新しい年はウサギ年ということで、ウサギの話題から。
ネコ好きが慰めを求める猫カフェができて人気だというが、次はウサギカフェができたという。
ペットとしてのウサギ人気も近年かなり高まっているらしいから、不思議ではないが。
白毛、黒毛、ぶち、茶色、耳がたれた種類、耳が長くない種類など、いろいろ・・・。

このウサギブームをみてすぐ思い浮かぶのは、幕末〜明治のほんの一時期、幕府の瓦解により禄を失った旗本たちの間で高まったという、ウサギを飼って繁殖させる流行のこと。
このブームは大佛次郎の横浜開化物小説「幻燈」に描かれている。

幻燈


毛色の変わった珍しいウサギ1羽何十両といわれるブームが高まりウサギ番付まで作られていたが、取引する市が停められるや一気に醒めて行ったウサギブームが横浜を舞台に、英語塾、南京街、新聞社、陸蒸気、鉄道馬車、牛鍋、芝居小屋などと共に描かれている。
戦後すぐの新聞連載ということもあり、敗戦を味わった日本人の姿が投影されている。
大佛次郎の開化小説には木村荘八の挿絵が付き物だが、この小説にも名人荘八の挿絵を見る楽しさもある。

大佛の開化物は、戦前の「霧笛」「花火の街」「薔薇の騎士」から、戦後の「幻燈」に続くが、その後幕末小説「その人」(朝日新聞連載・1953〜54年)も横浜が重要な背景として登場する。
これも挿絵・荘八とのコンビだ。
この挿絵も単行本に少し入っているが、当時の新聞連載を集めた切り抜き帖を入手したので、お目にかけます。

その人・切抜き


当時は、このような新聞連載小説を毎日切り抜いて手作り帖にコレクションする人たちも少なからずいて、のんびりした時代があったという懐かしいものだ。
弁天通りや人力車、元町百段の風景やヘボン邸などが荘八タッチで描かれている。
この木村荘八、猫好きで、全集もあるほど自身の画集もエッセイ本も多く残した画家の本は、今でも岩波文庫「東京繁盛記」などは手軽に読むことができます。
挿絵もたくさん入っているので、お楽しみください。

東京繁盛記


当店でも挿絵本の代表作をいくつか置いてあります。
お手にとって眺めてください。
○極楽から来た(佐藤春夫・芹沢銈介画)
○癇癪老人日記(谷崎潤一郎・棟方志功画)
○鍵(谷崎潤一郎・棟方志功画)
○濹東綺譚(永井荷風・木村荘八画)
○幼少時代(谷崎潤一郎・鏑木清方画)
○王様の背中(内田百間・谷中安規画)