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未熟な繁茂から選択による成熟

Nat Rev Neurosci. 2005 Dec;6(12):955-65.
Exuberance in the development of cortical networks.
Innocenti GM, Price DJ.
という総説について。

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脳の発生・発達時期、余分な繊維をたくさん伸ばしておくという戦略を、脳は採用している。

発生・発達時期、右脳と左脳は、成熟期と比べものにならないくらい密につながりあっている。
Exuberant projection into the corpus callosum from the visual cortex of newborn cats
Giorgio M. Innocentib, Lucia Fioreb, and Roberto Caminitib
Neuroscience Letters
Volume 4, Issue 5, April 1977, Pages 237-242  
という論文では、その現象をネコで発見した。

このような現象をdevelopmental exuberance(発達時期の繁茂?)とこの総説では呼んでいる。

この総説では、そのdevelopmental exuberance(長いので以下DEと略)の研究の歴史と現状をまとめている。

まず、DEとはなんぞや?という話を説明し、脳のどこでDEで見れて、どのような動物で見れるかを紹介している。この一見無駄とも思える繁茂は、哺乳類の脳の共通戦略であることがわかる。

さらに、そのDEの役割がどれくらいわかっていて、何がわかっていないかを解説し、繁茂から次第に繊維が選択されるメカニズムの話へと移る。

この研究は、動物の研究から多くの知見がもたらされているが、人の脳について少し議論している。

とにかく、わからないことだらけ、である。右脳と左脳があらかじめ密につながっている理由はわかってない。

確立しているコンセプトは
1.多くの種で、多くの脳システムで見れる一般的な現象である。
2.生後の環境要因によって、皮質間結合の安定度は変化しうる。
の二つをあげている。

そして、今後の研究トピックとして
1.繁茂した軸策の維持と除去の力学
2.軸策形態を制御する内因と外因
3.軸策形態と回路と機能の関係
を挙げている。

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トリビア〜脳梁と性差

まっとうな神経科学者を目指したい自分にとってトリビア的な勉強になったのは、脳梁サイズの性差の話題。

俗に、女性は脳梁が大きいから、右脳と左脳の情報のやり取りが盛ん、と言われる。
自分はてっきり信じ込んでいた(お恥ずかしい話だが。。。)

実は違う、というか、ホントかどうかはわかっていない

もし、脳梁の性差だけを根拠に、女と男の脳の働きの違い、をうたっている話はガセ、あるいは、それを信じるだけの根拠はない、と判断できそうだ。

問題の発端は、
Science. 1982 Jun 25;216(4553):1431-2.
Sexual dimorphism in the human corpus callosum.
DeLacoste-Utamsing C, Holloway RL.
という論文。

が、この論文を契機に激しい論争が起きている。
むしろそれを否定する論文の方が簡単に見つかる。
(MRI研究をしてる人には当たり前だったのか!?知らなんだ・・・)

これに異を唱えた論文は、例えばこちら。
Neurosci Biobehav Rev. 1997 Sep;21(5):581-601.
Sex differences in the human corpus callosum: myth or reality?
Bishop KM, Wahlsten D.
その「俗説」は支持できない、と言いきっている。

もちろん、全体の脳サイズも考慮にいれて、相対的な脳梁サイズのことも議論しているようだ。(その意味ではwikipediaに書いてあることもちょっと間違い?)

ちなみに、「利き手」と脳梁サイズが関係あり、という説もあるらしい。

総説には紹介されていなかったが、
J Neurosci. 1991 Apr;11(4):933-42.
Sex differences in the corpus callosum of the living human being.
Allen LS, Richey MF, Chai YM, Gorski RA.
差はなくはないけど、どっちつかず」という結論?を下している論文もあった。中立的か?

この論文ではまず、1982年のサイエンスの論文の問題点を
1.異なる計測方法でかき集めたデータを解析している。
2.年齢によって脳梁の形は変わるのに、それを無視している。
3.サンプル数が少なすぎ。なぜなら、脳梁はそもそも個人差が大きいから、多くのデータをもって統計的に判断しないといけない。

と指摘している。

科学的である。

この問題をクリアして下した結論が「どっちつかず」である。

論文で唱える説が「セクシー」ならサイエンス・ネイチャーに掲載されて、ネガティブデータはそのような一流雑誌に掲載されない弊害である。


本題と大きくずれた。
むしろ本題よりも面白い話題といえばそうか。。。

が、この論争を解くヒント、実は、発達時期に右脳左脳を結ぶ繊維が一旦繁茂して、それが遺伝・環境要因でどうやって成熟していくか、という問題の中に潜んでいる。(たぶん

つまり、脳の形は内因(遺伝子)だけですべて決まるわけではなく、外因に反応する遺伝子たちも関わるから、どっちつかずの結果になるのは自明、というオチなのかもしれない。。。

白黒つけたい人には一生決着のつけられない類の問題かもしれない。。。