長距離の抑制結合 其の参、ガンマに21世紀社会学

長距離の抑制結合〜Tomioka, et al., 2005〜
ここ最近、こちらこちらで、大脳皮質にいる抑制性投射ニューロン、長距離結合している抑制性細胞、のトピックを扱ってきた。

視覚野、体制感覚野に抑制性投射ニューロンがいて、中には右脳と左脳を結んでいるニューロンがネコやラットの大脳皮質にいることがわかった。

今回紹介する論文で取り組んでいる疑問点は、
1.目印となるタンパク質が存在するか?
2.どのような形をしているか?
3.どのような入力を受けているか?
という3点だ。

Eur J Neurosci. 2005 Mar;21(6):1587-600. 
Demonstration of long-range GABAergic connections distributed throughout the mouse neocortex.
Tomioka R, Okamoto K, Furuta T, Fujiyama F, Iwasato T, Yanagawa Y, Obata K, Kaneko T, Tamamaki N.

非常に精力的な研究でデータも豊富なので、パート1〜3にわけて説明してみる。

パート1〜抑制性投射ニューロンの目印〜
まず何をやったか?

この研究では、ラットではなく、マウスを対象にしている。

GAD67-GFPマウスという、遺伝子操作でGAD67、GABAを合成するタンパク質、を発現している細胞が「光る」ようにしたマウスを研究対象にしている。つまり、あらかじめ抑制細胞が緑色に光るマウスなわけだ。

そのマウスの一次体制感覚野、一次視覚野、一次運動野にFast Blue(FBと略)という逆行性トレーサーを注入する。Blueが付くくらいだから、励起光を当てると青に光るトレーサーだ。

そして、組織学的に、青と緑に光る、つまりFBとGFP陽性、つまり、FBを打った場所に出力繊維を送っている抑制性細胞を探す。

ここまでは、これまで紹介した論文と同じ戦略。

ここからが新しく、重要。

免疫染色によって、どのようなタンパク質が発現しているか調べることで、抑制性投射ニューロンのマーカータンパク質を調べている。

すると、何がわかったか?

どこへトレーサーを打っても、1ミリ以上離れたところから出力繊維を送っている抑制細胞がいることがわかった。

どのようなタンパク質が目印・マーカーになりそうかというと、パルブアルブミン(PV)、カルレチニン(CR)、ソマトスタチン(SS)、と基本的には抑制性細胞のマーカーなら、何でもマーカーになりそうではある。

が、ソマトスタチン(SS)が最も特徴的。PVとCRを発現している細胞は、2ミリ以上離れたところから投射しているケースはなかった。しかし、SS陽性細胞は5ミリくらい離れたところからでも投射している細胞がいた。

さらに、nNOSとニューロペプタイドY(NPY)というタンパク質について調べている。

すると、nNOS陽性細胞と抑制性投射ニューロンの分布がなんとなく似ていることが見えてきた。

つまり、SS陽性細胞の中のnNOS陽性細胞が、抑制性投射ニューロンなのではないか、という可能性が見えてきたわけである。

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パート2〜抑制性投射ニューロンへの入力〜
ネットワークを考える場合、どこからどんな入力が入っているか決めることはすごく大事。ここで、その抑制細胞を興奮させる入力に注目している。

それを調べる便利なタンパク質が知られている。

VGluT1とVGluT2。共に、グルタミン酸のトランスポーター。
VGluT1は新皮質内からの興奮性入力、VGluT2は視床からの興奮性入力の目印と考えられているタンパク質だ。共に、入力している細胞のシナプス終末、つまりプレ・シナプスに存在している。

さて、このパート2の実験では、パート1と同様で、FB+GFP陽性細胞がVGluT1、VGluT2どちらをもつシナプスの入力を持っているか調べている。

その結果、VGluT1を持つ細胞から入力を受けている傾向があることがわかった。

つまり、抑制性投射ニューロンは、視床ではなく、新皮質内部の興奮性入力によってコントロールされていそうである。

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パート3〜抑制性投射ニューロンの形態〜
最後に、抑制性投射ニューロンの形を調べるために、Emx1-Creノックイン・マウスにウィルスベクターを打つという手のこんだ実験をしている。目的は、抑制性細胞でだけGFPが発現するようにするのが目的だ。

細かい話は次の通り(飛ばしても大丈夫です。)
---ここから---
まず、Emx1というのは、転写因子だが、脳の発生過程で抑制性細胞が移動してくる源の領域(ganglionic eminence)では発現していないそうだ。Emx1-Creノックイン・マウスというのは、そのEmx1プロモーターが働いている細胞でだけ、Creを発現していることになる。
つまり、ほとんどの抑制性細胞では、Creは発現していないことになる。

ウィルスベクターには、GFPをloxPで挟んでいる。アデノウィルスベクターを使っている。そして、それをCreマウスに注入。注入すると、ウィルスが感染+Creを発現していない細胞では、GFPが飛ばず、緑色に光ったままになる。
---ここまで---

GFP陽性で長い軸策を持った抑制細胞の形を細かく調べている。

すると、脳の表面と平行に軸策を走らせている細胞もいれば、垂直方向に軸策を伸ばしている細胞もいた。
6層に存在していた抑制性投射ニューロンのほとんどは、白質へ軸策を伸ばしていたそうだ。

樹状突起に注目すると、スパインを持っているタイプもいたようだ。

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結果をまとめると
1.ソマトスタチン、特にnNOS陽性
2.視床ではなく新皮質内からの興奮生入力
3.白質経由で長距離投射しているタイプの存在

といった特徴を抑制性投射ニューロンは持っているようだ。

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何を学ぶ?
この論文、抑制性投射ニューロンのマーカーを決めたのが重要なポイントだ。ソマトスタチン陽性細胞といえば、マルティノッティ細胞ということになりそう。

では、他の種でもそうか?というのが、第一の疑問。

しかし
J Comp Neurol. 2006 Nov 1;499(1):144-60. 
Mouse cortical inhibitory neuron type that coexpresses somatostatin and calretinin.
Xu X, Roby KD, Callaway EM.
というこちらのエントリーで紹介した論文によると、マウスではSSとCRがオーバーラップするというやっかいな問題がある。(ラットではそれはない)

このCallaway研の論文によると、樹状突起の張り具合が重要らしく、SS陽性細胞の中で、CR陽性は樹状突起のハリがより広く、CR陰性は広くない、とある。今回紹介した論文では樹状突起の定量データはないが、CR陽性と出た抑制性投射ニューロン、実はSS陽性だったかもしれない。

次の一番興味のある問題は、やはり抑制性投射ニューロンの役割。
今回の研究で、nNOS陽性らしいことがわかったから、nNOS-GFPマウスなんかがいれば、スライス実験で生理特性を細かく知ることができそうだ。

問題は、in vivo。
おそらく抑制性投射ニューロンはとてつもなく重要な役割を果たしているだろうから(根拠なし)、その問題に取り組むことがin vivo生理学者の使命の一つ、ということになりそう。(自分がそう思っているだけ


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遅れて見えるガンマオシレーションと視聴覚統合

ガンマ帯域(30〜80Hz)のオシレーションと知覚との関連はよく議論されている。けど、視覚と聴覚の情報がマッチした状況で、ガンマオシレーションが見れるのかはわかっていない。

What You See Is Not (Always) What You Hear: Induced Gamma Band Responses Reflect Cross-Modal Interactions in Familiar Object Recognition     Shlomit Yuval-Greenberg and Leon Y. Deouell
     J. Neurosci. 2007;27 1090-1096
    
という論文では、視覚と聴覚の情報が意味という点でマッチしている状況では、刺激が呈示されてから200〜300ミリ秒に見えるガンマオシレーションが、マッチしていない時より大きくなるそうだ。

課題では、視覚刺激か聴覚刺激のどちらかだけに注意を向けるようにしている。
どちらに注意を受けていようが、刺激情報が意味的にマッチしていれば、同様の結果が見えたそうだ。

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21世紀の社会科学
スモール・ワールド・ネットワークを世に発表して、革命?を起こしたDuncan J. Wattsによるエッセーがネイチャーに出ていた。

A twenty-first century science p489
Duncan J. Watts
doi:10.1038/445489a

Webを介した人同士の相互作用を実験的に調べることで、社会、人の行動をより深く理解できる時代がきそうだ、ということをわかりやすく主張している。

個人的に興味があるのは、
1.Neurosociology(神経社会学)
2.人同士の相互作用の結果生まれる何か

1に関しては、神経経済学みたいな感じで、Wattsの言う、Webベースの社会学研究にそのまま非侵襲計測を組み合わせれば、良い気がする。(たぶん、1,2年以内にそういう分野が確立されそう)

2に関して。自分の持ってるstupidな説は、人の(友好的な)ネットワークと大域的な脳のネットワークにはアナロジーが成り立つということ。

テクニカルな意味においても、知識的な意味においても、いろいろ情報を共有すれば、何か新しいことが見えてくる気がする。

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デネットめ!
実は来週水曜日のケンのクラス、自分が当番になっている。

無謀にもダニエル・デネットの記事(Intentional Stanceとかいう本のTrue Believer)を選んでしまった。。。

かなり後悔している。何を言ってるのかさっぱりわからない。。。

こういう訳のわからないことを書く哲学者というのは、どうも。。。

同時に、何となくケンが好きで文献リストに挙げたのがわかるような気もしないでもない。。。ケンを理解するには、このデネットの章を理解しなければいけないということか。。。

解析、解析
解析の方はというと、昨年のプログレスで発表した内容をまとまった形としていつでも出せるようにした。つまり、ようやくプログレスのレベルになったという感じ。。。まだまだ先は遠い。