「我思う」ラット

論文解説をやっているブロガーは、目の前にある論文が手に負えるか負えないか、自分の理解度を知った上で、ブログのエントリーを作成するか決めている。(少なくとも自分は)

ブログで紹介する論文を探す時、その論文の要旨を読んで、
この論文なら説明できそう。だから、今日はこの論文をネタにしよう。」
とか、
この論文は難しそうだから、ブログで紹介するのは遠慮しておこう。」
と意志決定して、ブログのエントリーを書いたり書かなかったりする。
たまにその意志決定を後悔することもある。。。

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人は、自分が知っているかどうか、知っている。

この自分の内的状態のモニター機能を、メタ認知metacognition)と言う。
ウィキペディアには、「認知を認知すること」とある。

では、ヒト以外の動物で、メタ認知と呼べそうな自己モニター機能を持っている動物はいるのだろうか?

Proc Natl Acad Sci U S A. 2001 Apr 24;98(9):5359-62. Epub 2001 Mar 27.  
Rhesus monkeys know when they remember.
Hampton RR.
という論文で、アカゲザルがその候補ということがわかった。やはりサルは優秀だ。

他にはいるか?

今回、自分が紹介すると意志決定した論文によると、ドブネズミことラットが、その候補者として立候補した。

Curr Biol. 2007 Mar 7; [Epub ahead of print]
Metacognition in the Rat.
Foote AL, Crystal JD.

さて、どうすれば言葉をしゃべらない動物がメタ認知的な機能を持っていることを調べられるのだろう?

論文では、次のことをラットにトレーニングしている。

まず、音の長さが長いか短いかを区別する課題をトレーニングする。

2種類の長さの音を用意して、どちらかをラットに聞かせる。そして、長い音なら一方のレバー、短い音なら他方のレバーを押すようにトレーニングする。正解すれば、餌が報酬としてもらえる。間違えたら、報酬なし。

例えば、その音の長さを2秒と8秒で比べさせれば簡単だけど、3.5秒と4秒の区別になると、その課題の難易度が上がる。人でも難しい。この「難易度」を自由に変えられることが、この課題設計のポイントの一つになる。


次に、トレーニングはステップアップする。

そこでは、ラットは「選択試行」と「強制試行」に直面する。

まず、ラットに長短いずれかの音を聞かせる。それは同じ。そして、2/3の確率で「選択試行」に直面する。

そこで、2つの選択をラットに迫る。1つの選択肢を選ぶと、レバー押し、つまり、聞いた音が短かったか長かったかを答えることになる。正解すれば、6個の報酬

別の選択肢を選ぶと、レバー押しをしなくて良い。しかも、報酬は3個もらえる。そちらの選択は「辞退」とでも言ったらよいか。

つまり、音が長いか短いか、もしラットがその答えを知っていることを知っていれば、前者の選択肢を選んで自信を持って6個の報酬を取りに来るはず。

一方、もし答えを知らないことを知っていれば、後者の選択肢を選んで無難に報酬3個をゲットしてくるはずだ。

ちなみに、「強制試行」では、1/3の確率で直面し、「辞退」は許されない。強制的にレバー押しを強いられる。わからないことを知っていても、山勘的にレバー押しをしないといけない。

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さて、こんな課題をラットにトレーニングしたら何がわかったか?

1.長短の区別が難しいほど、「辞退」する率が上がった。
2.その区別が難しい時の成績を「選択試行」と「強制試行」で比べたら、「選択試行」で正答率が高かった。

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解釈はこうだ。
一言で言えば、ラットもメタ認知的な認知機能を持っていそう、ということ。

もしラットがメタ認知を持っている、と仮説を立てると、ラットは長短に関する答えがわかっているか、わかっていないか、知っていることになる。

長短の区別が難しい場合、答えを知らないことを知っているから、辞退する率が上がるはず。

もし長短の区別が難しくても、答えを知っていることを知っていれば、積極的にレバー押しの選択をして、正答率も強制的にレバー押しをした時よりも良くなるはず。

その二つがデータとして言えたことになり、ラットがメタ認知を持っている、という仮説は否定されなかったことになる。

つまり、ラットもメタ認知的な認知機能を持っていそう、と結論づけても良さそうだ。ラットも内部状態の不確実性をモニターでき、それに基づいて将来につながる行動をしているのかもしれない。

この研究はすごい。

とてつもないポテンシャルを感じた。discussionで述べているように、ラットはリスクを取る傾向が高いという批判をかわせるように、課題をアップデートする必要はあるかもしれないが、リスクとリターン、時間弁別、意志決定、そしてメタ認知といった認知機能に鋭いメスを入れれるポテンシャルを秘めている。

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ちなみに、研究では8匹トレーニングして、ものになったのは3匹だけだったらしい。

残り5匹は、「選択試行」と「強制試行」を区別させるところで混乱してしまって脱落。。。

確かに、ルールを口頭で教えず、人にこの課題を試行錯誤でやらせても、10人に1人くらいは、脱落者がでるかもしれない。。。メタ認知があろうがなかろうが。。。

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さらに、研究者たちは元のデータをこちらで公開している。「ラットのメタ認知なんて認めねー!」という人は、そのデータを解析して、反論できる。

おそらく論争的なことが起きるのかもしれないが、信じるものは救われる。この成果を信じて、先に進んだ方が良いと個人的には思う。

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論文に使える英語表現
a defining feature of human existence
人の存在を規定する特徴
人の人たるゆえん(意訳)

デカルトの言葉を想像してください。