岩登りから8日経った今朝6時過ぎに、渓谷の下流の、田の口の町から車で登ってみた。だいぶ上まで家があり、川の出口には、高さ5m、幅10mほどの砂防(洪水防止?)ダムがあった。その下から見上げると、やはり、斜面には巨岩がゴロゴロしている。豪渓のような景観である。

 

ちょうど散歩中の杖をついた70絡みの男性に、話を聞いた。予想通り、今の彼以降の世代の人は、地元でも渓谷の存在を知らないそうだ。「渓谷いうても、あんた、両側が絶壁で見る場所やこう、ありゃせんが」。その絶壁を登ったアホ男が、目の前におるんです。

 

ダムの横に登る道があるが、昔はそれが谷まで続いていたそうだ。今は草茫々で、この時期はハミ(蝮)が出るし、イノシシもいるから、行くのはやめたほうがいいと忠告された。秋にはぜひ探検したい。

 

よく見ると、私が遭難したすぐ脇の山肌が、垂直にえぐれている。「ありゃりゃ、どうしたんじゃろう。がけ崩れじゃな。もう道が埋まってしもうとるじゃろうなあ」と、男性も驚いていた。良かったあ! 私の判断は正しかったんだ。

 

西向きの急斜面を登りながら、途中で何度も、左手の岩に取り付く誘惑に駆られた。そこから南面に回れば、ふつうの斜面を下りられるんじゃないか。しかし、もしもその先が王子が岳のような巨岩の上なら、完全に退路を絶たれる。その恐怖で思いとどまった。実際は、さらにひどい絶壁だった。あぶねえ。

 

よく滑る土肌に、枯れかけの木がまばらに生えている。その細い幹や雑草につかまり、すぐにゴロゴロ落ちてしまう小岩に足をかけながら、這い登っていく。少し太めの幹に乗れたら休憩して、次のコースを探る。一回一回が苦渋の決断だ。大山の親指ピークも怖かったが、登山のコースでロープもあった。この崖は、人が登ることを想定していない。

 

ここで滑り落ちたら、どうやって救助を頼もうか。携帯の電波は多分届くだろうが、どうやって位置を説明しよう。まじめに心配になった。しっかりした足場の上に立っていることがどんなに幸福なことか、改めて思い知る。つい先月、大山の恐怖の稜線で、いやというほど味わった感覚なのに、まさか児島で同じ目に遭うとは・・・。

 

気がつくと、谷川は遥かに下で水が見えないほどだ。見上げていた対岸の頂上が、目の高さまで来た時、やっと、下りたのと同じ雑木林に出た。ここも傾斜は急だが、ちゃんと地面の上に立っている安心感。

 

偶然にも、下りた地点に戻った。そこからまた、背より高い笹と弦の中を藪漕ぎして、墓地の天辺に下りてきた。ラッキー。ここからは、まともな舗装路だ。生きてて良かった。しかし、田の口探索は、まだまだやめられない。