〔映画〕というものは、しばらく観ていないと、なかなか観るきっかけがつかめず、敷居が高くなり、ずるずると観ないで済ませてしまうものだ。
スクリーンではないBSやDVDで古い映画を楽しむのは、別の次元のことである。
「あん」以来、しばらく観ていなかった映画を観に行くきっかけになったのは、川島雄三監督作品「洲崎パラダイス・赤信号」のチラシを観たからだ。

洲崎パラダイス・赤信号

ミニシアターや独立館が少なくなり、シネマ・コンプレックスばかりになってしまった横浜では、古い映画を観ることができる機会はそれほど多くはない。
シネマJ&Bの孤軍奮闘ぶりが目立つだけだが、他にも会員制のシネマクラブや神奈川近代文学の日本映画上映会など、わずかなチャンスがある。
「洲崎パラダイス・赤信号」も岩間シネクラブの思い出名画館(第124回)の珍しい日本映画上映となる。(6月16日・保土ヶ谷岩間市民プラザ4Fホール)


川島作品は唯一の時代劇「幕末太陽伝」(1957年)ばかりがもてはやされているが、晩年の若尾文子主演の三作品(「雁の寺」「しとやかな獣」「女は二度生まれる」)や文芸モノ「貸間あり」(「井伏鱒二原作)、「わが町」(織田作之助)、「風船」(大佛次郎)、「暖簾」(山崎豊子)、「あした来る人」(井上靖)など興味深い作品がある。

しかし、昭和20〜30年の現代モノの魅力は、当時のロケ地の風景・風俗が見られることも大きい。
失われた建物や街並み、風景を大画面で見られるだけでも貴重だが、そこを舞台に水準以上のドラマが展開すれば言うことはない。
以前、大森の成瀬巳喜男作品週間で、「鰯雲」(昭和33)を観たことがあるが、厚木駅近辺の田舎ぶりに驚いた。
また、相模原や津久井近郊の農村風景の美しさも目に染みた。
都市近郊のその後の醜く貧しい風景を見るたびに、昭和30年代までは大都市周辺にも美しい農村風景が残っていたことを確認できる。


「洲崎パラダイス・赤信号」では最初の勝鬨橋シーンから、洲崎パラダイスのネオン門のある遊郭入り口の震災復興橋と堀川など、江東地区の運河や橋が印象的に描かれている。
埋め立ての土砂を運ぶダンプカーが疾駆する場末の歓楽街、スクーターで日参する神田のラジオ店のオヤジ、橋の入り口にある小さな飲み屋はすぐ下の貸しボート屋を兼ねている。
この飲み屋は蒸発した亭主を待ち続ける女(轟夕起子)が守っている。
ここにたどり着いたのが腐れ縁の男女。
(川島作品に欠かせない俳優・三橋達也と宝塚スターから転身した新珠美千代)。
飲み屋のシーンこそセットの撮影だが、外のシーンはそのままロケ地となる洲崎の埃っぽい街並みや橋の親柱や照明が移り、夕暮れともなれば洲崎パラダイスのネオンが輝く。
売春防止法施行直前の場末の盛り場がよみがえる。
ソバ屋の娘役・芦川いずみも、ちょい役(出前役)の小沢一郎も楽しめる。

三日後は横浜キネマ倶楽部のドキュメンタリー映画「春よこい」(安孫子亘監督)。

春よこい


いつもは横浜西口近くの西区公会堂だが、今回は鶴見公会堂で上映された。
このシネマクラブは、自主上映される上質なドキュメンタリーやミニシアター系の名作を選んでいる。
以前、ヤン・ヨンヒ監督の「かぞくのくに」とその講演に行ったことがある。

かぞくのくに


次回、8月には塚本晋也監督・主演の「野火」(大岡昇平原作)が第44回の上映会となる。
これも必見の作品。

野火

この横浜キネマ倶楽部は「横浜に映画ファンの思いが反映される映画館を作る」との目標で、2005年にできた団体、応援したい。

一度観始めるとなかなか止まらないのも「映画」の病。