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感覚野の層と機能〜4層 Brecht and Sakmann, JP 2002〜

大脳新皮質のほとんどの領野は、6層構造になっている。そんなことは昔からわかっているが、各層にいるニューロンが、機能的にどんなことをやっているのか、過去にたくさん研究例はあっても、全体像はもう一つ見えていない気がする。

例えば、「細胞外記録の電極がX層にあったから、そのX層はこんな情報処理をしている」と言われても、ホントにその層から神経活動を記録していたのか心許ないし(その根拠はこちら参照)、多様な神経細胞のどんな細胞からの記録だったのかはわからないまま。

ノーベル賞をとったSakmannの研究室で、Brechtという人がin vivo whole cell記録という方法を使ったすぐれた研究をしている。シリーズで読んでみようと思う。

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まずは第一弾として、視床の主な入力先である第4層について調べたこちらの論文から。

J Physiol. 2002 Aug 15;543(Pt 1):49-70. 
Dynamic representation of whisker deflection by synaptic potentials in spiny stellate and pyramidal cells in the barrels and septa of layer 4 rat somatosensory cortex.
Brecht M, Sakmann B.

予備知識プロの方は「何をやった?」へ
まずは、今回の研究対象になる「バレル皮質(barrel cortex)」について

ラットやマウスの体制感覚野には、ヒゲからの情報を処理している領域がある。そこがバレル皮質に相当する。なぜ「バレル(樽)」と呼ぶかというと、組織学的にバレル皮質を染めてみると、4層に「樽(バレル)」のような染色像が見れるから。樽が並んでいるようにホントに見える。こちら

興味深いのは、たくさんあるバレルの一個一個が、神経応答という意味でも一本一本のヒゲとある程度対応しているということ。つまり、バレル皮質には、ヒゲに相当するマップが存在している。

バレルとバレルの間をセプタ(septa)と呼ぶ。そこは、バレル領域と比べてニューロン密度が低い。だから、組織学的に見たら、樽がいくつも並んでいるように見える。

ちなみに、4層は視床の主な入力先だが、バレルとセプタでは、入力元が違っていて、バレル領域はVPMと呼ばれる視床核から、セプタはPoMと呼ばれる視床核からそれぞれ入力を受けている。

VPM→バレル
PoM→セプタ

さらに詳しい解剖については、こちらのエントリーなど。

4層にどんなニューロンがいるか?
今回の研究では興奮性細胞だけを対象にしているので、「どんな興奮性細胞がいるか?」について。

2種類いる。

一つはspiny stellate cellと呼ばれる細胞。樹状突起にスパインをたくさん持ってるが、明瞭な尖端樹状突起(apical dendrite)を持っていない。もう一つは錐体細胞。尖端樹状突起が特徴的になる。

ただ、上述のようにバレル皮質には、バレルとセプタがあるので、2種類x2区域=4通りの細胞がいそうだ。
つまり、
バレルのspiny stellate cell(b-sp細胞と略する)
バレルの錐体細胞(b-pyr細胞
セプタのspiny stellate cell
セプタの錐体細胞(s-pyr細胞

(ただ、今回の研究では、3番目の細胞はサンプルされなかったので、ホントにあるかはよくわからない。)

4層細胞の受容野に関するミニ論争
これまでの研究から、4層細胞の受容野、一個のニューロンが何本くらいのヒゲ刺激に応答するのか?という性質、について、ちょっとした論争があるそうだ。

過去の細胞外記録の研究からは、ほとんどの細胞は1本のみに応答。一方で、細胞内記録の研究からは、もっと多くのヒゲ刺激に応答する、つまり受容野は広い、という報告があったそうだ。

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何をやった?
4〜5週齢のラット(性別問わず)をウレタン麻酔して、バレル皮質4層からwhole cell記録をしている。

そして、
0.発火頻度
1.受容野と形態
2.ヒゲ刺激の方向選択性
3.一本vs複数本刺激の応答
4.応答性の時間的変動
5.繰り返し刺激に対する応答

を調べている。

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何がわかった?話がさらに細かいです。
23個の4層細胞からサンプルしている。(すべてスパインを持っていたので、興奮性細胞と判断)
b-sp細胞 6個
b-pyr細胞 8個(*)
s-pyr細胞 5個

という内訳。(*表1に基づく。Resultsでの記述は7個とある。。。)

以下、上述の0〜5の特徴について。

0.発火頻度
自発発火頻度の平均は0.053±0.12 Hz。(誤差はSD)
ヒゲ刺激による誘発発火頻度は0.14 Hz0.7 Hz (本文中では200ms刺激呈示あたりのスパイク数として記述されている)。

1.受容野と形態
図1〜9までがこのトピックを扱っている。図7〜9がまとめ。
各論的データとして、図1〜3はb-sp細胞、図4と5はb-pyr細胞、図6はs-pyr細胞。

まず、閾値以下の反応と、閾値以上の発火との比較だが(図9)、バレルに関しては、受容野が発火で見たらシャープ・狭くなっている。セプタに関しては閾値以下でもなまっている傾向が、閾値以上でもそのまま現れている印象。ほとんど発火しないと考えても良さそうだ。

バレルとセプタの比較という観点では、やはりバレルの細胞の方が受容野は広く、脱分極反応も大きい

バレル内の2種類の細胞という観点では、「錐体細胞は多様」、という記述があった。b-pyr細胞とb-sp細胞との違いについては、特にコメントはないようだ。

形態について、バレルとセプタとの比較に重点を置いていて、樹状突起の「横のハリ」はバレルの方が広そうだ。意外だが、樹状突起全体の長さという点では、セプタの錐体細胞の方が長そう(表1)。

2.方向選択性
図10。
バレル内の2種類の細胞の違いはなし。セプタの錐体細胞は、バレルよりも若干選択性が高いようだ。

3.一本vs複数本刺激の応答
図11。複数本刺激はエアパフによる刺激。

ここで始めてバレル内の2種類の細胞の違いが顕著になる。
つまり、b-sp細胞では、複数本刺激すると反応が抑制される。b-pyr細胞は多様ではあるが、若干反応が増強されている傾向がある。
セプタはどちらの条件でも反応は変わらず。


4.応答性の時間的変動
図12〜14。
図12は、最もよく反応するヒゲ(PW)の潜時ついて。
バレルとセプタに違いがある。膜電位のピークを指標にすると、バレルは15.0ms、セプタは22.3ms。つまり、セプタが遅い

また、図12を信じるなら、バレル内のb-sp細胞はjitterが大きいが、b-pyr細胞はかなりreliableな感じ。ちなみに、活動電位の潜時は11.5msとなっているようだ。(セプタはほとんど発火しないので、バレルの細胞のデータの貢献大。)

図13は、他のヒゲとの潜時の比較。
基本的に、セプタはどのヒゲを刺激しても遅い傾向がある。

図14は、反応の経時的変化。
バレルとセプタの違いが一目瞭然でわかりやすい。つまり、バレルは早く反応が始まって早く終わる。セプタは遅く反応し始めてダラダラ続く。


5.繰り返し刺激に対する応答
図15。
またまたバレル内の2種類の細胞の違いがはっきり出る。つまり、b-sp細胞は、繰り返し刺激に対して毎回しっかり反応するのに対し、b-pyr細胞の反応は鈍っていく。セプタの錐体細胞はバレルのそれと同じような感じで、鈍っていく。が、もともと鈍ってる傾向があるので、なまり方がより顕著な感じ。

結果をまとめると、

バレル対セプタ・・・バレルでは、潜時が早く、大きな反応。セプタは、受容野・反応の時間構造という点で鈍っている。

バレル内の違い・・・b-spは複数ヒゲ刺激に抑制的で、繰り返し刺激にはロバスト。

何を学ぶ?
まず、受容野に関する論争に関して、入力という点に関しては、4層と言えども複数のヒゲ情報を受け取っているようだ。出力に関しては、シャープになる傾向を得ているので、これまでの論争を統一するような結果なのかもしれない。つまり、入力は広くて、出力は限定的。

が、個人的に一番気になったのは、発火頻度の低さ
細胞外記録の実験データとの比較を議論しているが、桁が違う。。。麻酔によるものではない、サンプリングバイアスの問題があると言ってはいるが、やはりwhole cellによるアーティファクトの可能性は排除できない。

Resultsで、data not shownとしてそうでないと主張はしているが、あまり信用できない。特にspiny stellate細胞は、細胞そのものが小さいし、whole cell記録したら、かなり細胞の性質が変わる気がする。そういう意味では、whole cell記録、入力情報を調べるには良いのかもしれないが、発火頻度を調べるのはNGなのかもしれない。(whole cell記録の経験はないので、単なる印象

そんなことより、図11と図15が最も面白いデータだと個人的には思った。

後者に関しては、VPMからの入力そのものの多様性が反映されているかも?と考えているようだ。

前者に関しては、樹状突起の張り具合の違いが、加算的に働くかそうでないか、の鍵を握るかも?と考えているようだ。今回の研究では、抑制入力はほとんど見れなかったようだが、抑制性入力の貢献も鍵を握っている気がする。