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小ネタ集〜ダラケ、ニコレリス、アセチルコリン、レスヴェラトロール〜

新着のJournal of Neurophysiologyを中心に論文を読んだ。

集中力が欠けているときの神経活動は?
State-Dependent Modulation of Time-Varying Gustatory Responses
Alfredo Fontanini and Donald B. Katz
J Neurophysiol 2006;96 3183-3193
http://jn.physiology.org/cgi/content/abstract/96/6/3183?etoc
この著者らは以前、「レバー押し待ち」の課題をラットにトレーニングさせ、課題後半、ラットがだらけてきた時(disengagedな状態)に、7−12Hzのオシレーションがたくさん発生するという発見をしている。こちら

今回の論文では、ラットが課題に励んでいる時とだらけている時("disengagement"と呼んでいる)の味覚応答を、味覚皮質(gustatory cortex)で調べている。

すると、単一細胞レベルの味覚選択性、平均発火頻度は変化しないのだが、細胞集団による味覚刺激の情報表現(coding space)が、脳状態に依存して変化することがわかったそうだ。そのcoding spaceの解析には、主成分分析(PCA)を使用している。

この研究は、集中力という意味での「注意(attention, vigilance)」と関連がある。集中力がある時とない時とでは、個々の細胞の活動というより、細胞集団による情報処理が大きく変わるわけだ。

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初めに言うことが大事
Fast Modulation of Prefrontal Cortex Activity by Basal Forebrain Noncholinergic Neuronal Ensembles
Shih-Chieh Lin, Damien Gervasoni, and Miguel A. L. Nicolelis
J Neurophysiol 2006;96 3209-3219
http://jn.physiology.org/cgi/content/abstract/96/6/3209?etoc
Nicolelis研より。Nicolelisの尊敬すべきところは、少なくとも2つある。第一に、技術的に困難なことをやってのけているところ。BMIはいわずもがなだが、その基盤となる大規模な神経活動記録を、複数の領域からできる技術を確立してしまっていること。第二に、「セクシー」でない研究もしっかりやっているところ。BMIのような「セクシー」な研究だけでなく、脳を理解するためのしっかりした研究もやっていることだ。(もちろん彼のBMI研究はしっかりしているが)

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今回の論文は、「セクシーでない」研究の部類に入る。セクシーではなくても、新しいコンセプトを提唱している。

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何を提唱しているか?
basal forebrain(BF)のnoncholinergicな細胞集団の同期的活動が、投射先の皮質(ここでは前頭前野、PFC)での脱抑制、そしてガンマ帯域近くのオシレーションのトリガーとして働いている、と提唱している。

実験として何を示したか?
ラットのBFとPFCから同時&長期記録をしている。そして、BF細胞間の活動の相関性に基づいて、BF tonic neurons (BFTNs)と彼らが呼んでいる細胞種を分類している。そして、そのBFTNの集団がいろんな脳状態で同期的に活動して、その同期イベント直後にPFCでガンマ帯域の成分が大きくなることを示している。なので、BFTNが本当にnoncholinergicな細胞かどうか、その同期現象が皮質で脱抑制を起こしているか、という直接の証拠は一切示してはいない。

BFTNはホントにnoncholinergicか??
もちろん、彼らはそう解釈して、論文を通してきている。彼らの大きな根拠は二つ。

1.PFCで起きた変化は速いので、cholinergicな細胞によるムスカリン性受容体を介した変化だと解釈するのは強引(unlikely)。BFのnoncholinergicな細胞は、GABA作動性ニューロンに投射しているという論文があるので、「脱抑制」によってその速い変化が起きた、と解釈した方がすっきりする。

2.手持ちのデータの多くがBFTNに分類されている。cholinergicな細胞と比較して、noncholinergicな細胞は細胞体が大きいこと、そもそもの細胞数が多いことと、そのBFTNの割合が相関している。

という二つの根拠。

さて、この根拠をもとにどれくらい彼らの説を信用するか?彼らがdiscussionで言っているように、juxtaなりintraをやって、直接細胞種を決めてしまうことがさらに信頼できるデータとなりそうだ。

Nicolelisから学ぶべきこと
少々強引でも良いから、新しいコンセプトを、それなりのデータ・根拠をもって、誰よりも先に提唱してしまうことが大事なのだなぁということ。(下線部がないと「ニセ科学」との区別が曖昧になるから超重要)

例え物議をかもしても、もしその説が正しいのなら、少しずつ「新分野」が開けていく。あまり慎重になりすぎて、トーンを落として論文を書いて、「あっ、それ、実は自分も思っとってん」とか、「自分の論文のこの図見たら、そうやろう?」などと言っても後の祭りである。。。サイエンスには「戦略」も必要である。ちなみに、Nicolelisは、muリズムに関しては、ちょっと強引すぎた気がする。。。上で少し紹介したFontaniniとKatzの論文以来、その話を聞かなくなった。。。こういうリスクもあるが、それはそれで良い。単なるデータ解釈の誤りである。

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一次聴覚野のネットワークモデルとアセチルコリン
Network Architecture, Receptive Fields, and Neuromodulation: Computational and Functional Implications of Cholinergic Modulation in Primary Auditory Cortex
Gabriel Soto, Nancy Kopell, and Kamal Sen
J Neurophysiol 2006;96 2972-2983
http://jn.physiology.org/cgi/content/abstract/96/6/2972?etoc
この研究のモチベーションは、Fritzが示したフェレット一次聴覚野での受容野の可塑的変化を、ネットワークモデルで説明すること。

まず、一次聴覚野の入力層である3/4層のネットワークモデルを作っている。そして、皮質間結合のパラメーターや、アセチルコリン性の入力成分を変化させて、受容野がどう変化するかを調べている。

モデルからの予測としては、ムスカリン性受容体が皮質間結合を弱めるのに関わり、ニコチン性受容体は視床からの入力を増強させることに寄与して、結果的にFritzが見つけた受容野の変化を説明できるのではないか?ということ。ちなみに、そのFritzの論文はこちら

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レスヴェラトロール
resveratrolという単語、なかなか覚えにくいが、赤ワインに入っていて、健康にかなり良さそうだ、というのはすっかり覚えた。

Natureの
Nature 444, 337-342 (16 November 2006)
Resveratrol improves health and survival of mice on a high-calorie diet
summary
という論文は周知の事実として、Cellにも
Resveratrol Improves Mitochondrial Function and Protects against Metabolic Disease by Activating SIRT1 and PGC-1a
Marie Lagouge, Carmen Argmann, Zachary Gerhart-Hines, Hamid Meziane, Carles Lerin, Frederic Daussin, Nadia Messadeq, Jill Milne, Philip Lambert, Peter Elliott, Bernard Geny, Markku Laakso, Pere Puigserver, and Johan Auwerx
10.1016/j.cell.2006.11.013
[PDF]
なる論文が出た。(要旨だけのフリーなリンクというのがまだない)

New York Timesのこの記事でも、この二つの論文を取り上げている。

レスヴェラトロールという物質の存在は、上のNatureで初めて知ったが、pubMedで検索をかけると何と1646報もの論文が引っかかってきた。レスヴェラトロール・・・、それにしても言いにくく、覚えにくい名前だ。。。