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持続活動を生み出すサブネットワーク

少し前の論文になるが、Nature Neuroscienceの論文
Heterogeneity in the pyramidal network of the medial prefrontal cortex
この論文では、前頭皮質のネットワークには、増強型・相互結合型のサブ・ネットワークが多く存在していることを示している。

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まず問題意識は、以下の通り。
作業記憶(ワーキングメモリ)の研究で見つけられた持続的活動をするニューロンは、どのようなネットワークによって生じるのか?
その持続的活動をするニューロンは、主に前頭皮質で見つけられるから、前頭皮質には、そのような活動を生み出す特別な回路が存在するのではないか?
という問題意識。

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この研究では、主にフェレットのスライスを使っている。(ラットとマウスのデータも記述されているが、結論は同じ)内側前頭皮質と視覚野からサンプルしている。5層錐体細胞からトリプルパッチをして、モノシナプス結合しているペアについて解析している。

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図1
視覚野と比べ内側前頭皮質には、増強タイプのシナプス結合を持つペアが多いそうで、その典型例を示している。連続刺激に対するシナプス応答で、1発目より2発目の活動が増強されていて、それ以降の反応が比較的維持されているのがポイントだ。

形態も示してあるが、apical dendriteがかなり早いところから分枝している。これは伏線。

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図2
1997年のPNAS
The neural code between neocortical pyramidal neurons depends on neurotransmitter release probability
で発表されたTsodyks-Markramモデルを使って、シナプス応答のフィッティングをしている。

目的は、実験によって得られたシナプス活動をモデルにあわせて、4つのパラメーターだけでシナプス応答を説明すること。

その4つのパラメータは、抑圧成分D、増強成分F,シナプス使用率U,絶対的なシナプス結合度A。

もしF>Dなら、図1のような増強タイプのシナプス結合であると考えられる。

ちなみに、図2dでは、比較している視覚野では、抑圧タイプのシナプス結合が多いことがすでにわかっていて、その再現データ。

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図3
モデルフィットによってはじき出した4つのパラメータの分布を示している。前頭皮質と視覚野のデータ分布の比較。前頭皮質のFが圧倒的に長いのがポイントだろう。

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図4
4つのパラメータを使ってクラスタリングをしたら、3タイプのシナプス結合に分類できたということを示している。
クラスタリングには、教師なしと教師あり両方使っている。

教師なしの方は、1999年にGenome Researchの
Exploring Expression Data: Identification and Analysis of Coexpressed Genes
で紹介されたQuality threshold clusteringを使っている。

分けられた3タイプのシナプスは
E1:増強タイプ(F>>D)
E2:抑圧タイプ(D<<F)
E3:均衡タイプ(F=D)

さらに、U(シナプス使用度)の大きさによって、サブクラスターが2つずつある。

教師ありの方では、ブートストラッピング法でリサンプルしたデータに対して、k-means clusteringをk=3でやっている。再現性よく、E1,E2,E3に分類できたそうだ。

ちなみに、視覚野の多くはE2に分類されることになるはず。

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図5
テタヌス刺激を入れた直後のシナプス応答を、E1〜3、と視覚野で調べている。E1で圧倒的にシナプス応答が増強されている。

イメージとしては、感覚入力が入った直後、E1タイプはより大きいシナプス応答をしやすい、ということ。

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図6
機能的結合と細胞形態との関係をトドメとして示している。

まず増強タイプE1の結合を持つ細胞の形態は、apical dendriteが早い時点で大きく分岐して、1層まで届いているのが特徴。この論文では、complexということで、cPCと呼んでいる。

抑圧タイプE2は、視覚野ではメジャーなapical dendriteが1層あたりまで1本で伸びてtuft状態になっているのが特徴。simpleということで、sPCと呼んでいる。

そして面白いのは、cPC同士の相互結合は、sPC同士のそれに比べて、圧倒的に多いということ。

つまり、E1タイプのシナプス結合をもつcPCで構成されるサブネットワークは、お互い密にリンクして、情報を増幅しやすい回路になっているということ。

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さすが、Nature Neuroscienceの論文という感じで、実験データ、解析方法、すべてがエレガントの一言。

この論文では、フェレット内側前頭皮質の5層錐体細胞のネットワークには、大きく3つのサブネットワークが存在することがわかったことになる。

その3つは増強、抑圧、均衡タイプ。

そして、増強タイプのサブネットワークは錐体細胞同士が密に結合していて、しかも、初期感覚野には、その増強タイプのサブネットワークは少ない。これが、持続活動を支える基盤になっているのでは?ということになる。

持続活動を生み出すメカニズムとしては、
1.視床なども含めたグローバルな回帰性回路
2.細胞特性そのもの
3.局所回路
というのが考えられ、それぞれをサポートする実験データがあると思う。(2に関しては、enthorinal cortexでの仕事がある)

この論文では、個人的にはリーズナブルと考えている、3のことをかなり明確に示している。スライス実験だから、サンプリング・バイアス、発達ステージの問題がどれくらいあるか不明だが、非常に良い論文だと思った。

特に、視覚野と比較しているところが個人的には好きだ。聴覚野のデータにも触れていて、基本的には視覚野と同じ傾向とのこと。ということで、自分の持ってるデータの眺め方の参考になった。

やはり次は、freely-moving juxta記録でもして、ワーキングメモリとの関係を絡めて議論できるとさらに良いかも??


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