June 19, 2011

( ;゚ω゚)ノ凸スイッチを押すようです ―(゚、゚トソン陽のあたる墓のようです从 ゚∀从―

368 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:32:13.38 ID:CPdPRhhC0



           (゚、゚トソン陽のあたる墓のようです从 ゚∀从





372 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:33:35.75 ID:CPdPRhhC0
家に帰りたくなかった私は、放課後の教室から窓の外を眺めて、
いかに帰りの時間を遅らせるかを考えていた。
だが、母親を納得させられるような理由は何一つ浮かばなかった。

(゚、゚トソン「…」

校庭にあった白いビニール袋が、突風に煽られてどこかへ飛んでいく。
それを追って砂埃が舞い、小さなつむじ風が起こった。
誰もいないしんとした教室からその様子を見ていると、
砂嵐の画面を無音で表示させているようで、なんだか妙な不安感があった。

だが、教室のドアが開きその静寂が破られると、
安心と同時に残念な気もした。
この特殊な静けさの中にもう少し浸っていたかった。
……そして悪いことに、やってきたのは高岡だった。

从 ゚∀从「よお、トソンまだいたのか」

(゚、゚トソン「あなたもね…」

从;゚∀从「おいなんか暗いぞ…?どした?」

(゚、゚トソン「あなたと違ってね、
     メランコリックな気分になる時もあるの」

从 ゚∀从「へえへえ、どーせあたしは楽天家のブタだよ」

(゚、゚トソン「まったくそのとおりね」

从;゚∀从「…ブタってところは否定して欲しかったな」



374 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:35:41.09 ID:CPdPRhhC0

高岡は私の座っている前の席に腰を据えると、
窓の向こうに目を凝らした。

从 ゚∀从「なあ、知ってるか?」

(゚、゚トソン「なに?」

从 ゚∀从「ああいうつむじ風の中に入ると、
     すごい勢いで目にゴミが入ってきて死ぬ」

(゚、゚トソン「…そう」

从 ゚∀从「そうなんだよ」

それっきり、私たちは黙って窓の外を見ていた。
つむじ風は校庭端のフェンスに行き当たると、
困ったみたいにその場にとどまっていた。

そして、意を決したようにフェンスにぶつかると
下の方から徐々に消えていく。
土埃とビニールを巻き上げただけの、虚しい一生だった。

从 ゚∀从「なあ、ちょっと頼みがあるんだがいいか?」

(゚、゚トソン「頼みの種類にもよるけど、いいよ」

こういう時彼女はまず間違いなく面倒な問題を抱えている。
自分を信じてとことん間違ったことをやり通した新入社員のような。
そんな誰かに頼らなくては、どうしようも無い状況にいることが多い。



376 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:37:13.88 ID:CPdPRhhC0
从 ゚∀从「…おばあちゃんの話し相手をするだけで、
     コーヒー・紅茶飲み放題、お茶菓子食べ放題。
     そんな簡単なお仕事です」

(゚、゚トソン「…ああ、あそこのお宅ね」

私は若干ほっとした。
「一緒に勉強しようぜ」と言うので勉強会を開いたときは、
仮定法の初歩を彼女に説明するのに六時間かかったのだ。
そっちじゃなくて本当によかった。

そんな人だから、高岡から最初にこの「お仕事」を受けたとき、
どうせろくなことにならないと思っていた。

しかし蓋を開けてみれば、本当に品のいいおばあちゃんが出てきて、
しかもおいしいコーヒーと高級なお茶請けが出され、(ただ食べ放題ではなかった)
期待していたのとは逆の意味で大いに裏切られた。

高岡のような破滅的な傾向のある人間からの頼みでも、
たまにこういう事があるから無下に断れないものである。

从 ゚∀从「またヘルパーさんが来れなくなったらしくてね。
     わりぃけど頼めるか?」

(゚、゚トソン「うん、いいよ。七時位までしか居られないけどいい?」

从 ゚∀从「全然オッケー!助かるぜ~」

彼女は時折、こうして近所に住む祖父の家に行って、
ヘルパーの代わりをしていた。ナリはヤンキーだが、できた娘である。



378 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:39:56.74 ID:CPdPRhhC0
高岡によるとおばあさんは横からやることなすことに、
相当にうるさく横から口を挟んでくるそうで。
(洗濯物のたたみ方が雑、掃除が雑、あなたはガサツ。)

そのため、前に来たときなぜか気に入られてしまった私に、
高岡が家事をこなしている間の話し相手をしてもらいたいらしい。

从 ゚∀从「婆さんもオキニのお前と話せて幸せ。
     お前も高級豆、高級茶葉が味わえて幸せ。
     あたしもババアゾーンから開放されて幸せ。
     Win Win、も一つおまけにWinときたもんだ」

(゚、゚トソン「まあね…。
     で、そういえばおじいさんはもう入院したの?」

从 ゚∀从「……いやまだ、でも今週末には行くらしいな」

老夫婦のうち、夫の方は認知症らしい。
らしいのだが、高岡が言う彼の病名は毎回違っている。
この前は嗜眠性の脳炎、さらにその前はアルツハイマー病ということになっていた。

ともかく、その病気が進行して近郊の病院に入ることになった。
私も、入院のはなしが出るまでぼんやりとしか知らなかったが、
彼は庭に建てられた小さな離れで寝たきりの生活を送っていたのだという。

从 ゚∀从「じいちゃんが入院したら、間髪入れずに、
     ばあちゃんもニューソクの息子……俺の叔父さんのとこに移るんだと」
    
从#゚∀从「けっ、いままで放置してたくせに、
      厄介者がいなくなると途端にこれだ…胸糞悪い」



379 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:40:53.16 ID:CPdPRhhC0
高岡も高岡でやはり思うことがあるらしい。
彼女の家と彼女には家が近いという理由だけで、
寝たきりの祖父と、扱いづらい祖母の世話をぶん投げられていたのだ。

まずあるのは、それをいまさら…という腹立ちなのだろう。

(゚、゚トソン「そろそろ時間もあれだし…いく?」

从#゚∀从「…おう」

(゚、゚トソン「…」

となりに並んだ彼女の肩が小刻みに震えている。
…彼女の憤りのもうひとつの原因は、「老夫妻と引き離される事」にあった。

高岡は最初に私があの家に行ったとき、
郊外に建つその豪邸の庭を二人で歩いた。

『じいちゃんがこの木にブランコを下げてくれた』

『ばあちゃんと一緒にここで水遊びをした』

庭を歩いているとき、彼女がするのはそんな子供の頃の思い出話ばかりだった。
裕福とはいえない彼女が子供の頃過ごした、
屋敷での祖父と祖母との夢のような時間。
彼女にとってそれは大切な思い出なのだろう。

从#∀从「……」

(゚、゚;トソン「高岡……」



381 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:42:43.19 ID:CPdPRhhC0
真っ赤になって怒る彼女の横顔を見ていると、
やりきれなくて何とか慰めてやりたくなる。

从 ゚∀从「どうした……?」

(゚、゚;トソン「……ごめん、やっぱりなんでもない」

だが私はこの家族にとってただの、
「たまにばあちゃんと話をしに来る子」に過ぎないのだ。
そう思うと私はどうしても安っぽい慰めを言う気にはなれなかった。

私は言いかけた言葉を飲み込むと、高岡と二人、
夫婦の住んでいる家へと向かった。



382 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:44:11.91 ID:CPdPRhhC0
*―――――――――*

家に着くとおばあちゃんがわざわざ出迎えてくれた。
高岡はあいさつもそこそこにさっさとお勝手の方へいってしまい、
私は一人でおばあちゃんを抱えるようにして、
二階にある部屋へと連れて行かなければならなかった。

この足の悪い老人はこの広い家を完全に持て余していた。
一人ではおそらく部屋にたどり着くのに、
いや、階段を昇り降りするだけで10分はかかるだろう。

高岡が飲み物を持ってきてくれて、
一心地ついた頃にはもう午後六時をまわっていた。

('、`*川「本当に寒くなってきたわよねぇ」

(゚、゚トソン「ええ本当に、うちは昨日衣替えでした」

('、`*川「あらそうなの?…そうだうちもそろそろ」

(゚、゚トソン「でも荷物はほとんど送っちゃったんでしょう?」

('、`*川「ああ、そう…そうだったわね」

そう言うとおばあさんは立ち上がろうとして持った杖を、
座っている籐の椅子の下に戻した。

('、`*川「ドクオもお嫁さんも、
      ちょっとずぼらなところがあるから…。
      心配だわ、ちゃんとまとめてるかどうか」



385 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:45:25.62 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚トソン「…大丈夫じゃないでしょうか?」

('、`*川「でもあっちの家を見せてもらったときは
      台所からなにから…もう汚くってねぇ」

(゚、゚;トソン「いやまあ、でもそんなものじゃないですか?」

(-、-;川「シンクが水垢でべったりなのよ?生ごみはすぐ捨てないし。
      しかも家中が孫の落書きだらけ。下着は夜までベランダに干しっぱなし。
      …もう嫌になっちゃうわよ」

(゚、゚;トソン「はぁ…」

この人は向こうでもこの調子で通すつもりなのだろうか。
だとすれば、確実に新しい家族に疎まれるだろう。
そういう老人の末路は、いわずもがなである。

('、`*川「なによりここから離れるのが嫌ね」

(゚、゚トソン「そういえばここに何年お住まいなんですか?」

('、`*川「うーん、どうかしら?まあ20年は住んでるわね」

(゚、゚トソン「私も、いつかこんな静かなところで暮らしてみたいです」

私がそう言うと、おばあさんは顔に微笑の影のようなものを浮かべる。
かつてはそれなりの輝きがあったのだろうが、今では長年の風雪に風化していた。
いや笑みだけではない、この人の浮かべる表情はどこかしら儚さがついてまわる。



386 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:46:29.55 ID:CPdPRhhC0

('、`*川「でも静かな所って言うのはね、暮らすのに工夫がいるのよ?
      昔の人達も静けさを求めて山とかに入ったりしたけど、
      結局、都恋しさに都会に戻って行った人が多いの」

('、`*川「…山でそのまま暮らした人たちは余程の風流人か、
      孤独を求めていた人たちなの」

(゚、゚トソン「おばさんは風流人の方ですよね。
     お庭もとっても綺麗ですし」

('、`*川「いいえ、風流人は私の旦那さんよ。
      庭は本当はあの人の趣味なの。
      私は管理の仕方とかを教わっただけ。
      と言っても、最近は業者さんだよりね」

私は庭の方に目を向けた。
綺麗に刈り込まれた芝生、幾何学的に配置された庭木。
ヨーロッパの王侯の持つ庭園の一部をそのまま持ってきたような…。

無論、個人の庭なのでサイズは小さかったが、
却ってそれが上品さを引き立てているようだった。

('、`*川「私は風流人でも孤独を愛しているわけでもないの。
      だからもう山にも街にもいけないのよ。
      どこまでも流れていくだけ」

(-、-*川「私はそれでもいい、でもあの人は…」

(゚、゚トソン「そういえば旦那さんはどうして庭で……?」



388 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:49:11.75 ID:CPdPRhhC0
私は思い切って日頃の疑問をぶつけてみた。
おそらくこの人に会うのはもうこれが最後だろうし、
それに大した理由なんて無いと思ったからだ。

おばあさんは庭に向けていた視線を落とすと、静かに話し始めた。

('、`*川「……病気になってから『庭でねる』って言って聞かないのよ。
      もちろん、病人の言うことだと思って無視してたけど…。
      まあ分からないでもなかったけどね。
      庭いじりがなにより好きな人だったから」

('、`*川「それで何年か前、とうとう動けなくなる前に
     意識が一瞬はっきりしたらしくてね。
     『私をどうか庭のところで寝かせておいて欲しい』って
     その事を私に伝えて、私の知っている彼は…行ってしまった」

('、`*川「庭にサンルーム付きの小さな離れを建てて、
     そこに彼の言うとおりベッドを置いて…」

('、`*川「その離れに用があって行く時に、たまに思うの。
      家族よりも何よりも庭を愛した人。
      もしかしてそんな人だったのかしら、あの人はって」

('、`*川「あなたは…どう思う?」

(゚、゚;トソン「…」

そこまで言うとおばあさんは話疲れたのか、椅子にもたれかかった。
あっちも私と会う最後の日だと思って、こんな事を話してくれたのだろう。
そう思うと――まっこと身勝手なことだが――すこし、この老婆が憎たらしかった。



390 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:51:25.79 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚;トソン「私には…分かりません」

('、`*川「そう…そうよね」

おばあちゃんはそれきりなにも言わなかった。
私も押し黙った。かけるべき言葉なんて見つからない。
口の中になにか苦いものが広がる。

(゚、゚;トソン(わたしはただのガキなのに。
     こんな…こんな話を聞かされたって
     どうしようも無いじゃない…。
     わたしはどう答えてやればいいの?
     いや、どう言っても仕方ないんじゃ…。
     私の言葉なんかでこの人の気持ちを和らげるなんてできないし)

(-、-;トソン(わたしは…ううん、やっぱりなにも言えない)

コーヒーを啜ると、すでに冷め切っていた。
いつもの豊かな香りは完全に失われ、
苦味と、酸味だけが口の中に広がった。
だがその味が今の自分にはふさわしいように感じる。

救いを求めて窓の外を見たが、そこに見えた庭は、
暗く沈んだぼやけた古い夢のように手応えのないものだった。
そこにいる老人は、この宵闇の中で何を思うのだろうか。

―――そしてすぐに庭は完全な闇に包まれた。



391 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:52:49.37 ID:CPdPRhhC0
*―――――――――*

从*゚∀从「……よぉーっす、何読んでんの?」

(゚、゚トソン「……大昔のメロドラマの原作だよ」

从*゚∀从「へえ……」

あれから二ヶ月が経った
朝、まだ人もまばらな教室でぼーっとしていると高岡が近寄ってきた。
いままで外にいたのか、寒さで頬がすもものように赤くなっている。

いつも顔色の悪い彼女がロマンチックな理由でないにせよ、顔を赤らめていた。
色彩に乏しい教室の中で、急に鮮やかな色を見たせいだからだろうか。
私にはその時、彼女をいまだかつて無く好もしく感じた。

頬を染めた彼女は年齢相応に可愛らしく
(こんな事を彼女に言うと張り倒されそうだが)見える。
だが次の瞬間彼女が言い放った言葉は、
夏の動物園のライオンのように図々しいものだった。


从*゚∀从「…あそこの家にまだ荷物が残っててさ、今度の日曜に
     荷物の分類とか箱詰めとか宅配伝票書くのとか手伝ってくんない?」

(゚、゚;トソン「はぁ?」

从*゚∀从「たのむよ~。
       家族のだれも手があいてないし、
       …ったく挙句に糞親父はあたしに丸投げするし」



94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:55:15.13 ID:CPdPRhhC0

見かけが少女っぽくっても、やはり口調は荒っぽいままだ。
軽い幻滅を味わいながら、私はおずおずと聞いてみた。

(゚、゚トソン「…どのぐらいまだ残ってるの?」

从*゚∀从「ダンボール2、3個くらいかな?
     あとばあちゃんがお前にやりたい物があるんだって」

2~3箱…?いや、どうせ蓋を開けてみると、
5~6箱分は整理整頓されないまま床に散らばっているのだ。
私はいやだ、と言いたい衝動をこらえる。

(゚、゚トソン「…まあ分かった。
     それで、おばあちゃんは私に何を?」

从*゚∀从「あの人が書いてたものらしいな。
       あー見えてあの人、元文芸美府作家でさ。
       ……書いたのお前だってことにして出版社に送ってみるか?」

(゚、゚;トソン「え…そんなの初耳なんだけど。それを私にくれるの?」

常々、屋敷と言ってもいいあの家の様子を見て
もともと何をしていた人達なのかとは思っていたが。
あのおばあちゃんが…作家?しかも文芸美府?

从*゚∀从「さあねえ…気まぐれな人だからな。
       あたしにも万年筆だの何だのたくさんくれたよ。
       ……なんで作家って4本も5本もペン持ってんだろうな?」



396 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:57:23.07 ID:CPdPRhhC0
彼女はそこで一旦口を切って窓に目をやる。
陰に残っていた霜が昇りゆく陽光の中に晒され、白く冴えた光を放っている。
まったくの静寂だった。鳥さえ鳴いていなかった。
きっと、教室に来ている他の生徒に聞かれないように声を落としても、
私にはクリアに聞こえることだろう。

その事を確認すると、彼女は吐き捨てるようにつぶやく。

从*゚∀从「形見わけ、なんだとよ」

(゚、゚トソン「…」

从*゚∀从「『あと十年は生きてるだろ?』つったら、   
       『私はもう死んでるわよ、あの人を埋葬した時にね』だってさ。
        ジイさんもまだ死んでないっていうのに、縁起でもねぇ」
  
じゃあその時に形見分けしてくれたらよかったじゃん。
そう言いながら、彼女は私の前の席にドンと豪快に腰を下ろした。
となりで静かに単語帳を開いている貞子ちゃんがジロっとこちらを見た。

(゚、゚トソン「埋葬?」

从*゚∀从「…ナニ言ってんのかワケワカメよ。
     ボケてんのかねぇ?あたしに何か文句垂れてる時には
     背筋伸ばして、無駄にハキハキものを言うからそうは思えないけど」

埋葬、あの二人の事と一緒に思い浮かべるにはあまりにも不吉な言葉だ。
……ふと薄暮れの闇の中に浮かぶ、小さな白い小屋の姿が脳裏をよぎった。

从 ゚∀从「まあ、とにかく放課後に図書室かなんかで待っててくれ」



398 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 00:58:48.35 ID:CPdPRhhC0
(゚、゚トソン「…うん」

私の返事を確認すると、高岡は満足気に開けっ放しのドアから出て行った。     
ここがあの家なら「開けたら閉める!」という声が聞こえてくるところだ。
……そういえば、あの人は今どうしているだろう。

(゚、゚トソン「ふう」

朝のホームルームの時間まで二十分ほどが手付かずで残されていたが、
あの家のことが頭にちらついて、うまく本の内容にのめり込めない。
本の中では、イケメンの医師が上司の奥さんを誑かしていた。
最初読んだときは心おどる展開だったが、今はそれが薄っぺらい作り事に思える。

(-、-トソン

私は本を一旦脇におき、目を閉じてあの二人の事を思った。
彼ら夫婦は、おそらく一生会話しないままその生涯を終えるだろう。
かなり確実性のある予言ではある。だがそれではあまりにも可哀相だ。

あの寝たきりのおじいさんが一日でいい、
一日起きていておばあさんと話ができたら。
そうしたらどういう形にせよ、おばあさんの疑問を解いてあげられるのに。

川д川カリカリカリカリ

(゚、゚トソン「…」

いつのまにか貞子ちゃんは「書き」の作業に移っている。
ちらっとノートを覗くと impossible がたくさん並んでいた。
……まるで何かに喧嘩を売られているみたいだった。



400 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:00:45.97 ID:CPdPRhhC0

*――――――*

荷物の整理が終わると、私はヘトヘトになっていた。
結局、荷物は八箱分もあった。

途中、足りなくなった段ボール箱を補充するために、
私は近所のスーパーから大判の段ボール数箱を拝借しなくてはならなかった。

まったく腹立たしくてしょうがなかった。
何が悲しくて800メートル先のスーパーで、
欲しくもないハンカチを買う振りまでしてダンボールをくすねなくてはならないのか。

その腹立ちを紛らわすため、私は高岡の荷物の中から財布を抜き取り、
おばあさんの夏物を入れた箱に押し込んでやった。

友達に嘘をつくとこういう目に痛い目に遭うということを、
彼女は少し知るべきなのだ。

(゚、゚;トソン「つかれた…」

从;゚∀从「さすがのあたしも…あ"ー腕があがんねー」

箱を玄関に集め、封をし、伝票を貼り付けたころには、もうとっぷりと日が暮れていた。
作業開始から、実に二時間半後のことだ。
私と高岡は火照った体を冷やすために、庭に出てひと息つくことにした。

屋敷の方を振り返ると、夕さりの最後の光が窓の、カーテンを外した虚ろな眼窩に投げかけられていた。
それを見た高岡は「ほんとにもうだれもいないんだな」とぼそりと呟いた。



403 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:02:08.43 ID:CPdPRhhC0

从 ゚∀从「帰る前にコーヒーでも飲んでかないか?」

(゚、゚トソン「…そうね、いただきます」

高岡にしては気が効いている。
疲れてとうとう、人格までかわってしまったか。
まあ、とてもありがたいが。

コーヒーを高岡が淹れている間、
私は庭にあるペンキの剥げかけたテーブルセットで彼女を待つ。

このテラスからだと庭の隅々が見渡せた。
……例の離れが墓石のように、白く突き立っているのが否応なく目に入る。

庭には風が通り過ぎる音と、遥か彼方で走る電車の音しかしない。
前に来たときはまだ秋だった。外には虫が鳴いていてうるさいとさえ思ったが、
今はそれが恋しかった。

やがて風に乗ってコーヒーの香りが漂ってくる。
風上を見ると、ちょうど高岡がカップを持ってこちらに来るところだった

从;゚∀从「…まずいことに気がついた」

(゚、゚トソン「…いってみて」

从;゚∀从「あたし、台所用品を送ったり処分するの忘れてました」



404 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:03:44.45 ID:CPdPRhhC0


ゴゴゴゴゴ(゚、゚トソンゴゴゴゴゴ


从;゚∀从))ジリジリ「…」

(゚、゚トソン「……」

(゚ー゚トソン「まあ、おかげでこのコーヒーが飲めるわけね」

从*゚∀从ホッ

まあ、乗りかかった船だしどうせ暇なのだ。
そのくらいは手伝ってやろう。
…あ、そうだ忘れるところだった。

(゚、゚トソン「それで…おばあちゃんが書いたものっていつもらえるの?」

从 ゚∀从「おう、もうここに持ってきてあるよ」

そう言うと彼女は盆の下に持っていた原稿用紙の束をテーブルに置いた。
さすが作家だ、手にずしりと来るくらいの重さと厚み…。
そして一番上には、タイトルらしきものが書いてある。

(゚、゚トソン「…陽のあたる墓?」

从 ゚∀从「悪いと思って中身はまだ見てないんだけど…。
     どんな事が書いてあるんだ?それ?」



406 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:05:06.53 ID:CPdPRhhC0
(゚、゚トソン「…」

私は無言で一枚目をめくる。
白紙、二枚目、白紙、三枚目、白紙。
全体を一気にめくってみるが、
私にはまったくなにも書かれていない原稿用紙が、
丁寧に二百枚ほど紐で閉じてあるだけのように見える。

从;゚∀从「…なんだよこれ」

(゚、゚;トソン「あっ待って…私にも分からない」

从#゚∀从「あのババア!分かるように説明してもら…」

(゚、゚トソン「違うの高岡、最後のページに『私にも分からない』って。
     そう書いてあるのよ」

从;゚∀从「へ?」

(゚、゚トソン『分からない、私にも。あなたと同じように。
     でも、私はあの人を信じている。
     私はそうするしかないのだ』

書かれていたのは、たったそれだけだった。
ひと月前のあのおばあちゃんの質問の答え。
それが実に簡潔に示されていた。

(-、-トソン「…」

そしてこれは、あの人の人生観そのものなのだろう。



408 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:06:11.57 ID:CPdPRhhC0
从;゚∀从「あたしにも分かるように説明してくれない?」

(゚、゚トソン「私にはどう説明したらいいかなんて分かんない。
     仮に説明できたとしても、あなたはきっと怒るしね」

自分を愛していたはっきり分からない。
おばあちゃんがおじいちゃんの事を、
そう思っているかもしれない。

それを高岡に聞かせたらどうなるか。
そんな事は、火を見るより明らかだった。

从#゚∀从「…けっ、分かったよ。
       今度ばあちゃんに電話したときに聞くからケッコーです!」

(゚、゚;トソン「あっ」

高岡は、私のカップを奪い取るとそのまま中身を一気飲みする。
そして盆に手荒くカップを乗せると、足早に台所に行ってしまった。
まったく、短気な奴は怒りに任せれば間接キスさえ厭わないのか。

(゚、゚トソン(あ~あ、怒っちゃった)

(-、-トソン(でもこれでいいのかもしれない。
     あの子も傷つかないし、私も複雑な思いをしなくて済む。
     だったらそれで…)

目をぎゅっと閉じて、背凭れに背中を押し付けぐっと伸びをする。
今日はもう難しいことを考えたくない。
家に帰ったら、そのまま寝ちゃおうかな。



411 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:08:29.77 ID:CPdPRhhC0

そんな事を思っていると、急に周囲が明るくなったのを感じた。
車のヘッドランプ?だれか来たのか?私は驚いてすぐに目を開ける。

(゚、゚トソン「え…」

庭の真ん中にある離れに、いつの間にか煌々と電気がついている。
そしてカーテンが取り払われた裸のサンルームの中に…誰かがいた。

(  ) 从  从 (   川

(゚、゚;トソン (なによ、あれ)

3人のシェルエットが、サンルームの中で静かに回っていた。
3人とも、後ろを向いたままぐるぐると部屋の中を……。
その奇妙な動きを見た瞬間に全身に鳥肌がたった。

心なしか、風が生ぬるい。

そしてこのままあの離れを見ていると、
あの三人が唐突に振り返るような気がして……。


(゚、゚;トソン「高岡…!」

私は家の玄関へ猛然と駆け出した。
お勝手に飛び込むとすぐさまドアを閉め、体をグイと押し付ける。




412 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:09:59.63 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚;トソン

从;゚∀从「…なにしてんのお前?」

まず、私の目に飛び込んできたのは、
高岡のもつフライパンとその中のオムレツだった。
チーズオムレツらしく、いい香りが部屋に満ちていた。

高岡は私に目もくれず、オムレツを皿に盛りつけ、パセリを振る。
非常に手際がよく、流れるような所作だった。

从 ゚∀从「…食べる?」

(゚、゚;トソン「いや…えっと」

私は完全に混乱していた。
緊急事態と完璧なチーズオムレツが同居しているこの事態に。

(゚、゚;トソン(こういう時ってどんなふうに言えばいいの?
     そうね、まず彼女を動揺させちゃいけないよね?
     オムレツ美味しそう、ちょーふわふわ
     ちがうちがうちがう!そうじゃない!庭に、庭の離れに…!)

でも、あれはなんなのだろうか。
変質者?不審者?いや、あれはもっと悪質なものかもしれない。
例えば……。           
            

(゚、゚;トソン「庭におばけがいる…かも」



415 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:12:08.32 ID:CPdPRhhC0

やっと一言搾り出そうかという時、高岡は四つめの卵を割りはじめていた。
だが、高岡は私が言い終わるか終わらないかといううちに、
口をあんぐり開けたまま、すごい勢いでこちらに向き直った。

从;゚д从「はあ?どこに?」

(゚、゚;トソン「あの離れにいるんだけど」

从;゚д从「…わかった!」

それからの彼女の反応は素早かった。二階へ私をつれていき、
窓から離れの電気がついている状況を確認する。

从;゚∀从

(゚、゚;トソン

そしてしばらく二人で離れの中の動きを伺っていたが、
しばらくしてサンルームの中で人影が大きく動いたのが見えた。
その途端に高岡は、今まで聞いたことのない素っ頓狂な声を出して飛び上がった。

从;゚д从「うわほんとだ…やばい…やべえええ!」

はるか遠方からソビエト軍の戦車がこちらにやってくるのを目にした、
塹壕の中の日本兵みたいな機敏さで彼女は部屋から飛び出した。
そして数秒後、もう暗い庭の芝の上を彼女が離れに向かって走っているのが見えた。



417 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:13:29.73 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚;トソン(お…おぇ?)

状況がうまくつかめなかった。
高岡は、変な人がいる、その現場に、走ってった?
え…これって…これは…。

(゚д゚;トソン「やばっ!」

私は無意識に高岡と同じセリフを叫ぶと、
高岡を止めるべく彼女の後を追った。
外に出ると、彼女はもう離れのドアに忍び寄っている所だった。

芝生の上にジーンズの膝を乗せると、ひんやりとした感触が返ってくる。

(゚、゚;トソン(なにしてんの!)

从#゚∀从(よりにもよってここに出るなんて!ナメやがって!!ぶっ飛ばす!1!)

(゚、゚;トソン(おいばかやめろ!)

こんな状態の高岡が、私の言うことになど耳を貸す訳も無かった。
興奮した彼女は、あろうことかドアノブに手をかけようとする。
彼女を行かせるわけにはいかない。



418 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:16:07.92 ID:CPdPRhhC0

私は高岡の肩をつかんで、強引に彼女の耳を引き寄せた。

(゚、゚;トソン(いいきいて、あれがなんなのかは分からないけど突撃はダメ。
     ドアから様子を伺うだけにして。 
     そのかわり私も援護するから!)

从#゚∀从(あ"ー分かったよ!
     じゃあ絶対気付かれるなよ!)

そうやって低い声で囁き交わしていると、
電灯のスイッチを押す音がした。
その途端、庭は闇に包まれる。

気づかれたのか……?

(゚、゚;トソン

从;゚∀从

きいん、という耳鳴りのほかはなにも聞こえないほどの静寂。
私たちは息をひそめて次なる動きを待った。
サンルームの窓は断熱のためにはめ殺しになっている。

もしあいつらが人間なら、出口はここ……私たちの目の前にあるドアしかない。




419 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:17:58.33 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚;トソン(…)

从;゚∀从(おい、やばいこわいよ)

(゚、゚#トソン(だ ま っ て!)

もう今更逃げることもできない。
いますぐ出てくるとしたら、
逃げる私たちを見て追いかけてくるかもしれない。

周囲は閑静な住宅地だ。
そこに助けを求めても、助かる確率は低い。


(゚、゚;トソン(どうしよう)


ふいにドアを開くガチャリという音がした。


(゚、゚;トソン (!)

相手の接近にまったく気がつかなかった。
まったく相手の足音が聞こえなかったのだ。



420 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:18:58.64 ID:CPdPRhhC0

だから突然、視界を何か大きなものが覆い、
それが開いたドアだと私が気がついたときにはすでに、
ドアを挟んで反対側にいた高岡は、ドアを開けた奴と鉢合わせしているはずだった。

私は微動だにできなかった。
そして程なく高岡の絶叫が―――。


从;゚∀从「あれ?」


高岡が気の抜けた声を出す。
……ホラー映画なら、これも死亡フラグだ。

(゚、゚;トソン「どうした?」

恐る恐る高岡に声をかける。
それから、私はドアの前にそろそろと這って行く。
目が闇に慣れていないために、周りの様子はよくわからない。

从;゚∀从「消えちまった……中になにもない。
      ……なんだよ、あれ」

(゚、゚;トソン「消えた?」

高岡が立ち上がって、ドアの横のあたりを手でまさぐった。
すると、スイッチを押す「カチン」という音がして小屋の電気がついた。
彼女の言うとおり、確かに中はもぬけの殻だった。



421 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:20:15.98 ID:CPdPRhhC0

それを確認すると、高岡は甲高い声でわめき始める。

从;゚д从「なんなんだ!なんなんだよあれ!」

(゚、゚;トソン「高岡!落ち着いてよ!」

从;゚д从「これで落ち着いてられるか!」

(゚д゚;トソン「高岡!あんたがしっかりしてなきゃ……」

私はどうにかして落ち着かせようと高岡の肩を掴んだ。
彼女の体が私の手の下で小刻みに震えているのが分かった。

その時だった。

「はっはっは!そうか!生まれたか!
 おめでとう!今からそっちに行く!」

突然、聞いたことのない男の声がその場に響いた。
小屋の中には、相変わらず何らの変化もない。
その場に、喜色に満ちた男の声が聞こえているのみだ。

何が何だか訳がわからない。




422 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:21:56.30 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚;トソン「……なんなのよ」

从 ゚∀从「……」

気がつけば、高岡の震えが止まっていた。
それどころか彼女を見ると、かすかな光のなかで彼女は笑ってさえいた。
高岡には申し訳ないが、正直不気味だった。

(゚、゚;トソン「あ、あんた何笑ってんのよ」

从 ゚∀从「じいちゃんだ」

(゚、゚;トソン「はぁ?」


从 ゚∀从「これ、じいちゃんの声だよ」

妙なことを言い出した高岡は、何かを探す風にキョロキョロと辺りを見渡す。
まるで、あの声の発生源を探すかのように。

从 ゚∀从「マジでなんなんだこれ?
     どっから聞こえてるんだろう」
     
从 ゚∀从「あれか?ババアのイタズラか?
     ったく、手の込んだ事しやがって。
     どうせ、ラジカセかなんかで……」

そんな事をぶつぶつと呟きながら、彼女はどこかに向かって歩き出そうとした。
その彼女を引きとめようと、私は反射的に彼女の服の袖をつかんでいた。



425 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:23:16.38 ID:CPdPRhhC0
(゚、゚;トソン「ちょっと待ってよ!どこ行くのよ!」

从;゚∀从「おい引っ張るなよ!大丈夫だって!ババアのイタズラかなんかだよ!
     だいたい、この声も私が生まれたときのビデオの……」




从;゚д从「……あえ?」

(゚、゚;トソン「なに?」

高岡が、小屋の窓を凝視したまま硬直する。
口を、漫画みたいにポカンと開いいたまま。
私は彼女が何を見ているのか知るために、彼女の前へ回りこんだ。

(゚、゚;トソン「……?」

从;゚д从「あ、あ」

窓が、靄がかかっているみたいに曇っていた。
結露か何かだろうか?異常といえばそのくらいで、
後は窓の向こうを煌々と照らされているのが見えているだけだ。

壁の書棚に専門書と思しき本がぎっしりと詰め込まれ、
デスクの上の明かりが室内を穏やかに照らしている。

……あれ?



428 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:25:41.50 ID:CPdPRhhC0
(゚、゚;トソン(えっ、ここの荷物は全部運びだしたじゃない。
     ていうか、本棚なんてここにはなかったよね……?)

それに気がついた時、私は無意識に数歩後ずさっていた。
やっぱり、これおばけなの?

(゚、゚;トソン「……やだ!」


      カチッ


从;゚∀从(゚、゚;トソン「「……!!!」」


私が震え声を喉から絞り出した瞬間。
再び電気が消えた。

(゚、゚;トソン「高岡!電気!早く電気付けて!!」

从;゚∀从「デケェ声出すな!分かってる!」

高岡が、闇に包まれた芝生の上を転がるようにしてスイッチのところへと走った。
そして、再びその場に明かりがともった。
だが、目の前にある窓が闇の中から浮かび上がってきた瞬間に、私はその場にへなへなと崩れ落ちた
――――――――――――
―――――――――
―――――
…。



430 :スイッチは電灯のスイッチが一応キーになってます:2011/06/19(日) 01:27:31.77 ID:CPdPRhhC0

从;゚∀从「おい!トソン大丈夫か!」

わたしはトソンが倒れてるのを見て、そばに駆け寄った。
目の前の窓を凝視したまま、トソンは青い顔で固まってた。

(゚、゚;||トソン「たかおかぁ……まど……窓見て……」

トソンはうわごとみたいな事を呟きながら窓を指さした。
だけど、構ってられない。
ばあちゃんのイタズラにしては手が込みすぎてる。

警察でも何でも呼んでこなくちゃ!

从;゚∀从「おい、もうヤベエって!もうここから逃げるぞ!」

(゚、゚;トソン「あっ」

トソンの二の腕の辺りを引っつかむと、私は屋敷の方にかけ出した。
携帯とか貴重品だけは持っていかなきゃマズイ。
いや、とにかく離れから遠ざかりたかっただけかもしれない。

さっきお茶を飲んだテラスのところまで走って、私は離れを振り返った。

从;゚∀从「……なんだありゃあ」

サンルームの窓をみると、中で金色の煙のようなものが蠢いているのが見えた。
その煙の中では、人の顔のようなものが現れては消えを繰り返している。
その顔に、わたしは見覚えがあった。



433 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:29:02.87 ID:CPdPRhhC0

从 ゚∀从「じいちゃん……?」

(゚、゚;トソン「高岡?」

窓に現れるはっきりとしない輪郭だけだったが、
鼻の形や、目元がじいちゃんにそっくりだった。
それをそれが分かると、恐怖感が次第に薄れていった。

金色の煙が発する光はなんだか懐かしい感じがしたし、
浮かんでくる顔は微笑んでいるように見えた。

それは私を誘い込むためだと言えないこともないのだが、
なんとなく、あの煙からはそういう悪意を感じなかった。

(゚、゚;トソン「あれ、いったいなんなんだろ」

从 ゚∀从「あたしに聞かれても困るけど……。
     あの顔、すごくじいちゃんに似てるんだ」

(゚、゚;トソン「おじいさんに?」

从 ゚∀从「それと、さっきの声なんだけど。
     あれ、あたしあの声をビデオで聞いたことがあるんだ。
     あたしが生まれたときのビデオなんだけどさ。
     ……あれはじいちゃんの声なんだよ」



434 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:30:08.24 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚;トソン「え、どういうこと」

从 ゚∀从「生まれた、とか何とか言ってたろ?
      あの声がビデオに入ってんだよ。
      多分、スピーカーフォンで話してたんだろうよ」

(゚、゚;トソン「……そんな声がどうしてあそこから聞こえてくるのよ」

トソンが、薄明かりの下で眉をひそめるのが見えた。
まあ、分からないのも仕方ないことだ。
トソンは、じいちゃんを見たことなんてないし。

だが、わたしには分かる。
あの中にいるのは、じいちゃんだ。



436 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:31:27.17 ID:CPdPRhhC0

从 ゚∀从「……あたし、ちょっと戻ってみる」

(゚、゚;トソン「ちょっとあんた、何言ってるの」

从 ゚∀从「だいじょぶだよ、危なそうだったらすぐ戻ってくるから」

(゚、゚;トソン「それますますダメよ、死亡フラグじゃん」

从;゚∀从「そんなにあたしが殺されて欲しいのかよ」

(゚、゚;トソン「あーもう、そうじゃなくて私をここでひとりきりにする気?」

从 ゚∀从「じゃあ、一緒に来るしかねえじゃん」

(゚、゚;トソン「ちょっ……勘弁してよ!なんのために逃げてきたのよ!」

トソンがぶんぶん首を振ってわたしの提案を拒否する。

気持ちは分からないでもない。
夜中におしっこに起きたとき、謎の発光体が自分の部屋の窓に張り付いていたら、
わたしは確実にその場で漏らすだろう。



437 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:33:02.33 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚;トソン「あれがなんなのか分からない以上、どうしようもないよ!
      とにかく、人気のあるところまで逃げよう!」

从 ゚∀从「……あれがなんなのか、わたしは分かるよ」

(゚、゚;トソン「え?」

从 ゚∀从「……とりあえずさ、ここは寒いし落ち着くまでダイニングで休んでな。
     コーヒー、たぶんまだポットに残ってるからそれ飲みながら待ってて」

(゚、゚;トソン「ちょっと」

トソンに肩を貸して、裏口のドアを開けて二人でキッチンに入った。
わたしは、ダイニングのテーブルにトソンを座らせる。
蛍光灯の下で見る彼女は、すごく顔色が悪く見えた。

(゚、゚;トソン「本気で行く気なの?高岡」

从 ゚∀从「心配してくれるのはありがたいけど、ほんとに大丈夫だから。
     なぁに、危なくなったら逃げるよ」

(゚、゚;トソン「また、それも死亡フラグよ」

从;゚∀从「はいはい」



440 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:34:17.29 ID:CPdPRhhC0

そう言って、また庭に出て行こうとする私の背中にトソンがまた声をかける。

(゚、゚トソン「落ち着いたら私も行くから。
     気をつけて」

从 ゚∀从「……分かった」

すぐそばのガラス窓から、離れから出ている光が透けて見える。
暖かで、きれいな金色の光だ。お日様の色、そんな感じ。
わたしはドアを開けると、その淡い輝きに向かって歩き出した。

淡い、と言ってもこの明かりだけで庭に置いてある置物を避けながら、
快適に離れの窓まで近寄れるほどの光量はある。

从 ゚∀从「落ち着いてみるとこりゃあ、綺麗なもんだな」

ガラス窓いっぱいに、光り輝く金粉がグルグルと対流しているのが分かった。
まるで、地学で見たビデオの中に出てきた木星の表面のようだった。
時にに渦を巻き、またある時にはガラスに向かって勢いよく吹きつける金色の煙。

ただ木星と違って、たまにその中にじいちゃんの顔が浮かび上がる。
なんだか幸せそうな表情を浮かべたじいちゃん。
写真以外で、こんないい笑顔は久しぶりに見る。



441 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:35:26.99 ID:CPdPRhhC0

从 ゚∀从「何なんだろうな、これ」

じいちゃんは今頃、ニューソクの病院のベッドの中で寝ているはずだ。
目の前にあるこの顔は、では何なんだろう。

もしかして……じいちゃんは死んでて、化けて出てきているとか?
でもそりゃあんまりにもベタってもんだ。

从 ゚∀从「……」

もっとよく見ようと、わたしは窓へともう一歩近寄った。
すると急に視界が開けて、つい驚いて身を引いてしまう。

从;゚д从「うわあ!」

窓の全面に張り付いていた煙が急に無くなって、
部屋の中の様子が丸見えになった。
……だが、その部屋の中の様子がおかしい。

正面の壁に大きな窓があって、そこから陽光が差し込んでいた。
でもとっくのとうに太陽なんて沈んでいるし、そもそもあんな位置に窓なんてなかった。
また、さっきみたいに別の場所の様子が窓の中に広がっている。



442 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:37:02.26 ID:CPdPRhhC0

从;゚∀从(ここは……この屋敷の中なのはわかるけど)

壁紙の色、窓のデザインでそれは分かった。
だが、部屋の中にはほとんど何も無い。
窓の位置からすると、ばあちゃんの部屋のそばなのだが……。

と、その時だった。
手前から人影が現れて、部屋の奥に向かって歩いて行く。
Vネックのシャツとパンツ一丁でダンボールを運ぶその姿は、紛れもなくじいちゃんだった。
わたしは思わず叫んでしまう。

从;゚∀从「じいちゃん!!」

/;,' 3『ふー、あっちーなー』

从;゚∀从「ちょっと!じじい!聞いてんのかこら!」

/;,' 3『ケツ痒いぃ……』

从#゚∀从「おい!!」

……窓の中にいるじいちゃんは私の声には全く反応しなかった。
でも、変な空間にいる人に正常に話しかけられるってのもむしろ変か。
もしかしてテレビみたいなものなのかな?



446 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:38:10.54 ID:CPdPRhhC0

/;,' 3『引越しなんて学生時代以来だよ……疲れた。
    絶対明日は動けなくなるな……はぁ』

从 ゚∀从(一人でブツブツ何を……)

妙に独り言が多い。
そう思ってよく見ていると、じいちゃんの口は動いてない。
動いていないが、じいちゃんの声がしている。

/;,' 3『腰いてえなぁ』

从 ゚∀从「……お」

じいちゃんの声がして、そのすぐ後で腰をさするのを見て気がついた。
これ多分、じいちゃんの頭のなかで考えてることだ。
いわゆる、心の声というやつが聞こえているのだろう。

/;,' 3『ドクオさえいればもっと楽できたのに。
    受験が来年なら手伝わせるんだけどな。
    ……ったく引越しといい受験といい金がかかるよ全く』

从;゚∀从「……うわあ」




447 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:40:04.22 ID:CPdPRhhC0
自分の親もこんな事考えてるんだろうか。
ていうか、じいちゃんがこんな事考えるなんて信じられない。
最高に優しくて善良な人だと思っていたんだけど。

/;,' 3『だが、夢だった豪邸も買った。
    ドクオはもうすぐ大学生。
    さあ、あと一息だ』

从;゚∀从「……若いな」

目の前で荷解きをしているじいちゃんは50歳位に見えた。
髪はまだかなり残っているから、まだ40代かもしれない。
とにかく、私が見たことのないじいちゃんがそこにいた。

正直言って、私は目の前で起きてることに現実感を持てなかった。
これはもしかするとやっぱりばあちゃんの悪戯で、
ホームビデオををどうにかして窓に映しているだけなんじゃないか。
半分、そんな気持ちで私は目の前の光景に向かっていた。

/ ,' 3『さて、そろそろ昼飯にしようか。
    夏らしく冷麦でも茹でて……』

/;,' 3『って、調理道具がまだ到着してないんだった!
    やっちまったな……まあ外で食べてもいいか』

从;゚∀从「あー」

やっぱ、血は争えないな。
今日のあたしみたいだ。



448 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:41:23.96 ID:CPdPRhhC0

ピーンポーン

/ ,' 3『ん?宅配かな』

アナター、ワタシデスー
アツイカラハヤクアケテー

/;,' 3「げ!」

从 ゚∀从「ばあちゃんだ……」

今の声よりもだいぶ若い声のばあちゃんの声が遠くから聞こえてくる。
その声を聞くとちょっと気持ち悪かった。

/;,' 3『疲れてるんだから家でゆっくりしとけって言ったのに!
    一体どうしたんだいきなり』

/;,' 3『とりあえず、なにか着よう。
    あいつの前でパンツ一丁は恥ずかしい』

从*゚∀从(恥ずかしいって……なんかちょっとかわいいな)

じいちゃんはばあちゃんが来た瞬間に焦りだし、いそいそと服を着始めた。
……結婚して長いこと経ってるのに、恥ずかしいもクソもないと思うんだけど。
パパなんてママの前を平気でフリチンで通るのに。



449 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:42:22.96 ID:CPdPRhhC0

アナターイナイノー?

/;,' 3「今行く!今いくよ!」

じいちゃんは中途半端に引っ掛けたズボンの裾につまづきながら、
私の見える範囲から消えた。玄関にばあちゃんを迎えに行ったのだろう。

……すると、さっきまで小さくしか聞こえていなかったばあちゃんの声が大きくなった。
まるで、マイクがばあちゃんのところに移動したみたいに。
音量的にもちょうど目の前で喋っているような感じの声の大きさだ。

視点は動かないまま、二人の会話だけが聞こえてくる。





454 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:43:25.12 ID:CPdPRhhC0

「どうしたんだ急に」
『休んでてって言ったじゃん!
 このところあまり寝てないはずなのに……』

「ちょっと様子見にきたのよ。
 どう?はかどってる?」

「まあね、それより大丈夫なのか?」

「まあ、……こっちはどうとでもなるわよ。
 ところで、お昼はもう食べたの?」

「まだだ」

「あなたのことだから、どうせ外で食べようとしてたでしょ。
 いまこの家にはなんにも無いし」

「はは、図星だよ……お前は食べてきたのか?
 もしまだだったら、近いところで食いにでも」
『うまい店は調べてある、
 労をねぎらう意味でも久しぶりに二人でゆっくり……』

「その点は抜かりないわよ。
 お弁当持ってきたから、一緒に食べましょ?」

「……」
『え?』





457 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:45:03.76 ID:CPdPRhhC0

「え、嫌だった?」

「い、いやそういうんじゃないんだが」
『なにしてんだよおい……お前疲れてるのに!
 なんでそんな』

「なんで涙目になってるの?」

「……ああ、汗が目に入ってな」
『やべっ、こんなんで泣くなよ俺……馬鹿じゃねえか』

「……助かるよ、じゃあテラスにでも出て食べようか。
 椅子もテーブルも置いてないから、ブルーシート敷いて」

「あら、いいわね。
 ピクニックみたいで」

「そうだろ?そう言えばお前、テラスをまだ見てなかったよな。
 あれは素晴らしいぞ!庭が一望できるんだよ。
 お前もきっと気にいると思うんだ」



458 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:46:34.85 ID:CPdPRhhC0

「あら、いいじゃない」

「今はみすぼらしい庭だが、花とか木を植えて綺麗にしよう。
 そういうの、好きだろ?」

「ええ、大好きよ!たのしみねぇ」

「……世界一美しい庭にしような」

    『お前のために』


        カチッ




460 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:48:36.69 ID:CPdPRhhC0

从;゚∀从「あっ!」

いきなり部屋の電気が消えて真っ暗になる。
まただ、また勝手に電気が切れた。
さっきから心臓に悪いタイミングで電気が切れる。

だが、もう怖くはない。
昔のじいちゃんを見せている何者かの正体が、なんとなく分かったから。

わたしは光に慣れてしまってほとんど何も見えない状態で、
離れの正面にある電気のスイッチまで歩いて行く。

从 ゚∀从「……ふう」

前までたどり着くと、私は操作盤を手探りしてスイッチを探した。
指が、スイッチを覆っているゴムに触れる。
無骨なデザイン、まるで工場の機械か何かのスイッチのようだ。

でも、なんでまた電気のスイッチが外についてるんだろ。
ばあちゃんも不便でしょうがないって言ってたっけな。

そんな事を考えながら、少し固いスイッチを親指でぐっと押し込んだ。
再び、サンルームの窓に光が戻った。
たぶん、こうすれば窓の中に何か変化があるのではないだろうか。

さっきは電気を付け直したらじいちゃんの映像が流れ始めたから、きっとそうだ。
……窓のところに戻ると、やはり窓の中にはここではない別の場所が広がっている。

そこには、最初からじいちゃんがいた。



464 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:49:52.22 ID:CPdPRhhC0

/ ,' 3『眠いな』

从 ゚∀从(じいちゃん、一気に老けたな)

じいちゃんは屋敷のリビングでぼーっとテレビを見ていた。
私のよく知らない、落語家のビデオが流れている。
そういえば、じいちゃんちに遊びにいくとこんなビデオを見ていることが多かった。
私が遊びに行っていた頃というと、じいちゃんが60半ばの頃か。

その後、わたしが頻繁に来るようになるとアニメとかを見るようになったりした。
ばあちゃんにあとから聞いたのだが、わたしと話が合うようにと必死だったらしい。
冷蔵庫にキャラクターのシールと名前を貼って覚えようとしたり。

しかし、老人の記憶力というのはカタカナをうまく覚えることが出来ない。
細かいところを間違えたじいちゃんは、わたしによく突っ込まれていた。
そのたびに、じいちゃんはさびしそうに笑っていたものだった。

从 -∀从(……ごめんな)


わたしは、芝生の上に座り込んだ。
これは長丁場になりそうだ。
それに、昔のじいちゃんを見ているとだんだんつらくなってきた。

立っていると、その場からどうしても逃げ出したくなってしまう。




465 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:51:29.47 ID:CPdPRhhC0

/ ,' 3「ふあー」

从 ゚∀从(…呑気にあくびなんてしやがって。
     あんた、あとちょっとでぼけちまうんだぞ?
     何にも分からなくなっちまうんだぞ?)

そこへ、ばあちゃんが電話の子機片手にやってくる。
爺ちゃんに呼びかける声が、すこし弾んでいる。

('、`*川「あなた、ハインちゃんもうあっちを出たって」

/ ,' 3「そうか」キリッ
   
   『キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!!!』

从;゚∀从「うっわ」

いままでじいちゃんの心の声的な何かは、音のみだった。
しかしいま窓の中からこっちに発信されたその何かは、
幸せとか興奮が入り交じった感情そのものだった。

ぶっちゃけ、喜びすぎて気持ち悪い。

そして、じいちゃん本人は隠しているつもりなのだろうが、
口角が微妙に上がっている。ばあちゃんもそれを見てにやついていた。



466 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:52:38.82 ID:CPdPRhhC0

/*,' 3「きょうは晴れてるし、庭で遊んでやるとしよう」
   『何して遊ぼうかな、ブランコはまだ怖がってるから、
    お庭でばあちゃんと一緒にままごとかな!』

('、`*川「じゃあ、私はそれまで二階にいますから。
      あの子がついたら呼んでくださいね」

/*,' 3「うん、わかった」
   『はあ、ひと月ぶりのハインちゃんじゃ……長い一ヶ月だった』

从;゚∀从(……じいちゃん好きだけどさ、これは正直キモイわぁ)

/*,' 3「ふふっ」
    『最近、楽しみってのがあんまりないからな。
     趣味ももうなんかやる気がしないし。庭をいじるのはやめられないが」

/*,' 3「~♪」
    『家ばかりでもあれだし、午後から服でも買いにデパートでも行ってみるか!
     ハインちゃん、あまり女の子らしい服を持ってないからな』
 
/*,' 3「……」
    『楽しみといえばもうこのくらいだ。
     それも、後どのくらい続くか。
     長生きしたい、せめてあの子の結婚式くらいまでは生きていたい』

/*,' 3「ふう」
   『高望みしすぎかな』



467 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:53:21.99 ID:CPdPRhhC0


            カチッ

            カチッ


从 ゚∀从「ん?」

一瞬、暗くなったと思ったら窓の中の場面が変わっている。
電気が消えて、勝手にまた点いたのか。
オカルトだな、今さらだけど。

今度は、庭にいるじいちゃんとばあちゃんが映しだされた。
少し離れたところには、女の子がいてブランコを漕いでいる――あれはわたしだ。




471 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:55:56.12 ID:CPdPRhhC0

/ ,' 3「ふう、子どもの相手は疲れるな」
   『ハインちゃんはマジ天使やでぇ……いやされるわぁ』

('、`*川「その割に楽しそうね」

/ ,' 3「ああ、楽しいよ。
    楽しいことは疲れるもんだ」

('、`*川「それもそうね」

二人は、わたしの様子を見ながらテラスでお茶をすすっていた。
わたしが庭で駆け回っているのを、二人はニコニコしながら見ていたものだ。
なんで笑っているのか、当時は全くわからなかった。

もしかしてわたしがおかしな事をしているのか?
そう思ってじいちゃんに「わたしを見て面白くて笑ってるの?」と聞くと、
「可愛いから見ていて楽しいんだよ」とじいちゃんは言った。

それを聞いたわたしは素直に「わたしって可愛いんだ!」
と、とんでもない勘違いをして幼稚園で恥をかいた。

いままで男子と混じって遊んでた子が、
いきなりくねくねし始めたらものだから、みんな一様に顔をひきつらせていたっけな。



472 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:57:42.29 ID:CPdPRhhC0

/ ,' 3「昔は、ドクオとジョルジュをこうして遊ばせたもんだったな。
    そのたびに、植木を折られるわ花壇を荒らされるわ……」

('、`*川「よく怒鳴ってましたっけね、あなた」

/ ,' 3「……うん」
   『ここは俺達の庭だからな。
    俺と、お前の』

('、`*川「……ええ」

/ ,' 3「ここを荒らす奴は誰だろうと許さん。
    息子だろうがなんだろうがな」

('、`*川「そんなに大事?この庭が」

/ ,' 3「ああ」

('、`*川「そう……」    

/ ,' 3「なあ、覚えてるか?ここに越してきたときのこと。
    俺がひとり寂しく外食しようとしてたら、お前が弁当持ってきてくれて」

('、`*川「ああ、そんな事もありましたね。
      ……ちょうどここで食べたんですよねぇ」



474 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:58:45.45 ID:CPdPRhhC0

/ ,' 3『嬉しかったな、あれは』

/ ,' 3『それからお前が何かを書いてる時に窓から外を見て、
    少しでも心癒されればと手を入れ続けて……。
    そうこうしているとこんなに立派な庭になった』

/ ,' 3『自分でも、なんでこんなになったのやら』

从 ゚∀从「……じいちゃん」

しょっちゅう庭いじりをしていたのは、そういう事だったのか。

('、`*川「じゃあ、そろそろハインちゃんを送っていきましょうか。
      もう五時過ぎちゃいますよ」

/;,' 3「え、もう五時か!
    おーい!ハインちゃんおいで~!」

「はぁーい」

从 ゚∀从「……」



475 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 01:59:44.75 ID:CPdPRhhC0

           カチッ


向こうから、フリフリのワンピースを着た私がこちらに駆け寄ってくる。
そこで、窓の中の世界は闇の中に沈んだ。
昔の自分を、あまり見たくなかったから助かった。

何にも知らない、弱い、幼稚園生のわたし。

         
           カチッ

从 ゚∀从「……んあ?」

また、スイッチの音がした。
また窓に何かが映るのではないかと待っていたが、
しばらく待っても窓の中には変化がなかった。

もしかして、これで終わり?




476 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:00:29.17 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚トソン「高岡」

从;゚∀从「ひゃっ!」

(゚、゚;トソン「あっ!ごめん、私よ!」

从;゚∀从「……突然後ろから現れないでくれよ」

トソンがようやく来てくれた。
ちょっとびっくりしたけど、人がいるってだけですこしほっとする。

(゚、゚トソン「大丈夫?ていうかここで座ってなにをしてたの?」

从 ゚∀从「窓を見てたんだ。
     さっきから、この中に昔のじいちゃんの様子が映るんだよ」

(゚、゚;トソン「……はいぃ?」

从 ゚∀从「ここに引っ越してきた時の様子とか、
     ばあちゃんと、わたしと遊んでる時のとか……。
     まあ、見てれば分かるよ」

(゚、゚;トソン「そうじゃなくてその超常現象を、
      なんでそんなに落ち着いて受け入れてるわけ?」



478 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:01:21.98 ID:CPdPRhhC0

从 ゚∀从「たぶんな、わたしだから分かるんだろうけど。
     これ見せてるの、たぶんじいちゃんだ。
     だから怖くもなんともない」

(゚、゚;トソン「……生霊?」

从 ゚∀从「そうかもしんねぇし、そうじゃないかもしれない。
     でも、何かしらのあれはあるんだよ。
     伝えたい事っつうの?なんでこのタイミングなのかは知らないけど」

(゚、゚;トソン「つたえたいこと……」

トソンはそう言うと、視線を下に落とした。
……何か知ってるのか?
ばあちゃんの渡したあの紙束といい、何だ?



480 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:02:22.88 ID:CPdPRhhC0

『暇だな』

从 ゚∀从「お、また始まるかな?」

(゚、゚;トソン「え?もしかして」

从 ゚∀从「うん、この声が爺ちゃん」

(゚、゚トソン「……いい声ね」

私の思考を、じいちゃんの声が中断した。
ってあれ?真っ暗なままだけど、どうしたんだ?

『はやく、来ないかな』

ため息の音。

『寝たいけど、起きてないとな。
 この前は気づかないまま寝ていたせいで、
 来てくれたのに気がつかなんだ』

从;゚∀从「なんだこりゃ?」

(゚、゚トソン「どうしたの?」

从;゚∀从「いや、さっきは映像付きだったんだけど、
     なんか、真っ暗なままだから……」

(゚、゚トソン「……そうなの」



481 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:03:44.78 ID:CPdPRhhC0

その時、ドアの開く音がして二人で身を固くした。
一瞬遅れて、それが目の前の窓からの音だとわたしは気がついた。

「よお、じいちゃん」

『おお、よく来てくれたね』

「あなた、私もいるわよ」

『お前も……すまんなぁ』

「ったく、ばあさん引きずって階段降りるのは手間だったよ」

「はいはい、ありがとうねハイン」

从;゚∀从「これ……」

(゚、゚トソン「?」

从;゚∀从「これついこの前の事じゃん」

(゚、゚トソン「……え?」

わたしは、自分の声を聞いて総毛立った。



482 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:04:58.13 ID:CPdPRhhC0

この会話は覚えている。じいちゃんが病院に入院する前の日のことだ。
ばあちゃんが急にじいちゃんのところに行くと言い出して。
ヘルパーさんもいなかったので、わたしが庭までばあちゃんを連れていったときの……。

ただ、わたしの記憶とは違う部分がある。
じいちゃんの声がしているのだ。
一体どういう事なんだ。

『嬉しいな』

「じゃあ、あたしは出てるよ。
 話すんだろ、二人で」

「うん、ありがとうね」

『ペニサスの声。
 俺に残ってるのはこれだけだ。
 目も見えないし、体も動かない』

ここまで聞いて気がついた。
まさか、この声また心の声なの?
ああ、さっきまで心の声丸出しだったもんな。

ってことはさ。



484 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:05:47.12 ID:CPdPRhhC0

从 д从「聞こえて、たの?」

(゚、゚トソン「……」


「あなた、もう聞こえてないのかもしれないけど……言うわね。
 残念だけど、もうあなたをここから出さなきゃいけないのよ」

『え?どうして?』

「前に話したけど、
 あなたはもう生命維持装置が必要なの。
 だから、家じゃなくて病院に行かなきゃいけないのよ」

『だめだ!どうしてそんな事を言うんだ!』

「私も、この家を出てドクオのところに移るよ。
 ハインちゃんにいつまでも世話をさせるのも可哀想だし」

『ダメだダメだダメだ!
 そんな事したらもうこの庭を守れないじゃないか!
 お前のための庭なんだぞ!』

『世界で一番美しい庭にするって約束したんだ!
 お前のために!』



486 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:06:46.10 ID:CPdPRhhC0

「本当に、どうしてこんな事になっちゃったのかしらね。
 最期はふたり一緒にこの家でって思ってたのに」

『そんな事言わないでくれ』

「嫌だけど、しょうがないことよね。
 ……二度と会えないわけじゃないんだし」

『ペニサス』

「……あなた、私あなたが倒れてからずっと聞きたかったことがあるの」

『なんだ、改まって』



488 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:07:19.23 ID:CPdPRhhC0


「わたしと庭、あなたはどっちを大切に思っているの?」


『……お前に決まってるじゃないか』





490 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:08:18.13 ID:CPdPRhhC0
「……答えてくれないって分かってるのに。
 ふふっ私って馬鹿な女ね、いくつになっても、本当に」

『なぜこんな時に口をきけないんだ。
 どうして!どうしてだ!』

「ごめんね、私もう行くから」

『待ってくれ!たのむ!』

「じゃあね」

……パタン

ドアが閉められる。
確か、ばあちゃんが開けたのを私が閉めたんだ。

『……これが、俺への罰なのか?』

『素直に、あいつに伝えられなかった罰なのか?』

『馬鹿だな、俺は』

『あいつに、何よりも大事だって言えばいいだけだったのに』

『あんまりじゃないか、こんなの』

『あ、もうダメだ、ねむく、』

『ペ……ニサ…ス……ハイんちゃ……』



492 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:09:30.65 ID:CPdPRhhC0

          カチッ


从 -从「……」

( 、 トソン「……」


スイッチが切れる音がした。
窓の中から、音が消える。
唐突に眠りに落ちるみたいに。

从 д从「……ちょっとまってて」

( 、 トソン「うん」

私はこの続きを見るために、
もう一度電気をつけに離れの前に行った。
ああ、何度ここのスイッチを押しただろう。


        カチッ


从 ゚-从「……」

(゚、゚トソン「あかり……ついたね」

从 ゚-从「……うん」



493 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:10:33.59 ID:CPdPRhhC0

電気をつけると、がらんどうになった部屋が窓の中に見えた。
……でも、いつまで経っても部屋の中にじいちゃんが現れることはなかった。
だってただ電気がついて、離れの中が見えてるだけだったんだから。

从 -从「……」

何回か、電気をつけたり消したりした。
だがなんどやっても、二度と窓の中に過去の景色が現れることはなかった。
つまり、これで終わりなのだ。

……ふざけるな。



494 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:11:07.90 ID:CPdPRhhC0

从# -从「……けんな」

(゚、゚トソン「え?」

从#゚д从「……ざっけんじゃねえよ!!!!」

(゚、゚;トソン「高岡!」

从#゚д从「何が罰だよ!そんな事で罰なんて下るわけないじゃねえか!!!」

わたしの心に、変なモノが入ってきてそこをグチャグチャにかき混ぜられる。
それで訳分かんなくなって、わたしは空っぽになった離れに向かって叫んでいた。

从#゚д从「どうしてそんな事も分かんねえんだよ!
     あたし知ってるよ!じいちゃんがばあちゃん大好きだってことぐらい!
     あたしが知ってるんだからばあちゃんが分かんなかったわけないじゃん!」

从#;д从「分かっただろ!!どうなんだよ!!答えろよクソジジイ!!!!」

わたしはよく分からないものに突き動かされて、
いつの間にか窓を殴っていた。
何度も何度も。トソンに止められるまでずっと。
涙とか、鼻水とか垂れ流しながら。

……情けない話だけどさ。




495 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:12:03.75 ID:CPdPRhhC0
*―――――――――*

それからが大変だった。
高岡は手を切って大出血していたし、なだめるのにものすごい時間がかかった。
興奮した彼女のために、今度は私がコーヒーを淹れてやらなければいけなかった。

(゚、゚トソン「落ち着いた?」

从 ∀从「……おう」

それが、十時過ぎぐらいのことだ。
玄関の靴箱の上に置きっぱにしていた携帯を確認すると、
困ったことに母親から鬼のように着信が入っていた。

同じく、トチぐるったメンヘラがやるみたいにして、
メールも20件以上送りつけられていた。

……どうもこれは、家に入れてもらうために土下座しなくてはいけない雰囲気だ。
私は、朝帰りしたサラリーマンじゃないのに。

从 ∀从「わりぃな、こんな遅くまで付き合ってもらっちゃって」

(゚、゚トソン「まあ、あんたに付き合ってると遅くなるのはいつものことだから。
     べつに今更気にしてもらってもね」

从 ∀从「へっ……そうかい」

高岡は、そう言ってにやっと笑いながら頭を掻こうとした。
その途端に、高岡は顔を歪める。
……怪我をした方の手を使うんじゃない。



496 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:13:19.29 ID:CPdPRhhC0

从;゚∀从「いってぇ」

(゚、゚トソン「……馬鹿ね」

从 ゚∀从「なんつっても、あの馬鹿ジジイの孫だからな」

(゚、゚トソン「……」

嫌な感じの沈黙がダイニングに満ちる。
本当に、あれは一体なんだったんだろうか。
集団ヒステリー?白昼夢?ああ、白昼ではないか。

ともかく、妙な体験をしたものだ。

(゚、゚トソン「あれ、なんだったんだろうね」

从 ゚∀从「分かんね、でもじいちゃんがなんか伝えたいっては分かる」

(゚、゚トソン「……おばあさんのことを愛してたってこと?」

从||;゚∀从「うひーっ!やめろその言い回し!
      臭すぎて鳥肌たつ!」

(゚、゚#トソン「ちょっと!」

从;゚∀从「ごめんごめん、でもしょうがないじゃん」

(゚、゚トソン「はあ」



498 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:14:10.86 ID:CPdPRhhC0

……さっきまで激高していた奴とは思えないヘラヘラした態度だった。
安心するやら、呆れるやらで、私は体から力が抜けていくのを感じていた。

(゚、゚トソン「で、どうすんの?
     今日あったこと、伝えるの?」

从 ゚∀从「まあ、そうするつもりだけど。
     でも、どうやって言ったらいいのかねえ?
     まんまの事言ったら、頭おかしくなったって思われるよな」

(゚、゚トソン「……引越しの荷造りしてたら、
     おじいさんっぽい煙が離れの窓に張り付いていた。
     そして電気のスイッチをつけたり消したりしたら、
     おじいさんの過去の映像が次々窓に映し出されて……」

从 ゚∀从「ああ、その時点であたしは警察呼ぶね」

(゚、゚トソン「……おじいちゃんスイッチ」ボソッ

从 ゚∀从「え?」

(゚、゚トソン「……なんでもないよ」



500 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:15:01.82 ID:CPdPRhhC0

……どうにかして、怪しまれないでおばあちゃんに伝える方法はないものか。

なかなかに難しい問題だ。
ニューソク町に行って、おばあちゃんと話をするってだけでもハードルが高い。
ただ、「話をしに来ました」っていうには遠い距離だ。

どうしたものか。
そう思っていると、テーブルの上に置きっぱなしにした原稿用紙の束が目に入った。

(゚、゚トソン「……」

私は、それを手に取り最後の一枚をめくった。

『分からない、私にも。あなたと同じように。
 でも、私はあの人を信じている。
 私はそうするしかないのだ』

信じている、でも、分からない。
……老人のくせに年頃の乙女みたいに繊細な人だ。
私の周囲にもこういう子がいる。

一押しすれば踏み出せる。
その一歩を、人の手を借りなければ踏み出せない。

でも私は彼女を後押しできる立場でもないし、
そのための言葉を持つほど成熟した人間でもない。

なら私はどうするべきか。



501 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:15:19.71 ID:CPdPRhhC0

(゚、゚トソン「書こう」

从 ゚∀从「……いきなりなんだよ」

(゚、゚トソン「ちょうど、まっさらな紙があるんだしさ。
     今日あったこと、紙に書いておばあちゃんに見せよう」

从;゚∀从「また面倒くさそうなことを……」

(゚、゚トソン「嫌なら私一人でもやる。でもあそこで私がいない間、
     どんなことがあったかくらい教えて」

从 ゚∀从「……分かった。あたしも書くよ」

そう言って、高岡は私の手から原稿用紙の束を取った。
それから、最後の一枚に書かれている短い文を食い入るようにして見つめた。

从 ゚∀从「これ、つまり……あれだよな。
     さっき、ばあちゃんがじいちゃんに聞いてたことだよな。
     庭と、私。どっちが大切っていう」

(゚、゚トソン「……うん、私が最後におばあちゃんに会ったときにも、
     おばあちゃんが私に聞いてきたのよ。どう思う?って。
     私が分からないって答えたら、今日その紙をあなたから渡されて」

从 ゚∀从「そういうことか」

短くそう言うと、高岡はテーブルの上に紙束を置いた。



502 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:16:14.08 ID:CPdPRhhC0

从 ゚∀从「ばあさんも何やってんだか。
     何回かしか会ってないお前に、そんな事を言ってもしょうがないのに」

(゚、゚トソン「確かに困ったわね、言われたときは」

でも、今ならおばあちゃんを後押しできる。
私がじゃなくて、おじいちゃんとそれから……。

从 ゚∀从「最近ばあちゃんとまともに話してなかったから、
     そのせいでお前に迷惑かけちまったな。
     本来なら、あたしとばあちゃんで話さなきゃいけないことなのに」

(゚、゚トソン「いいのよ……私だってそういう人たくさんいるから」

高岡なら、おばあちゃんと過ごしてきたこの子ならその資格がある。

(゚、゚トソン「私も手伝うから、一ヶ月もあればいけるわよ。
     こう見えても文芸部ですからね」

从;゚∀从「なあ、ほんとに書かなきゃダメか?」

(゚、゚トソン「……警察呼ばれるって言ったのあんたじゃない」

从;゚∀从「うう……」

こうして、私たちは執筆活動に入った。
高岡の国語力ではどうなるか不安だったが、
他にいい案も思いつかなかった。
……そして、それから完成にこぎつけるまでは実に一ヶ月半を要した。



503 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:17:00.77 ID:CPdPRhhC0
――――――――――――
―――――――――
―――――
…。

从 ゚∀从「こんにちわー!」

電車に揺られ、私たちはおばあさんが移った高岡の叔父宅へとやってきた。
出てきたのは、30代前の若い女性……たぶん奥さんだ。

川 ゚ -゚)「はーい……お?」

从 ゚∀从「どーも、お久しぶりです」

川 ゚ -゚)「ハインちゃん……?
     どうしたの急に?」

从 ゚∀从「いやーすみませんあっちから荷物を送るときに、
     送りそびれちゃったものがあってですね。
     台所用品とかなんですけど、もう直接持ってっちゃおうって思って」

川 ゚ -゚)「そちらは?」

从 ゚∀从「荷物運びを手伝ってもらった友達です」

(゚、゚トソン「こんにちは」

綺麗な人だったが、どことなく高岡に向ける視線に冷たいものを感じた。
高岡が言っていたのだが、おじいちゃんの受け入れに難色を示していたのは主にこの人らしい。
……叔父はこの若い妻に尻に敷かれて逆らえなかったのだ。



505 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:18:06.53 ID:CPdPRhhC0

川 ゚ -゚)「ああ、わざわざどうもありがとうね。
     じゃあ、中はいって」

从 ゚∀从「あ、そうそう。
     ばあちゃんに直接渡すものもあるんで。
     いまばあちゃんいます?」

川 ゚ -゚)「あ、いるよ。
     和室の方にいるから」

从 ゚∀从「ありがとうございます」

(゚、゚トソン「おじゃまします」

靴を脱いで、家に上がらせてもらった。
なんとなく、雰囲気の暗い家だ。
それにジメジメしている。
土地のせいなのだろうが、老人にはあまり住みよい場所とは言えない。

わるいが、狭いしどうも棺桶を想像させる家だった



506 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:18:38.75 ID:CPdPRhhC0

从 ゚∀从「ふう、重かった」

高岡はスポーツバッグに入れた台所用品を床に下ろした。
高そうな包丁や、用途の分からない金属棒などが入っていたから持ち運ぶには一苦労だった。
そのバッグのジッパーを開けると、高岡は原稿用紙の束を取り出す。

从 ゚∀从「まったく、長い一ヶ月だったよ」

(゚、゚トソン「ほんとにね、あんたの文章校正するのはきつかったわ」

从 ゚∀从「悪かったな」

高岡がおばあちゃんの部屋の襖を開ける。
おばあちゃんは、座椅子に座ってテレビを見ていた。
その目に、生気はあまり感じられない。

('、`*川「あら!あなたたち」

从 ゚∀从「……よお」

(゚、゚トソン「お久しぶりです」

おばあちゃんは、私達を見るなりこちらに歩みよってきた。
屋敷にいた時より、少し痩せたような気がする。



508 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:19:48.40 ID:CPdPRhhC0

('、`*川「元気だった?
     私の方はほんとに大変で」

从 ゚∀从「……ああ、辛かったよな」

(゚、゚トソン「おばあちゃん、今日はちょっと見てもらいたいものがあってきたんです」

('、`*川「あら?なあに?」

高岡が、一歩前に出て原稿用紙をおばあちゃんに渡した。
原稿用紙の端が、細かく震えているのが横目に見えた。

('、`*川「これ、私がトソンちゃんに……」

从 ゚∀从「ああ、そうだよ。
     でもさ、ばあちゃんの書くお話の割に内容が少なかったからさ。
     私たちで埋めてきたんだ200枚分の原稿用紙を」

('、`;川「え?どういうことよ」

从 ゚∀从「ま、内容はあとでゆっくり読んでもらうにして。
     最後のページ、読んでいてみてよ」

('、`*川「悪いけど……私こう言うのに厳しいわよ」

おばあちゃんが、最後のページをめくる。
そこには、短い文章が私と高岡の手で追加してあった。
そしておばあちゃんには悪いが、一部削らせてもらった部分もある。



509 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:20:19.47 ID:CPdPRhhC0

『  "わたしと庭、あなたはどっちを大切に思っているの?"

      "……お前に決まってるじゃないか"          
              
   "私はあの人を信じている 私はそうするしかないのだ"    』




510 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:20:57.88 ID:CPdPRhhC0

('、`*川「……」

从 ゚∀从「ばあちゃん、分かってんだろ本当は。
     じいちゃんにとって、どっちが大事だったかなんてことぐらい」

('、`*川「……」

从 ゚∀从「ばあちゃん、聞いてる?」

('、`*川「落第よ、こんなもの」

从;゚∀从「は?」

('、`*川「私の原文を大きく改変してるし、
     私の作った雰囲気も何も全部ぶち壊しじゃない」

从#゚∀从「テメッ!このクソババア!
     あたし達がどんだけ苦労して……」

('、`*川「でも、嬉しい」

从 ゚∀从「……あ?」

('、`*川「よく書けてるとは言いがたいけど、
     あなたの温かさが伝わってくるわ。
     ちょっと不良ぶってるけど、本当は優しいあなたらしいわ」

从 ゚∀从「……ふん」



511 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:21:40.88 ID:CPdPRhhC0

おばあさんは、それからペラペラと紙をめくって、
ざっと中身に目を通す。
その目には言いようのない何かが湛えられていた。

('、`*川「でも、なんで私たち夫婦しか知らないことが、
     こんなに書いてあるのかしら?
     しかもなんか、あなたが書いたっぽくない部分も……」

从 ゚∀从「トソンに手伝ってもらったんだ。
     あと、他の部分は……」

从;゚∀从「なんつうか、じいちゃんが夢枕に立ったというか……」

('、`*川「はぁ、そう」

('、`*川「……あの人、私のところには来てくれないのに。
     ハインちゃんのところには来るのね」

おばあちゃんが、小さくため息をついた。
そうしてから、彼女は目を閉じてなにか考えていたようだったが、
しばらくして、私達に声をかけた。

('、`*川「トソンちゃん、ハイン」

(゚、゚トソン「なんでしょう?」

从 ゚∀从「……」




513 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:22:54.79 ID:CPdPRhhC0


('ー`*川「まあとにかく、ありがとうね」

おばあさんは、そう言って原稿用紙を胸に抱きしめた。

从*゚∀从

それを見た高岡の横顔は、いままで見たこともないような。
やさしく、女の子らしいものだった。



515 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:23:30.56 ID:CPdPRhhC0

*―――――――――*

高岡の叔父の家を出た私達には、もうひとつ向かわなければならない場所があった。
そこは、あの屋敷を見下ろせる山の中ほどにあった。

从 ゚∀从「トソン、ほうき取ってくれ」


(゚、゚トソン「はいよ」

从 ゚∀从「あんがと」

高岡が、吹き寄せた落ち葉をさっと払い落とす。
それから、柄杓で石の肌に水を掛けて清める。
その石の色の変化は、私の心に小さなトゲを刺した。

从 ゚∀从「なんでまたこのタイミングだったんだろうなって。
     この前の晩は思ったけどさ、こういう事だったんだな。
     ……じいちゃん」

(゚、゚トソン「……」




517 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:24:07.76 ID:CPdPRhhC0

目の前の墓石には、おじいさんの名前が大きく彫り込まれていた。
大きな石材屋さんの社長さんだったという彼にふさわしい、立派な墓だった。

从 ゚∀从「あたし達に書かせて、ばあちゃんに見せて……。
     これでよかったのか?まあよかったんだろうな。
     じゃなきゃ、あたしどうしていいか分かんないよ」

(゚、゚トソン「……これで良かったのよ」

あの屋敷が空になって一週間ほどで、おじいさんは亡くなった。
病院に移ってから、わずか数日でのことだった。

「おばあさんのために飾った庭を守る」
彼はきっと、そのことにだけ固執してなんとか生きてきたのだろう。
その望みが絶たれたとき、彼は数日かけてゆっくりと死んでいった。

从 ゚∀从「……こうしてても全然泣けやしねえや。
     こういう時ってポロッて泣いてみせるのが礼儀なんだろうけど」



520 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:25:05.05 ID:CPdPRhhC0

高岡は、そっと墓石の頭に手を添えた。

从 ゚∀从「あの夜、その分泣いちゃったからな。
     ごめんなじいちゃん」

あれから、やっぱり大変だったらしい。
おじいさんの持っていた資産は、不動産などを含めかなりの大きさがあった。
それをめぐって、ハインの父と叔父が相当揉めたようだ。

私たちはそれがどうしたという感じで、
おばあさんに見せる原稿を書いていたからよく知らないが。
……諸々の話し合いが終わったのはつい二週間前ほど前のことであるそうだ。

そしてあの屋敷だが、今は売りに出されている。
屋敷を単純に相続するのは面倒ということで、
売った金を兄弟で分け合うということで話がまとまったらしい。

親の心子知らず、ここに極まれり。

(゚、゚トソン「あーあ、私もなんか力抜けちゃった。
     もっとロマンチックになると思ったのに。
     あとに残ったのはドロドロの相続争いかぁ」

从 ゚∀从「いきなりじいちゃんが起き上がって、
     ばあちゃんとキスして終わり……っていうよりはいいよ」




521 :あろ数レスで終わります:2011/06/19(日) 02:25:43.49 ID:CPdPRhhC0

从 ゚∀从「それにさ、なにか残して終わりじゃなくてもいいんじゃないの?」

(゚、゚トソン「どういう事?」

从 ゚∀从「要はさ、あたし達とばあちゃんだけ、
     事の顛末を知ってりゃいいんだよ」

从 ゚∀从「じいちゃんも、あの事を伝えたかっただけだろうしさ」

(゚、゚トソン「……それもそうね」

高岡から聞いた話では、おじいさんはシャイな人だったみたいだし、
このほうが良かったのかもしれない。
世間に広く知られるラブストーリーになんてならなくていいのだ。

(゚、゚トソン「それにしても、あれはなんだったんだろうね」

从 ゚∀从「さあな、じいちゃんの生霊かなんかだったのかな。
     それとも……」

窓の中に広がる、金色の煙。
今でもたまに夢に見る。
昔の人のイメージしていた極楽浄土の雲みたいなあの輝きを。



522 :あろ数レスで終わります:2011/06/19(日) 02:26:01.48 ID:CPdPRhhC0

突然、冷たい風がひゅうと墓地の中を通って行った。
私は、コートの中でぶるっと身を震わせる。
見れば、高岡も寒さに身をすくめていた。

从;゚∀从「うーっ……寒いな」

(゚、゚トソン「じゃあ、もうそろそろ行こうか。
     もう暗くなってきちゃったし」

从 ゚∀从「……そうだな。
     じゃあね、じいちゃん」

高岡は墓に向かって小さく手を振ると、
ダッフルコートのポケットに手を突っ込んで墓地を後にする。
私は、数歩遅れてその後を追った。

腕時計に目をやると、もう五時をまわっていた。



523 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:26:23.05 ID:CPdPRhhC0

冬至をすこし過ぎたばかりの今、夜闇の足は早い。
眼下に広がっている小さな住宅地には、まだ電気の付いている家は少なかった。
夜の訪れが早いあまりに、住民たちは夜になったことに気づいていないのかもしれない。

その闇の中に、あの屋敷はうずくまっていた。

(゚、゚トソン「……」

誰かの手に渡ったら、あの屋敷は取り壊されてしまうのだろうか。
それはでも、あまりに寂しすぎる。
前を歩く高岡をみると、彼女も見ているところは同じようだった。

その時だった。
高岡が突然、動きを止めた。

(゚、゚;トソン「きゃっ!」

从 ゚∀从

高岡の背中に、トンと肩をぶつけてしまった。
それでも高岡は何も言わずに、ぼおっと屋敷の方を見ていた。

(゚、゚;トソン「どうしたの高岡」

从 ゚∀从「あれ、見てみろ」

(゚、゚トソン「なによ?」



524 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:26:52.57 ID:CPdPRhhC0

高岡の指差す方を見て、自分の目を疑った。
電気なんてとっくに止まってるのに、あの離れに明かりが付いている。
ああ、でもそんな事は関係ないんだった。

(゚、゚;トソン「……うそ」

从 ゚∀从「……」

高岡は、何も言わなかった。
行こう、とも走れとも。

そんな私たちの目の前で、離れの明かりは一度カチリと瞬いてから消えた。
周りはほとんど無音だったが、私にはあの古いタイプのスイッチの音がした気がした。

从;゚∀从「……おお」

(゚、゚;トソン「……」




525 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:27:16.48 ID:CPdPRhhC0

しばらく、風の渡る音だけがその場に聞こえているだけだった。
高岡が、突然大笑いを始めるまでは。

从*゚∀从「あははははは!」

(゚、゚;トソン「ひっ」

本当に頭がおかしくなったのかと思ったが、
やけくそみたいに笑い続ける彼女を見ていると、どうもそうではなさそうだった。

(゚、゚;トソン「どうしたのよ!」

从 ゚∀从「どうしたもこうしたもない!
     あの金色の煙!
     やっぱりじいちゃんだよ!」

(゚、゚;トソン「へ?」

从 ゚∀从「だってそうだろ?
     あたし達がここに来たのを知ってんのはじいちゃんだけだ!」

(゚、゚トソン「!」

確かに、その通りだ。
ここに来ることはおばあちゃんにすら話していない。



527 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:27:49.40 ID:CPdPRhhC0

从 ゚∀从「きっとあれだ!ありがとうとか言いたかったんだろ!
     そうだろ!じいちゃん!」

(゚、゚;トソン「はは、まいったわね……」

その瞬間、また離れからカチン、カチンと光が一瞬漏れた。
空の星の瞬くより遅く、信号よりは早く。
まるで、ハインの言葉に「その通りだ」とでも言うかのように。

何故か人のよさそうなおじいさんの顔がふと、頭の中に浮かんだ。
照れたような表情で笑う、のんびりしたおじいさんの顔が。

从*゚∀从 (゚、゚*トソン


……私たちは思わず顔を見合わせたあと、つい吹き出してしまった。







528 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/06/19(日) 02:28:18.36 ID:CPdPRhhC0

   / ,' 3陽のあたる墓のようです('、`*川

  
                          終わり






530 : ◆MsdInw62ztuy :2011/06/19(日) 02:29:37.48 ID:CPdPRhhC0

若い人達の話を書きたかったのに
結局ジジババが出てきてしまう。
深層心理的な何かが邪魔をしているぞ!
そしてマッチ売りの少女的な何か。
そういう作品でした。

90レス近くにわたり長々と失礼しました。

すっかり遅くなってしまいました 次の方、どうぞ



boonkei_honpo at 06:17│Comments(1)TrackBack(0)ほのぼの | 短編

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この記事へのコメント

1. Posted by アグ ブーツ   September 11, 2012 09:01
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