2010年03月02日

生きるって人とつながることだ!

「私はこれまで、<健常>→<全盲>→<全盲ろう>という三つの状態を経験した。これは、私が周囲の{世界}から徐々に隔絶されていった過程だと言える。
だが、その一方で、より確かな結び付き、より豊かなコミュニケーションを経験できたように思う」と語る著者・福島 智の自伝的エッセイ集。
3歳で右目、9歳で左目が見えなくなり、小学校4年生のときは登校できず、翌年、盲学校小学部へ転入。
全盲になったとはいえ、福島少年は、生来の活発さや好奇心、勉強への意欲は盛んで、このころから落語をよく聞き、SFが好きだったという。このエッセイ集の行間にあふれるユーモア感覚や想像力の豊かさは、少年期からの読書やSF好きが下地になっているのではないかと感じさせる。
目の病気で入退院をくり返し、母と通院することの多かった少年期。明石の潮騒を聞き、ワカメ採りが上手だった父や兄たちと暮らしていた著者は中学部を卒業し、1979年(昭和54)、東京の筑波大学付属盲学校高等部へ入学。新しい仲間を得、 スポーツや音楽を楽しむ日々が続いていた。ビートルズを愛し、自分でもピアノを弾き、トランペットを奏でるほど音楽が好きだった若者に、過酷な試練が襲いかかる。
すでに14歳(中学生)のとき右耳の聴力を失い「片耳」状態になっていたが、18歳になったばかりの著者は左の耳の聴力まで奪われ、全盲ろうになったのである。
それは「底知れぬ孤独だった」と言い「盲ろう者となって最もつらかったのは、周りの状況がまったくつかめなくなったことと、他者とコミュニケーションが極端に困難になったことである。私はこの{世界}にありながら、実は別の{世界}で生きていた。私一人が空間のすべてを覆い尽くしてしまうような、暗くて狭い、静かな{世界}で生きていた」と語る。
これからどのようにして生きていけばいいのか。他者とどのようにつながっていけばいいのか……。あせりと絶望が入り交じった気持ちを抱え、あるとき母親と意思疎通を図ろうとしているときだった。母親が点字の組み合わせを利用して指先で息子の手に「さ と し わ かるか」という文字を打ったのである。まさに指点字が考案された瞬間であり「何かの光がスパークしたように感じた」のだった。この指点字こそが著者のその後の可能性を大きく開花させることになる。
盲学校高等部へ戻り、友人たちともこの指点字でコミュニケーションを図りながら、大学への進学を目指し、一浪して都立大学人文大学へ入学。 研究者になることを目指していた著者は、都立大の助手を経て1996年(平成8)金沢大学教育学部助教授に、さらに2001年4月、東京大学先端科学技術研究センターの助教授となり、バリアー分野の研究を担うこととなる。
本書が著者と小社との間で企画された2003年には、アメリカの雑誌「TIME]」でアジアのヒーローの一人として紹介されている。また、この頃からかねてより目標としていた博士論文の執筆にもとりかかり始め、2008年5月、東京大学より学術博士号を授与され、同年10月に東大教授になっている。
本書は、著者が盲ろうというダブルハンディを抱えながら、学び、働く中で、その時々の心象風景や人との出会い、あるいは人間にとって障害とは何かについて綴ったものをベース編集されたものである。深い思索と豊かな読書量に裏打ちされた表現と独特のユーモアやペーソスがあやなしている文章は、読者を瞬く間に惹き付けるにちがいない。
体験をもとに編み出されいる一編一編は、極限の状況におかれながらも、しなやかに生きる著者の強さとともに人間の可能性の深さを感じさてくれる。また、自分のことを語りながら、日本国内でも約2万人いるといわれている盲ろう者が置かれている状況へ常にまなざしを向け、通訳者の育成や確保などの支援を呼びかけている。18歳で盲ろうにまったとき、友人に送った手紙には次のように記している。
「俺にもし生きるうえでの使命というものがあるなら、それを果たさなければならない。そして、それをなすことが必要ならば、この苦しみのときをくぐらなければならないだろう。俺の使命が、この苦しみがあって初めて成り立つものだ、 と考えることにしよう」
まさに本書には、運命を使命に変えた人間の記録がおさめられている。

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books_review at 13:43|PermalinkTrackBack(0)clip!文芸 

2010年03月01日

本の話題満載の新シリーズ

憧れの図書館司書となるべく、北アイルランドの片田舎タムドラムにやってきた気弱な青年イスラエルを待っていたのは、図書館の閉鎖という無情な現実だった。代わりの職務として、移動図書館の司書を任されたものの、肝腎の蔵書一万五千冊は一冊残らず消えていた。だれが、なぜ、どこに? 事件を解決するはめになったイスラエルの、孤軍奮闘が始まる。頻出する実在の本の話題も楽しい新シリーズ、発車! 解説=穂井田直美

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  • イアン・サンソム/玉木 亨 訳
  • 東京創元社
  • 1260 円
蔵書まるごと消失事件
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books_review at 21:16|PermalinkTrackBack(0)clip!ミステリー 

ジル・チャーチル絶賛!主婦探偵シリーズ

四人の子どもの母親にして週刊新聞の臨時記者、加えて図書館の理事まで引き受けてしまったルーシー。初の理事会に出席すべく張り切って図書館に行ったはいいが、そこで発見したのは司書の射殺死体。馴染みの警部補に容疑者扱いされたうえ、事件に首を突っこまないよう釘をさされる。悔しさに記者根性もあいまって、バレンタイン目前のティンカーズコーヴで、ルーシーは真犯人を探ろうとするが……。好調、主婦探偵シリーズ第五弾。 訳者あとがき=高田惠子

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  • レスリー・メイヤー/高田 惠子 訳
  • 東京創元社
  • 987 円
バレンタインは雪あそび
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books_review at 21:11|PermalinkTrackBack(0)clip!ミステリー 

2010年02月24日

カラーユニバーサルデザイン

国内の320万人、男性の20人に1人が色弱者と言われる現在、「カラーユニバーサルデザイン」の必要性が増しています。
これまで通りの「ものづくり」で本当にいいのでしょうか?
すべての人にやさしい「色のバリアフリー」が、いま求められています。
本書では、彼らにしか見えない独自の色の世界を再現しつつ、豊富な具体例をもとに解決策を提案していきます。

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  • カラーユニバーサルデザイン機構
  • ハート出版
  • 3990 円
カラーユニバーサルデザイン
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books_review at 10:09|PermalinkTrackBack(3)clip!実用書 

2010年02月13日

パパ、ママ、あいしてる

6歳の誕生日の直前、手術不可能な悪性の脳腫瘍だと診断されたエレナ。医者によると余命はわずか135日。仲がいい4歳の妹グレーシーにエレナの思い出を残そうと、両親はエレナの毎日をブログにつづり始めた。
残された時間、エレナはさまざまな夢をかなえていく。ドレスを着てお姫様になりたい。自分の絵を美術館に展示したい……。だが、そんな幸せな時間は長くは続かず、病状は次第に悪化し、エレナは短い生涯を終える。
しかし、悲しみのなか、両親はエレナの残したメッセージカードが家の中のあちこちに隠されていることに気づく。それは、両親への愛情をつづり、妹に人生の 愛し方などをおしえるものだった。脳腫瘍のため話せなくなってからも、エレナはみんなへの愛のメッセージを残していたのだ。2年たったいまもエレナのカー ドがときおり見つかり、両親は彼女の残したものを愛情とともに振り返っている。

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  • ブルック&キース・デザリック/青山陽子 訳
  • 早川書房
パパ、ママ、あいしてる
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books_review at 20:38|PermalinkTrackBack(2)clip!文芸 

2010年02月10日

名探偵ジュール・ド・グランダン

数多の怪事件を解決してきた名探偵ド・グランダンと友人トロウブリッジは、婚礼を控えた花嫁が衆人環視のなかで姿を消すという怪異に遭遇する。彼女が着けていた帯が異国の邪教に由来するものと判明したのち、花嫁の母親が自殺を装って殺され、その後も赤子の誘拐や儀式殺人など事件が相次ぐ。これらは世界各地で暗躍している悪魔崇拝者の仕業か。シリーズ唯一の長編、本邦初訳。訳者あとがき=大瀧啓裕

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  • シーベリイ・クイン/翻訳:大瀧 啓裕
  • 東京創元社
  • 966 円
悪魔の花嫁
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books_review at 09:33|PermalinkTrackBack(2)clip!ミステリー 

2010年02月08日

<ファーシーアの一族>待望の続編

六公国を危機に陥れた“赤い船団”が撃退されて十五年。王ヴェリティが去って後、王妃が一粒種の王子を守りながら、なんとか平穏に国を治めてきた。一方、第一王子の庶子フィッツ、暗殺者の弟子で、今や一族の〈技〉を継承する数少ない生き残りとなったフィッツは隠遁生活を送っていた。だが、かつての師の突然の来訪が、彼を運命の渦に放り込むことに……。圧倒的なスケールの異世界ファンタジー〈ファーシーアの一族〉続編登場

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  • ロビン・ホブ/翻訳:鍛治 靖子
  • 東京創元社
  • 1008 円
黄金の狩人1 (道化の使命)
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books_review at 14:07|PermalinkTrackBack(3)clip!文芸 

2010年02月04日

お誕生日の剣

あたしの名前はアラミンタ。タビーおばさんとドラクおじさん、それから最近やってきたマホーツカイ一家の三人と、さらにふたりの幽霊と一緒にキミワルーイ屋敷に住んでいる。幽霊って古いバケツそっくりのよろいサー・ホラスと、従者のエドマンドのことよ。ある日屋敷を探険していたあたしとワンダは、秘密の部屋で大発見をした。なんとあさってがサー・ホラスの五百回目の誕生日だって! かわいくてキミワルーイ、シリーズ第2弾。

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  • アンジー・セイジ/翻訳:斎藤 倫子
  • 東京創元社
  • 1680 円
お誕生日の剣 (いたずらアラミンタ2)
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books_review at 08:33|PermalinkTrackBack(1)clip!文芸 

哲学者探偵シリーズ第2弾

イザベル・ダルハウジーは、エディンバラに住む〈応用倫理学ジャーナル〉誌の編集長。ある日姪が営むデリカテッセンで、一人の男性が話しかけてきた。心臓移植を受けて以来、身に覚えのない映像がよみがえってくるというのだ。ドナーの記憶なのか? 得意の哲学的思考と行動力で、試行錯誤しながら謎を解こうとするイザベル。イタリア男の誘惑や、友人以上恋人未満のジェイミーへの想いに揺れつつ真相に迫るが……。シリーズ第2弾。訳者あとがき=柳沢由実子

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  • アレグザンダー・マコール・スミス/翻訳:柳沢 由実子
  • 東京創元社
  • 987 円
友だち、恋人、チョコレート
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2010年02月02日

リナ&デッカーシリーズ

高級レストランで男が銃を乱射。死者十三名、負傷者三十名以上。悪夢のような惨状に、デッカーら捜査陣は怒りと動揺を隠せなかった。そんななか、犯人らしき男もその場で死亡しているのが見つかる。辞めさせられた元バーテンダー。どうやら犯行後に自殺したらしい。特定の誰かを狙った計画的犯行か、それとも衝動的なものなのか。動機は? デッカーは犯人と被害者たちの接点を調べ始める。好評、リナ&デッカー・シリーズ第十弾。

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  • フェイ・ケラーマン/翻訳:吉澤 康子
  • 東京創元社
  • 1050 円
蛇の歯 (上下巻)
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