長距離の抑制結合、バカです

長距離の抑制結合〜McDonald & Burkhalter 1993〜
大脳皮質のニューロンの約20%を占める抑制性細胞にはいろんなタイプの細胞がいる。中には、長距離結合(0.4mm以上)して、脳の離れた場所へ抑制性の情報を送っている細胞もいる。

ここで紹介する論文では、10年以上前の論文だが、ラットの視覚野で長距離結合の抑制性細胞を発見している。

 J Neurosci. 1993 Feb;13(2):768-81.
Organization of long-range inhibitory connections with rat visual cortex.
McDonald CT, Burkhalter A.

何をやった?
目的の細胞、長距離・抑制性細胞、を見つけるロジックはこう。

例えば、A→Bという結合があったとする。
特別な色素を使って、Aを見えるようにする。
そして、Aの中に抑制性細胞がいないか調べる。

さて。

ラットの視覚野(17野と18a野)に、逆行性色素、出力先からニューロン本体まで運ばれる色素、を注入している。逆行性色素には蛍光物質がついたビーズを使っている。

そして、抑制性細胞を、その目印となるタンパク質GADの抗体染色によって可視化している。

逆行性色素を打ったところから離れたところの細胞で、その蛍光色素とGADが陽性と出たら、それは長距離結合の抑制性細胞、ということになる。

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何がわかった?
まず一次視覚野(17野)に色素を打って、17野内で調べてみると、注入場所から0.5mm以上離れたところにも長距離・抑制性細胞がいた。しかも、5層と6層の境界領域に集中していた。(論文ではそれほど強調していないが、白質と灰白質の境界にも若干いるような、いないような)

一次聴覚野の外(LM野など)の領野にも、長距離・抑制性細胞がいた。

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逆に、18a野(PX野)に色素を打って、一次視覚野から長距離結合している抑制性細胞がいないか調べたら、確かにいることがわかった。

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何を考える?
Buzsakiの教科書でも度々登場するが、このような細胞は、スモール・ワールド性を実現するのに重要なエレメントになる。スモール・ワールド・ネットワークを実現するには、ごくわずかな配線を長距離結合の配線につなぎ変えれば十分である。

長距離・抑制性細胞、例え数は少なくとも、脳の情報処理に及ぼす影響は計り知れないだろう。

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バカです
今日はいつものようにボスのケン・ハリスとの個別ミーティング。

ケンという人はホントに頭が良い。

ボスのケンからは「バカ」とはもちろん言われたことはないが、自分のバカさを痛感することがよくある。なんて無駄なこと(解析)をやってる・やったのだろう・・・と。

けど、そんな時はいつも寺田寅彦の次の一節を思い出して、自分を励ます。(長いから実際は全部思い出せないけど)

頭の悪い人は、頭のいい人が考えて、はじめからだめにきまっているような試みを、一生懸命につづけている。やっと、それがだめとわかるころには、しかしたいてい何かしらだめでない他のものの糸口を取り上げている。そうしてそれは、そのはじめからだめな試みをあえてしなかった人には決して手に触れる機会のないような糸口である場合も少なくない。自然は書卓の前で手をつかねて空中に絵を描いている人からは逃げ出して、自然のまん中へ赤裸で飛び込んで来る人にのみその神秘の扉(とびら)を開いて見せるからである。

難しい問題に対しても、バカはバカなりに取り組めば、頭の良い人には見えない手がかりが何か見えるかも知れない。。。

と、そんなセンチになってる暇はないので、個別ミーティングの後もひたすら解析、解析。

午後、今年初!のラボ・ミーティング。ステファンがGap junction絡みのreviewをやってくれた。