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(梵我の丸ごとトマトカレー)
スパイス屋のチャイがうまい!


 パハルガンジーのメインバザールはニューデリー駅から西にのびた通りだ。中央の大通りの両側には衣類や生活用具、お土産の店が連なり、その間にレストランやカフェ、ホテルが密集している。左右の迷路のように入り組んだ小路にも店やレストラン、ホテルのほか何だかわからない怪しげな店があり、ここも人々が道いっぱいにひしめいているのだ。

 このメインバザールの南側を通っている道路は食料品の市場になっていて、野菜、果物、スパイス、肉、魚などが並んだ店や屋台からの威勢のよい掛け声が客の足を止めさせる。僕はこの通りが大好きで、メインバザーの奥にあるホテルへの行き帰りはもっぱらこの通りを利用した。

 インドの野菜は非常に豊富で種類も多い。ナス、ジャガイモ、トマト、キュウリ、生姜にんにく、玉葱、とうもろこし、ししとう、唐辛子、ほうれん草などなど日本でお馴染みの野菜が勢ぞろいしている。しかも野菜一種類一種類が大きさ、形、色がバラエティに富んでいて見るものを飽きさせない。

 これらの野菜一つ一つにそれぞれの調理法があり、それに合わせたマサラ(混合スパイス)があるんだなあとインド料理のレシピの数の多さとスパイスの奥の深さに感心してしまう。

 この通りの楽しみの一つにスパイス屋がある。屋台も居を構えている店もいろんな種類のスパイスを大きなざるに盛って販売している。客はそれをお猪口一杯の量で買い求めている。

 僕はこの道を何度か通るうちに一軒のスパイス屋のおやじと仲良くなった。最初は旅行客などめったに踏み入れることのないこの通りで不審な東洋人のおっさんがうろうろするのを好奇のまなざしで見ていたがスパイスに興味がありそうだとわかると、このおやじ、なんだかんだと片言の英語で話しかけてきた。

「どこから来たんだ?」

「どこに泊まってる?」

「いつまでいるんだ?」

「これからどこに行くんだ?」

「インドに何しにきたんだ?」

 ありきたりの質問が一応済むとこのおやじは店の奥にいる女房になにか怒鳴っていた。椅子を勧められて、座わるとしばらくして女房が奥から茶渋で黒ずんだマグカップにマサラティを入れて運んでくれた。

「うちの店のチャイマサラで作ったチャイだよ。飲んでみてくれ。」

 マグカップの汚さにかなりたじろぎながらも僕は一口すすってみる。その一口の液体がすばらしい香りを放ちながら僕の口の中で甘くそして高貴な舌触りで広がっていく。僕の大脳を何か爽やかなものがスーッと通り抜けていった。

「どうだい。これは俺が作ったチャイマサラだよ。」

 おやじは僕の表情を見て取ると、感想を待つまでもなくそう言って胸をそらし自分のカップのチャイに口をつけた。そのおっさんの金属製のカップは僕が手にしているマグカップよりさらに使い込まれ汚れ、かなり変形していた。僕のカップはおそらく来客用のものだったのだろう。僕はこの後このマサラティをごちそうになるためにこのスパイス屋を何度も訪れることになる。

 夕食は例のMレストランで。パパドをつまみにビールを飲む。アローゴビとクリームオブトマトを注文する。前者はカリフラワーとポテトのスパイス炒めといったところ。後者はトマトのクリームスープだ。このスープはトマトを大きめに形を崩さずに煮込んだものだ。まろやかでスパイスが素材そのものの味を引き出し、赤く熟したトマトがスープの中で揺れながらスプーンにおいでおいでしている。

 ちなみにお値段だがアローゴビが90ルピー(225円)クリームオブトマトが50ルピー(125円)でした。食後にインドのラム酒、オールドムンクを飲みながら今夜も幸せなフィニッシュでした。