図書館のねずみ

南アルプスの伏流水を使った香り高い珈琲を啜りながら、じっくりお気に入りの本が選べる本好きのためのささやかなサロン、ブックギャラリー&カフェ風信。現在は店舗移転の為、日々奮闘しております。書店では扱っていないような古書、絶版文庫を集めています。

2014年11月

カエデ科カエデ属の紅葉

八ヶ岳山麓のカラマツ林は、もうすっかり黄葉している。
風が吹けばその黄金色の糸のような葉が舞うことだろう。
それに対峙するように、白州町の山・甲斐駒ヶ岳も前山の雑木林は黄色から橙色に輝いている。

甲斐駒

甲州街道沿いの台ケ原宿を中心とする白州町は、紛れもなく甲斐駒文化圏だが、釜無川を越えたわが花水地区は地形的には八ヶ岳山麓の最も下、外れに当たる微妙な場所だ。
甲斐駒方面の南アルプスのサルたちは、山際に作られた金網と20号線、尾白川と釜無川と言う障害があり、花水地区までは入れない。
わが山小屋に来るサルやイノシシ、シカは八ヶ岳山麓を住処とする動物たちだ。
この間又やってきたサルたちは、カキやイチジクを食い荒らし、嵐のように去った。
我が家の屋根に上がる若猿にはカラタチの丸い実を投げ追い払ったが、そのコントロールの無さにあきれ返ったかもしれない。
もう少し前だったら、アケビの実がたくさん食べられたのに。
サルたちは、甘くないカキは一口だけで放り出す。
道に落ちたクルミの実も、鋭い葉で割って食べるのだろうか。
クルミの木の下に集っていたが、小生が近づくとやがて去った。

我が家の秋は、カツラの黄葉から始まる。
それに沙羅(夏椿)とナンキンハゼが混じる。
その後、真っ赤に紅葉したウワズミザクラが落ちてくる。
やがて我が家の守り神・カシワの大樹が黄みを帯びた葉を揺らし始める強風が吹けば、カツラもナンキンハゼもサクラも一気に全ての葉を落として、冬の裸木となってしまう。
玄関先はカツラの落ち葉の香ばしいような甘い香りに満たされる。

カシワ庭



この頃には雑木林のコナラやクヌギの黄葉も深まり、マンサクやトチの木の大きな葉も色づいて、青空に良く映える。

トチノキ


しかし、紅葉の華は、カエデ科カエデ属の紅葉だ。
26種あるカエデ属を持つ日本は世界有数のカエデ産地、カエデ王国と言える。
「モミジ前線」もある日本のモミジは、歴史的に見ても、サクラと並ぶ日本美の象徴となっている。

日本庭園でも常緑の松と、新芽と花時の春と紅葉の秋を愛でるモミジ(カエデ属)は、庭の中心となる。
一昔前、若狭の一乗谷で発見された朝倉家邸の庭園跡を見たことがある。
この豪放な岩組のある廃園の見どころは、空き地となった池畔に立つ巨石とモミジ(イロハモミジ?)の大樹であることは明らかだった。
庭石と一本のモミジ巨樹(一本楓)がこの庭の格調を語っている。
朝倉家の城下町がどう復元されたか…もう一度行ってみたい。

我が家のカエデ属は、ヤマモミジの園芸種(名月?)、イタヤカエデ、ウリカエデ、トウカエデ、コハウチハカエデ、ハナノキの5種だけだが、若いトウカエデがもうこんなに太い幹になり、落ち葉も多い。

カエデ属
トウカエデ







紅葉の色付きの変化や美しさは、葉の形はモミジ葉とは言えないが、ハナノキが一番だろう。





ハナノキは長野県南部から愛知県、岐阜県、滋賀県の一部の湿地に生えるカエデ属だが、その名のように春の花も赤く美しい。

ハナノキ

メープルシロップの採れるサトウカエデ(カナダ産)や葉のきれいなメグスリノキ(これも縁のなさそうな葉の形だが、カエデ属)も植えたいが、もう場所がない。
何しろ、カエデ属の木は他の木陰に入ると、すぐ枝を枯らしてしまう。
狭い庭ではイカントモシガタイのが難点だ。

ピラミダルな姿の甲斐駒は?

空気が澄んできた秋から初冬にかけて、甲斐駒ケ岳の真上にジェット機がヒコーキ雲を引いて飛ぶ頃、夕景時の山並みが見事なシルエットを見せるときがある。
陽が沈みかけだし、空が赤く染まった直後、まぶしく輝いていた山並みが漆黒のシルエットと変わる。
その後、沈んでしまった夕陽が、何の加減か、反射か、数分間、光が表面にも廻ってきて、山全体がクッキリ微細な部分まで見える一刻がある。

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甲斐駒の頂上に立つ登山者の姿まで見えると思うほどだ。
実際は鳳凰三山、地蔵岳頂上に立つ岩のオベリスクと比べれば、4〜5メートルの巨人でない限り無理だろうが…。


山の名はその山容から名づけられる場合が多い。
甲斐駒の山並みシルエットを見てみよう。

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右から鞍掛山、鋸山の頂上部分、烏帽子岳、二つくらいしか見えないが三ツ頭、ほんの少し丸い頭が見えるかどうかの坊主山、そして甲斐駒ケ岳へと続いていく。
甲斐駒の左についているのは摩利支天の大岩壁だ。

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この駒ヶ岳の名は、山容からでも雪形からでもない。
白州の人たちが毎日臨む甲斐駒は、このコブのある摩利支天がついた山容だ。
これが少し上の台地となる長坂や高根町などから見ると、もっと摩利支天が強調されて魁偉な姿となる。
中央本線の韮崎から登って、日野春−長坂−小淵沢間の風景に表れる甲斐駒もこの姿だ。


ところが、登山家たちにとっては、甲斐駒はピラミッド型の山頂を持つ代表的な山ということになっている。
「山のABC」(全3冊・創文社刊)にも、ピラミッド型の山として甲斐駒が大きく取り上げられている。

山のABC

百名山の深田久弥も「日本アルプスで一番代表的なピラミッドは、と問われたら、私は真っ先にこの駒ヶ岳をあげよう。その金字塔の本領は、八ヶ岳や霧ヶ峰や北アルプスから臨んだとき、いよいよ発揮される。南アルプスの巨峰群が重畳している中に、この端正な三角錐はその仲間から少し離れて、はなはだ個性的な姿勢で立っている。まさしく毅然という形容に値する威と品を備えた山容である。」と書いた。
深田は、十名山を選べと言ってもこの山を落とさないと言うほど甲斐駒好きであったから、この名峰賛美は多少割り引くとしても、ピラミッド型の美しい山容との印象は変わらない。

この美しい印象は少し離れて、中央高速の勝沼インター出口手前から見ることができる。
フロントガラスの遠くに永く広がっている南アルプスのたまたまに続いて、少し離れた端に一段と高く美しいピラミッドがそびえていた。
初めはこれが甲斐駒だとは俄かに信じがたかったが、インターを下り20号線を走るうちに、次第にそれがはっきりしてくる。
摩利支天らしきものも気にならない堂々たる山容だ。
この姿は反対側の南信濃・伊那や木曽駒ケ岳の高みからも眺められるだろう。
近すぎた白州からは信じられないほどのピラミダルな山容がそこにあった。
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