図書館のねずみ

南アルプスの伏流水を使った香り高い珈琲を啜りながら、じっくりお気に入りの本が選べる本好きのためのささやかなサロン、ブックギャラリー&カフェ風信。現在は店舗移転の為、日々奮闘しております。書店では扱っていないような古書、絶版文庫を集めています。

2009年08月

野毛坂、旅人の驚愕の声が聴こえるような・・・。

当店のある野毛本通りに続く野毛坂の並木の根元にヤマボウシの赤い実が落ちている。
夏も終わりに近づくとさわやかな秋の虫コオロギ、スズムシ、カンタンの鳴き声やヒグラシやツクツクボウシの声と言いたいところですが、ここ野毛も近年の東京の街と変わりなく、アオマツムシの車の騒音にも負けない音、ネグラに帰って来たムクドリの大群のやかましいこと。(JRA前の楠が棲家)
夏の蒸し暑さがぶり返した夜、近くの公園のメタセコイアの高木には狂ったようにミンミンゼミが鳴きだした。
昨日は伊勢佐木通りにクマゼミのシャーシャー音が聞こえた。
この声は今年は初めて。
すぐ近くの水溜りのできた空き地には、昼間、シオカラトンボのオスとメス。
メスが水溜りに盛んに産卵している。

この野毛坂の幕末・開港時代を想像してみると、いつも思い出す浮世絵師・五雲亭貞秀の版画がある。
野毛村の切通しから、閑村横浜村に出来た開港時の映画のセットのような黒い家並みと港の数多くの船舶の光景、切通しの急坂に突然出現したこの光景に唖然とする旅人。
その驚きの声が聴こえそうな横浜版画だ。

開港新聞記事


これが、今朝の神奈川新聞の日曜版にちょうどカラーで紹介されている。
この記者もこの版画に描かれた地点を探して古老に訊いても分からずウロウロしたようですが、結局、中央図書館前の現在の写真を出している。
小生も以前からこの場所を確認したかったのですが、やはり、この地点に落ち着いてしまう。

東海道に直接続くバイパスとして、開港に合わせて急いで作られた横浜道。
現在の浜松町交差点から次第に登り始め、神奈川奉行所のあった紅葉坂を通り、曲がりながら標高50数メートルの野毛山を切り拓いて切通しを作り、野毛村の手前からカーブを切って開港地に繋げる難工事。
当時は一気に落ち込むような急坂だったようだ。

この横浜版画、当時の旅人にとっては旅の記念のお土産として最も人気の高かったものだ。
特に五雲亭貞秀の横浜絵が評判を呼んだのも素直にうなづける。

この横浜の新しい浮世絵版画や明治になっての手彩色の横浜写真絵葉書など扱っていた雑貨屋に生まれたのが獅子文六、晩年の代表作「父の乳」には当時の夢のようなヨコハマの活況ぶりが描かれることになる。
(神奈川新聞特集版には、野毛のクジラ横丁を歩く獅子文六の珍しい写真も載っている)

幕末〜明治の挿絵画家として有名な木村荘八も横浜絵葉書から想像をめぐらして、名作「霧笛」や「幻燈」の挿絵を描いていたことでしょう。

さて、関連書を2・3冊と書くところですが、以前横浜本は少し紹介したので、ここでは本以外のものをひとつ。

開港資料館、歴史博物館などで横浜版画や横浜絵葉書の復刻版もいろいろ手に入りますが、戦後生まれの横浜人としてはこれが面白い。
復刻「よい子の双六」。
昭和20年代に横浜市の警察と交通安全協会が作ったもの。

よい子の交通双六


ヨコハマ駅を振り出しにヨコハマ市内を一巡、ゴールは横浜港。
自動車型の駒とサイコロもついていて楽しい。
横浜都市発展記念館で800円で売っています。
この双六の中心は「のげ」です。
当時の街のランドマークの建物が描かれていて感動もの。

日向山(ひなたやま)の奇観

先週は夏休みで、山梨白州行き。
滞在先にはパソコンはないので、ブログもお休みしました。

白州と言えば、町の山は南アルプスの名峰・甲斐駒ケ岳ですが、この駒ケ岳神社からの標高差2000メートル以上を一気に登るルートは超C難度。
5本の指で数える程のキツイ登山なのでパス。
その手前のハイキング感覚で登れる日向山に行ってきました。


この標高1600メートルの日当山は頂上近くの裏山が海岸のような白洲になっていて、前から登ってみたかった山。

日当山1


その白い花崗岩の砂原は想像以上に広く、トルコのカッパドキアのような白い崩れそうな突起もあったりして、特異な景観。

その向こうには八ヶ岳の全貌が広がっている大パノラマ。
中央線小淵沢駅を発着する列車が、オモチャのようにゆっくり動いているのが遠く見える。

日当山2


崖のすぐ下にはサントリーのウイスキー工場群も見える。
ここのサントリーの「南アルプスのおいしい水」は、ミネラル分をたっぷり含んだこの花崗岩を通って地下に貯まった天然水だ。

この日向山の2時間のハイキングコースは、近くの入笠山(にゅうがさやま)と同様、カラマツの天然林を身近に観察できる貴重なコースだし、ブナの巨木も何本か健在だ。
頂上付近の林と砂浜の境には矮小化したオヤマボクチやホタルブクロが可愛く咲いている。
タカネビランジも・・・。

帰りは一気に下山。
1時間もかからない。
余裕のある方は、少し下ると尾白川の渓谷遊びも楽しめる。

当店の山の本は書棚2段分。
神奈川県下の丹沢の本、ヒイキの上田哲農や田淵行男、足立源一郎などの絵本・写真集・エッセイ集などが、並んでいる。
その壁面には尊敬する串田孫一さんの山の淡彩スケッチが飾ってあります。
山のエッセイ本には淡彩のスケッチ画がよく似合う。
今週の推薦本は、とりあえず以下の3点。

ウメバチ草のカバー絵が可憐な「可愛い山」
石川欣一著(中央公論社の新書・昭和29年刊)

可愛い山sIMG_0003


これまた、著者のスケッチ満載の「山とある日」
上田哲農著(中公文庫版・昭和54年刊)

山とある日



山岳写真家・ナチュラリスト田淵行男の写真集「山の手帖」
(朝日新聞社・昭和62年刊)

山の手帖

犀星「女ひと」の復刊

久しぶりに書店の岩波文庫の棚をのぞくと、懐かしい露草の絵のカバーが目についた。
初刊の瀟洒な小型本・室生犀星の「女(おんな)ひと」が同じカバー絵(装画・小林古径)を使って岩波文庫で復刊されていた。
当時の新潮社編集者の想い出も入っていて、うれしい再デビューだ。
(このところ岩波文庫の新刊は見のがせない。久生十蘭も出たし・・・)
この本、戦後、不遇だったこの老作家の晩年、見事な復活をするキッカケになった本で、売れない作家を返上した評判のエッセイ集だった。
すぐ続篇と称した蝶の絵を使った同造本の本も出たし、その後の「杏っ子」の連載など怒涛の仕事が始まる。

昭和30年代の代表的作家としては、この犀星や幸田文が小生の好みですが、この本はサイズも装丁画も造本もお気に入りの一冊。

女ひと


新潮文庫にも入ったことがあるが長く絶版状態だったこの本が、カバー絵を生かしていつも手に入ることに感謝。
当店の常備本に加えることにしよう。

犀星は自著の装丁にもかなり注文を出し、うるさかったようで、筑摩書房の編集者だった栃折久美子さんも苦労したようだ。
(「火の魚」を読んで下さい)
犀星本は、木版画家・畦地梅太郎さんの木版文字を使ったりして、シンプルが基調の本づくり。
好きだった庭の美学も行きつくところ、庭木も築山も石も次第になくして、好きだった五輪塔、石仏、宝篋印塔、石燈籠、つくばいも最低限におさえ、あるいは無くして、とうとう垣根と苔庭だけの庭に落ち着くところまでいく。
究極のシンプルな庭の美学。
本の造本もそれに近い。
苔の庭には初秋はキキョウの二・三輪、晩秋にはリンドウの一・二輪も咲けばよい。
好きだった露草も、いかにも犀星の美学にピッタリのシンプルな美しさ。

犀星の文庫本として、当店で常備している同時代のもうひとつのベストセラー「杏(あんず)っ子」(新潮文庫)も、カバーに初刊本の山口蓬春の絵を使っていて、好ましい本となっている。

杏っ子


単行本もお店にありますのでご覧下さい。


本日10日より18日(火)まで2回目の夏休みとなります。
8月19日より開店いたします。
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