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リラ冷えと花盗人。
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GW後半には初夏の空気が漂った北都・札幌の気温は一気に冷え込んだ。手袋とマフラーが欲しいくらいだ。
リラ冷えは昭和の後半に札幌でできた俳句の季語らしい。リラはフランス語で英語ではライラック。通貨危機のことでは無いぞよ。
その夜は小雨がぱらついていた。フードをかぶり菊水の大きなロータリーを抜けかかったとき突然声をかけられた。
“すいませ~ん、ちよっとイイですか?”って。
もちろんウイッキーさんやキヤッチャーの兄ちゃんではなく、お巡りさんだった。笑
本物かコスプレかは判らないけど、見たかぎりは制服&カッパ姿で小太り気味の若いお巡りさん。不審尋問というやつだ。
短い遣り取りの後に解放された。しかし私は正直言って驚いた。私はどこか怪しいオーラを放っていたようなのだ。どうしてだろうか?
まぁ、雨降りの深夜だから。笑
そのロータリーの先に一軒家があってそこ家のブロック塀から甘い香りを放つライラックの花が歩道に顔を出していた。
いつもはすり抜けて帰っていたが、その日はライラックを部屋に飾りたくなり、よしっ、ひと房手折って・・・などど良からぬことを考えていた、その矢先の事だった。
ほろ酔い気分で走っていると“ハ~イっ、ちよっとイイですか”と声をかけられたのだった。苦笑。まさにその声で正気に戻った。笑。
その時分の私はマンションのワンルームで複数の観葉植物を育てていた。テーブルの上にはいつもリンゴやオレンジを置いていた。
これはバイト先のマネジャーに教えられ始めたもので、帰宅時に植物やフルーツの良い香りが出迎えてくれるのは最高の気分だ。
ももちろん、翌朝は前夜の酒を抜くために果物を食べた。笑
その寝ぐらに可憐なリラの花をチョこんと置いてみたくなったのだ。一房でよいからグラスに差して眺めて見たかった。
部屋でシャワーに入り間接照明の下で好きな音楽を聴きながらグラスを傾ける。明日のことなど考えない。全く考えない。笑
とにかく、そこに在ることがすべてだった。始まりや終わりやその間を行き来する多くの思念雑念のすべての外にあるものとして。
それは学生というモラトリアムな時代のほんの短いお遊びタイムだった。この時期、私は多くの人と出会い、そうして別れた。
カレー屋のとなりにあったそのライラックの一軒家の辺りは今は生花店となり、後年、私はそこで姪っ子のために花束を買った。笑。
そうだ、そのお巡りさん、彼は曲がり角からしばらく私を見ていた。もしその時、私が花盗人となったなら、私は私で歌でも詠んだだろうか。笑。
荷駄が去ったリラ冷えの闇夜。
楚々と咲く白き花。
密かに手折り街路燈にかざせば、
儚き夢は甘露の影。
石畳に残る静寂に、
すべてのことば消え失せ、
ただ尖塔の鐘のみが、
その時を告げる。
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