図書館のねずみ

南アルプスの伏流水を使った香り高い珈琲を啜りながら、じっくりお気に入りの本が選べる本好きのためのささやかなサロン、ブックギャラリー&カフェ風信。現在は店舗移転の為、日々奮闘しております。書店では扱っていないような古書、絶版文庫を集めています。

2012年09月

稲穂デザインの黄金色の五円玉を見ながら・・・

富士の初冠雪は、ここ山梨でも確認できる。
ようやく秋に入ってきたのを実感できるのは、稲田の色。
色づいてきた稲穂がたれてきた水田を見ていると、農家でなくても楽しい気分になる。
八月下旬から黄味を増していた水田が、九月も中旬になると穂は黄金色に近づいていく。
茎葉がカサカサに乾燥してくると収穫は近い。
高原から降りてきたアキアカネは、もう赤トンボとなり群れ飛んでいる。
まだ、昼間はセミの声も聞こえるが、夕ともなれば秋虫の鳴き声でいっぱいになる。
とうとう今年はクマゼニの声を聞かなかった。
クマゼミは何年周期で発生するのか?
あれほどうるさく鳴いた年は何年前だったのか、思い出せない。

八月、庭のリョウブの木が花をつけたまま勢いをなくして葉も枯れ始めたので、「なぜか?」と思っていたが、やはり活水が原因だったようだ。
このところ異常に雨が少ない。
リョウブは根が浅いのか?
水を欲しがる木なのか、水をやり続けるとやっと枯れた葉枝のわきから新芽が出てきた。
やれやれ。

山百合の終わった八月から九月の中央高速の土手はタカサゴユリの天下だ。
穂の出揃ったススキに混じって、白いテッポウユリのような花がやたらと目立つ。
この台湾産のユリは庭から逃げ出して、今や完全に雑草化している。
繁殖力旺盛なこのユリは、茎の脇からたくさんの種を付け、たちまちユリの原としてしまう。
高速道路の土手という絶好の住み処を得て、このユリの原は広がるばかりだ。

今年の中秋の名月は何日になるのか。
この日に供えるのは秋のめぐみ、クリ、イモ、カキ、ブドウ・・・それと、野の花。
ススキに似合うのは、黄色のアキノキリンソウ、青紫のセキヤノアキチョウジやノコンギク、ヨメナ。
(まだ、咲き残っていればキキョウやツリガネニンジン)
そこにハギの花やワレモコウでも入れば「武蔵野図屏風」の秋草の世界となる。

美しい稲田の写真集が見つからないので、植物写真の開拓者・富成忠夫さんの晩年の代表作「季」(1982年刊)を取り上げたい。

季

この写真集は自費出版の形ですべての商業出版の制約を取り除いて制作された究極の写真集。
花の写真集ではあまり使わないマット調の用紙にカラー印刷した熟練たちの仕事。
日本の野生植物の四季をしみじみと味わうことができる。



奇書「本が崩れる」の草森紳一

 文藝春秋社の文学雑誌「文学界」に奇妙な長篇エッセイ「本が崩れる」が載ったのもかなり珍しいが(1999年)、少年時代の野球熱を綴った「素手もグローブ」と荷風、吉田茂、岸信介、本人、司葉子、南田洋子のタバコ姿が見られる「喫煙夜話」も加えて一本とした草森紳一の「随筆・本が崩れる」(2005年刊)が文春新書に入ったことにも驚いた。
新書には珍しく300頁をかるく越えている。

本が崩れる・表紙

なにしろ草森紳一の本といえば、50冊を越える著書を持つだろうが、1冊の文庫本も持たない珍しい作家だ。
毎日出版文庫賞になる大冊「江戸のデザイン」(昭和47年駸々堂刊 定価12000円)は横尾忠則装幀の豪華本として刊行され、評判となったが、その他の本は賞とは無縁の売れない大著のオンパレードだ。
(晶文社本「子供の場所」「ナンセンスの練習」などは別として)。

「衣装を垂れて天下治まる」(昭和49年駸々堂刊)は、A5判384頁、定価2800円。
「見立て狂い」(昭和57年・フィルムアート社)は、A5判398頁、定価3800円。
「あやかり富士」(2000年・翔泳社)は、A5判418頁、定価4800円。
「荷風の永代橋」(2004年・青土社刊)は、A5判、ついに876頁となった。
定価4800円。

これでは生半可な読書人はついて行けない。
版元としても、相当の覚悟がいる。
大手の出版社はまず引き受けないだろう。
文春が2冊の本を出せたのも「文春新書」というシリーズがあったからだろう。
重版はまずないだろうけどシリーズとしての最低限度の部数を確保すれば損はしないだろうから。
新書判ならば制作費も安上がりだ。
原稿用紙400枚以下ならばこれでよし。
問題は1000枚近い大著だ。
これこそ草森の本領とするところだが、草森にとりつかれた中小出版社の編集者が社長をだまくらかして何とか出版にこぎつけることになるが、まず2冊位が限度だろう。
分厚い本だから、返品の山も高く目立つ。

草森の本との格闘は、「本が崩れる」の写真で改めて明らかになった。

本が崩れる・中

いつかの地震でフトンの上に崩れ落ちた本で身動きできず、顔への直撃こそ、少年野球の手技で払ったものの・・・復旧まで20日間もかかったという本の崩壊。
本は凶器ともなる恐怖の日々。
又、積み上げた本の山が何かのヒョーシに崩れ落ちドアが開かず、フロ場に閉じ込められた話。
かくて、本の積み上げの技術は高まり、レンガのように身の丈までも積んでしまった廊下の本の山。
天井近くまでピラミッド状の三角形に積み上げた耐震ピラミッド。
もはや、山の下方の本は取り出すことは不可能。
これでは何のための資料蔵書かわからぬ。
文明の機器テレビも冷蔵庫も棄てた。
タンスも机もイスも・・・すべて本のためのスペース確保のためだ。
どれも古本屋や古書コレクターにとっても身につまされる話だが、「本が崩れる」話だけで新書一冊分になるほど(400字原稿用紙150枚位と思われる)書くのは草森さんしかいないだろう。

氏はこの新書が出た3年後、2008年に突然亡くなった。
決して本の崩壊圧死ということはないが、数万冊の本の行方が気にかかる。
遺著となった半自叙伝「記憶のちぎれ雲」(2011年・本の雑誌社刊)も構想の未だ極く一部だが、四六判444頁の大冊となった。
定価2800円。
さて残された膨大な未刊行エッセイを含む草森紳一著作集は何処から出るのだろうか。

「江戸のデザイン」の書影位は出したいと思ったが、大分前に2万円の誘惑に負けて売りとばしてしまった。
この本、中央図書館には置いてあるが、他の本同様、外函を捨ててしまうので載せられない。
この横尾装のデザインは裸本では可哀想だ。
どんな本でも一律に外函を捨ててしまう図書館の方式は不可解だ。
もっとも、草森本の装丁・挿画は、井上洋介が一番似合っていると思うが。

どこにでもあった「日本の美しい風景」はどこへいったのか?

日本の大都市近郊の農村風景ほど変貌し、破壊が進んでしまったところはない。
昭和30年代までは確かにあった美しい日本の原風景は、もうここにはない。
里山は崩され、座浮きばやしは切られた。
溜池も湧き水の出た泉も埋められ、次々と住宅地となった。
明治の英国人を驚かした美しい棚田や畑も、次々と消えていった。
大都市に繋がる道路は立派に舗装され、ドライブ・インが立ち並んだ。
僅かな急斜面の緑と、寺・神社・小さな祠や石仏だけが残された。
高速道路が全国に張り巡らされると、それが、地方の中都市近郊まで及んだ。
インターに繋がるバイパスには、スーパー・コンビニ・ファミレスからゲームセンター・パチンコまで林立・乱立状態になり、街の老舗までが支店を出している。
何処も同じく大きな目立つ看板を出し、昼間からチカチカ点滅する光る広告板や、派手な幟まで立てている。
必要なものは致し方ない。
しかし、ここまであざといものが溢れることを、日本人は想像し、望んだのか。

この無国籍地帯は無法地帯でもあり、日本らしさの欠片もない最悪の風景。
世界遺産を目指す富士山の麓では、さすがにまずいと思ったのか、路上に並んだ広告幟の撤去を始めたらしい。
幟だけで済む問題ではない。
派手な看板も、色彩も文字の大きさも、町の条例でしっかり規制して欲しい。
観光地を標榜するなら当然だろう。

江戸の町はモノトーンの世界、色で言えばグレーか茶色か。
この白壁や黒壁も交じるモノトーンの街では、暖簾の美しい色が映える。
店頭に何気なく置かれた朝顔撥の緑や、花の水色・桃色が目立つ。
八百屋のみかんの黄色がやけに美しい。
藍染の浴衣や江戸小紋の渋い美、ハレの場での祭りや歌舞伎で見られる派手な色彩感覚は世界を驚かせた。
日本人のSHIBUI美意識は、どこに行ったのだろうか。

かつて大都市近郊にも残っていたの本の美しい農村風景は、今では地方の中小都市近郊の交通不便な村にわずかに残されている。
過疎が進む村では、手入れのよく整った田畑は望めない。
かつての山古志村では、鯉という産業があったから美しい風景画保たれていた。
昆虫写真家・今森光彦さんのアトリエのある琵琶湖西岸から湖北にかけても、奇跡的に美しい日本の風景をそのままとどめている。

かつてどこにでもあっていつの間にか消えてしまった美しい農村風景は、今森の写真集「里山の道」や「里山物語」(新潮社刊)の中で見ることができる。

里山の道

文庫本の「里山の少年」(新潮文庫)もおすすめ。

里山の少年


ギンヤンマが飛び、ゲンゴロウもメダカも住んでいた溜池、よく手入れされた水田のあぜに咲くヒガンバナ、ギフチョウが生まれ林床にはハルリンドウやカタクリの咲く雑木林。
干し柿の吊るしてある白壁の民家。
そのすべてがここに在る。
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