忍びで一時帰国する画家・斎藤達雄!ルー大柴みたいな言葉の洒落男・達雄とお針子香川京子の出会いはとってもロマンチックで素敵。この直前に見た雇われ仕事「窓から飛び出せ」と同じ監督とは思えないほど、いきいきと街や人を切り取っていく島耕二。伊達男だったという監督は、都会派コメディがとても上手で、見終わった後幸せな気分になりました。でも「灰田勝彦ならよかったのに」で終わらせないで、勝彦のふりをして密航するくらいしてほしかった気も…。

京子に秋波を送っては失敗してやたらと絡むチンピラたちと「東京のヒロイン」のポスターの前で乱闘したり(その後このポスターは場所を変えて何度となく現れる、野口久光&耕二ペア、力を入れていたのね)、ファッションショーやバーに絡めてやたらと歌い演奏しまくる客演など、物語は最後までポンポン突き進み飽きることがない。
水着を審査する権威あるファッションショーが即席公開裁判になり、おなじみのメロディが「タッタタタータッタッタッ」と幾度も鳴り響き、あっという間に大団円!

屋根裏部屋に住む(にはいささか背が高すぎる)美女姉妹という設定も可愛らしくて素敵。肝心な水着コンテストがパートカラーのため欠落していて見れなかったのだけが残念だけど、京子デザインの白い水着はモノクロで見ても素敵だった。
11月23日と12月17日にも上映されるので、ファッション映画好きの女子も見てみてね。


追記:ちなみに映画全編を通していちばん素敵だったのは白い水着でも、寝間着みたいな「エンジェル」でもなく、黒でまとめたタイトなマダム(伊達里子かな?戦後の彼女が分からない…)のファッションだった。とてもシックで素敵なの!

(監)島耕二(原)赤坂長義(脚)長谷川公之(撮)平野好美(美)河野鷹思(音)齊藤一郎
(出)齊藤達雄、香川京子、風見章子、灰田勝彦、田崎潤、江川宇礼雄、澤蘭子、伊達里子、曉テル子、79分・35mm・白黒


過去に言及した島耕二監督作:

窓から飛び出せ(1950新東宝)
娘の冒険
処女受胎
猫は知っていた(「たそがれの東京タワー&猫は知っていた」より)
東京のヒロイン ミニ感想ページ (「颱風とざくろ」「東京おにぎり娘」&「東京のヒロイン」「泥だらけの純情」)
麗春花 (よみがえる日本映画4作品感想ページ


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bonbon229 at 18:41│Comments(2)TrackBack(0) 日本映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by タコラ   November 12, 2011 07:46
5 ご無沙汰しております。
中川信夫監督は時代劇や怪談はもちろんメロドラマも撮れる才人です。
前回の特集上映ですでに香川さんをゲストにトークショーやりましたけど来年また特集上映の企画があります。メロドラマ系の作品でプログラムを組むのもありですね。その時にまた呼べるよう提案してみますね。
2. Posted by sakura   November 13, 2011 17:41
お久しぶりです、タコラさん!わたしも見ている間ずっとタコラさんたちの六本木特集上映を思い出してました(笑)来年こそお伺いしたいです。

香川さんは昨日上映の「愛慾の裁き」でちらりとお姿を拝見したのですが、本当に素敵だった!ので、その企画が実現したらいいなぁと今から楽しみにしていますね。

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