感覚野の層と機能〜Gilbert, Ann. Rev. Neurosci. 1983〜

大脳皮質はどんな回路か?
以下の総説は、このテーマに関するもの。

20年以上前のもので、もはや古典かもしれない。
けど、今読んでも非常に勉強になった。

Annu Rev Neurosci. 1983;6:217-47.
Microcircuitry of the visual cortex.
Gilbert CD.

ネコとサルの一次視覚野を主な題材として、細胞レベルのネットワーク構造、そして構造と生理機能の関係をまとめている。

総説のアウトラインは以下の通り。

1.導入(歴史と主題)
2.一次視覚野の入出力の詳細(どこから一次視覚野のどこへ入って、一次視覚野のどこからどこへ出るか)
3.細胞種(主に抑制性細胞について)
4.層間の結合(研究の方法論と皮質回路のシンプルモデル)
5.水平結合とその機能
6.抑制結合
7.神経修飾物質
8.ニューロン間相互作用の別の形
(樹状突起、ギャップ結合)

いわゆる局所回路の情報は、2,4あたりから得ることができる。

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何を学ぶ?

この総説の最も重要なポイントは、上の4のところで、シンプルな皮質回路のモデルを提唱した点にある。(読み手によって違うかもしれないが)

ノーベル賞を取ったヒューベルとウィーゼルの
J Physiol. 1962 Jan;160:106-54. 
Receptive fields, binocular interaction and functional architecture in the cat's visual cortex.
HUBEL DH, WIESEL TN.
という論文で、受容野がどのように形成されるか、解剖学的な観点から考えた仮説がある。(教科書に必ずのように出てくるモデル)

Gilbertの総説では、それをさらに進めて、今の局所回路研究の基本コンセプトを提唱した。(ちなみに、GilbertはWieselのお弟子さん)

いわゆるcanonical circuitというアイデアの発祥でもある。
(Gilbert自身はcanonicalという表現は使っていないようだ)
総説中の図2がそれ。p229にその記載がある。

ところが、他の部分を読んでみると、モデルとはあわない「例外」もこと細かく記述している。

その顕著な例は、視床からの入力がいろんな層へ入っている、という実験事実。

それを踏まえて、canonical circuitのモデルへどう至ったのか知りたかったが、もう一つクリアな説明はされていない気がした。ということは、叩き台的に、主要部分だけ抜き取ってシンプルにまとめてみました、というニュアンスが強いのだろう。

このアイデアは今でも生き残っている。(以下参照)

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それ以外にも、この総説ではいくつか重要な問題点を指摘している。

何度か出てくるトピックとして、樹状突起絡みの問題が挙げられそう。

樹状突起の情報処理の違いや、樹状突起の情報処理は、まさに現在進行中の問題。

それから、視床由来と皮質由来の入力の役割、この問題もよくわかってないことが多い。
Gilbertの
it is difficult to know which inputs are responsible for particular functional properties.
はそのまま。

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局所回路の研究は、マカクやツパイ、ネコを中心に進んできた。

が、最近の局所回路研究は圧倒的に齧歯類中心になっている。一方、この総説はマカクとネコ中心。なので、この総説の内容をどれくらい一般化して齧歯類に当てはめて良いのか、過去の解剖学の膨大な研究があるとは言え、やや不安な点もある気がした。(その逆もしかり。)

光刺激の系を使って齧歯類で局所回路をしっかり調べているSvobodaとCallawayはやはり偉大。

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それにしても、この当時でも相当の情報量を、Gilbertはみごとにまとめている。

総説の鏡。

特に皮質の局所回路に興味がある人は、一度は読んでおくべき総説だと思った。

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なお、知識をさらにアップデートするにはこちら。
Annu Rev Neurosci. 2004;27:419-51.
Neuronal circuits of the neocortex.
Douglas RJ, Martin KA.

Gilbertの総説を読んでから読んだ方が、断然理解しやすい気がする。

回路構造の一般化を目指した内容となっている。
この総説の図1と2が、Gilbertの説の修正版。

ちなみに、DouglasとMartinは、この総説の最後で面白い仮説を提案している。
皮質を思い切って上・下層の2層に分けて、それらの機能を議論している。(図としては図6)

それから、彼らによると、種間の差は、grandfather clock(振り子時計)かSwiss chronometer(スイス製精密時計)の違い、としている。

微妙な表現だが、
どちらも時を刻むという機能は同じやし、部品や構造が違ってもえぇやん
というポリシーなのだと思う。

自分もこの立場の方が好きだし、そう捉えられると良い、そうあって欲しいと願う。(現実逃避か?)

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さらに知識をアップデートしたい場合、個別の論文に当たっていくしかなさそう。
それにしても、知見がどんどんたまっていく一方で、この手の話、何度も読まないと記憶に残らない。

Gilbertの総説にあるように、
the cortical circuit can seem hopelessly intricate.