図書館のねずみ

南アルプスの伏流水を使った香り高い珈琲を啜りながら、じっくりお気に入りの本が選べる本好きのためのささやかなサロン、ブックギャラリー&カフェ風信。現在は店舗移転の為、日々奮闘しております。書店では扱っていないような古書、絶版文庫を集めています。

2015年09月

ミンミンゼミが鳴いている彼岸かな〜清方本について

昨夜は中秋の名月、夕方ころには雲が消え、きれいな満月となった。
2時間後くらいには突然の雨に隠れたが、各地の名園・休暇では観月の宴が行われたことだろう。
横浜では三渓園、山梨では根津邸庭園ということになる。
松本では松本城の月見櫓だろうか。
旧暦の日本では、月見の重要性は現代では想像がつかないほど大きかったに違いない。

今年の秋の訪れはかなり早かった。
天候不順はお盆を過ぎるとすぐ始まり、台風も秋を呼び込んでしまった。
名月には欠かせないススキの原は、9月初めから穂が出そろってしまった。

ススキ原

しかし、秋らしい気持ちの良い秋晴れは5連休まで待たねばならなかった。
農家では乾燥した秋晴れを待っていたから、一斉に稲刈りが始まった。
まだ、ミンミンゼミが鳴き出したのには少々驚いた。
彼岸花も咲きそろい、クルミも落ち始め、アケビの実も色づき始め…セミが鳴いている。

あけび

夏後半の低温や雨続きに一番悩まされていたのはセミたちだったのか。
お相手は見つかるだろうか…心配だ。
夏の後半に生まれてきたセミたちにとって、今年は受難の年だっただろう。



しばらく本のことについて書いていなかったが、本の装丁のことに触れたい。
活版印刷全盛のころの日本独特の貼り函入りの美しい本たちのことだ。
明治・大正では夏目漱石と橋口五葉の装本。大正から昭和初期では、泉鏡花と小林雪岱。

日本橋

昭和初期には、永井荷風と木村壮八が組んだ「濹東綺譚」があり、同じく壮八の大佛次郎と組んだ「霧笛」などの横浜開花ものがある。
組んだというのは、新聞や雑誌連載で毎回挿絵を描き、装本まで手掛けたということだ。
谷崎潤一郎と小出楢重の名作「蓼食う虫」も思い浮かぶ。
戦後から最後の活版印刷文化が花開いた昭和30年代から40年にかけては、谷崎と棟方志功の作品がある。
岩波文庫版「濹東綺譚」や「蓼食う虫」には挿絵が入っていて楽しいが、発刊当初のカタチを見ておいたほうが良いだろう。
手に取って読むに越したことはないだろうが…。
復刻本もあり、図書館や県立文学館では手に取ることもできるだろう。

山梨県も立派な県立文学館があるのは、幸せなことだ。
神奈川県には鎌倉文学館もある。
先月末に終わった山梨県立文学館では「本のおしゃれ展」と称して、文学書の装丁を見る展覧会もあり、第一書房・堀口大学訳の「月下の一群」を見ることができた。
天金・金箔押しの豪華な装本。
深沢七郎「笛吹川」や「楢山節考」の装丁原画、博文館から出していた文芸雑誌「文章世界」の小出楢重の表紙画など、興味深い展示があった。
ここには、芥川龍之介の最大級のコレクションが寄贈されているのも見どころだ。
むろん、山梨ゆかりの作家、樋口一葉・山本周五郎・井伏鱒二・田中冬二・中山介山・太宰治・山崎方代・飯田蛇笏…などの資料・初版本も。
田中冬二の前川千帆装丁本(詩集「故園の歌」アオイ書房版)を見たのもここだ。


文芸書の発刊当初のカタチを見ることは大事だ。
初版本の意味もここにある。
例えば、鏑木清方の文章は白鳳社の著作集ではほとんどが読むことができる。
その、主要著書「こしかたの記」は中公文庫、随筆は岩波文庫「明治の東京」などで、手軽に読むことができる。
しかし、雪岱の装丁になる岡倉書房版「銀砂子」や書物展望社版「築地川」を、また、装いを少し変えた双雅房版「築地川」(鏡花の序文が入っている・この本は大佛次郎の旧蔵本だったようだ。所蔵印があった)を見てもらいたい。
どちらも、岩本和三郎が版元・発行者、装本は清方自身。

銀砂子


双雅房版「築地川」

築地川表紙

築地川目次1築地川目次2






双雅房版が清方好みだろう。
文人画家・清方の美学がこの本の中に見事に表現されている。

次回へ続く。

秋の七草  屮ズの葉」考

9月初めに妻が言うには
「windows10をインストールしたら、次の日パソコンが起動しなくなった。なんで!!ヘルプに聞きながらいろいろやってみたが、解決しなかった。修理に出さなくてはならないけれど、最後の四国旅行の写真だけはバックアップを取っていなかった。残念!」

と、言うわけでパソコンは2週間出かけていた。
戻ってからが、また、大変…そうなのか。
家電のようにプラグを差し込んでスイッチを押せば働くというものではない…らしい。
仕事をもっている妻はシルバーウイークまで待って、あれこれ様々な実際の線をつなぎ、インターネットで色々つなぎ、やっとめでたく前のように利用できるようになった…そうだ。
パソコンというやつはなかなかに気難しい道具のようだ。
そして、油断できないもののようだ。
しかし、便利この上ないもののようだ。


夏の車窓はクズの葉ばかり見ることになる。
線路の崖や土手はクズで覆われ、ツルは垣根や電柱まで登り始める。

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バイパスの法面はすべてクズの海と化する。
ツルは車が走らなければ路面まで占領しかねない。
無人駅では、空き地や斜面から伸びたツルがプラットフォームまで覆いそうな勢いだ。
真夏のクズの成長は驚異的だ。
アメリカでは日本のクズを荒地の緑化、グランドカバーに有用だとして導入したが、今ではそのあまりの勢いに手を焼いている。
反対に日本では、外来の植物・荒地ウリが河川敷や休耕田を占領している光景をよく見かけるようになった。
両者が合わさったら最強となる。
電柱を支えるワイヤーを競うように上り始め、ツル植物止めを簡単に乗り越えてしまう。
そこにヤブカラシやカナムグラでも加われば大変なことになる。

林業家にとっては、クズは一番厄介な敵となる。
日当たりのよい山地の斜面に植えられたスギ・ヒノキの苗木はたちまちクズが全面を覆い、日光を遮ってしまう。
早くクズを取り除かないと手遅れとなる。
林業の盛んな吉野が昔から葛粉の生産地となっているのは、意味のあることだ。
ここにはクズの根を掘る山人がいる。
「吉野葛」が高価なのも、その手間を考えればもっともなことだ。

吉野葛

「若狭葛」高級食材となってしまった。
「伊勢葛」「吉野葛」には近くに京都という、日本料理や和菓子の本場と周辺の林業がある。
「筑前葛」も城下町と近くに林業家がいるからではないか。

クズはマメ科のツル性植物で、荒地に強く根には良質のデンプンを大量に蓄える。
晩秋から冬にかけて根を掘り出すが、予想以上に太い。
芋のように養分をため込んでいる。
厄介なことに、ツルは節ごとに地面に振れれば根を出す。
ツルを引っ張っても仲々最終の本根までは行きつかない。

葛粉は予想以上に古くから利用されていたのではないだろうか。
葛布のようにツルの繊細を布とすることや葛根湯のように薬用として使い始めれば、当然その根のデンプン質も利用されるはずだ。
葛粉の精製技術が中国から伝わる鎌倉末〜室町以前、古代から日本では独自に利用されていたのでは?
秋の七草に万葉の時代からクズの花が選ばれている説明がつかない。
万葉人、憶良の完成には、秋の花といえばハギの花だ。
そしてその周辺にはススキ、キキョウ、オミナエシ、フジバカマ、ナデシコなどが咲く秋草の図の風景。
絵の高いススキに絡むクズの花をあえて描くとすれば、高原に咲く弱弱しい小さな歯のクズ花だろう。
秋草の原を覆い尽くす」葛の花が七草に入る余地はない。
ワレモコウもヒガンバナもリンドウもホトトギスもない。
美しいノギクの種類も入れないで憶良がクズの花を選ぶとすれば、有用植物として慣れ親しんだクズの花、意外な赤紫の色彩しかないのではないか…。


9月も半ばが近づけば、マメ科特有の形をした赤紫のクズの花が大きな葉陰に見られるようになる。

クズの花


クズの葉

万葉の歌のように葉裏がなびく秋風の光景を美しいとも思えない。
葉裏が美しいのは、タケニグサの大きな葉の白さのほうがよほど美しくなびいている。
クズの花がそれほど美しく感じないのも、万葉人とは違って、現代ではクズの雑草化が一段と進んでいるからではないかと思われる。
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