軸策間のギャップ結合

シナプスには、化学シナプスと電気シナプスがある。
後者の電気シナプスを形成しているのはギャップ結合

例えば、connexin 36というタンパク質が、ニューロン同士を電気的につなげている。電気的につながってるので、ニューロン同士が高速双方向コミュニケーションをできる。

これまで、特定の抑制性細胞どうしがギャップ結合を形成している、ということはよく調べられてきた。

詳しくは
Annu Rev Neurosci. 2004;27:393-418.
Electrical synapses in the mammalian brain.
Connors BW, Long MA.
にまとめられている。

けど、興奮性細胞同士のギャップ結合や、出力繊維である軸策同士が電気的につながっているか、直接的な証拠はなかった。

Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Jul 18; [Epub ahead of print]
Gap junctions on hippocampal mossy fiber axons demonstrated by thin-section electron microscopy and freeze-fracture replica immunogold labeling.
Hamzei-Sichani F, Kamasawa N, Janssen WG, Yasumura T, Davidson KG, Hof PR, Wearne SL, Stewart MG, Young SR, Whittington MA, Rash JE, Traub RD.

という研究では、電子顕微鏡を使って、その直接的な証拠を得ている。
調べた場所は成体ラットの歯状回。歯状回の顆粒細胞は海馬CA3へ入力を送っている。

その顆粒細胞の軸策どうしがconnexin 36によるギャップ結合を形成していそうだ、ということがわかった。

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何を学ぶ?

論文中の図4は面白い。
この図では、ひょっとしたらあるかも?というギャップ結合の場所が描かれている。

まだ錐体細胞どうしのギャップ結合は、成体では観察されてないと思うが、これからいろんな電気シナプスが報告されるかもしれない。(Discussion中にunpublished workとして、一部はありそう、という衝撃告白もある。事実かはともかく。)

ちなみに、顆粒細胞の軸策間のギャップ結合は、電気生理とモデルの研究から間接的にその存在が示唆されていたらしい。

その仮説を電顕で直接的に示した、という点が、この論文の重要なポイントだと思われる。

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機能に関しては、
単一の顆粒細胞の活動を増幅する効果
をDiscussionで指摘している。

確かに顆粒細胞はスパースな活動(発火頻度が低い)をするので、この機能はリーズナブルかもしれない。

近い軸策どうしは似たところに投射してるかもしれないので、仲間を増やしてCA3への情報伝達を効率的に促進してるなんてこともあって良いかもしれない。(勝手な空想です)

他には、Traubたちだから、オシレーションとの絡みも当然議論している。

関連論文に
J Neurosci. 2003 Feb 1;23(3):1013-8.
Selective impairment of hippocampal gamma oscillations in connexin-36 knock-out mouse in vivo.
Buhl DL, Harris KD, Hormuzdi SG, Monyer H, Buzsáki G.
という論文もある。

この論文では、Cx36(connexin-36)のノックアウトマウスの海馬では、ガンマオシレーションだけが減衰していて、リップルやシータは正常というデータを出している。

今後は、最先端の遺伝学を使って研究すると、特定の場所にあるギャップ結合とオシレーションの関係がもっとわかってくるかもしれない。(光を一個の細胞Xに当てて活動を制御したくても、別の細胞Yの電気信号が細胞Xにリークしたらあまり意味がない、とも言えるか)

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では、このような軸策間ギャップ結合は他の細胞にもあるか?というのが問題。
ギャップ結合関連タンパクとして、
Cx36, Cx45, Cx50, Cx57それから、pannexin1(Px1)とPx2が知られているらしい。(この論文のintroductionによると)

これまでの研究の大多数がCx36について調べた研究ではないかと思うから、他のタイプについては、今後の研究によってどんどん新事実がわかってくるかもしれない。

なので、他の細胞にあっても良い。(Golgi revisited!?)

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自分は電顕は完全に素人で、図の見方もよくわからないけど、Discussionには、組織の固定によってアーティファクトが観察されることもある、などと言った技術的なコメントもあって参考になった。

電顕と言えでも、信用してはいけないケースもあるようだ。やはり組織学は奥が深い。

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話は飛ぶけど、こういう論文を読むと
Science. 2007 May 4;316(5825):758-61.
Specialized inhibitory synaptic actions between nearby neocortical pyramidal neurons.
Ren M, Yoshimura Y, Takada N, Horibe S, Komatsu Y.

Nat Neurosci. 2007 Jul;10(7):808-10.
Bypassing interneurons: inhibition in neocortex.
Connors BW, Cruikshank SJ.
で議論されているシナプス(錐体細胞が抑制性細胞のシナプスにシナプスを作って、抑制性細胞の細胞体をバイパスして、抑制性出力を間接的に出すシナプス)があっても良いと思う。

電顕で神経回路の微細構造を調べるというのは、大変な作業だろうから、サポートする事実がないといっても、
ただ単に調べてないから証拠がないだけ
と思った方が良い気がする。

今回の軸策間ギャップ結合も、現象がまずあって、それが研究のモチベーションになっている。

このサイエンスで報告されているシナプスも、今後誰かが直接的な証拠を出してくる可能性は多いにある。(ただ、どれくらい一般的に存在するシナプスかは全く別問題)

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話を戻す。

ギャップ結合は、効率、スピードなどといった点で、化学シナプスより優れた点があるだろうから、例えレアな存在でも、情報処理という点で重要な気がする。

無視したい存在だけど、やはり無視できない存在なのかもしれない。

こういう論文が出ると、脳の理解が進んでいるのか、逆に混乱を招いているのか知らないが、それがリアルなら仕方がない。。。