2018年からは、毎月に読んだ本や読めなかった本について翌月第1週めにまとめる記事を作ることにしました。2月もいろいろと読んだり書いたりいたしました。この2月に刊行されて印象的だったのはまたしても『現代思想』誌の「特集 物流スタディーズ」でした。

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オンライン書店の草分けにして、もはや単なる「ウェブの本屋さん」ではない、インターネットでのモノの売り買いを激変させる存在になったアマゾン。そのアマゾンによるモノの動きの変化を中心に、ルーマンやボードリヤールらの理論を考察する論考があったり、小規模な取次システムを模索する「書店」主へのインタビューがあったり、アマゾンの真逆を行くようなごくアナログな移動式スーパー「とくし丸」の創業者へのインタビューがあったりなど、多角的に、いまの物流がどのように変わりつつあるのかを読める特集でした。アマゾンが生産段階すらも流通の一部としていることについて、クラウドファンディングなどの例も絡めて語られていて、その先にあるものを仮想通貨に象徴させる対談もあり、そこについては過去に「ビットコイン」特集もやっていた『現代思想』誌らしい議論だなと思いました。また、所詮はなけなしの仕掛け花火にすぎないのではないかとも言われている思弁的実在論周辺の「新しい唯物論」に関わる論点とも考えられる、「モノ」中心の世界を、哲学とは別の角度から語っているように読めて、その意味でも非常に興味深かった。

今週もちょっとバタバタしてしまって時間がないので、あとは2月に公開した記事を振り返るだけにします。

第2週目に公開した記事は

東大教授(哲学者、58歳)が10年前のエンドレス事件を一生けんめい論じている『エンドレスエイトの驚愕』(三浦俊彦著)

http://blog.livedoor.jp/book_news/archives/52941737.html


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懐かしい人には懐かしく、既にちょっとした古典というか「ふるいアニメ」だと思っている人もいるであろう『涼宮ハルヒの憂鬱』アニメシリーズ第二期で演出された放送事故のような「事件」について、大風呂敷を広げて執拗なまでに論じている1冊です。

そしてその翌週に公開した記事は、

無人島に持っていく1冊のことなんか考えないでいい。殺されそうなときに何を思い出すかが問題なんだ。『収容所のプルースト』(チャプスキ著)

http://blog.livedoor.jp/book_news/archives/52983112.html


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本書を『エンドレスエイトの驚愕』の翌週に紹介することにしたのはワザとです。現代日本のお気楽な(と書いてしまうと露悪的にすぎるかもしれませんが)アニメについて国立大学の教授様が書いた、決してそんなことはないとは思うものの、あまり「まじめ」とは言い難い本と、この、名門貴族のインテリに生まれながら戦争によって捕虜となり、明日殺されてしまうかも知れないという恐怖とほとんど絶望のなかで自分たちの「生」を噛み締めながら語られたであろう本書の講義とを、ぜひとも並べて論じたかった。この対比は、今後もあらためて立ち返って、考察を深めたい乖離というか距離感をもっています。

そして2月最後の週の記事は、

近代的メディア装置のズレ、不気味なものがリアルに立ち上がる『地獄は実在する 高橋洋恐怖劇傑作選』

http://blog.livedoor.jp/book_news/archives/53017619.html


じごく

「地獄は実在する」も何も、上に挙げた『収容所のプルースト』のような状態は充分に実在する地獄なんじゃないかと思うのですが、もちろんそういう本ではありません。エンターテインメントとしてホラー映画を撮っている脚本家・監督の高橋洋氏の作品集。「不気味なもの」という、巻末の対談で出てきたワードから記事を書いてみたのですが、取りこぼしてしまったこともけっこうあったような気がしてちょっと心残りです。

さて、3月は25日にまた「オススメのマンガを持ち寄って、ひたすらに読むだけの会」こと「試読シドク」を、その2日後の27日には「時間銀行書店バー」というイベントを開催する予定です。どちらか片方だけのご参加でも大歓迎ですので、ご興味のある方はお気軽にご連絡くださいませ。

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