本来、そこの名物はなんと言っても、緑色をした、甘い汁につけて食べるざるそばだった。
しかし、あれは夏の食い物と言う固定観念が強かったので、俺は同じ麺類で、という事でラーメンにしたわけだ。
カワタカは好き嫌いのない男だった。
いつまでも昼食のメニューを決めないので、空腹でイラついた俺が
『ラーメンにするで』
というと、
『なんでもええわぁ』
と同意した。
ラーメンが来る間もカワタカは落ち着きなく、家の中の様子を伺っていた。
俺が、
『座りねぇ』
と言っても、カワタカは
『あ、コレがボロさんが書いた少女漫画か』
とか、
『この写真、誰?』
とゆうさんに抱かれている俺の写真を指先たりした。
俺が
『それはゆうさん言うおばあさんじゃ』
と言うと、カワタカは
『ボロさんのおばあさん、ゆうさん言う名前なん?』
と言った。
俺がゆうさんは祖母ではなく、祖父の知人で、家族同様に我が家に出入りしていた人だと説明し、少しまえに自転車にはねられて事故死した事まで付け加えた。
するとカワタカは
『ほう、自転車ではねられても人言うて死ぬもんなんじゃなぁ』
と言い、
『その自転車ではねられて死んだ人は、ボロさんのお乳母さんみたいなもんかぁ』
と感心したような声をだした。
俺はゆうさんを乳母と思った事は無かったが、訂正するのも面倒だったので、返事をしなかった。
ただし
『言うに事欠いて、自転車ではねられて死んだ、死んだばぁ言いなさんな』
とは言った。
やがて、出前持ちのお兄さんが岡持を下げてやって来た。
俺は、待ちきれず、岡持を受け取った。
カワタカが
『何円?
お金はええんか?』
と聞いたので、俺は、出前持ちのお兄さんに
『つけといて』
と言った。
すると、カワタカは再度、
『ほう』
というと、
『ボロさんとこはやっぱり分限者なんじゃのう。
お乳母さんはおるは、飯はつけで食うわ。
歯医者言うもんはよっぽど、ええ、商売なんじゃのう』
と言った。
俺は貧乏と言われるのも嫌だったが、ことさらに、金持ち、金持ちと言われるのはもっと嫌だったので、
『冷とうなったらまずうなるけん、はよ、食うよ』
と言い、カワタカを促した。
ラーメンは、厚く切った焼豚が蓋をするかのように、数枚並んでのっていた。
そのため、どんぶりの中のメンがよく見えないほどだった。
いつもの俺なら、このラーメンだけではあきたらず、焼き飯も同時に注文して、一緒に食べる所だったのだが、最前、母にさされた釘が功を奏し、ラーメンだけで辛抱する事にした。
その時だけはカワタカも
『美味そうじゃのう』
と子供らしい反応をしめした。
俺達は空腹だったせいか、ものも言わず大盛りのラーメンを一気に食い終えた。
俺はおつゆまで余すことなく、飲んだが、カワタカはおつゆを残した。
俺が
『いらんの?』
と聞くと、カワタカは
『うん』
と言い、
『辛いもんはなるべくとったらイケン言われとんじゃ』
と言った。
それは、はじめて聞くカワタカの生の声のようだった。
俺は、さめかけて油の皮膜が浮いたようになっているラーメンのおつゆを見ているうちに欲しくなって来て
『頂戴』
と言った。
カワタカは
『俺の食いかけで』
と言い
『つば、はいっとるで』
と言った。
俺が
『かまわん』
と言って、どんぶりを奪い取り、おつゆを飲み干していると、カワタカは
『そうか!』
と言って膝をたたき、
『つば、やこう今更関係ねえか。
俺らぁ、キスした仲じゃけんな』
と言った。
それを聞いた瞬間、俺は飲みかけのおつゆを吹き出しそうになってしまったが、それと同時に
『キスしたんじゃぁ』
と、しみじみ思った。
『キス言うてお婆ちゃんが言うように汚ねぇモンじゃぁねかったわぁ』
とも思った。
しかし、それを祖母や、智子叔母に改めて、報告する事はできなかった。
少しだけ残念なような、秘密を持つ事がうれしいような気分になった俺は、カワタカのつばのはいったおつゆを丁寧に飲み干して行った。
そこが、NASAにフェラーリにマクラーレン,BMWのソリを負かしつつづけてるのだから、まさに下町ボブスレー
技術力より環境の違いですよ。
ソチで銀とってるほどに国ですからね。ソリ企業は町工場でもソリ競技の普及度が日本とは段違い。
選手層の厚さやコース設備
優秀なテストライダーの確保の容易さにテストをくりかえしてトライアンドエラーをくりかえせる環境。データの蓄積が段違い。
国内にコースもなく、五輪出場すらままならない程度の選手レベル。まともにテストも出来ない環境
金属部品として高品質なものつくれても早いソリをつくることはべつばノウハウですから。