図書館のねずみ

南アルプスの伏流水を使った香り高い珈琲を啜りながら、じっくりお気に入りの本が選べる本好きのためのささやかなサロン、ブックギャラリー&カフェ風信。現在は店舗移転の為、日々奮闘しております。書店では扱っていないような古書、絶版文庫を集めています。

2009年07月

吉田勘兵衛から長谷川伸へ続く道

京急日ノ出町駅の近くに吉田勘兵衛の碑があるらしいので、探しに行ってきた。
駅ヨコを入り、坂を登るとすぐ京急のトンネルが見えてくる。
その直前の陸橋を渡って、さらに細い道を登っていくと、木陰に吉田勘兵衛の顕彰碑を見つけた。
碑はかなり傷んで欠けているが、文字ははっきり読める。
昭和初期に、後生の何代目かの吉田勘兵衛さんが中心になって建てたものらしい。

この崖地からは、ビルも少ない戦前では吉田新田が一望できたでしょうが、今は人通りも少ないビルに眺望を塞がれた坂道だ。
このあたりから図書館近くまで山を削って、吉田新田の工事を始めたのが、1656年。
67年に完成、野毛浦を埋め立てたので当初は野毛新田と命名したが、四代将軍家綱がその功績を称え「吉田新田」と改称、名字帯刀を許されたという。
このことは昔の小学校教科書にも載っていて、横浜市民はみんな知っていたが、今はどうか?

後に勘兵衛は日枝神社(伊勢左木町の祭で有名なお三の宮)も建立している。
また、代々の吉田勘兵衛が住んでいた場所(大岡川近く、清正公の祠られたところ)には、勘兵衛の大井戸が復元されている。
このあたりは大震災にも大空襲にも焼け野原になったが、近くには吉田家の立派なレンガ造りの蔵(大正期のもの)も奇跡的に残っている。

この日の出町駅から黄金町駅を結ぶ大岡川沿いの道はここで生まれた長谷川伸の碑や、有名な「湧き水」もあって歴史・文学の散歩道として、もっと活用されるべきだ。
京急ガード下付近はキレイに整備され、近年、アートの発信地として市が若者を集めていて、このアトリエショップ巡りも楽しい。

線路の向こう側の山沿いを奥に登ると長谷川伸の墓もある名刹・東福寺がある。(赤門といわれて親しまれている)
ここは、吉川英治の「忘れ残りの記」に描かれている英治が住んだ地、また、四歳年下の大佛次郎も少年時代を過ごした所。

忘れ残りの記

さらに、登った野毛山は有島三兄弟や獅子文六の生誕地に続く。
年代順に並べると、、長谷川伸(明治17)−吉川英治(明治26)・獅子文六(同)−大佛次郎(明治30)という大衆文学コースの重要な道となる。


ところで、長谷川伸の文庫本はほとんど全滅状態。
長く中公文庫はこの作家の代表作を守ってきたが、近年の目録からはとうとう消えてしまった。
「日本捕虜志」「日本敵討ち異相」(遺作)の名が見えないのが悲しい。

日本捕虜地

両作ともノンフィクション小説の名作。
「一本刀土俵入り」や「瞼の母]などの戯曲の名作は、「日本捕虜志」を出版した新小説社(社主・島弦四郎)から全二冊の大冊(昭和35年刊)が限定版で出ていて貴重、古書価も高い。
この本には著作目録と共に初演の目録も付いていて、完璧な仕事をしているのはさすが。


今週から店は1回目の夏休みになります。(7月31日〜8月4日)
8月5日(水)から開店です。
2回目の夏休みはお盆の週10日(月)から18日(火)の予定です。




山田風太郎賛江。天井の高見より

中央の書棚の天辺。音楽書の棚の上に、周りの雰囲気に馴染まない一段分の本が見える。
開店してから、脚立に乗ってまで手に取ったお客さんは2、3人のみの書群たち。
山田風太郎の単行本だ。

ほとんどは晩年の幕末・開化モノだが、昭和30年代の少し珍しい本も交じっている。
他にも文庫本の棚には、山田風太郎の角川文庫版のピンクの背中や旺文社文庫などの絶版物が少し置いてある。
(風太郎の文庫本はすべて在庫していますから、お探しの方はお問い合わせをお待ちしています。なにせ、好きなものですから・・・。)

ピンクのカバーの角川版(佐伯戸俊男装丁)は以前取り上げたので、ここでは廣済堂文庫本の山本タカトの装画カバーを出したい。

天国荘奇譚

この人の挿絵や装丁画は一時の横尾忠則ばりの極細の線描による人物が魅力で、風太郎のミステリーや忍法者には良く似合っていて好ましいシリーズになっている。
この廣済堂版も、ちくま文庫や光文社文庫から全集並みに風太郎モノが出ている現状では消えて往くのみ。
お好きな方はこの文庫で揃えたほうが楽しいかも。
それに、角川文庫本の忍法モノを加えて。
講談社文庫の日記、開化モノは河出やちくま文庫で。


風太郎さんの晩年、まだエッセイ集が1冊も出ていなかったので1冊にまとめようと企画したのが、後に中公文庫に入った「風眼抄」(六興出版刊)
単行本で出たのが昭和54年。 
この本は50冊くらいの毛筆サイン入りが存在する。
手持ちのサイン本も店に置いていたらいつの間にやら売れてしまった。少し、残念。

風眼抄

聖蹟桜ヶ丘のお宅に何度か伺ったことがあるが、、風太郎さんはハチャメチャな忍法物のイメージとは異なって真面目な学者タイプの人で、(少しオトボケの風もあったが)夏目漱石好き、サインの字も原稿文字もその性格を表していた。
写真に載せられないのが残念。
表紙絵は田村義也さんの装丁。


ついでに、天井近くの風太郎コーナーから昭和32年刊の講談社ロマンブックス(このシリーズも講談社系の大衆文学作家山手樹一郎・田岡典夫・柴田錬三郎・川口松太郎・林房雄・火野芦平などの作品が読める息の長い叢書でした)から出た、「妖説忠臣蔵」を取り上げたい。

妖説忠臣蔵

風太郎モノのイメージをよく心得た阿部龍応氏の装丁が仲々良い。
この時代の講談社刊風太郎本は、この装丁が多い。
確か「妖異金瓶梅」も阿部氏の装丁。

[クール]→「サン・スーシー」→「カフェ・ド・パリ」

西銀座の「クール」はカウンターに立って飲むカクテルバー。
横浜常磐町の「パリ」も神戸の「ハイボール」も同じ、正統的な立ち飲みで、戦前から続く日本のカフェ文化が受け継がれている。
「クール」はそのクラシックなレンガ造りの外観と共に以前から気になっていたのですが、[銀座名バーテンダー物語−古川緑郎とバー「クール」の昭和史」(伊藤精介)をパラパラ見ると、銀座の交詢社ビルのあった「サン・スーシー」(谷崎潤一郎が名付け親の、有名なバーカフェ)に遡るのは当然として、ヨコハマ尾上町にあった伝説的なバー「カフェ・ド・パリ」や日ノ出町駅近くにあった西川オルガン(ヤマハと張り合っていた日本最初のオルガンメーカー)、関東大震災前、明治期のグランドホテルにまで話が及ぶとは思わなかった。

銀座・名バーテンダー物語

「銀座名バーテンダー物語」伊藤精介(晶文社)1989年刊


明治6年に海岸通り二十番に開業した、グランドホテルでは外国人たちに混じって2人の女性の姿がよく見られたという。
川上貞奴ともう一人、西川オルガンの御曹司と結婚した西川千代だという。
その西川の妹シズ(岡村シズ)と恋愛結婚したのが、ブエノスアイレシス帰りの田尾多三郎。
モダンボーイ田尾は伊勢佐木町「カフェ・ド・パリ」を作る。
4年後に尾上町に本格的なバー「カフェ・ド・パリ」をオープン。谷崎・大佛次郎・久米正雄などが常連だったという。

一方、フェリス出身、英語・フランス語・ドイツ語まであやつったという、西川千代は銀座に「サン・スーシー」を開いた。
その開店間近のサンスーシーに昭和4年「少年ボーイ」として入ったのが「クール」の古川緑郎という訳。

「カフェ・ド・パリ」は長くヨコハマの洋酒文化の発信基地、文化人のサロンとして愛されてきたが、次第に戦時色が強い時代になってくると、最後までウイスキーが配給になったのは、横浜ではホテル・ニューグランド(バー・シーガーディアンがある)と「カフェ・ド・パリ」だけだったという。
横浜大空襲、田尾はシズとこの野毛山の自宅に避難。
戦後は昭和38年、カクテルバー「パリ」をオープンさせたという。
詳しくは同書を呼んでください。文庫本(中公文庫)にもなっています。


横浜とカクテル・洋酒文化についてはきりがないのでこのくらいにして、カクテル本ベスト本3冊をご紹介します。
いずれも柴田書店刊。

1.「バーテンダーズマニュアル」福西英三・花崎一夫・堀切恵子(初版1987年)
バーテンダーの教科書。写真は少ない。

バーテンダーズマニュアル



2.「Cockteil Technic」 上田和男(2000年刊)
上田氏のオリジナルカクテルを多く取り上げて(カラー図版の作品が楽しい)詳しいテクニックも公開している。

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3.「バー・ラジオのカクテルブック」かくてる・尾崎浩司/文・榎木冨士夫(1982年初版)
それぞれのカクテルが擦れにふさわしいグラスに装われて、絶妙な味。
カラー図版が素晴らしい。文庫本にもなったが、これは元本には遠く及ばない。

バーラジオのカクテルブック




当店でもヨコハマ独自のカクテルくらいは出したいのですが・・・目下、勉強中。






お馬さんの聖地・ヨコハマ根岸とギャンブル路線

当地ヨコハマは、近代競馬の発祥の地でもあります。
1870年(明治3年)の根岸競馬場の写真には、まだチョンマゲを結った観客が写っている。
それ以前、まだ江戸時代、生麦事件の賠償問題をきっかけに、幕府は外国人専用の乗馬や競馬のできる土地を要請され、1866年(慶応2年)根岸の競馬場が建設されたという。
当初は外国人専用でしたが、クラブ会員に日本人も入るようになり、先の敗戦まで根岸の台地は日本の競馬の中心地であった。(現在の根岸森林公園)
立派な観戦用スタンドが残っていて、貴重な近代建築遺産。
JRAの[馬の博物館」がありますから、馬に興味のある人には、ここは[お馬さんの聖地]。
入り口の馬頭観音にお詣りすることを忘れずに。
馬券に絶大な効果あり・・・と、いうが・・・どうか?

当店から数十歩のJRA場外馬券売り場があるように、日ノ出町を通る京浜急行は、これまたギャンブル路線として有名。
花月園の競輪、川崎の競馬(世界一の巨大スクリーンができたようだ。地方公営競馬)と競輪。
大井の東京都の競馬場(ナイトゲームで有名)、平和島の競艇と目白押し。
途中の川崎(JR)から出ている南武線がまた、競輪の立川とつながっている立派なギャンブル路線。
途中には玉川競艇や日本最大のJRA府中競馬場が鎮座している。

山口瞳の「草競馬流浪記」(この本は山好きの深田久彌の[日本百名山」と同じで、馬好きのバイブル。新潮文庫500ページを越える大冊。絶版)によると、川崎や大井を基点に、首都圏環状路線・武蔵野線は府中、浦和、中山、船橋と南関東4競馬場を結んでいる日本最強のケイバ街道だ。
オケラ街道間違いなしの恐ろしい路線。
全競馬人はこの本の巻末6ページ分の「競馬必勝十ヶ条」を読むべし。

競馬の本は無数にあるが名著は少ない。
小説(小田作之助短編集(ちくま文庫)に入っている『競馬』は傑作。坂田三吉を描いた短編『勝負師』『聴雨』や『文楽の人』から採った短編も入っていてお薦めの文庫本の一つ)と前述の本を除いて、次の4冊(いずれも文庫)がお薦め。

1.寺山修二「競馬への望郷」(角川文庫)絶版

競馬への望郷


2.山口瞳・赤木駿介「日本競馬論序説」(新潮文庫)絶版

日本競馬論序説


3.吉永みち子「気がつけば騎手の女房」(集英社文庫)品切れ

気がつけば騎手の女房


4.高橋直子「芦毛のアン」(ちくま文庫)絶版

芦毛のアン


ついでに本日のお薦め馬券 
福島競馬11レース七夕賞 三連単[14−15−9]一点。 128倍。
100円以上は買わぬこと。以上。




朝顔の落花を拾う日々

鬱陶しい梅雨時、ますます元気なのが店頭に茂る洋種朝顔。

あさがおIMG_2520


青い花がボール状に固まって咲き誇っている。
その花の落花を片付けるのが毎朝の仕事。
それと長く伸びだしたツル先をつまむ毎日。
これをしないとツルはどこまでも長く伸び、電柱まで登ってしまう。
日本の朝顔の楚々とした美しさとはまるで異なる集合した圧倒的な美。

毎年7月6,7,8日は入谷の鬼子母神の朝顔市。
団十郎が好んだ海老茶色の大輪朝顔が行灯仕立ての鉢植えとなって並んでいる。
いかにもさわやかな白・青・紫・うす桃色の白く縁取られた大輪が一つ二つ咲いて、涼やかな和の美。
なかには変化朝顔の珍しい桔梗咲きのかわいい花や、牡丹咲きの八重のレース状の花もある。
リボン状に花びらが切れた、糸咲きや撫子咲きなどの変わった花も見られる。
江戸時代の園芸ブームが作った貴重な花たちだ。

当店の前の路地は車も入れないので、縁日や植木市をやるにはピッタリの場所だ。
入り口にはガーデニングの店もあり、鉢植えも並んでいるし、木のベンチも置いてある。
縁台将棋にピッタリの場所。
暑い日中も過ぎ、陽も落ちる頃、路地に水をまいてから、ブタさんの蚊取り線香をベンチの下に置いて、団扇片手に浴衣姿で縁台将棋。
この定番の和の夏景色には、やはり日本の朝顔や鉢植えが似合う。
大輪の白く縁取られた淡い色の優しげな花が、目にも涼しく美しい。
通りから見えるランドマークの脇から花火が・・・胸にズシンと響く音の時間差が、また、好ましい。
でも、夕方だから朝顔の花はもうしぼんでいるな・・・などと、妄想は続く。

ここで児童書で園芸を扱った絵本の定番3冊と朝顔の入門書をご紹介します。

1.ピーターラビットの庭しごと(福音館書店刊 1993年)

ピーターラビットの庭仕事


2.リネアの小さな庭 Linnea planterar(ボルボ・カーズ・ジャパンKK。世界文化社刊)

リネアの小さな庭


3.はちうえはぼくにまかせて(ジーン・ジオン作 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 ペンギン社 1981年)

はちうえはぼくにまかせて


4.あさがお百花 (小川信太郎・加藤楸邨著 平凡社カラー新書 1975年絶版)

あさがお百貨


プロフィール
ウェブサイト
お店のウェブサイト
http://home.netyou.jp/33/fushin/
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