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感覚野の層と機能〜5層 Manns, Sakmann, and Brecht JP 2004〜

ここ最近、シリーズで読んでいるBrechtたちの論文。今回はその集大成的な意味合いの

J Physiol. 2004 Apr 15;556(Pt 2):601-22. Epub 2004 Jan 14.  
Sub- and suprathreshold receptive field properties of pyramidal neurones in layers 5A and 5B of rat somatosensory barrel cortex.
Manns ID, Sakmann B, Brecht M.

という論文。

ちなみに、過去のエントリーで4層2/3層の論文を扱った。

今回の論文は、皮質の主な出力層とも言える5層の研究になる。しかし、各論的論文というよりは、これまでの一連の研究も踏まえて、非常に濃い議論を展開している読み応えのある論文となっている。

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5層の解剖
この論文では、5層を5A層と5B層の二つに分けている
解剖学的に違うから、この分類はリーズナブル、というわけだ。

どう違うか?

まず論文の導入(introduction)で書かれている解剖。
POm→5A→POm、基底核、他の皮質領野
VPM→5B→POm、上丘、橋核、脊髄、他の皮質領野など

つまり、視床からの入力が違っている。(VPM, POmというのは、視床の神経核の名前)

それから、層どうしの結合という点でも違いがある。(後述) 5B層は、細胞密度が高く、大きめの細胞がいることも異なる。

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何をやった?
基本的にはこれまでと同じ。過去の彼らの論文と比べると、ラットの週齢が数日若め。もちろん、5層錐体細胞を調べたことが、これまでと最も違う点。ただ、セプタ下(septa-related)の5層錐体細胞からはサンプルできなかったらしく、すべてバレル下(barrel-related)の錐体細胞からサンプルしている。

調べた性質は以下の通り。
0.発火頻度
1.受容野と形態
2.応答性の時間的変動
3.ヒゲ刺激の方向選択性
4.繰り返し刺激に対する応答
5.一本vs複数本刺激の応答


ここまでは、これまでの研究と全く同じ。

それに加えて、
6.同側のヒゲ刺激による応答
についても、ポジティブなデータが得られたということで、図として格上げしている。

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何がわかった?
27個の5層錐体細胞からサンプリングしている。

電流を注入すると、14個はレギュラーな活動、13個はバーストを起こしたそうだ。前者はいわゆるRS(regular spiking)細胞、後者はIB(intrinsic bursting)細胞になるのだろう。だが、Sakmann研だけに、あえてそういう呼び方はしていないし、その後もこれとの関係は一切議論しない。(賛成!)

27個の錐体細胞のうち、5A層は16個5B層は11個からサンプル。
前述のようにすべてバレル下の錐体細胞からサンプルしている。

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0.発火頻度
自発発火頻度は、0.54±0.14 Hz。(5A層 0.39±0.14 Hz, 5B層 0.77±0.28 Hz)(4層 0.053 Hz、2/3層 0.068 Hz)。

ヒゲ刺激による誘発発火頻度は、5A層 0.12±0.03発、5B層 0.13±0.05発。(200msの刺激あたりのスパイク数なので、それぞれ0.6 Hz、0.65 Hzに換算)(4層 0.7 Hz、2/3層 0.16 Hz)

*誤差はすべて標準誤差表示。(以下同様)

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1.受容野と形態
図1は5A層、図2は5B層の例。

図3は5A層、図4は5B層のまとめ。図6が両者の受容野をまとめた図。

まず、5A層と5B層の違いは、5B層錐体細胞の受容野は広く、5A層のそれは狭い

閾値以下の反応とスパイク活動という二つの観点で受容野を比較すると、層内では大きな違いはないようだ。つまり、5A層はどちらもシャープ。5B層はどちらも広い。(5B層はPWの反応がシャープになっているか?)

図7では、たまたま同じ実験で、5A層、5B層の細胞をサンプリングできたらしく、その結果を示している。同一個体、同一コラム内で5A層と5B層を比較しても、5A層はシャープ、5B層は広い、という傾向が見られることを強調している。(この層間の違いは今回の論文の重要な発見なので、繰り返し強調している。)

細胞形態に関して、5B層錐体細胞は、セプタまで基底樹状突起を張っている傾向が強く、中には隣のバレルにまで伸ばしている細胞もいる。それをしっかり示すため、図5で、全細胞の形態データを重ね描きしている。

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2.応答性の時間的変動
図8〜10がそれ。
反応潜時はどちらも違いはなくて、全体の平均は10.1±0.5 ms

図9は、これまでの論文の図14と等価。
バレルで比較してみると、4層では10msの時点で反応の立ち上がりが見えていて、2/3層では15msでそれなりに大きい反応がすでに見えていた。一方、5層はともに若干遅めのようだ。

図10はスパイクについての例が示してあるが、テキストの記述が面白い。5A層では10/16、5B層では6/11で、ヒゲ刺激によって発火頻度が上昇したが、残りのニューロンでは、ヒゲ刺激しても発火頻度は上がらなかったらしい。

スパイクを出さないと情報伝達という点では意味がないかもしれないが、スパイクを出さなくったって、閾値以下の反応はしっかり得られることが多い、ということになる。

その膜電位の反応の仕方に関しては、5A、5B層の違いはないが、ピークを潜時は5A層39.2±7.4 ms、5B層48.7±7.9 msと5B層が遅そう。だけど統計検定しておらず。。。

ちなみに、この誘発スパイク数は4層のデータとほぼ同じ。

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3.ヒゲ刺激の方向選択性
図11。
層による違いはなし。

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4.繰り返し刺激に対する応答
図12。
基本的にはどちらの層でも抑圧されていく。が、5B層では、2発目の刺激に対する応答に多様性がありそうだ。平均値でみると、若干上がっている。つまり、ペア刺激と3発以上の繰り返し刺激では、短期適応の性質が全く違う、ということになりそうだ。

図12で、5A層はロー・パス的、5B層はハイパス的な膜電位を示しているようだが、特にコメントはなかった。


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5.一本vs複数本刺激の応答
図13。これといった違いもなければ傾向もない。あえていえば、5層はなんでもあり。

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6.同側のヒゲ刺激による応答
図14。
記録と同側のヒゲを刺激してみると、6/9の確率で反応が得られたそうだ。5A、5B層共に3個ずつそういう細胞を見つけている。4層、2/3層では、この同側ヒゲ刺激によって反応は見れなかった。

結果をまとめると、
5A層対5B層・・・自発発火頻度は5B層が若干高め、だけど誘発発火頻度はほぼ同じ。受容野は5A層がシャープで5B層は広い。つまり、5B層は「マルチコラム」的反応を示す。反応潜時はあまり違わない。

5層対2,3,4層・・・5層の自発発火頻度は1桁大きいが、誘発発火数は4層と同レベル。ヒゲ刺激によって見れるシナプス応答、2/3層より5層の方が小さい。が、スパイク数という点では5層がはるかに大きい。5層では反応潜時が遅め。繰り返し刺激に対しては、4層バレルspiny stellateを除いては違いはあまりない。5層では同側のヒゲ刺激にも反応する。


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何を学ぶ?
この論文のDiscussionは濃い。2/3層、4層の情報も絡め、5層で起きていることをコッテリ議論している。

5層はより広い受容野を持つ、というこれまでの通説に対して、今回の論文では、5B層は確かにそうだが5A層は違う、ということを明らかにしている。このことに対して、5A、B層の解剖などの違いを考慮に入れて議論している。

結論だけ掻い摘むと、5A層は4層からの入力が主に効いていて狭い受容野になって、5B層は2/3層からの入力が主に効いて広くなっているのではないか、とみているようだ。

ただし、
J Neurophysiol. 1992 Oct;68(4):1345-58.
Flow of excitation within rat barrel cortex on striking a single vibrissa.
Armstrong-James M, Fox K, Das-Gupta A.

では、5A層の受容野は広い、という結論になっているようで、両者のサンプリングバイアスの問題がありそうと議論している。つまり、5A層の受容野の広さについては、議論の余地が残されている

種が変わって、調べる場所も変わると、この5層の受容野の特徴はどうだろう?
J Physiol. 2002 Apr 1;540(Pt 1):321-33. 
Laminar processing of stimulus orientation in cat visual cortex.
Martinez LM, Alonso JM, Reid RC, Hirsch JA.

という研究では、ネコ一次視覚野でやはりwhole cell記録をしている。(Hirschたちの一連の研究は次のシリーズでやる予定です。たぶん
5層で閾値以下の反応を指標にした受容野は広いことがわかった。なので、5層は受容野が広い、というコンセプトはほぼコンセンサスが得られているようだ。


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続いて、発火頻度ついて議論。5層は2〜4層細胞より自発発火頻度が高い結果が得られたわけだが、
J Comp Neurol. 1987 Sep 8;263(2):265-81.
Spatiotemporal convergence and divergence in the rat S1 "barrel" cortex.
Armstrong-James M, Fox K.

 J Neurophysiol. 1998 Dec;80(6):3261-71. 
Contribution of supragranular layers to sensory processing and plasticity in adult rat barrel cortex.
Huang W, Armstrong-James M, Rema V, Diamond ME, Ebner FF.

という論文でも、細胞外記録ではあるが、同様の傾向が得られているようだ。それを受けて、解剖だけでなく、機能的にも5層は皮質出力の主成分ではないか、といっている。

なぜ5層は発火しやすいかについて、
1.静止膜電位がもともと高め(ちょっとした入力で発火する)
2.5層内の再帰回路
を挙げている。リーズナブルな説明だ。

ただそうだとすると、潜時も早いやつがいてしかるべき、のような気もしないでもないが、どうなのだろう。

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他にもいろいろ議論しているが、長くなるので結論部分へ。

2つの経路について議論している。
まずバレル内4層でのフォーカル(focal)な活性化。
もう一つはセプタを経由する拡散的(diffuse)な活性化。

この2つの経路が2/3層、5A、5B層でも維持されていることになりそうだ。

今回調べたことと行動との関係についてはまだまだ調べるべきことがある、としている。

個人的には、6層はどうなの?という疑問が残る。2〜5層まで調べたのに、6層を調べた研究を彼らは今のところ報告していない。バレル皮質の6層も残された課題だろう。