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感覚野の層と機能〜Hirsch et al. JP 2002〜

Hirschたちの論文、シリーズ第三弾。(第一弾第二弾
今回は複雑細胞の情報変換について調べた

J Physiol. 2002 Apr 1;540(Pt 1):335-50.  Links
Synaptic physiology of the flow of information in the cat's visual cortex in vivo.
Hirsch JA, Martinez LM, Alonso JM, Desai K, Pillai C, Pierre C.

という論文。

モチベーションは?
一次視覚野内の「シナプス応答」という観点で見た情報の流れを調べること。(ほぼタイトルのままになってしまった。。。

細胞外記録で、各層にどんな細胞がいそうか調べた研究はいくつかあっても、単一ニューロンでの入力と出力、両方を調べた研究は少ない、というのがポイントになる。

ということで、今回の研究では、視床の主な出力先の4層細胞の応答と、4層の次のステージと考えられている2/3層の神経応答を比較してみて、何が違うか調べよう、というモチベーションだ。4層から2/3層へ進むとどんな情報処理の変化が起こっているかを調べようというモチベーションだ。

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何をやった?
相変わらず、ネコ一次視覚野からin vivoホールセル記録をしている。これまでと同じく、グリッド上に明るい刺激 □、暗い刺激 ■を呈示して受容野、それから単純細胞か複雑細胞か決めている。

今回は複雑細胞だけに注目して、4層と2/3層でシナプス応答などがどう違うか調べている。
注:論文では4層境界付近も含めていることからか、4層細胞を1次細胞、2/3層細胞を2次細胞、と呼んでいる
複雑細胞というのは、■、□で興奮する領域が重なっていたり、あるいは一方にしか反応しないタイプ

7個の1次細胞、11個の2次細胞から記録している。


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何がわかった?
繰り返し同じ刺激を呈示した時、1次細胞は毎回同じように活動してくれるけど、2次細胞はそうではない、ということ。

図7が統計データ。そもそも2次細胞は、なかなかスパイクを出すところまで興奮しない。脱分極反応が見れたり見れないこともあるようだ。

一方で、特定の傾きをもったバー刺激を動かしてやると、2次細胞はとたんに反応し出す。(図9)

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何を学ぶ?
parsimonious(見窄らしい)解釈と断りながら、4層から2/3層へ情報が流れる時にゲートがある、という解釈をしている。

さらにdiscussionでは3つの可能性を指摘し、実験データから考えられることを議論している。
モデル1: 閾値モデル
モデル2: 抑制モデル
モデル3: 摩擦モデル

まず閾値モデルについて。
入力は4層と同じように入っているけど、皮質内シナプス終末が小さかったりするから、シナプス応答がショボくなっている、といったコンセプト。今回の研究では、ホールセル記録をしているので、そのデータからして、このモデルはサポートしない傾向が得られている。なので、閾値モデルは却下

抑制モデルについて。
興奮より抑制性入力が強く入ることで、結果的に過分極的な反応が見れるとするコンセプト。が、こちらも今回の実験データからはサポートされていない。なので、抑制モデルも却下

ということで、摩擦モデル。
このモデルは
1.プレ側の伝達物質放出確率
2.ポスト側(つまり2次細胞)の持つゲート機能(例えば、樹状突起上のチャネル、電気的フィルター特性)
3.膜抵抗の変化
といった要因から、シナプス応答があまり見えないというコンセプト。

今回の実験データはこれをサポートするようだ。

ということは、2次細胞は上記3点で、1次細胞とは違う、ということを示唆している。このあたりはチャネルの発現様式、分布、形態そのものなどが詳しくわかれば、明らかになることなのかもしれない。

さらにdiscussionでは、coincidence detectorとしての役割についても議論しているようだ。それから、あまり発火しない2次細胞は経済的なので、スパースコーディングとも相性が良いと言っているようだ。