空気が澄んできた秋から初冬にかけて、甲斐駒ケ岳の真上にジェット機がヒコーキ雲を引いて飛ぶ頃、夕景時の山並みが見事なシルエットを見せるときがある。
陽が沈みかけだし、空が赤く染まった直後、まぶしく輝いていた山並みが漆黒のシルエットと変わる。
その後、沈んでしまった夕陽が、何の加減か、反射か、数分間、光が表面にも廻ってきて、山全体がクッキリ微細な部分まで見える一刻がある。

RIMG0203RIMG0003
RIMG0004
甲斐駒の頂上に立つ登山者の姿まで見えると思うほどだ。
実際は鳳凰三山、地蔵岳頂上に立つ岩のオベリスクと比べれば、4〜5メートルの巨人でない限り無理だろうが…。


山の名はその山容から名づけられる場合が多い。
甲斐駒の山並みシルエットを見てみよう。

RIMG0024RIMG0194
右から鞍掛山、鋸山の頂上部分、烏帽子岳、二つくらいしか見えないが三ツ頭、ほんの少し丸い頭が見えるかどうかの坊主山、そして甲斐駒ケ岳へと続いていく。
甲斐駒の左についているのは摩利支天の大岩壁だ。

RIMG0010

この駒ヶ岳の名は、山容からでも雪形からでもない。
白州の人たちが毎日臨む甲斐駒は、このコブのある摩利支天がついた山容だ。
これが少し上の台地となる長坂や高根町などから見ると、もっと摩利支天が強調されて魁偉な姿となる。
中央本線の韮崎から登って、日野春−長坂−小淵沢間の風景に表れる甲斐駒もこの姿だ。


ところが、登山家たちにとっては、甲斐駒はピラミッド型の山頂を持つ代表的な山ということになっている。
「山のABC」(全3冊・創文社刊)にも、ピラミッド型の山として甲斐駒が大きく取り上げられている。

山のABC

百名山の深田久弥も「日本アルプスで一番代表的なピラミッドは、と問われたら、私は真っ先にこの駒ヶ岳をあげよう。その金字塔の本領は、八ヶ岳や霧ヶ峰や北アルプスから臨んだとき、いよいよ発揮される。南アルプスの巨峰群が重畳している中に、この端正な三角錐はその仲間から少し離れて、はなはだ個性的な姿勢で立っている。まさしく毅然という形容に値する威と品を備えた山容である。」と書いた。
深田は、十名山を選べと言ってもこの山を落とさないと言うほど甲斐駒好きであったから、この名峰賛美は多少割り引くとしても、ピラミッド型の美しい山容との印象は変わらない。

この美しい印象は少し離れて、中央高速の勝沼インター出口手前から見ることができる。
フロントガラスの遠くに永く広がっている南アルプスのたまたまに続いて、少し離れた端に一段と高く美しいピラミッドがそびえていた。
初めはこれが甲斐駒だとは俄かに信じがたかったが、インターを下り20号線を走るうちに、次第にそれがはっきりしてくる。
摩利支天らしきものも気にならない堂々たる山容だ。
この姿は反対側の南信濃・伊那や木曽駒ケ岳の高みからも眺められるだろう。
近すぎた白州からは信じられないほどのピラミダルな山容がそこにあった。