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我慢脳と夢追求型研究所

我慢と脳
我慢する時、脳のどこが、どう働いているのだろう?

ここで紹介する研究によると、前頭前野・背内側部という、右脳と左脳が接しあったところ、おデコと髪の生え際より少し後ろあたり?の活動が、行動を抑えること・我慢することに関わっているらしい。

そして、その前頭前野・背内側部が行動を抑えるための信号を、運動野という場所へ直接送っているらしい。その運動野は、行動・運動のためのより直接的な信号を作り出している。

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その論文は
Top-Down Control of Motor Cortex Ensembles by Dorsomedial Prefrontal Cortex
Pages 921-931
Nandakumar S. Narayanan and Mark Laubach
で、「ニューロン」に掲載されている。

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どんな実験をした?
実験では、レバーをしばらく押し続ける、という「我慢」を求められる課題をラットにトレーニングする(図1)。そして、その課題をやっているラットの前頭前野・背内側部(英語でdorsomedial prefrontal cortexと言うので、訳してdmPFC)と運動野から神経活動を計測している。(詳細は以下参照)

具体的には、3つの実験から構成されている。

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実験1
ラットdmPFCの神経活動を計測し、レバー押し、我慢中(delay period)、レバー放しのどのタイミングに関わるニューロンがいるかを調べている。

その3タイプのニューロンが同じ割合でいたことを示している(図2)。面白いのは、図3で示しているように、delay period中の活動が、我慢してレバーを押し続けられるかどうかを予測できたということ。

情報量計算をして、確かに我慢できなかったときと、そのエラー時の神経活動が相関していることを示している。

ということで、実験1では、ラットのdmPFCの活動は我慢と関連していそうだということがわかった。

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実験2
では、そのdmPFCの活動を抑えると、我慢できなくなるのだろうか?そして、運動野の活動はどのように変化するのだろうか?

dmPFCの活動をムシモールを使って抑え、その時の行動の変化と運動野の活動の変化を調べている。

その結果、確かに我慢できずにレバーを放す傾向が高くなり、運動野でも観察できる「我慢関連活動」が低下することを示している。

ということで、実験2では、dmPFCの活動が運動野に作用して、我慢することと関連がありそうだということがわかってきた。

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実験3
dmPFCの活動は、直接的に運動野に作用しているのか、それともまず他の領域に影響を及ぼしてから間接的に運動野に作用しているのか、を検証しようとしている。

著者たちの主張は、前者である。

根拠は、dmPFCのニューロンと運動野のニューロンが時間的に相関した活動を示して、特に我慢している時にその傾向が高いことを見つけたことである。JPSTHの解析を使っている。

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解釈は?
dmPFCが運動野に"specific"な作用をもたらすことが、我慢すること、行動を抑えることと相関している、と著者たちは考えているようだ。

が、他の領域の活動を調べていないのにspecificかnonspecificか?という議論ができるのか、ちょっと疑問に思った。

実際、実験2でもわかるように、dmPFCの活動を抑えても、我慢はできている。つまり、他の領域も関わってるから少しは我慢できていることになる。

いずれにしても、大規模神経細胞記録と抑制実験を組み合わせるなど、なかなか精力的な研究だ。


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想像を膨らませると〜「我慢脳」の作り方?〜
我慢できる人間になるには、その前頭前野・背内側部の「我慢関連活動」をできるだけ強化できれば良いということになる。

一般に、こういう動物のトレーニングでは、まず短い時間我慢することを覚えさせ、それから、その我慢させる時間を少しずつ長していく。

重要なことは、トレーニング中、例え我慢できずにレバーを放しても、決して罰を与えるのではなく、我慢できた時にだけ「報酬」を与える、ということだ。

この研究ではラットを対象にしてはいるが、人にも当てはまりそうで面白い。

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トリビア
この著者のLaubachはNicolelis研出身で、やはり同じ課題を使って、Natureにその結果を発表した人だ。いろんな領域から同時記録をして、ICAを使って、情報を抽出していたと思う。

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夢を追い求める「ファーム」
日頃、我慢してたことを解きはなって、とことん夢を追い続けることをサポートする研究所の話だ。

ハワード・ヒュージの財団?が、巨額の資金を投入してできたジャネリア・ファーム。「ファーム」とついているが、これは研究所の名称である。

新着サイエンスの以下の記事では、その設立の経緯などが紹介されている。

RESEARCH FACILITIES: Neurobiology on the Farm
http://www.sciencemag.org/cgi/content/summary/314/5805/1530?etoc
p. 1530

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アメリカのサイエンスもいろいろ問題を抱えているようで、しかも今予算という点で逆風が吹いている。そういう「淘汰圧」がかかっている時というのは、意外とこのような全く新しい発想の「サイエンスの仕方」が芽生えたりするのかもしれない。サイエンスの仕方・仕組みも日々変化・進化しているということなのかもしれない。

ちなみに、ジャネリア・ファームでは、シンプルな生物(ハエなど)をモデルに、神経回路の動作原理をイメージングを中心として明らかにする、という明確な目標が打ち立てられている。

その目標を達成するために、実験から理論まで、いろんな分野の研究者をミックスさせようとしている。例えば、コールド・スプリング・ハーバーのSvobodaやChklovskiiがグループリーダーだったりする。

広く浅く研究を進めるのではなく、一つの問題に焦点を絞って、とことん追求するスタイルのようだ。

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この記事では懐疑的な人の意見も少し紹介されている。

リスクが高いことを始めようとすると、得てして「想像」だけを根拠に、それをつぶそうとしたり、やめよう・やめさせようとする。

けど、そのリスクを抑えるためのしっかりした環境をまず整え、よしやってみようというのは実にすばらしいと思う。

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この記事の最後には、ジャネリア・ファームの設立に大きく貢献したRubinという人の、ジョーク混じりのコメントが紹介されている。

If we have too many [publications],
I'd say our researcher aren't being ambitious enough.


お金・雑用などのしがらみから解放され、夢を追い求めるにはもってこいの研究環境かもしれない。

前頭前野・背内側部を、「我慢」ではなく、もっと創造的なことに使える環境かもしれない。