図書館のねずみ

南アルプスの伏流水を使った香り高い珈琲を啜りながら、じっくりお気に入りの本が選べる本好きのためのささやかなサロン、ブックギャラリー&カフェ風信。現在は店舗移転の為、日々奮闘しております。書店では扱っていないような古書、絶版文庫を集めています。

2016年04月

C・マッカラーズと佐伯彰一氏の仕事

連休中でもまだ桜を楽しむことはできる。
北海道の話ではない。
ここ山梨や長野のある程度標高の高い里山では、山桜と新緑の美しさは、この時期一番の喜びだ。

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もやのかかった山々の樹々が芽吹きの柔らかい色合いを見せて美しい。
史郎ヴェールに包まれた新緑の中に山桜のサクラ色や白、その新葉の脳茶から黄緑色までが加わると、一段と見ごたえがある。

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コナラや、カシワ、オニグルミなどは芽吹きと同時に長い花穂を伸ばしている。

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山桜の花色が白から濃い桃色、緋色に近いものまで様々に変化があるのが魅力だが、近づいてみれば誠に地味なものだ。
花自体の数が少ない。
真下に来れば空と一体になってよく見えない。

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山桜は少し距離を置いて眺めるものだろう。
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サクラの新しい葉やカシワ、ホウの葉など、柔らかく、いかにもおいしそうな、新葉が古から餅や寿司ご飯を包むのに使われているは、サモアリナンと思える。
朴の信用が展開していくのを見ていると。つい、木曽谷のホウバナモチを思い浮かべてしまう。

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さて、昨年のクリスマスの日に「伊那谷の老子」が亡くなって、その訃報が知らされた1月6日か7日、もう一人重要な人を亡くした報が続いた。

元旦1月1日に佐伯彰一さんが亡くなったのだ。
訃報には東大教授(都立大から東大教授、そして退官後は中央大学教授)」、アメリカ文学研究者、そして晩年は三島由紀夫記念館館長と、略歴が簡単に記されていただけだったが、その仕事は幅広く深い。
東大大学院時代は「人文科学研究科比較文学比較文化専攻」の主任教授という肩書になっている通り、日本とアメリカ文学に比較文学の研究、アメリカやカナダの大学での日本文学講義という経験から、より広く比較文化へと進み、「外から見た近代日本を考える」。
さらに、岡倉天心や神道(佐伯氏は立山信仰の中心・芦山弁寺の神宮の家に生まれる)についての著作にまで及んでいる。

また、「自伝論」という日本では未開拓の分野を切り開いたのは佐伯さんであった。

日本人の自伝」

その代表作「日本人の自伝」(講談社学術文庫)には、日本人の残した自伝の系譜を追って、勝小吉「夢酔独言」、鈴木牧之「夜職草」(よなべぐさ)、内村鑑三「余は如何にして基督教徒となりしか」、福沢諭吉「福翁自伝」、新井白石「折たく柴の記」、山鹿素行「配所残筆」。松平定信「宇下人言」(うげのひとこと)。
そして、女流・江馬細香や只野真葛の自伝に及び、締めとして芸談として知られる七世市川中車の「中車芸話」、初代中村仲蔵の「月雪花寝物語」、三世中村仲蔵の「手前味噌」を取り上げている。
並みの文学研究科ではとてもできない仕事だ。
英語圏の自伝も含めてとてつもなく広い分野に分け入る読書人がここにいる。
佐伯さんの家が本に埋まっているのは、夫人の証言を待つまでもなく明らかだ。

伊奈谷の老子・加島祥造さんとの共通点がある。
当然二人ともアメリカ文学がメーンだから、両者ともヘミングウェイとフォークナーの翻訳を持つ。
そして、佐伯さんはカーソン・マッカラーズの紹介者としても重要な仕事をされたが、(「針のない時計」の翻訳(共訳)も佐伯氏となっている)加島氏も「夏の黄昏」の翻訳(福武文庫)を持っている。
マッカラーズは重要な作家だが、日本では紹介が遅れていた。

マッカラーズの処女作「心はさびしき猟人」が出版された1940年はヘミングウェイの「誰がために鐘はなる」も出版され、フィッツジェラルドが死んだ年であった。
又、マッカラーズの最後の作品「針のない時計」が出版されたのは1961年、ヘミングウェイが死んだ年。

南回帰線

そして、マッカラーズが持病のひどい関節炎が昂じて亡くなった1976年にはスタインベックも死んだ。

マッカラーズの日本での評価はまだこれからだ。
それにしても、マッカラーズの作品がいまだほとんど絶版(文庫)状況なのは不可解だ。村上春樹訳「結婚式のメンバー」が出るようだが…。

サクラ色のルーシー・リー、深いマリンブルーがほんの少し

車窓の風景が、春霞がかかって見通しがきかない。
近くにあるはずの富士山でさえ見えない。
里山の樹々は新芽の春色となってミルク色の中にかすんでいる。
常緑のシイやカシ類も新芽の柔らかいオリーブ色が盛り上がって古い葉と交代しようとしている。
黄と淡い緑の間に、サクラ色や白が混じって微妙に滲んでいるのが見える。
ソメイヨシノや山桜の色だ。
もう陽は高くなっているのに、向こうの海も白く光っているだけで空と見分けにくい。
シラスやサクラエビ漁の船が見えるので、海だとわかる。
列車は東海道・由比駅に近づいている。
由比漁港が小さな漁船に埋まっている。
今日は青春18きっぷの最後の1枚を使って静岡まで行く予定だが、途中下車しても十分時間がある。
解禁したばかりの駿河湾のサクラエビで腹ごしらえしてからでも遅くはないだろう。
ついでの由比宿にあるという由比正雪の成果と言われる紺屋も見たいし…サクラエビのかき揚げ丼の誘惑に抗しきれず足はもうプラットホームに降りてしまった。
そういえば、今日見るはずのルーシー・リーのピンク色の器も、桜の花色で染めたような美しいボール(小鉢)というよりは、この時点ではサクラエビ色のどんぶりがちらついて離れない。
陽気のいい土曜、しかも昼時ということで漁港の店は大行列、すぐここはあきらめてサクラエビ通り(漁港近くの旧街道をいう)を少し離れた店で春の味を賞味。
正雪の紺屋へ。

正雪生家

近くの昭和初期の銀行建築やカメの甲羅干しを見て静岡へ向かう。

清水銀行清水銀行 (2)

カメの甲羅干し



今度の「没後20年・ルーシー・リー展」は茨城県立陶芸美術館、千葉市美術館、姫路市立美術館、郡山市立美術館と巡回し、静岡市美術館が最後となる。

ルーシー・リー展覧会パンフレット

今日9日がその初日、いつも最終間際になってバタバタと行く羽目になるのに、珍しいことだ。
(これも、青春18きっぷが10日までというだけからだが…)

地方都市を巡回するこの種の重要な展覧会の情報は、よほどまめに気にしていないと届かない。
静岡では初日のこともあり、ポスターやパンフレットが目立って、情報誌にも紹介されるのだが、首都圏までは伝わらない。
もちろん専門雑誌や地方新聞(主催の新聞社の)には紹介されるのだが、一般向けの全国紙がもう少し細かい情報を伝えてほしい。

例えば、先月終わった愛知県陶磁美術館の「煎茶」展も売茶翁・高遊外の使った茶器や茶銚・急須の名品が展示された貴重な展覧会であったが、中日新聞でも読んでいないと気がつかない。
もったいないことだ。

煎茶展覧会パンフレット



今回のルーシー・リー回顧展は、初期のウイーン時代の作品やイギリスに逃れた戦時のボタン制作までも含め、晩年のパーツを組み合わせて作る大き目の花器やブロンズ釉を使った大き目の鉢まで日本初公開の作品が多い。
しかしやはり魅力的なのは、50年代のハンス・コパ―と組んだ時代から、70年代・充実期の線文鉢だろう。
天然の貝殻を見るような搔き落としの線が入った紙のように薄い小鉢は、恐ろしく繊細で魅力的だ。

また、緑釉にブロンズ釉をたっぷりかけた鉢など、遠州好みの茶器に使えそうな作品もあるが、コーヒーや紅茶好きの人たちにはコパーとの共作になる茶釉線文のコーヒーセットやティーセットが素敵だ。
このカップでコーヒーを飲みたいと思わせる魅力を秘めている。
サクラ色やグリーンにチョコレートを垂らしたようなブロンズ釉がかった鉢の一部を拡大したポストカードがあるが、フランボアーズをはさんだチョコレートケーキに見えてくる。

コーヒーカップポストカード



展覧会の後は、15代将軍だった徳川慶喜の邸跡に残る庭園(浮月樓という料亭になっている)を覗くだけだ。
京の庭師・小川治兵衛の作庭になる池や慶喜お手植えの台湾竹を眺めて、すぐ満足。

浮月樓

静岡らしく旧須田氏の煎茶でも味わって帰るとしよう。
家康が愛した本山茶にするか。

本山茶

それにしても、駅ビルの隣に楠の巨木や池がある都会はほかにあるだろうか。
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