暴走を抑えるネットワークモチーフ

ジャズのトリオ演奏では例えば、ピアノにあわせてドラムが協調的に激しくなりつつも、抑制的な役割を果たして、曲が暴走するのを抑えたりする。

脳も指揮者のいないジャズ演奏のように、ニューロン同士が相互作用し、興奮と抑制が拮抗して、脳が暴走するのを防いでいる。

しかし、そのような現象が、具体的にどのようなネットワークに支えられているのか、よくわかっていない。

今回紹介する論文によると、大脳新皮質にいるマルティノッティ細胞(Martinotti cell)という抑制性細胞が、出力細胞の一つでもある錐体細胞同士が暴走するのを抑えてくれているようだ。

Neuron. 2007 Mar 1;53(5):735-46.
Disynaptic Inhibition between Neocortical Pyramidal Cells Mediated by Martinotti Cells.
Silberberg G, Markram H.

ラット体性感覚野のスライス標本から2つ以上の房状錐体細胞(tufted pyramidal cell)から同時にホールセル記録をする。

そして、一方の細胞をバースト発火させると、他方で抑制性の遅い反応が見れる。今回は、その現象のメカニズムに迫っている。

結論から言うと、その遅い抑制性の反応は、少なくともマルティノッティ細胞を介して、抑制性の情報が一方の錐体細胞から他方へ伝わっていることがわかった。

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以下、細かい話を。

図1では、まずその錐体細胞間を伝わる抑制性情報の性質を調べている。この2シナプスを介した抑制性反応、一方の錐体細胞がバーストした時にだけ生じるのがポイントだ。(図3で詳しい定量をしている)

図1のBでは、錐体細胞から錐体細胞へのモノシナプス結合もある場合で、一方をたたくと、一過的な興奮性反応が見れるけど、遅れた抑制性反応が見れている。

ちなみに、このような2シナプス性の抑制性反応、調べたうち、27%ものペアで観察されたそうだ。ちなみに、房状錐体細胞同士がモノシナプス結合をしているペアは12〜13%だったとのこと。

図1のDはおそらくこの2シナプス性の抑制反応の特徴を示していると思われる。つまり、反応のピークが100〜400msとかなり遅い。

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図2では、2シナプス性抑制反応には、2種類あったそうで、一方は、図1のような遅いタイプ。他方は、早いタイプ。図2のAでは、錐体細胞のバースト内発火頻度を変えている。早いタイプは、発火頻度に依存しないが、今回の論文で解析する遅いタイプはバースト内発火頻度に依存するということを定性的に示している。

また、遅いタイプは、マルティノッティ細胞を介していて、錐体細胞→マルティノッティ細胞のシナプスは促進性シナプス。早いタイプは、バスケット細胞を介していて、抑圧性シナプスらしい。

ちなみに、この早いタイプは全サンプル数の0.3%しかなかったそうで、遅いタイプに比べると相当少ない。

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図3は、繰り返しになるが、遅い2シナプス性抑制反応は、錐体細胞のバースト内発火頻度に依存していることを示している。つまり、錐体細胞の活動状態に依存して、この遅い抑制が働いたり、働かなかったりすることになる。

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図4では、その抑制反応はGABAa受容体を介した反応だということを薬理的に示している。

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図5では、電気生理的に、抑制入力が錐体細胞のどこに入っていそうかを調べている。つまり、細胞体と樹状突起から記録をして、どっちの反応が早くて大きいか比較している。結論は、樹状突起の方に抑制入力が入っている、ということ。

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図6では、実際に抑制性細胞からも記録して、直接錐体細胞に抑制性の出力を送っているか調べている。

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図7では、その抑制性細胞は、軸策を1層まで伸ばしているマルティノッティ細胞だ、ということを電気生理、形態を調べて明らかにしている。

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この論文、図はそれで終わりなのだが、Resultsのセクションには、他にもふんだんに情報が盛り込まれている。

今回の実験のデータベースを元に、錐体細胞集団とマルティノッティ細胞集団、どのようなネットワークを形成していそうかを記述している。キーワードはdivergence、convergence、reciprocal

convergenceというのは、錐体細胞集団から1個のマルティノッティ細胞への集中的投射。

divergenceというのは、1個のマルティノッティ細胞から複数の錐体細胞への発散的投射。

reciprocalというのは、1個の錐体細胞と1個のマルティノッティ細胞間の相互結合だ。

今回の研究だけからは、他の抑制性細胞による遅い抑制入力の可能性を排除できていないが、少なくとも房状錐体細胞とマルティノッティ細胞間の密な連絡があることによって、錐体細胞集団が暴走するのを抑えているようだ。

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何を学ぶ?
やはり最も面白い特徴は、錐体細胞のバースト内発火頻度に依存してみれるという今回の抑制反応。このようなネットワーク、海馬にもあるとのことで、よりgeneralなネットワークモチーフということになりそうだ。

マルティノッティ細胞といえば、ソマトスタティン陽性細胞。しかも1層に軸策を送っていたりと、なかなか面白い抑制性細胞だ。そのネットワーク内の機能の一端を明らかにした、という点で、この論文は面白い。

しかしだ。こんなネットワーク、in vivoでどうやって検出するか?

スライス実験ですら、他の抑制性細胞の可能性を排除できていないわけで、細胞外記録、あるいはin vivoイメージングだけで、こんなネットワークをスライス実験のように決めるのはなかなか難しい。

マルティノッティ細胞は深いところにいたりするから、余計やっかいだ。

やはりBlue Brain Projectでまず仮説を作る、というストラテジー、すごくよくわかる。