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感覚野の層と機能〜Martinez et al. Nat Neurosci 2005〜

Hirschたちの論文シリーズ第5弾。(第一四弾

これまでの研究の総決算とも言える

Nat Neurosci. 2005 Mar;8(3):372-9. Epub 2005 Feb 13.  
Receptive field structure varies with layer in the primary visual cortex.
Martinez LM, Wang Q, Reid RC, Pillai C, Alonso JM, Sommer FT, Hirsch JA.

という論文。

この論文では、単純細胞と複雑細胞は、定量的にも性質の異なる細胞で、単純細胞は4層と6層上部に多く存在していることを明らかにしている。

何をやった?
これまでと同じ。というか、これまで蓄積されてきたデータをプールして、層が変わると受容野特性がどうかわるかを定量的に調べたという感じ。

88個の細胞からのデータで、

視床(LGN) 25個
4層とその境界 34個
2/3層 12個
5層 6個
6層 11個

という内訳。

解析では、単純細胞か複雑細胞かを定量的に区別するために、push-pull indexoverlap indexを使っている。

前者は、whole cell記録ならではの指標で、明るい刺激と暗い刺激、それぞれに対するシナプス応答の「和」を単純に計算している。0に近いほど、pushとpullが拮抗しているということで、単純細胞の特徴を捉えていることになる。

overlap indexは第4弾の論文でも登場している。on領域とoff領域の重なり具合を定量している。大きいほど二つの領域が重なっていて、複雑細胞っぽくなる。

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何がわかった?
図1と2は良いとして、図3からが重要。

「単純細胞と複雑細胞は区別できるのか?」という疑問に答えている。
結論は、区別できる、だ。

図3はoverlap indexを基づく区別。
cにあるように、bimodalな分布になっているようだ。その検定では、Hartigan's dip testなる聞いたことのない検定をやって、unimodalでないということを明らかにしている。

dでは、入力と出力の対比。スパイクでみたoverlap indexもunimodalではなさそうな雰囲気だ。かなり非線形的なことが起こっている雰囲気が伺える。

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図4ではpush-pull indexで定量している。まずoverlap indexに基づいて、単純か複雑か分けて、それぞれの細胞種がどのようなpush-pull indexを持っているか比較している。aでわかるように、かなりきれいに分かれている。

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図5は各指標が層ごとにどのような分布を持っているかまとめてある。
主張としては、4層と6層はsimplenessの傾向が高い、ということ。つまり、単純細胞は4層、6層に集中しているということになる。

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図6は圧巻。
push-pull indexとoverlap indexのscatter plotを作って、どの層から記録した細胞かをラベルしている。

まず、単純細胞、複雑細胞が二つのクラスターを形成していることがわかる。さらに、単純細胞のクラスターには、4層(境界含む)と6層の細胞で形成されている。図5の傾向をはっきり示したことになる。

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図7,8は解剖的な情報。
4層と6層上部の単純細胞の受容野を細胞の深さと対応づけて図を示している。

図8は単純細胞と複雑細胞の形態。違いは特にないそうだ。

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何を学ぶ?
論文の結論としては、冒頭で述べたように、単純細胞と複雑細胞は、定量的にも性質の異なる細胞で、単純細胞は4層と6層上部に多く存在している、ということだ。HubelとWiesel、それからGilbertの先駆的な研究を考えると、コンセプトそのものは新しくはないのかもしれないが、whole cell記録という、生理と解剖の両方の情報を得られる手法を使って、多くの細胞データとシンプルだけど洗練された定量方法を使ってしっかり示せた、という点がすごいところなのだと思う。それから、単純細胞と複雑細胞の論争に、「区別できるものだ」という一つの明確な答えを出したという点でもインパクがあるのだと思う。

discussionでは、単純、複雑細胞という言葉の定義の違いから生じる見解の不一致を指摘していたりもした。だから論文のタイトルは、ちょっと抽象度の高いタイトルになったのかもしれない。

最後には、他のモダリティーとの比較についても少し議論されている。
引用されている文献は、
ラット体性感覚野
J Physiol. 2003 Nov 15;553(Pt 1):243-65. Epub 2003 Aug 29. 
Dynamic receptive fields of reconstructed pyramidal cells in layers 3 and 2 of rat somatosensory barrel cortex.
Brecht M, Roth A, Sakmann B.
こちらで紹介済み

J Neurophysiol. 1999 Oct;82(4):1808-17. 
Cortical columnar processing in the rat whisker-to-barrel system.
Brumberg JC, Pinto DJ, Simons DJ.

Science. 1994 Sep 23;265(5180):1885-8. 
Laminar comparison of somatosensory cortical plasticity.
Diamond ME, Huang W, Ebner FF.

聴覚野については、Schreinerの総説、を引用していた。

層によってやってることが違う、と主張するのは良い。が、気になるのは、
1.なら、同じ刺激を呈示して層間比較するのは果たして良いのか?
2.シナプス応答だけに基づいて議論するのは、結局その細胞の機能というよりは、入力側の機能を見ているのではないか?

という2点。

例えば、Hirschたちのようなフラッシュ刺激では、2/3層は全然発火しないらしい。あまり活動しないのに、その細胞の機能を調べていると言えるのか?例えば、一次視覚野4層の応答と、前頭前野の細胞応答が違う、と言っているのとどう違うのか?最適な刺激を使っていないから反応性を過小評価していないか?

whole cellなら膜電位を見てるから視覚刺激に対する反応は見れているのだろう。けど、それは4層や5層、さらには視床などからの入力がごちゃ混ぜになった結果だ。確かに、4層とは入力が違う、とは言えても、それ以上のことをつっこんで議論できるのか?

では、おまえはどうする?と聞かれても困るが、入力・出力両方をモニターしつつ、いろんな刺激を呈示して、いろんな観点から考察しないといけないのだろう。けど、そんな実験、実験として成り立ちうるのか、それはそれで違った難しさがありそうだ。。。

とにかく、このHirschたちの論文は、ホントにすごい。それだけは言える。大好きな論文の一つだ。(読むたびに内容を忘れるので、3回くらい読んだ気がする。。。)